作業療法ジャーナル 52巻4号 (2018年4月)

特集 がんと作業療法—5年先を見据えた取り組み

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特集にあたって

 がん対策基本法の施行以降,がん患者リハビリテーション料の新設に伴い,がんのリハビリテーション(作業療法)が急速に広まりをみせてきた.一方で,作業療法に関する取り組み(報告)や研究の質の向上が,ここ数年大きな課題となっている.がん対策基本計画,がん対策加速化プラン等の政策や,現状のがんの作業療法の課題を鑑みて,本特集では今後5年間にがんの作業療法において進めるべきポイントに焦点を当てた.

 「就労支援」,「希少がん」,「世代別(AYA・高齢者)対策」においては,国が掲げる大きな課題であるが,作業療法に関する取り組みや報告はまだ少ない.そのため,それぞれの領域でOTが担うべき役割は何かを共有し,その取り組みを前に進める道を模索したい.また,QOL評価については,作業療法の効果を示すうえで必須ともいえる側面であるが,一部のOTはQOLとは何かを十分理解できておらず,その評価をうまく用いることができていない.本特集でQOLについて学び,作業療法を表現できるツールとして活用してもらいたい.

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Key Questions

Q1:わが国のがん対策の課題とは?

Q2:わが国のがんのリハの動向は?

Q3:がんの作業療法に期待される取り組みとは?

がんサバイバーシップ

 がんを経験した人は,その診断時から治療後,医療を卒業した後に至るまで,がんに関連した身体的,精神的,社会的なさまざまな問題を経験している.がんサバイバーシップとは,がんを経験した人が,生活していくうえで直面するさまざまな問題を,家族やその周囲の人々,生活する地域や会社等,社会全体と共に協力して,乗り越えていくという考え方をいう.がんサバイバーシップはとても重要であり,わが国でも「がん対策推進基本法」,「がん対策推進基本計画」が策定され,社会を挙げた取り組みが進められている.

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Key Questions

Q1:働くことの意味・目的とは?

Q2:がんやがん治療が就労に与える影響とは?

Q3:がん患者・サバイバーに対する,就労支援におけるOTの役割とは?

はじめに

 人生の途中でがんに罹患した方々の希望をうかがうとき,「仕事にできるだけ早く復帰したい」と話される方は多い.一方,多忙に働いてこられ,がんに罹患し,仕事を休まざるを得なくなったときに,「この休暇は神様の贈り物かもしれない」と,あらためてワーク・ライフ・バランスを見直される方もある.本稿では,働く世代にとっての「働く」ということの意味,がんに罹患することで生じる就労に対する思いや苦悩,および国の施策とOTとしての課題について検討していきたい.

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Key Questions

Q1:希少がんとは?

Q2:四肢のサルコーマ,グリオーマを評価するには?

Q3:希少がんの作業療法に求められることは?

はじめに

 がん対策基本法(平成18年法律第98号)に基づいて策定される「がん対策推進基本計画」1)が2017年(平成29年)10月に変更され,「がんのリハビリテーション」と「希少がん,難治性がん」がそれぞれ独立した項目に位置づけられることになった(図1).この両分野にまたがる「希少がん領域におけるリハビリテーション」については,これまで極めて報告が少ない.

 希少がんとは「新規に診断される症例数が10万人あたり年間6例未満のがん」と定義されている(「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」より).主要5大がん(肺がん,大腸がん,乳がん,胃がん,子宮がん)である肺がんは,新規に診断される症例数が10万人あたり年間200人程度であることからすると,希少がんの希少性がイメージできる.その希少がんには200種類近くもの異なるがんが含まれており,その内訳は,肉腫(サルコーマ),悪性脳腫瘍,悪性黒色腫,網膜芽細胞腫,中皮腫,神経内分泌腫瘍等,実に多岐にわたる2)

 国立がん研究センター中央病院(以下,当院)は578床のがん専門病院であり,作業療法部門は2010年(平成22年)11月に開設された.OTの配置数は1名〔2018年(平成30年)1月現在〕で,極めて希少な職種である.全診療科を対象としているが,骨軟部腫瘍や脳腫瘍の周術期への介入が大半を占めている(図2).

 『がんのリハビリテーションガイドライン』3)では,原発性骨軟部腫瘍に関するCQ(Clinical Question)項目は全62CQ中2項目で紹介されており,いずれも推奨グレードはC1(行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない)となっている.脳腫瘍に関する項目は,原発性・転移性の区別はなく推奨グレードはB(行うよう勧められる)となっている.希少がんの中では,骨軟部腫瘍と脳腫瘍,頭頸部がんがガイドラインに取り上げられている.

 当院作業療法部門の主要な実践領域である骨軟部腫瘍と脳腫瘍(主にグリオーマと中枢神経系原発悪性リンパ腫)の実践状況について紹介する.

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Key Questions

Q1:小児がん・AYA世代がんの疫学と診療体制の課題とは?

Q2:小児がん・AYA世代のがんの特徴・課題とは?

Q3:作業療法の今後の展望とは? 5カ年戦略を考える

はじめに

 わが国において,がんと新たに診断される人は年間100万人以上になる.生涯でがんに罹患する人は2人に1人といわれ,今や「国民病」となっている1).男女ともに50代くらいから増加し,中高年のがんは標準的治療が確立し,5年生存率から10年生存率へと治療成績は伸びている.

 15歳未満で発症する小児がんは,年間1,500〜2,000例程度と推計され,がん患者全体の0.2%に過ぎない.近年の小児がん医療の目覚ましい進歩により,集学的治療や多施設共同の臨床試験が進展し2),治療後の5年無病生存率は80〜90%と向上している3)

 思春期・若年成人(adolescent and young adult:AYA)世代とは,さまざまな定義があるが,本稿では15〜39歳までを示す.年間4,000〜5,000人程度が発症し,全年齢のがんの約0.6%であり2),小児がん患者の約3倍と推測されている.米国においては,この世代の患者数が年間6万9,000名とされ,小児がん患者数の約6倍であると報告4)されている.

 AYA世代のがん患者は,「発達段階に関連する生物学的・心理社会的特性が示唆されているにもかかわらず,支援が不十分」5)であり,近年AYA世代のがん患者に対するライフステージに応じた支援の必要性が論じられ,さまざまな試みが国際的に活発になってきている.

 本稿では,当院が,がん診療連携拠点病院,小児がん拠点病院であることを踏まえ,小児・AYA世代のがんの特徴を述べ,リハ領域では報告の少ないAYA世代における作業療法と今後の展望について述べる.「小児・AYA世代の緩和ケア」については非常に過酷な現実があり,紙幅の都合から,別の機会をもちたい.

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 「ピア(peer)」には,「仲間」,「同等」の意味があり,「サポート(support)」は「支援する」ということ.ピアサポートの活動とは,仲間や自分が,自らの生き方を追求し,自己決定を手助けするものである.扱っている課題によってもその活動の中身はさまざまであるので,一概に表現することは難しい.その中であえて定義するとすれば,がんのピアサポートとは,がん体験者や家族が体験談を語り,同じような課題に直面する者同士が寄り添い支え合うことをいう.

 遺族らの「同じ境遇の人と話がしたい」という思いを受けて,当院作業療法士が中心となって2008年(平成20年)に,院内に小児がん遺族会を創設し,10年となる.遺族の継続した参加によって遺族会が支えられている現実があり,ここに紹介したい.

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Key Questions

Q1:高齢がん患者の現状は?

Q2:高齢がん患者の作業療法とは?

Q3:今後のわが国の高齢がん患者対策とOTの活躍は?

はじめに

 細胞における遺伝子異常の蓄積が原因で発病することが多い「がん」は,がんの種類(がん種)によってその傾向は異なるものの,一般には高齢者に多い疾患である1)

 実際の臨床で,がんの患者のリハに携わってみると,がん種によりOTのアプローチが異なることは明白であるが,さらに,対象者の年齢による特性から,評価や観察を基に適切な介入やかかわり方が必要とされる.高齢がん患者に対する作業療法は,高齢者に対してこれまでに培ってきた作業療法の知識と技術の集積が活かされる領域である.

 急激な高齢化社会が到来しているわが国において,高齢者のがんを考えることは,きわめて喫緊の,かつ重要な課題であるといわれている1).2015年(平成27年)12月に打ち出された「がん対策加速化プラン」2)のがん研究の項でも,2020年ごろまでの目標に,高齢者のがんに対しても研究開発に対する支援を充実させることが記載されている.

 まず,高齢がん患者を巡る問題点と今後5年間の施策を概観し,地域包括ケアを踏まえながら,高齢がん患者への作業療法について考えてみたい.

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Key Questions

Q1:QOLの評価とは?

Q2:QOL尺度の分類とは?

Q3:がん領域で用いられるQOL尺度とは?

はじめに

 医療保険の診療報酬改定において,がん患者に対するリハビリテーション料が新設されたのは,2010年(平成22年)のことである.直接引き起こされる機能障害や,合併症として生じるさまざまな症状や障害に対して,専門的なリハが必要と認定されたわけである.がんの作業療法では,がん自体の原発部位の多種も然ることながら,合併症としての二次的障害が多様であること,さらにはターミナルステージでのかかわりがあることからも,その目指すべきところも多種多様なものとなる.

 一方,作業療法をはじめとした医療は,目指した成果,つまりアウトカムを明確に示さなければならない.それはどの疾患においても,筋力や関節可動域等,機能の改善として,あるいは,ADLの向上として示すことができるであろう.それでは,がんに対する作業療法のアウトカムもそれでよいのであろうか.

 英国は早くから,エビデンスを重視した効率的な医療を提供している国である.その英国立の臨床評価機構(National Institute for Clinical Excellence: NICE)では,がんの治療ガイドラインを公表しているが,その目標とするところは生存率の向上とQOLの改善である1).QOLを医療のアウトカムとすることに対して,日本国内では依然として一部に懐疑的な見方もあるようであるが,少なくともがんに関しては,QOLをアウトカムとして用いるべき時にきている.まして作業療法は,その改定される定義の草案2)にもある通り,「人々の健康,社会参加,幸福を促進するために」提供するものである.そうであるならばなお,QOLをアウトカムとしない選択肢はないように思う.本稿では,がん領域で用いられるアウトカムとしてのQOLについて,私見を交えて述べてみたい.

花信風

作業とは 為末 大
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 スポーツにおいて、上達するということは、動作をしていることを忘れるということになる。たとえば、自転車に乗りはじめたときには、ペダルをどうこぐのか、ハンドルをどう動かすのか、自分の体重をどこにかけるのかに必死で、そのことに集中している。当然辺りを見渡したり、ましてや考え事をする余裕なんてない。上達してくると、ペダルをこぐことが自然になる。それはつまりペダルをこぐという意識すらなくなるということで、そこまでくると自転車に乗りながら辺りを見渡したり、または何か考え事をすることができるようになる。上達とは自動化であり、自動化とはそれをしていることを忘れられることである。

 ただ、一度自動化したものをあらためて意識的に改善しなければならないときがある。自転車には乗れているが、あらためてプロの自転車選手を目指すときに、ペダリングの効率化をしなければならない。考えないでやっていたことをあらためて考えるときに、人間の動作は混乱しやすい。普段何も考えないで歩いていたのに、卒業式で人に見られていると感じた瞬間に、手足が一緒に動いてしまうこと等は典型だ。アスリートのスランプも、今まで考えていなかった動作をあらためて考えはじめたときに入ることが多い。しかしながら、動作の改善では、無意識の動作をあらためて意識的に考えることを避けられない。動作改善がうまい選手は、あまり細部に立ち入らず上手に抽象的なイメージで自分をコントロールする。

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はじめに

 近年,働き方改革に関心が向いています.OTにとっても,よりよい働き方を実現することは重要な課題ですが,どのような視点から現状を分析し,課題を整理したらよいか,不明確な部分があると思います.そこで,私の関心,「職場環境」に関する私見を,パーソン・センタード・ケア(person centered care:PCC)の考え方を引用しつつ,述べたいと思います.ここでは,物理的な環境ではなく,主に人的環境について述べます.

 この提言の要点は,職場の環境や文化を見直して,「人を育み,活かせる場」になっているか振り返り,よりよい方向へ向けていくことが大切である,ということです.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第40回

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Gentle

 私の作業療法のモットーはGentleです.

 理由をお話ししますと,2001年9月,折しも9.11テロの1週間後,CambridgeのOliver Zangwill Centerへの視察を決行するかどうか悩んだ末,やはり行くことにしました.大いに得るものがあり,行ってよかったと思っています.

講座 自助具知識のupdate・第4回

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はじめに

 脳血管障害によって機能障害が後遺症として残存した方は,さまざまな生活行為動作で,そのつどちょっとした工夫をして目的動作を実現していることがある.「困難な動作を方法を変えて可能にしていく」これは当事者だからこそ気づくこともあれば,家族や介助者が介護の最中に気づくこともある.われわれOTには,その多くの工夫を自らの臨床経験より知り,それを知識として蓄え,“生活行為困難者”に助言をし,日常生活がより主体的になるように支援していく職務がある.

 今回は日ごろの臨床業務において,あまり自助具製作の機会が多くないOTに,少しでも創作意欲が湧くようなアイデアを紹介する.

連載 下肢慢性創傷への作業療法・第1回【新連載】

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Key Questions

Q1:糖尿病性足潰瘍の病因は何か?

Q2:下肢慢性創傷患者の下肢切断後のADLはどう変わるか?

Q3:歩行の意義は何か?

はじめに

 かつて慢性創傷の三大疾患は,褥瘡,静脈うっ滞性潰瘍,糖尿病性足潰瘍といわれていた.近年それは変化してきている.

 褥瘡に関しては,1998年(平成10年)の日本褥瘡学会設立以来,多職種(医師,看護師,薬剤師,栄養士,PT,OT,医用工学研究者等)が一堂に会し,産官学が一体となり,ケア・治療・予防等が急速に発展し褥瘡学が飛躍的に向上し,その発生率は減じた.

 ところが,他の慢性創傷である静脈うっ滞性潰瘍や糖尿病性足潰瘍,さらに重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)を呈するに至る末梢動脈性疾患(peripheral arterial disease:PAD)については,同様に多職種でのアプローチが必要であるのにもかかわらず,いまだチーム医療には至っていないのが現状である.褥瘡を除けば,慢性創傷の残る主疾患のほとんどが下肢に発症するため,医療,医学のみならず医療経済を含めて産官学が一体となり取り組むべきこれからの課題が下肢慢性創傷である.

連載 ユーモアと笑い・第8回

ユーモアのやり取り 柏木 哲夫
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ユーモアの双方向性

 医療現場では患者さんと医師の信頼関係がとても大切である.ホスピスという現場で,この信頼関係を築くのにユーモアが重要な役割を果たすことを経験した.そしてユーモアの双方向性が成立したときには,信頼関係が深まるということもわかった.

 第2回でも紹介したが,進行した食道がんで,固形物がほとんど喉を通らない患者さん(女性)があった.ある日の回診のとき,「いかがですか?」との私の問いかけに対して,彼女はいかにもつらそうに「ものが通らなくて……」と言った.何か喉を通るものはないかと考えていた私の頭に食べ物が一つ浮かんだ.私は彼女に「トロだったら,トロトロと喉を通るかもしれませんよ」と言った.彼女は「私も一日中トロトロ寝てないで,トロに挑戦してみます」と言った.そばで私たちの会話を聞いていたご主人が「私もトロい亭主ですが,トロぐらいなら買ってきますよ」と言い,すぐに立派なトロを3切れ買ってきた.なんと患者さんは2切れ食べた.文字通りトロトロと入ったのである.

連載 作業療法を深める ⑰スクールソーシャルワーカー

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はじめに

 私は,2005年度(平成17年度)に大阪府教育委員会が始めたスクールソーシャルワーカー配置事業のスクールソーシャルワーカー(以下,SSW)として小学校に勤務することになりました.その後,約10年の間に,他の自治体や高等学校,特別支援学校にSSWとして関与してきました.たった10年間で関与する学校がこれほど変わるということは,その学校,その地域に根を下ろした活動ができてこなかったということでもあります.しかし,たくさんの学校や地域で活動することを通して,学校という場の共通の可能性や課題,地域による違い等も知りました.本稿では,私自身の活動も振り返りながら,SSWの活動を紹介し,学校の教職員とOTとの連携可能性について考えてみたいと思います.

ひとをおもう・第1回【新連載】

世界を想像する 齋藤 佑樹
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 利用者全員の入浴が終わった15時.その日のおやつはコウゾウさんが配ってくれた抹茶ケーキと,ウメさんが注いでくれた麦茶でした.介護員さんは慣れた手つきで洗濯物をバスタオルにくるみ,連絡ノートと一緒にナイロンバッグにまとめ,帰りの準備をしています.5分程まえに所長が車の鍵を持って出ていったので,そろそろ送迎バスが施設の入り口に横付けされる時間です.通所リハの夕方はいつもバタバタと職員が動き回り忙しそうです.

 いつも,誰よりも早く帰り支度をするセツさんの姿が見えませんでした.「もしかしてトイレで転倒しているのでは……」不安がよぎった私は,足早にトイレに向かいました.トイレの前までくると,洗面台で手を洗うセツさんの姿が見えました.ほっとした私が「セツさん,そろそろ帰る時間ですから一緒に戻りましょうか」と声をかけると,「すぐに行きますから先に戻ってください」と素っ気ない返事…….私は,便が手に付着する等,他人に知られたくないことが起きてしまったのではと思い,セツさんの自尊心を傷つけないよう,一度トイレから離れました.しかしさらに数分が経過してもセツさんが出てきません.気になった私はもう一度トイレに向かい,セツさんに話しかけました.「セツさん,おせっかいのようで恐縮ですが,もしかして何か困っているのではないですか? もしそうでしたら僕にこっそり教えてくれませんか? 力になれるかもしれません」,「……これが落ちないんです」セツさんはピンク色のマニキュアを何度も流水の下でこすっていました.

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Abstract:重大な他害行為に及んだ精神障害者が,入院治療中に退院後の生活に動機づけられていくプロセスを明らかにすることを目的に,質的研究を実施した.医療観察法指定入院医療機関に入院中の20〜60歳までの統合失調症と診断された男性対象者8名に半構造化面接を実施し,修正版Grounded Theory Approachにて分析した.その結果,対象者は先行きの見えない段階から,新たな自分自身の気づきを得て,自身の価値に基づく今後の希望を見いだしていた.だが同時に現実的な不安も混在し,同じ過ちを繰り返さないために安定した生活も希求していた.対象者自身で選択したサポートには重きを置く一方,周囲から押しつけられた生活には低い動機づけを示した.今後は,対象者の希望を活かした生活スタイルを模索し,かつ,多職種チーム会議のあり方を工夫して対象者の自己決定を促すことで,退院後の医療への不遵守を防止できる可能性が示唆された.

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Abstract:本研究では地域在住高齢者を対象に,認知課題ゲーム(以下,Pゲーム)の実施方法の違いと認知機能別の特徴について検討した.Pゲームは25マスの図案の上に数字をランダムに記し,1〜25の番号が書かれたペットボトルのキャップをできるだけ早く,対応する図案の番号の上に置いたり取り出したりするゲームである.Pゲームの実施方法の違いについて比較した結果,「取り出す」パターンは,「置く」パターンよりも遂行時間が有意に短かった.また,Trail Making Test(TMT),Pゲームを認知機能別に比較した結果,「置く」パターンはすべての群間に有意差が認められた.一方,「取り出す」パターンは,TMTが健常群と認知機能低下群,認知症疑い群,Pゲームが健常群と認知症疑い群との間に有意差が認められ,認知機能低下に伴い遂行時間が長くなる傾向が示された.本研究の結果から,Pゲームは心理的ストレスが低く,簡易に認知機能の程度を判定する評価ツールとして有用性が高いと推察する.

昭和の暮らし・第16回

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 「自転車にナンバープレート?」と小学生の声が聞こえた.昭和日常博物館で,鑑札付きの自転車の展示を前にしたときのことだ.この小学生に聞いてみると,ナンバープレートは,自動車やオートバイ等,高価な乗り物についているという印象をもっていた.

 その印象は,ある意味では正しい.自転車もかつてはとても高額で,大切に扱われたからだ.初任給が1万円前後だった昭和30年ごろ,自転車は1万5,000円ほどもした.当然,磨いたり,修理したりと,現在の自動車なみの手入れをしていた.

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目次

表紙のことば/今月の作品

次号予告

研究助成テーマ募集

第53巻表紙作品募集

Archives

学会・研修会案内

編集後記 江藤 文夫
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 1980年に英国のバーミンガムで遊んでいたころの6月,出入りしていた病院の近くのSt. Mary's Hospiceを訪ねた.その年,初めてホスピスの国際会議がロンドンで開催された.本誌で「ユーモアと笑い」を連載されている柏木哲夫先生が参加されていたと聞いたように記憶する.それから16年後,そこの掲示板で見たsanctity of life(SOL)の文字を確認したく,St. Mary's Hospiceを再訪したが,すでに空き家となっていた.幸いその掲示板は別の高齢者施設に移転掲示されていて,その句を読むことができた.空き家になっていたのはコミュニティでの支援が普及し,改修が予定されていたからである.

 日本にはライフの文字はあってもlifeという言葉がないので国際標準での議論がやりにくい.さらに,日本では「メメント・モリ」を議論することが難しい.一昨年,がんで亡くなられた先輩(享年88歳)は,その2年前に愚痴めいた小生の問いに対して,柔和な表情で日本では「死について論じることはダブーだから」と話してくれた.がんの診断でも術後10年を経過して元気な方が稀でない時代で,本誌の特集の中身も充実している.しかし,死についてのサポートをとりあげることには抵抗が強そうに感じる.サポートといっても自殺ほう助ではない.とはいえ,本誌の特集でも「がんのピアサポート」が取り上げられたことでほっとした.OTの職能が分化する初期に,多くが看護職から転じた時代とは異なり,欧米でもOTによる「死と死別」とのかかわりは乏しいようである.

基本情報

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作業療法ジャーナル
52巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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