臨床雑誌内科 106巻1号 (2010年7月)

糸球体疾患 腎炎からネフローゼまで、最高の診療を目指して

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わが国では透析患者の数が多くかつ持続的に増加している。原因疾患として、糖尿病性腎症がもっとも多く、慢性糸球体腎炎がこれに次ぎ、これら2つで全体の3分の2を占める。いずれも病変の主座は糸球体にあり、糸球体疾患は透析導入の最大の原因となっている。糸球体疾患の正確な診断には腎生検が必須である。腎疾患総合レジストリーには5,700例以上の腎生検症例が登録され、分析が行われている。一方、慢性に経過する腎疾患はCKDという疾患概念でまとめられた。CKDの診断とステージ分類のためにはGFRと尿所見が必要である。GFRは血清クレアチニン値、年齢、性別から日本人のGFR推算式を用いて計算可能であり、普及が期待される。

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多くの無脊椎動物では、体腔壁の中皮細胞を足細胞化し、原尿産生装置を形成する。脊椎動物の中腎および後腎では、腎内にBowman嚢と呼ばれる微小体腔嚢を形成し、さらには毛細血管毬とBowman嚢を合体させることで、濾過の表面積を拡大した。哺乳類や鳥類では、体循環と肺循環が分離し、血圧(糸球体内圧)が他の動物群に比べて著しく高くなり、これに伴い糸球体濾過量も著しく増加した。哺乳類や鳥類では、高い糸球体内圧から糸球体壁を保護するための安全装置(メサンギウム細胞のストレス線維と足突起のアクチン束)が発達している。

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蛋白尿・血尿は一時的なものも多いが、腎疾患・腎臓以外の全身疾患・泌尿器系の癌などの初発症状であることも多い。こうした疾患の多くは自覚症状がないまま進行するため早期発見と対策が重要であり、その大きなチャンスが検診である。検診尿検査の意義を正しく理解し、尿異常が指摘された場合には一時的なものか病的なものかどうかを十分に検索し、適切に対策をとっていくことが重要である。

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血尿は肉眼的に認識される肉眼的血尿と、臨床検査によって明らかになる顕微鏡的血尿に分けられる。顕微鏡的血尿は健康診断等で頻繁に検出される異常であり、高齢者ではとくに頻度が高くなる。顕微鏡的血尿患者における腎泌尿器的疾患の頻度は高いものではないので、医療経済効率を考慮しつつ検査を行う必要がある。このとき、とくに尿路悪性腫瘍の見逃しがないように注意する。肉眼的血尿患者では、泌尿器科的疾患を想定した検査が行われるが、やはり尿路悪性腫瘍を念頭に置いた検査が必要である。いずれにせよ、腎臓内科や泌尿器科専門医への適切なタイミングでの紹介を含め、一般内科医の果たすべき役割は重要であり、十分な理解が望まれる。

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一般住民を対象とした疫学研究で糸球体疾患の発症に寄与する因子を検討した報告はほとんどない。糸球体疾患の特徴である蛋白尿、微量アルブミン尿、糸球体硬化の発症に、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など動脈硬化症の古典的危険因子が寄与している。糖尿病患者における顕性腎症の発症には、高血圧、血糖管理不良に加えて、高尿酸血症や喫煙が寄与している。全身性エリテマトーデスの症例登録研究で、抗SS-B/La抗体や子宮摘出術がループス腎炎の発症に抑制的に作用している可能性がある。原発性糸球体疾患の進行には性別が影響し、男性の腎生存率が有意に低い。巣状糸球体硬化症では、低年齢のほうが予後不良である。

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蛋白尿、血尿、円柱尿が同時に存在するときは糸球体疾患が存在すると考える。病歴と一般的な検査から糸球体疾患の臨床症候群のいずれかを診断する。正確な腎機能の評価を行う。症例によっては急激に腎機能低下がみられることもあるので、過去の腎機能から変化がないことを確認する。蛋白尿の程度(蓄尿による24時間蛋白尿排泄量など)は、ネフローゼ症候群の確定診断のためだけでなく、その後の腎機能予後や治療経過の評価にも重要である。病理組織診断を得るには腎生検が必須であり、腎生検を行う際にはその適応と禁忌を十分検討する必要がある。

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ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿により低蛋白血症を呈する疾患群で、多くは浮腫と高脂血症を認める。蛋白尿の成因として、糸球体上皮細胞の末端におけるスリット膜の機能不全が主因と考えられている。高脂血症や凝固能亢進に対し治療を要することが多く、急性腎不全や易感染性に対する対応も必要である。ネフローゼ症候群の診断がつけば、すみやかに腎専門医を紹介する。専門医受診が当面困難な場合、安静、食事療法および利尿薬による対症療法を行う。

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IgA腎症の末期腎不全への進展を阻止するには、早期発見・治療が重要であるが、腎生検前に本症を疑う臨床指標(血尿、蛋白尿、血清IgA値、血清IgA/C3比、尿中糖鎖不全IgA1)が明らかにされている。本症の確定診断・予後判定および診療指針の改訂版「IgA腎症診療指針第3版」が近日中に上梓されるので、基礎・臨床の場での活用と評価が期待される。組織学的重症度(H)と臨床的重症度(C)により、透析導入リスクを低リスク群、中等リスク群、高リスク群、超高リスク群の4群に層別化した。また、IgA腎症に対するリスク群別の治療指針の活用が望まれる。

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膜性腎症(membranous nephropathy)は成人ネフローゼ症候群の代表的な原因疾患で、約30%の症例が自然軽快する一方、20年間で約40%の症例が腎死に陥る。ネフローゼ症候群を伴わない症例の腎機能予後は良好である。リスクファクターを伴う症例、もしくは6ヵ月以上ネフローゼ症候群が遷延する症例には、ステロイドと経口cyclophosphamideの併用療法を選択する。cyclophosphamide禁忌の症例では、ステロイド単独療法を選択する。上記で不完全寛解I型以下に改善されない症例には、ステロイドとciclosporinの併用療法を試みる。

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2型糖尿病の増加に伴い、糖尿病性腎症による透析導入は増加し続けている。現状では医療機関を受診していない糖尿病患者が多く、いかに受診率を高めるかが今後の課題である。早期であれば血糖や血圧を厳格にコントロールする集約的治療により腎症が寛解することが明らかになってきた。腎症の早期診断のために、アルブミン尿を測定することが重要である。日本人の2型糖尿病性腎症患者を対象とした大規模臨床試験により、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が早期腎症から顕性腎症への移行を抑制することが証明された。

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全身性エリテマトーデス(SLE)、ANCA関連血管炎は、腎病変をきたす代表的な自己免疫患である。これらの腎炎を治療するためにはステロイド薬、免疫抑制薬を用いた強力な免疫抑制治療が必要であるが、一方で骨髄抑制や易感染性などが問題となる。このため、近年、これらの腎炎へは、初期に疾患活動性を抑制する寛解導入のための治療法と、いったん寛解した状態を再発なく安全に維持するための寛解維持療法の二段階に分けた治療法が主体となってきている。寛解導入には、ステロイドとともにcyclophosphamideなどのようなより強力な免疫抑制薬を使用するが、投与を短期間に限定し、その後、少量ステロイドと比較的作用の穏やかな免疫抑制薬のコンビネーションで長期に疾患活動性を観察しながら治療を継続する。

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わが国の透析患者数は増加傾向であるが、透析導入前の管理が導入後の予後に影響を与えるといわれていることから、今後の患者数増加を抑えるためには専門以外の内科医師も腎疾患や透析について理解することは重要であると考えられている。しかしながら、透析導入の時期や導入間際の対処方法については一定した見解が得られておらず、複雑かつ不明瞭な点が多い。そこで、今回は、進行した糸球体疾患の正しいマネージメントを理解するため、経過別腎不全の透析導入時期や導入前の管理方法、専門医への適切な紹介時期について検討する。さらに、透析の方法や導入の原因となる病態について説明し、最後に代表的な糸球体疾患を例に、その対応方法や注意点について検討する。

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腎疾患においては、自己免疫あるいは免疫複合体が関与する病態や過剰な免疫反応が疾病の悪化を招く場合も少なくない。これらの病態に対しては、免疫抑制薬が有効な手段となる。免疫抑制薬は、その作用機序から分類される。リンパ球の増殖を直接的に阻害する副腎皮質ステロイド薬、リンパ球におけるde novoの核酸合成に拮抗する代謝拮抗薬(azathioprine、methotrexate、mycophenolate mofetil)、リンパ球の増殖シグナルであるIL-2産生を抑制するカルシニューリン阻害薬(ciclosporin、tacrolimus)、リンパ球の表面抗原を標的とした抗体などがあげられる。本稿では、古典的免疫抑制薬と新しい治療薬の視点から概説する。

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糖尿病性腎症は尿中アルブミン排泄量と糸球体濾過値(GFR)によって第1期~第5期に分類されている。腎症前期~早期腎症では厳格な血糖コントロールが重要とされ、とくに糖尿病診断早期からの血糖コントロールが腎症の発症や進行阻止に重要であることが示されている。HbA1c6.5%未満を目標に血糖コントロールする。腎機能障害が進行すると、使用できる経口血糖降下薬が限られてくることもあり、インスリンを主体とした治療が必要になる。とくに腎不全期以降は、血糖値の変化や遷延性の低血糖に注意をしながら管理する。糖尿病性腎症の早期診断と病期に応じた適切な治療が、末期腎不全や透析導入を抑制するために今後もますます必要である。

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薬剤性腎障害の多くは尿細管間質障害が主体であるが、中には主として糸球体が傷害され、蛋白尿や血尿の原因になるものがある。非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)投与開始後4~6ヵ月以上経過してから、尿細管間質性腎炎を伴うネフローゼ症候群を発症することがある。bucillamineなどの抗リウマチ薬によりしばしば膜性腎症が発症する。mitomycin Cなどの抗腫瘍薬、ciclosporinなどの免疫抑制薬、経口避妊薬、インターフェロン製剤などで溶血性尿毒症症候群(HUS)が起こる場合がある。PTU(propylthiouracil)などの抗甲状腺薬を服用中にANCA関連腎症を発症する症例がある。これらの薬剤を使用している患者では、定期的に尿所見や腎機能をチェックすることが重要である。

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糸球体疾患では、病態・病期によって、ほとんどの体内物質に代謝異常を惹起する。多くの代謝異常はCKDの病因・進行因子としてCKD進展の悪循環過程を形成すると同時に、CKDの慢性合併症発症や心腎連関の要因として心血管イベント発症にも関与する。そのような代謝異常の一部は、介入による腎保護、心血管イベント抑制の科学的証拠が得られている。本稿は、他稿で扱う糖代謝異常を除き、臨床的意義が大きいと考える脂質、凝固・血小板機能、尿酸、ミネラルの代謝異常に絞って治療法を中心に概説した。

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膜性腎症は成人の特発性ネフローゼ症候群のもっとも頻度の高い疾患で、蛍光染色では糸球体基底膜の上皮側に沿ってIgG沈着が認められる。ごくまれに認められる新生児膜性腎症の抗原neutral endopeptidaseが2002年に、また成人特発性膜性腎症の抗原M-type phospholipase A2受容体が2009年に同定され、今後膜性腎症の分子メカニズム、診断法の確立、治療法への道が進むと思われる。

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子癇前症・妊娠高血圧症候群(preeclampsia:PE)の詳細は不明で特異的治療法は確立していない。2-methoxyestradiol(2-ME)はhypoxia-inducible factor(HIF)-1αの強力な阻害因子であり正常妊娠後期で急激に血中濃度が上昇することが知られている。estradiolからの2-MEの産生にはcatechol-O-methyltransferase(COMT)が必須である。われわれは、妊娠COMTノックアウトマウスが、2-ME欠乏により胎盤におけるHIF-1α調節機構破綻を介しPE様症状を呈し、2-ME投与がPE様症状を改善することを見出した。さらに、ヒトにおいても、PE例では正常妊娠者に比し、胎盤COMT蛋白発現と血漿2-MEの低下を認めた。COMTにはその発現・活性を調節するさまざまな遺伝子多型・環境因子が知られている。

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IgA腎症患者の血中および糸球体に沈着するIgA1には、糖鎖異常IgA1が増加している。糖鎖異常IgA1は、IgA1産生B細胞での糖鎖修飾酵素の異常によって産生される。糖鎖異常IgA1は、IgA1凝集体や高分子の免疫複合体を形成することにより、肝臓でのクリアランスが遷延し、糸球体に沈着することが示唆されている。実際、IgA腎症患者血中には、糖鎖異常IgA1を特異的に認識するIgG抗体が増加しており、VH遺伝子のアミノ酸変異が原因で産生されることが考えられた。まず糖鎖異常IgA1が産生されること(1st Hit)、そして、糖鎖異常IgA1特異的抗体が産生されて(2nd Hit)免疫複合体を形成することが、IgA腎症の病態に深く関与していることが考えられた。

診療controversy medical decision makingのために 2型糖尿病患者に対するインスリン導入

頻回注射から 小沼 富男

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副腎偶発腫で発見され、頭痛、動悸、発汗亢進等の典型的な症状を欠いた褐色細胞腫の3症例(症例1:69歳女性、症例2:62歳男性、症例3:40歳男性)について報告した。主訴は全例が副腎偶発腫の精査で、高血圧、糖尿病、脂質異常症が認められた。所見では症例1において尿中カテコラミンはノルアドレナリン優位の上昇がみられたものの、131I-MIBGシンチグラフィでは集積が認められなかった。だが一方、18F-FDG-PETでは集積が確認された。また、症例2では尿中カテコラミンはアドレナリン優位の上昇が認められたが、症例3ではMRIのT1強調画像で低信号、T2強調画像で等信号と特徴的な所見は示されず、血中ノルアドレナリン、ノルメタネフリン、バニリルマンデル酸の軽度上昇を認めるのみであった。いずれの症例も副腎切除術が行われ、高血圧および耐糖能の著明な改善が得られた。

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35歳女。患者は2005年に近医でバセドウ病と診断され、内服治療が行われていたが、コンプライアンスは不良であった。翌2006年6月には両側内頸動脈終末部を含む脳底動脈狭窄が指摘され、通院不定期、甲状腺薬内服も自己中断していたが、同年9月に路上で倒れ、救急搬送された。所見では著明な甲状腺機能亢進状態が認められ、翌日には急激な肝不全、鬱血性心不全、呼吸不全に至り、人工呼吸管理の必要から、著者らの施設へ紹介となった。MRIでは左右大脳半球の分水嶺領域に広範に高信号がみられ、急性期脳梗塞が考えられた。更にMRAでは両前大脳動脈や右中大脳動脈の描出不良、両側内頸動脈終末部に狭窄がみられ、脳底槽にはもやもや血管が認められた。加えて発熱、譫妄状態、頻脈をはじめ重症心不全、一過性心房細動も確認でき、甲状腺クリーゼと診断された。以後、治療として全身冷却、ヨウ化カリウム、PTU等投与で対処し、気管切開による呼吸状態、全身状態の改善の後、甲状腺亜全摘術が施行された。その結果、患者は経過良好で、リハビリ目的に転院となった。

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41歳男。患者は19歳時に交通外傷で前頭蓋底骨折、脳挫傷で開頭手術を受けた。そして18年後、肺炎球菌性髄膜炎を発症し、他院で加療されるも、明らかな後遺症や認知機能低下はなかった。しかし、更に22年後の2007年7月および2008年4月に肺炎球菌性髄膜炎を発症し、短期間に反復したことから外科的治療が必要と判断した。はじめ発症原因としては髄液漏の病態が疑われたが、髄液漏は証明されず、頭蓋内圧を上昇させる誘因や免疫不全を示唆する所見も認められなかった。そこで、頭部CTを行ったところ、頭蓋底部の骨折と骨欠損像が認められ、MRIでは同部位に副鼻腔内への脳実質の陥頓が証明された。以上より、本症例は初回髄膜炎を契機に陥頓した脳組織に壊死が起こり、脆弱化したことで髄膜炎を繰返したと推測された。治療として前頭蓋底部修復術を行った結果、目下、術後1年半以上経過で再発は認められていない。尚、外傷10年以上経過後、再発性髄膜炎を発症した症例は22例検索できたが、髄液鼻漏を認めなかったのは2例であった。

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85歳男。患者は眩暈を主訴に受診となり、両側椎骨・内頸動脈狭窄症、椎骨脳底動脈循環不全、多発性脳梗塞と診断された。近医で経過観察中であったが、その後、30秒~1分間持続する粗大で左上肢近位優位なバリズム様の不随意運動が時折みられるようになった。症状は臥位では起こらず、入浴後や歩行時に起こることが多く、左下肢全体にも同様の不随意運動を認めることがあった。出現頻度は増加し、左半身の脱力を伴うようになったため、脳波検査を行ったところ、てんかんは認められなかったが、SPECTでは右大脳半球に高度な血流低下がみられ、経過を含めて、本症例は血行力学的な血流低下が関連しているlimb shaking TIAと診断された。治療は近医で投与されていたclopidogrel、dipyridamole等を継続内服させ、不随意運動の経過観察を行い、あわせてリハビリを開始した結果、入院中に数分間の左下肢脱力を2回自覚したものの、limb shakingは認められず、目下もlimb shakingは出現していない。

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48歳女。患者は全身倦怠感を主訴とし、近医で肝機能障害を指摘され、受診となった。血液検査ではトランスアミラーゼ、ビリルビン酸等が高値で、高度肝障害が認められた。またHBs抗原、HCV抗体はともに陰性であったものの、IgM HBc抗体30.2s/co、HBc抗体陽性であった。以上より、本症例はB型急性肝炎と診断され、安静の上、高カロリー低脂肪高蛋白食摂取を行い、1日500mlの維持液の点滴が施行された。その結果、肝機能改善により第21病日目に退院なったが、入院中、常に陰性であったHBs抗体が、退院後の第64病日目に陽性化し、抗体価は上昇を認めるようになった。更に肝炎の急性期を通じてHBs抗原が検出されなかったことから、B型肝炎ウイルスの遺伝子解析を行ったところ、HBs抗原の抗原性の中心である抗原決定基aの124番から147番目のアミノ酸配列の中で136番と143番のアミノ酸がともにセリンに変異していたことが判明した。尚、HBs抗原のmRNAの転写プロモーター領域に変異を認めず、HBs抗原が検出されなかったのは、早期に消失したためだと考えられた。

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58歳男。患者は右上下肢の痺れが出現し受診、左視床のラクナ梗塞で入院となった。1ヵ月半後に左上が見えにくいと感じたが、症状は15分程度で消失した。比較的若年であることから家族歴の存在が疑われ、FLAIR画像の所見では側頭部にcerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CADASIL)に特異的な2つの、U-fiberを含む白質病変とsubcortical lacunar lesionsが同時に確認された。更にMRI T2強調画像では視床と基底核に微小出血がみられ、CTでは淡蒼球と歯状核の石灰化が認められた。以上、これらの所見より本症例はCADASILを強く疑われ、Notch 3遺伝子検索を施行したところ、Cys93Tyr変異が確認された。治療はAsprinより脳出血合併率が低いとされるcilostzolを再発予防として選択されたが、その結果、8ヵ月の経過観察期間中に1度ラクナ梗塞を再発し、ibudilastが追加投与された。尚、検索した限り本症例は我が国における初のCys93Tyr変異CADASILの報告であった。

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40歳女。患者は発汗、四肢の痺れ、意識消失発作を主訴に近医を受診、空腹時低血糖、高インスリン血症、腹部CTで肝に多発性の低吸収域が認められ、肝生検にて神経内分泌腫瘍と診断された。その後、悪性インスリノーマが疑われ、精査加療目的で著者らの施設へ転院となったが、尿中CPRは低値で、HbA1cは4.6%であった。一方、CTでは大動脈周囲リンパ節の腫脹みられ、低血糖予防のために高カロリー輸液を施行しながらoctreotideが試みられたが効果がなかった。そこで、肝の最大転移巣に対して塞栓療法(TAE)を施行したところ、インスリン値は低下傾向を示し、血糖は上昇傾向となった。更に尿中CPR低値の原因としてあったプロインスリンの高値も、TAE後には低下傾向を示した。以後、血糖維持目的にdiazoxideを投与し、血糖値は正常値を維持できるようになり、高カロリー輸液を中止し、腫瘍に対しては化学療法が行われた。患者は退院後も数ヵ月間にわたり外来通院していたが、初診後250日に死亡となった。

基本情報

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臨床雑誌内科
106巻1号 (2010年7月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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