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今月号の特集テーマは「悪性腫瘍の術中病理診断」である.術中迅速病理診断の目的は,①術前に組織診断の得られていない症例での確定診断,②切除断端の検索による切除範囲の決定,③術中に初めて発見された転移疑い病巣の検索,④サンプリングしたリンパ節の検索による郭清範囲・術式の決定あるいは切除適応そのものの決定,等々である.それにより手術方針の決定に極めて重要な情報を得ることができることは言うまでもない.「病理医の立場から」という論文では,術中迅速診断における様々な制約と病理医の苦労が述べられている.と同時に,検査を依頼する外科医に対する注文が発信されている.すなわち,診断結果がどうであっても手術に全く影響を与えないような迅速診断の依頼はしてはならないこと,術者と病理医の意思疎通が十分に行われなければならないこと,診断結果は術者本人が病理医から直接報告を受けること,などである.依頼時には,臨床経過,治療歴はもちろん,画像所見,腫瘍マーカー,術中の肉眼所見などの情報を病理医に的確に伝えることが大切であり,臨床経過の複雑な症例に関しては術前に打ち合わせを行うことが勧められている.これらの注意は,かつて同じ職場で働いた者として,直接,向井万起男先生に教えられたことである.厳しい指導もいただいたが,その代わり,真剣にお願いすれば夜遅くまで病理検査技師と一緒に残って下さり,断端陽性なら妥協なく追加切除を要求され,陰性になると一緒に喜んだことを思い出す.
「迅速診断では,外科医と病理医の間のコミュニケーションが大切である」という結論で結ばれているが,医療チームにおいて構成員相互のコミュニケーションが重要であることは普遍的なことである.医師,コメディカル個々の能力はもちろんのこと,その間のコミュニケーションの良さがチーム全体の実力を高め,それが治療成績となって表れる.今は,患者もチームの一員と見なされるようになり,コミュニケーションの輪はさらに広がっている.コミュニケーション能力の評価を含めた医学生の選考,ならびにコミュニケーション能力の高い医師の養成が求められる.
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