今月の臨床 分娩前後の1週間
エマージェンシー・ケア
14.急速遂娩の適応
宇津 正二
1
,
成田 喜代司
1
Masazi Uzu
1
,
Kiyozi Narita
1
1聖隷浜松病院産婦人科
pp.554-555
発行日 1992年5月10日
Published Date 1992/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409900846
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急速遂娩とは,妊娠中または分娩経過中に母親または胎児に生命の危険や回復不可能なほどのダメージを残す可能性があるような異常事態が発生した場合,またはこれから先,もしくは今まさに発生するであろうと予測されるような場合に,直ちに胎児を娩出し,短時間で分娩を終了させることにより,母体と胎児の双方を(残念ながらどちらか一方のこともあるが)救命し治療することを目的とした緊急回避手段である。一般的には,まず母体に対して酸素吸入や体位変換などの処置が加えられたり,子宮収縮抑制剤や促進剤その他の循環改善剤などの輸液が行われることが多いが,そのような保存的治療法が無効であるかまたはその効果の発現を待っている時間的余裕が無いと判断したときは,直ちに適切な急速遂娩術を実施する。そして,母児を分離した上で別個に治療し,できる限り異常や後障害を残さないような管理を行わなければならない。
日常的に分娩を取り扱っている私達産科臨床医にとって,この急速遂娩術はまさにオールマイティな「切り札」的特殊技術であると言えるが,一方,通常の妊娠分娩経過から逸脱した侵襲的な操作であることには違いないため,母児双方にとって侵襲が少なく,かつ,後障害の無い分娩・出産が理想であるという産科管理の原則から鑑みると,使い方いかんで両刃の剣になる危険性もある。したがって急速遂娩術の適応や適切な選択を誤らないということは,その手技の習熟とともに非常に重要な問題であるといえる。
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