花信風
作業とは
為末 大
pp.291
発行日 2018年4月15日
Published Date 2018/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001201233
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スポーツにおいて、上達するということは、動作をしていることを忘れるということになる。たとえば、自転車に乗りはじめたときには、ペダルをどうこぐのか、ハンドルをどう動かすのか、自分の体重をどこにかけるのかに必死で、そのことに集中している。当然辺りを見渡したり、ましてや考え事をする余裕なんてない。上達してくると、ペダルをこぐことが自然になる。それはつまりペダルをこぐという意識すらなくなるということで、そこまでくると自転車に乗りながら辺りを見渡したり、または何か考え事をすることができるようになる。上達とは自動化であり、自動化とはそれをしていることを忘れられることである。
ただ、一度自動化したものをあらためて意識的に改善しなければならないときがある。自転車には乗れているが、あらためてプロの自転車選手を目指すときに、ペダリングの効率化をしなければならない。考えないでやっていたことをあらためて考えるときに、人間の動作は混乱しやすい。普段何も考えないで歩いていたのに、卒業式で人に見られていると感じた瞬間に、手足が一緒に動いてしまうこと等は典型だ。アスリートのスランプも、今まで考えていなかった動作をあらためて考えはじめたときに入ることが多い。しかしながら、動作の改善では、無意識の動作をあらためて意識的に考えることを避けられない。動作改善がうまい選手は、あまり細部に立ち入らず上手に抽象的なイメージで自分をコントロールする。
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