臨床外科 66巻4号 (2011年4月)

特集 悪性腫瘍の術中病理診断を効果的に活用する―どこを検索すべきか,どう対応すべきか

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 悪性腫瘍を扱う外科医にとって,術中病理診断(組織診断,細胞診)の重要さはいうまでもない.すべての手術が確定診断のもとに行われているわけではなく,術中の良悪性の診断は,術式に大きな変更をもたらす.また悪性腫瘍では,切除断端の評価,リンパ節転移の有無は,切除範囲に直結している.しかし限界もあり,境界病変では迅速標本による良悪性の鑑別が困難なことがある.一方,手術中に採取された検体からの標本の作製,診断結果の報告までを限られた時間の中で行うことは,病理医や検査技師にとって負担の大きいものである.このように術中病理診断は,永久標本による最終病理診断とは異なる意味を持ち,外科医と病理医の間で正確な情報の伝達と意思の疎通が必須である.

 本特集では,外科の立場から各領域について「どの症例,どの部位を検索すべきか」をテーマに,より適切な術中病理診断の活用について執筆いただいた.また,術中病理診断を依頼され診断する病理医の立場から,その正確性,限界,外科医へのリクエストなどについて見解を示していただいた.

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【ポイント】

◆食道癌における迅速病理診断は,主に切除断端の評価やリンパ節転移の有無の診断などに用いられる.

◆頸部食道癌手術では,口側断端を提出し癌の遺残を確認することで,喉頭温存手術の可否を判断することが大切である.

◆センチネルリンパ節生検は,迅速病理診断で効率よい個別化縮小手術が可能かどうかを検討したものである.

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【ポイント】

◆術中病理診断は,治療方針の決定,切除範囲の決定,郭清範囲の決定などの重要な決定に用いられる.

◆術中病理診断は万能ではなく,一つの指標に過ぎないことも多い.

◆術中病理標本を正しく扱って病理に提出し,画像診断や術中所見も総合して最終判断を行い,適切な治療を遂行することが重要である.

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【ポイント】

◆これまで大腸癌での術中病理検査は,腹膜播種の有無,遠隔転移やリンパ節転移の確認,他臓器浸潤や断端の検索のために行われてきた.

◆Sentinel node navigation surgeryを取り入れ,センチネルリンパ節を術中病理診断することは,郭清範囲の決定,合理化,予想外のリンパ節転移の検索,微小転移の検索に有用である.

◆免疫染色やRT-PCRで術中生検したセンチネルリンパ節の微小転移を重点的に調べることで,再発リスク,術後補助化学療法の適応などに利用できる可能性があり,今後の検討に期待する.

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【ポイント】

◆肝癌の術中病理診断の適応として,①腫瘍の質的診断,②切除断端の良悪性,③リンパ節転移の有無,④背景肝の障害度診断,が挙げられる.

◆腫瘍針生検診断の限界と合併症を把握すべきである.肝癌切除前診断の基本は画像診断であり,術中病理診断に頼りすぎない.

◆肝障害患者に生じうる病変,特に一連のシークエンスであると考えられている早期肝細胞癌,高度異型結節,軽度異型結節の画像的ならびに組織学的特徴を把握する.

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【ポイント】

◆胆管癌の術中迅速病理診断では,胆管切離断端の評価が最も重要であり,その結果により追加切除が検討される.その際,良悪性の診断とともに,上皮内病変か上皮外病変かも重要なポイントとなる.

◆胆囊癌の術中迅速病理診断では,良悪性の鑑別とともに悪性病変の壁深達度評価が重要であり,それにより術式選択が大きく異なる.

◆十二指腸乳頭部癌では,術中迅速病理診断の意義は少ないが,縮小手術を選択した場合,その断端評価は重要となる.

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【ポイント】

◆膵癌切除時には,門脈-上腸間膜静脈への微小癌浸潤を遺残させないことが重要である.

◆擦過細胞診とcontact endoscopyはともに組織片採取を必要とせず,微小癌浸潤の有無や範囲をリアルタイムに診断できる方法である.

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【ポイント】

◆膵悪性疾患の外科治療において過不足ない手術を行うために術中病理診断が担う役割は大きい.

◆当科では膵癌,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)の手術の際には開腹後に術中腹腔細胞診と膵断端の術中迅速組織診断を行っている.

◆IPMNでは約9%に通常型膵癌を合併するため,術中膵管洗浄細胞診を施行している.これにより,術前画像で指摘できなかった微小膵癌を診断できることがあり,予後の改善が期待できる.

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【ポイント】

◆GISTの診断にはKIT免疫染色を必要とする.時間に制約がある術中病理診断では,組織学的確定診断を得ることは難しい.

◆GISTの手術は,腫瘍の組織学的悪性度にかかわらず,臓器温存を図った腫瘍摘出術が推奨される.

◆GIST疑診例のなかには,胃癌や卵巣癌,カルチノイドなどが含まれる.上皮性悪性腫瘍との鑑別に術中病理診断は有用である.

乳癌 井本 滋 , 菅間 博 , 和田 徳昭
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【ポイント】

◆乳房温存手術は,整容性を考慮して画像診断による適切な切除範囲を決めることが重要である.

◆乳腺の切除断端における術中病理診断は,画像診断において乳管内に進展する方向を中心に検索する.

◆センチネルリンパ節の術中病理診断は2mm間隔での検索が望ましいが,少なくとも数割面において転移の検索を行うべきである.

肺癌 渡辺 俊一
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【ポイント】

◆進行癌では手術適応の判断のため,早期癌では縮小手術適応の判断のために術中病理診断が行われる.

◆術中病理診断の部位には胸水,胸膜結節,原発巣,副腫瘍結節,リンパ節,肺実質・気管支切離断端がある.

◆各部位の術中病理診断を十分活用することにより,肺癌に対するより適切な治療法の術中選択が可能になる.

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【ポイント】

◆術中迅速組織診断は,手術における方針の決定に役立てるために,組織の凍結切片を用いて短時間に行う病理診断である.

◆迅速診断は時間・材料・方法の制約があり,一定の確率で診断保留や偽陰性が起こりうる.

◆迅速診断では,外科医と病理医の間のコミュニケーションが大切である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・10

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 皆さん,元気ですかーっ! もとい,皆さん毎日のお仕事はOK牧場?

 今回のテーマは「麻酔」.担当させていただきます四谷メディカルキューブの白石と申します.日々,減量外科手術に麻酔科医として立ち合わせていただいておりますが,術者である笠間先生の猪木節を肌で感じつつ,今回の稿は,私が愛してやまない,ガッツ石松調でいきたいと思っています.ちなみに術中,笠間先生はいつも背中からオーロラが出ています(ガッツ!).

Expertに学ぶ画像診断・3

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はじめに

 わが国は胃癌の罹患率が高いことから,従来から胃癌集団検診システムが確立されている.そのシステムの進歩とともに早期胃癌の発見率も上昇しており,また,早期胃癌の治療法として内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)が開発され,以前より根治性の高い治療が可能となっている.早期の段階で胃癌を治療することは胃癌による死亡率を減少させるためにも重要であり,そのための胃癌の早期発見は胃発癌予防と並ぶ癌診療・研究の最大の目標である.

 胃癌における従来の内視鏡診断法としては通常内視鏡所見と色素内視鏡所見(特にインジゴカルミン液)が基本であった.これらの検査法は病変の凹凸や色調変化といった腫瘍に特異的とはいえない所見をもとに診断をするため,限界があった.しかし,高画素narrow band imaging(NBI)併用拡大電子内視鏡スコープの開発によって状況は一変した.従来まで困難であった微細粘膜構造や血管模様が直接認識できようになり,腫瘍特異的な所見に基づいてリアルタイムに病理学的診断に匹敵しうる診断が可能となった.

 本稿では,現時点における胃癌の診断法として確立されつつあるNBI併用拡大内視鏡を中心に早期胃癌診断学について述べる.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その②

“触覚” 内田 一徳
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触覚は鉗子の手応えで感じるものなり.

組織の性状を視覚で判断すべし.

この際,経験知は触覚をより鮮明にするものなり.

外科専門医予備試験 想定問題集・4

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出題のねらい

 呼吸器領域の手術・診療経験は修練施設による差が出やすいようです.苦手意識をもっている受験者も多いのではないでしょうか.基本的な解剖と生理の問題のほかに,肺腫瘍の組織分類に関する紛らわしい問題が出題されています.肺腫瘍の組織分類は複雑ですが,試験直前に一度取扱い規約に目を通しておくとよいかもしれません.また,気胸,膿胸はもちろん,気管支断端瘻のような重要な術後合併症はしっかり押さえておきましょう.

病院めぐり

佐野厚生総合病院外科 池田 謙
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 当院は栃木県南西部の佐野市内に位置しています.佐野市は平成の大合併で近隣の田沼町,葛生町と合併し,人口約12万人となりました.市の北部は熊,猿,鹿,猪など野生動物が出没する自然豊かな山間地帯です.一方,市の南部は東北自動車道に加え,平成23年3月に北関東自動車道が全線開通して北関東の交通の要衝となり,今後,経済的な発展が期待されています.

 外科は昭和12年の当院開設当時に診療を開始しました.その後,当院は何度かの増改築を経て平成15年3月に現在の新病院に移転し,療養科100床を含む531床のケアミックス型病院として診療を開始しました.現在は日本医療機能評価機構認定病院であり,がん診療拠点病院,2次救急病院に指定され,地域医療に貢献しています.また臨床研修指定病院でもあり,医師の養成にも力を入れています.さらに教育関係では,日本外科学会専門医制度修練施設,日本消化器外科学会関連施設,日本乳癌学会関連施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設に指定されています.

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 愛知県名古屋市は徳川御三家筆頭の城下町として,江戸・大坂・京に次ぐ発展をみました.現在の人口は約225万人で,トヨタ自動車や中部国際空港など,中部地方の産業・文化の中心地として栄えています.

 当院が位置する昭和区は名古屋市内でも有数の文教地区であり,近隣には名古屋大学,南山大学,名城大学が,また病院のすぐ北には,高校野球愛知県代表やフィギュアスケートの浅田真央さんでおなじみの中京大学附属中京高校があります.

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 麻酔深度の客観的な指標として脳波をモニターしようとする試みはこれまでも行われてきた.しかし,それが臨床に応用されるに至らなかったことは周知のことである.その理由は,全身麻酔中に脳波を記録すること自体が煩雑であり,特にリアルタイムに表示・解析することが困難であったことと,心電図や人工呼吸器などによるノイズが多く,したがって,通常以上の脳波解析の知識が要求されていたためである1,2)

 しかし,bispectral index(BIS)の登場によって麻酔中の鎮静度を数値化して表示することが可能となり,瞬時に計測できるようになった1).BISモニターとは,この脳波解析装置を使って行う中枢神経系モニターのことであり,本当に便利な器械ができたものである.主に手術麻酔時や集中治療室の患者の前頭部脳波を増幅し,スペクトラル解析によって0~100の数値で表示する装置である.ちなみに100は完全覚醒,100~90は覚醒状態,80~60は鎮静で,全身麻酔では60~40の間の催眠状態で維持することが推奨されている.なお,0は脳波停止を指す.

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要旨

症例は59歳,男性,腹痛を主訴に来院した.腹部単純CT検査で腸閉塞を認めるものの,明らかな閉塞機転となるような病変を認めなかった.このことから腸間膜血管の閉塞性疾患を疑い,腹部造影CT検査を施行した.上腸間膜静脈内に血栓の存在を認めたが,腹部所見,検査所見などから腸管壊死を示唆する所見を認めなかったことから,絶飲食とヘパリンによる抗凝固療法を行った.これにより腹痛は改善し,血栓の減少傾向を認めた.経口摂取を開始し,ワーファリン®内服に変更したが,症状の再燃は認めていない.血栓症を発症する明らかな原因はなく,特発性と考えられた.

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要旨

症例は63歳,男性.2007年7月に下腹部痛,下血を主訴に当院を受診した.大腸内視鏡検査でS状結腸に縦走潰瘍を認め,虚血性大腸炎と診断した.同時に施行した腹部CTおよび腹部超音波検査において,虫垂の部位に囊胞性腫瘍を認めた.虫垂粘液囊腫の診断のもと,虚血性大腸炎が軽快した後,2007年11月に腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術中,囊胞壁を損傷することなく腫瘍を摘出した.囊胞内には粘液が充満し,組織学的には高分化型の粘液囊胞腺癌を認めた.深達度はMで,リンパ節転移は認めなかった.術後経過は良好で術後14日に退院した.術後2年6か月が経過した現在,再発兆候を認めていない.

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要旨

症例は58歳,男性,膵頭部癌に対して外科手術を施行した.術後第1病日にFFPを投与したところ,膨隆疹が出現したのでコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(サクシゾン®)100mgを静注した.数分後に呼吸困難と血圧低下をきたしたが,集中治療により1時間後に回復した.輸血によるアレルギー反応と判断し,サクシゾン500mgを再静注したところ,その直後に再び血圧が低下し酸素化も不良の重篤なショック状態となった.薬剤アレルギーの既往はなかったが,経過と皮内反応試験などからサクシゾンがアナフィラキシーショックの原因と判断した.アレルギー治療薬であるはずのステロイド薬が,重篤なアレルギー反応を引き起こした症例を経験した.

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要旨

症例は52歳,女性.胃上部に大きさ5mm程度の多発粘膜下腫瘍を認め,生検によりカルチノイド腫瘍と診断された.血液検査では,抗胃壁細胞抗体陽性および二次性高ガストリン血症を認めた.A型胃炎に伴う多発性胃カルチノイドと診断し,血中ガストリン値を低下させる目的で,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行した.術翌日には,血中ガストリン値はほぼ正常化し,術後1年の内視鏡検査では,新病変の出現なく腫瘍の縮小を認めた.本疾患の治療は,これまでリンパ節郭清を伴う胃全摘術の報告が多かったが,腹腔鏡下幽門側胃切除術など,より低侵襲な術式も考慮すべきである.

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要旨

症例は85歳,男性.既往に77歳時,下行結腸癌に対し手術を施行されている.術前CTで肝より突出する囊胞性病変を指摘されていたが,経過観察としていた.2009年のCTおよびMRI上,囊胞は増大し,充実成分が顕在化していた.肝囊胞腺癌を強く疑い手術を施行した.肝外側区域下縁に囊胞性病変を認めたが,肝と連続性はなく,胃原発の囊胞成分を伴う壁外発育型GISTが疑われた.腫瘍を含めた胃部分切除術を施行した.病理組織学的所見ではKIT,CD34陽性であり,GISTと診断した.囊胞変性を伴う胃原発GISTの報告は,会議録を除き本症例は17例目であり,わが国最高齢であった.肝外側区域に囊胞性病変を認める場合は,常に本症を念頭に置き診断・治療することが重要である.

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要旨

症例は60歳台,男性.食事摂取困難を主訴に来院した.上部消化管内視鏡検査にて切歯より約33~38cmに亜全周性の3型腫瘍を認め,生検にて扁平上皮癌と診断され,造影CT検査にて肝S5に2.4cm大の転移を認めた.術前化学療法(FP療法)を2クール施行したところ,原発巣および肝転移巣の縮小(PR)を認めたため,胸腔鏡下食道亜全摘術・経皮的肝ラジオ波焼灼療法を施行した.病理組織所見は,basaloid(-squamous)carcinoma,T3,INFβ,ly2,v3,N2,M1,IM0,Stage Ⅳb,PM0,DM0,RM0,Grade 1aであった.現在,補助化学療法を施行中で,術後7か月無再発生存中である.本症例を若干の文献的考察を加え報告する.

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要旨

症例は50歳台,男性.38年間,毎日3合の飲酒歴があり,ここ数年来,左季肋部痛を認めていたが,膵炎を含め治療歴はなかった.急激な左季肋部痛を主訴に来院し,腹部CTにて膵尾部から脾の囊胞性病変と囊胞内出血の所見を認め,囊胞内出血を伴う脾内に進展した膵仮性囊胞の診断で入院となった.保存的治療を行ったが,入院1週間後の腹部CTで囊胞の増大を認めたため手術適応と判断し,膵体尾部切除術,脾摘出術を施行した.脾囊胞内には85mlの血性囊胞液を認め,囊胞内容液のアミラーゼ値は41,342IU/lであった.囊胞内出血により急性腹症として発症する脾内進展膵仮性囊胞はきわめて稀であり,報告する.

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要旨

症例は57歳,男性.1991年,胃内視鏡にて幽門部に径約3cmの粘膜下腫瘍を指摘され,経過観察となったが,1993年以後,受診しなくなった.2003年,脳出血にて入院中に急性胆囊炎を併発したときに胃内視鏡を行い,粘膜下腫瘍を指摘された.2005年,胃内視鏡にて腫瘍の十二指腸への脱出を示唆する所見を認めたが,無症状のため経過観察となった.2006年,胃内視鏡,上部消化管造影,腹部造影CTにて腫瘍は径5.5cmと増大していたため,幽門側胃切除術を行った.腫瘍は5.5×4.5×2.0cmで組織学的に紡錘型の腫瘍細胞の束状の増生を認め,c-kit陽性,核分裂像0.5個/50HPFで,中リスクの胃GISTと診断された.術後4年経過した現在,再発を認めていない.

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要旨

患者は81歳,女性.下血を主訴に受診した.直腸指診で肛門縁から約3cmの位置に表面平滑で軟らかい腫瘤を触知した.大腸内視鏡検査では直腸内に粘膜下腫瘍様の病変を認め,その口側には急峻な立ち上がりを示す凹凸不整な隆起性病変を認めた.内腔は保たれていた.腹部CT検査では同心円状,層状の構造物を認めた.一部に壁肥厚を認め,腫瘍性病変を先進とする腸重積と診断した.翌日に注腸造影を行ったところ,重積は解除されており,S状結腸に半周性の2型病変を認めた.手術はS状結腸切除術を行った.切除標本では40×30mm大の2型腫瘍を認め,病理組織学的には高分化型腺癌,深達度MPと診断された.術後経過は良好であった.

1200字通信・25

医師―威師か癒師か 板野 聡
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 最近の医療崩壊の話題のなかで,患者さんや御家族からの暴言や暴力の問題が取りざたされています.そこで,当院では医療安全管理委員会による「暴言・暴力への対策」と題した院内講習会を,全職員を対象にして開くことになりました.

 この講習会である本が紹介され,早速手に入れて読んだのですが,大変興味深い記事がありましたので,ご紹介したいと思います.この本は,メジカルビュー社から出版されている「ストップ! 病医院の暴言・暴力対策ハンドブック」(和田耕治(編),2008年)ですが,「なぜ患者等による暴言・暴力が起きるのか」の項で,「世間におもねるマスコミ」や「ゆとりのない医療現場」といった問題を差し置いて,「医師の接遇技術不足」の問題が一番に取り挙げられていたのです.

ひとやすみ・71

他科の手術に学ぶ 中川 国利
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 専門医としては,その領域を極める必要がある.しかし,臨床においては必ずしも専門分野だけで治療が完結するわけではないため,ほかの領域にも関心を持つことが大切である.特に手術手技は,書物を読むだけでは会得できない.幸い近年はDVDなどによって容易に達人の手術を見ることが可能となった.しかしながら,編集されたDVDと異なり,臨場感溢れる実際の手術での体験は鮮明にいつまでも覚えているものである.

 30数年前に初期研修医として勤務した病院には麻酔科医が不在であったため,研修医が交代で全科の麻酔をかけていた.また,外科以外の診療科では医師が少なく,看護師を相手に手術を行うことも稀ではなかった.そこで,麻酔をかけながら助手として手術を手伝ったものである.そして皮膚縫合1つをとっても,各科によって手術手技が異なることを知った.脳外科では縫合間隔を密にして硬く縛り,整形外科では間を空けて緩く縛り,腹部外科ではその中間であった.

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 本書はいまだに世界的に信じられている「大腸癌の多くは腺腫から発生する」というMorsonの“腺腫-癌連続学説(adenoma-carcinoma sequence)”を徹底的に論破し,「大腸癌の大部分は正常粘膜から発生する」というde novo学説を体系的に対置した本である.

 本書は複数の執筆者による見解をオムニバス的に集めただけの安易な本ではない.一人の著者の極限の思索によって書き下ろされた渾身の書であり,骨太で一貫性のある論理構造を持つ科学書である.癌・腺腫・非腫瘍を画像的に客観的に診断する判別式を完備し,腫瘍発生の基本概念,診断基準,組織発生,臨床病理を整合性をもって見事に解説している.

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 幸せにもティアニー先生のケースカンファレンスへ幾度となく参加し,ケースプレゼンテーションもさせていただくことができた.そんな自分が回を重ねていくうちに,その真の魅力として感じはじめていることがある.「鑑別診断学の神様」として名高いティアニー先生のすごさを皆で語ると,“網羅的な鑑別疾患”や“稀な疾患の知識”となることがやはり多い.しかし,それは真の魅力ではないのであろうと….ティアニー先生のすごさは,鑑別疾患を網羅的に挙げるマシーンとしてのすごさ,重箱の隅まで行き届いたサイボーグのような知識量,そんなものでは全くないと回を重ねるごとに感じている自分がある.「いくつもあるプロブレムリストから,鑑別疾患を挙げるに値するプロブレムのみを抽出し,優先順位をつけて鑑別疾患を挙げていく時間的空間的アプローチ」そのすごさである.

 自分では言葉にできなかった,瞬時に判断するその眼力が,なんと本書では単なるセンスとして語られるのではなく,的確に文章化されている.読者には,症例によってどの陽性所見を組み合わせたかや,鑑別疾患に優先順位を与えうるclinical pearlの使い方にぜひ注目してほしい.そして,結局はティアニー先生の鑑別は2つか3つとなっている(が,2つ目以降にも,もはや重みはそれほどない)ことに気がつく.診断がつかないときは,多くの微妙な陽性所見に振り回されているのであるが,ティアニー先生にはそのブレがない.最近では,なんとかティアニー先生を振り回してやろうとケースプレゼンテーションで仕掛けている自分がいるが,敗北する.

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 今にして思えば,1973年はわが国の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)元年であった.この年,厚生労働省(旧厚生省)による「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」(以下,研究班)が発足し,わが国におけるIBDの調査研究が本格的にスタートした.当時,IBDは国内ではほとんど知られておらず,特にクローン病は未知の疾患であった.しかし,現在も存続しているこの研究班の継続的な活動のおかげで,今やIBDはふつうの疾患(common disease)になった.消化管の専門家がいる医療機関なら,日本中どこでもIBDの診断が可能で,ガイドラインに基づいた均一な治療が行われるようになったのは,ひとえにこの研究班の活動の賜物であると言ってよい.厚労省からは班員,班協力者を選ぶ際に,できるだけ全国からまんべんなく選んで,研究よりは勉強の機会を多くの医師に与えてほしいという要望があった.研究会は全国から集まった消化管専門の医師であふれていたが,そのほとんどはIBDに関しては素人同然であった.もっとも,教える側(?)の班員のレベルも今から比べると大したことはなかったのだが.しかし,厚労省のこの方針はIBDの診断・治療の均てん化の推進に大いに役立った.研究班の大きな課題の1つはIBDの診断基準と治療ガイドラインの作成であったが,この仕事は着々と改訂が進められ今やほぼ定着したと言ってよい.病態の解明も著しく進展したが,病因の解明は核心により接近したとはいえ,残念ながらいまだ解決に至っていない.手術適応,手術法についても研究班の努力でほぼ一定の見解が得られている.数ある難病研究班の中で,IBD研究班は最も成功を収めた班の1つと言ってよいと思う.

 班研究の成果は毎年報告書として提出され,全国の主たる医療機関に配布されるが,一般病院にその情報が伝達されるのはさらに2~3年のタイムラグがあるのがふつうである.多くの場合,医学的商業雑誌の特集がその役割を果たしていた.このタイムラグを短縮するために筆者がIBD班長期間(1991~1995)の成果をまとめて成書にしたのは1999年のことであり,それなりの役割を果たしたと思う.本書は日比班(2002~2007)の成果を同様の主旨でまとめたもので,“IBD診療・研究のための決定版”と銘打っただけあって,大変よくまとめられた有用な成書であり,前書から10年の進歩の跡がよくわかる.治療法として6MP,アザチオプリン,シクロスポリン,白血球除去療法,抗TNF-α抗体(レミケード®)などが日常診療の中に登場し定着したのは大きな進歩である.また,手術療法が特に潰瘍性大腸炎において,病気との決別の最後の手段として確固たる地位を占めるようになったことは大きな意味がある.生体の免疫異常が病因・病態に関与していることは明白であり,最後の詰めができていないことは残念であるが,今後の班研究の成果を待つことにしよう.日比班を継ぐ渡辺班の粘膜上皮再生をターゲットにした研究に大いに期待したい.

勤務医コラム・23

受付のキィ子 中島 公洋
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 風邪はのどから来る.トラブルは外来受付から来る.今日も朝から,受付のキィ子は大忙しだ.外来患者さんの受付.再来なら楽だが,新患ならカルテを作り,退院後初診なら入院カルテを添えて.お金の精算,これが一筋縄でいかない.とくに交通事故や労災がらみの場合はいろいろあるらしい.救急隊や警察への応対.変なことを言うてくる役所の人.郵便物がドサッと来る.電話一本で事を済まそうとする“患者様”.さっきまで待合室に居たのに呼んだときには居ない人.捜して回る.院内放送は最後の手段だ.病院玄関前の迷惑駐車.順番を待てない人をなだめる.保険証を持ってこなかった人.ささいな事で診断書を欲しがる人.

 彼女は夕方になると目の下にクマをつくって,外来の2番の部屋―私の診察室―へやって来る.「ネェ先生,ちょっと聞いてェ~,今日スゴイ人がいたんョ~」.はじめは怒ってキィキィ言っているが,私が「そりゃスゴイ.ギネスもんやね」と相槌を打っているとだんだん落ち着いてきて,最後は外来ナースともども大笑いして収束する.

学会告知板

第5回Needlescopic Surgery Meeting
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会 期:平成23年4月16日(土)

会 場:横浜シンポジア

    横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル9階

第15回臨床解剖研究会
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会 期:2011年9月2日(金),3日(土)

会 場:東京大学弥生講堂(東京大学弥生キャンパス内)

    〒113-8657東京都文京区弥生1-1-1

昨日の患者

ズルッコ神社詣で 中川 国利
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 みちのくは古来より山岳信仰が盛んである.特に当地では出羽三山詣でが盛んで,信仰心が厚い信徒は講を作り毎年のように詣でる.

 60歳代前半のTさんが直腸癌の再発で入院した.世話好きで生来陽気なTさんには見舞い客が絶えなかった.そして話は恒例の出羽三山詣でになった.すると,それまでベッドに伏せていたTさんが頭を上げ,「湯殿山に行きたいな」と呟いた.トイレに移動することさえ他人の助けを借り,とても外出できる状態ではなかった.しかも湯殿山は聖地であり,御神体まで濡れた岩肌をはだしで歩く必要があった.しかし,参拝したいというTさんの意志を尊重し,決行することになった.

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あとがき 島津 元秀
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 今月号の特集テーマは「悪性腫瘍の術中病理診断」である.術中迅速病理診断の目的は,①術前に組織診断の得られていない症例での確定診断,②切除断端の検索による切除範囲の決定,③術中に初めて発見された転移疑い病巣の検索,④サンプリングしたリンパ節の検索による郭清範囲・術式の決定あるいは切除適応そのものの決定,等々である.それにより手術方針の決定に極めて重要な情報を得ることができることは言うまでもない.「病理医の立場から」という論文では,術中迅速診断における様々な制約と病理医の苦労が述べられている.と同時に,検査を依頼する外科医に対する注文が発信されている.すなわち,診断結果がどうであっても手術に全く影響を与えないような迅速診断の依頼はしてはならないこと,術者と病理医の意思疎通が十分に行われなければならないこと,診断結果は術者本人が病理医から直接報告を受けること,などである.依頼時には,臨床経過,治療歴はもちろん,画像所見,腫瘍マーカー,術中の肉眼所見などの情報を病理医に的確に伝えることが大切であり,臨床経過の複雑な症例に関しては術前に打ち合わせを行うことが勧められている.これらの注意は,かつて同じ職場で働いた者として,直接,向井万起男先生に教えられたことである.厳しい指導もいただいたが,その代わり,真剣にお願いすれば夜遅くまで病理検査技師と一緒に残って下さり,断端陽性なら妥協なく追加切除を要求され,陰性になると一緒に喜んだことを思い出す.

 「迅速診断では,外科医と病理医の間のコミュニケーションが大切である」という結論で結ばれているが,医療チームにおいて構成員相互のコミュニケーションが重要であることは普遍的なことである.医師,コメディカル個々の能力はもちろんのこと,その間のコミュニケーションの良さがチーム全体の実力を高め,それが治療成績となって表れる.今は,患者もチームの一員と見なされるようになり,コミュニケーションの輪はさらに広がっている.コミュニケーション能力の評価を含めた医学生の選考,ならびにコミュニケーション能力の高い医師の養成が求められる.

基本情報

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臨床外科
66巻4号 (2011年4月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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