看護教育 59巻7号 (2018年7月)

特集 主体性を育む「問いづくり」

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 現在教育界では,主体的に学ぶ学生を育てるため,さまざまな形でアクティブラーニングが取り入れられています。もともと演習やグループワークの活用が盛んな看護教育ですから,この傾向自体は歓迎すべきものでしょう。ただ,たいていの学生は,「主体的な学び方」が身についていないので,まず教員が,学生が主体性をもつためのお手伝いをする必要があります。

 「問いづくり」は,小中高校の“探求学習”で多く取り入れられている教育技法で,文字通り,学生自らが問いをつくる学習法です。自分が興味をもっていること,知りたいことは何かを考え,それを疑問の形で表したうえで,自分で調べ,まとめ,説明するというところまでもっていきます。教員から与えられた問いではなく,自分でつくり出した問いなので,より主体的に学ぶ力が養われます。

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はじめに─「問い」をつくるということ

 「問い」は学びの出発点になる。「何か変だな」「気になる」と感じたことを言語化し,問いの形にすることで,「調べてみよう」「答えを出そう」という行動につながる。ありきたりな問いに一般的な借り物の答えを当てはめて終わるだけでは進歩はない。自ら立てた問いに自らの答えを出すために,さまざまな情報を検索し,取捨選択し,考えをまとめる。その過程でまた新たな問いを得て,さらに答えを探究すべくさまざまな情報を検索し……というように学びのサイクルは回っていく。サイクルを回せるようになれば,その過程で自己の成長や変化を自覚し,さらに何が必要なのか問い続けるようになる。そして生涯,学びは続いていく。生涯学び続けるためにも「問い」は重要である。「問いづくり」のトレーニングは生涯主体的に学び続けるトレーニングであるともいえる。

 にもかかわらず,学校教育では「問いづくり」ではなく「問いに答える」学習ばかりが行われている。ほとんどの小,中,高校の授業で問いをつくるのは教師である。生徒にとって,「問い」はつくるものではなく,与えられるものである。生徒は,教師から与えられた問いに答える練習に多くの時間を費やす。しかも多くの場合,問いの答えも教師の側に用意されており,生徒はその答えを探ることを強いられる。教師の用意した答えと一致すれば正解,違っていれば不正解となり,それにもとづいて成績がつけられる。良い成績を得るために,生徒は問われたことに答える練習に精を出す。

 答える練習だけを積んだ生徒は,大学では問いをつくることを求められるので困惑する。多くの大学では1年生からアカデミックスキルとして,レポートの書き方が教えられる。レポートは問いを立てて,文献を調べ,答えを出すまでの考えの道筋を書くものである。問いは与えられるものではなく,自らつくり出すものとなる。「問いづくり」を学んだことのない学生は,まずどうやって探究に値する問いをつくればよいのか,悩むことになる。

 では,生徒・学生の問いを立てる能力を教育現場で伸ばすにはどうすればよいのだろうか。本稿では,生徒・学生の問いを立てる能力を伸ばす方法の1つとしてQuestion Formulation Technique(問いづくりの技法,以下QFT)を提案し,内容を詳しく紹介する。

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 4つの看護専門学校の先生方にお集まりいただき,佐藤広子先生のQFT(Question Formulation Technique)のミニワークショップを体験していただきました(進行については529ページ参照)。今回は,参加者が全員看護教員ということで,佐藤先生はナイチンゲールの言葉「病人の苦しみのほとんど,もしかしらたら全部は,病気のせいではなく病気とは別のことが原因なのだ」を問いの焦点として提示しました。

 この言葉を用いて,「問いづくり」ワークショップを初めて経験した4人の先生方に,QFTをとおして「主体性を育むこと」をテーマにお話し合いいただきます。

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 近年,主体的な学習,探究的な学習が求められている。この探究的な学習は,学力が高大接続するなかで,大学においては文部科学省の定義でいう,汎用的能力の育成を図り,発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習などが含まれるアクティブラーニングと呼ばれ1),学習者自身の疑問や問いを探究的な真正の問いにするべく,主体的・能動的に学習に取り組む学習活動として定着しつつある。

 ではなぜ,主体的,探究的な学びが必要なのか? その答えは,学習者が将来さまざまな場面で直面する問題には,答えが用意されていないことが多いからである。もしくは,その問題すら何であるかを理解できないことのほうが多いのかもしれない。そういうときにこそ,それまで身につけてきた知識や技術がどれほどのものか試される。そして,その知識や技術を最大限活用するためには,主体的,探求的な姿勢と思考力・判断力・表現力を身につけていることが重要なのである。

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刺激を求めて「ハテナソン」に参加

 教員であれば誰しもが「いい授業」を実践したいと願う。しかしながら,いい授業とは何か,どうすれば学生も教員も満足のいく授業となるのかには常に悩まされる。

 立場上,新人教員の授業案を指導することが多い。検討する際アイデアを出しながら一緒に悩みつつ,「教員にとって最初の授業は,何ものにも代えがたい手応えをもたらす。その手応えをもてれば教員としての喜びの発露となり,支えともなる。それは,準備に費やした時間や思いに相関する」と思い接している。「教員にとって授業とは真剣勝負であり,教員は授業で鍛えられる」と教えられたが,指導しながら,キャリアを重ねてもそうだと痛感している。

焦点 第107回 看護師国家試験を振り返って

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 第107回看護師国家試験は,2018(平成30)年2月19日(日)に実施,3月26日(月)に合格発表1)があった。保健師助産師看護師国家試験出題基準平成30年版2)(以下,新出題基準)での試験であった。前回の第106回は難易度が高く,長文,状況設定問題の単問の導入など,本校の学生のなかには,文章を読むのに時間がかかり,見直す時間がない状況の者もいた。そこで,第107回受験に向けて,新出題基準の説明をして,長文への心構えをして臨ませた。

 今回の受験を終えた本校の学生たちの感想は,「必修問題が難しかった」が多かった。近隣の学校では8割がとれていない学生がいて心配していると聞いた。一般問題,状況設定問題については,本校学生は昨年に比較して「簡単だった」と感じていた。しかし,出題基準の変更により新たに追加になった内容へのとまどいを感じていた。

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はじめに

 1992年の医療法改正によって医療を提供する場に「居宅」が加わり,1997年から看護基礎教育において「在宅看護」が加わった。看護教育には「臨地実習」が大きなウエイトを占めており,「在宅看護学(論)」でも,2単位以上の「臨地実習」が求められている。実習施設として,訪問看護ステーションや,地域包括支援センター,介護施設,外来など,多様な場が存在しており,地域で生活する療養者への看護がどのように提供されているか学んでいる。そのなかでも,訪問看護師に同行する実習は,もっとも効果的な学習方法1)の1つとされている。しかし実習指導者には,看護の初学者に対する実習受け入れには肯定的な思いと否定的な思い2-7)があり,訪問看護ステーション管理者は,「実数施設側と教員との連携の強化」の必要性や,「在宅看護の実践能力を高めるための時間数を増やす」必要性を述べるもの8)もある。

 筆者ら(表1)は日本在宅看護教育研究会を立ち上げ,訪問看護師の現任教育のプログラム開発と質の向上に取り組んできた。その過程で,看護学生と在宅看護学実習を受け入れている訪問看護師の両者にとって学びとなる場としての臨地実習について考えてきた。平成27年には,本田彰子教授(東京医科歯科大学)が中心となって,教育機関と実践機関とのコラボレーションを促進する取り組みを開始した。本誌では前・中・後編として,その成果を発表する。

 前編は,東京医科歯科大学で実施したワークショップによって,在宅看護学実習に対する教員の戸惑いに対する1つの答えとして,「教育機関と実習施設とのコラボレーション」という発想が生まれた。我々の思考がどのように発展していったのかをまとめることで,発想の行きつく先を共有してもらいたい。

 一方,学生たちは,訪問看護師とマンツーマンの環境下で,看護師としての思いや姿勢を目の当たりにして,影響を受ける者も少なくない。初学者の実習体験は,卒後の就職先や将来の職場選びに影響することが考えられ,在宅看護学実習が,学生にとって実り豊かなものになってもらいたいと常日頃考えている筆者らは,在宅看護学実習の実習指導者との連携を強めていくにはどうすればよいか,その示唆を得るためにワークショップを行った。

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はじめに

 前編で鮫島輝美先生が概説されたように,京都光華女子大学の初年次教育で協同学習を取り入れることになり,筆者に声がかかった。迷うことなく引き受けることにした。なぜなら,長年協同学習による授業実践を重ねてきたが,ここ数年,福岡県内の大学や看護専門学校などで,非常勤講師として初年次教育に携わる機会が増え,一定の授業モデルが確立してきたからである。福岡から遠く離れた京都でも,ぜひこの授業モデルを実践してみたいと思った。その授業モデルとは「LTD基盤型授業モデル」1)である。LTDとは,Learning Through Discussionの略であり,「LTD話し合い学習法」2)という協同学習の一技法のことである。

 本報告では,LTD基盤型授業「基礎ゼミ」15講のうち,著者が担当した10講について,授業の展開方法を紹介する。

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 本稿では,大学教育再生加速プログラム(Acceleration Program for University Education Rebuilding:以下,AP)として京都光華女子大学(以下,本学)で推進している,初年次必修科目のアクティブ化と授業外学習支援を連携させて主体的な学び技法や態度を身につけることを狙いとした取り組みを紹介する。なかでも,これらの学びが看護学科の専門課程を学ぶ基盤となり,4年間の学修成果を高めた学生の事例を取り上げる。

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 「教育」には,常になんらかの課題があります。ただ,大抵の場合は,その課題に取り組むのは教職員であり,学生がかかわることはほとんどありません。看護教育においても然りです。しかし,本来であれば,当事者である学生の考えを反映せずして,教育の課題が解決に向かうはずはないのです。

 この企画は,看護教育に関する“大きなテーマ”を,学生と教員が同等の立場で意見を表明し合うことで,問題点をよりクリアにし,課題解決に向けてどうかかわっていけばよいかの糸口を探るため,3回にわたって組まれたものです。[編集室]

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・7

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 腹部の壁を構成する腹筋は,腹筋運動が胸郭と骨盤を近づけることからわかるように,体幹の筋です。腹筋は体表にあるので健康的な身体の象徴でもあります。腹部の深部にも別の筋があり,大腰筋と言います。この筋は腹部にありますが腹筋ではありません。大腰筋は腰椎の両側から始まって大腿骨の上部の内側へ向かいます。つまり,股関節から大腿を曲げさせる,下肢の筋なのです。また骨盤の内壁には腸骨筋があり,両筋は合流して腸腰筋と名前を変えて大腿骨に付きます。これらの筋は,脚を持ち上げるほど強大な筋ですが,外からはほぼ見えません。そのため美術解剖ではあまり取り上げられませんが,人間の直立二足歩行を支える“腹の中の力持ち”として,外すことはできません。

 粘土造形では2つの筋をつくります。まず腸骨筋を骨盤の内壁から大腿骨の上部内側後方へ付けます。次に長い大腰筋を腰椎の側面から付け,下側は骨盤から出るところで先の腸骨筋と融合させます。この筋が骨盤下部で“く“の字に曲げられるのを確認してください。最後に,細いひも状の粘土を骨盤の上前腸骨棘から恥骨結節まで這わせ,これを鼡径靱帯とします。筋はこの靱帯の下をとおって骨盤から出るのです。

連載 看護に恋した哲学者と読む ベナーがわかる! 腑に落ちる!・3

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前回の振り返り

 前回は,ベナーらの「現象学的人間観」の5つの視点のうち,第1の視点である「身体化した知性」について,半ばまで解説しました。ベナーらは,心と身体を分断し,心だけが知性をもっており,身体のほうは心によって指令を受けて動く単なる機械だと考える「デカルト的人間観」を批判して,身体もまた「知の担い手」であり,「身体化した知性」を具えていると主張しているのでした。「身体化した知性」は,うまく働いているときには,取り立てて意識されないので,これまで注目されず,研究対象にもなってきませんでした。しかし,私たちの日常生活の多くは「身体化した知性」のおかげで円滑に営まれており,また看護におけるスキルの多くも「身体化した知性」によって支えられているのでした。それゆえ,人が疾患にかかり「身体化した知性」が損なわれたときに経験される「病い」の意味を考えたり,看護におけるスキルがどのようにして習得され身体化するのかを考えたりするうえでも,「身体化した知性」という視点は重要なのです。

 ベナーらは,この「身体化した知性」の能力について,『現象学的人間論と看護』第3章で,メルロ=ポンティに関するドレイファスの講義にもとづいて,5つの次元で説明しています(PC 70ff./79ff.)*1。ここでは,なかでも重要と思われる「生得的複合体」と「熟練技能を具えた習慣的身体」の2つについて,他の章も参照しながら解説していきます。

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はじめに

 前回は,作成されたティーチング・ポートフォリオ・チャート(以下,TPチャート)についてさらに見直す方法について学びました。

 今回および次回は,TPチャートを用いて教育理念を深くさぐる事例について,実際の対話を中心に紹介します。TPチャートの作成動機や意義などもあわせてお伺いしつつ,対話をとおして,より深い理念を見出していきます。また,相手の理念を深めるために,自分ならどのような問いかけをするか,といった視点でも,みてみましょう。

今回の目標

・自分あるいは所属機関におけるTPチャート作成の意義を考える

・TPチャートを見直し,あらためて自分のさらに深い理念を見出す

連載 授業を良くする! 教育関連理論・9

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グループ学習の導入としてのアイスブレイク

 前回は,グループ学習の効果を高めるために協同学習の理論や,押さえるべき基本要素,グルーピングの方法などについて紹介しました。今回と次回は,実際のグループ学習をいかに進めていくかという点に焦点を当て,さまざまな技法を紹介します。

 グループ学習の進め方を考えるうえでも,授業設計の基本的な考え方である導入・展開・まとめの構成は参考になります。グループ学習における導入は,グループ学習の目的や意義の理解を促したり,グルーピングを行ったり,グループ内の緊張をほぐしてグループ学習がしやすい雰囲気をつくる段階です。展開は,グループ学習の中心部分であり,さまざまな技法を活用して学生の学び合いを促す段階です。まとめは,グループ学習の成果をクラス全体に向けて共有する時間を設けたり,グループ学習を通じて学んだことを振り返り,次の学習につなげる段階です。

連載 NとEとLGBTQ・4

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 今年5月にWHOのICD第11版で,Gender Identity Disorder(性同一性障害)の名称は消え,Gender Incongruence(性別不合,以下GI)へと変更,脱精神疾患化されました。これにともない,今後は国内での性自認の多様化への対応が気になるところです。そこで今回は,性自認が非典型である当事者,特に「T」(transgender)の人たちが医療現場で直面する問題についてお話します。

 今年4月よりGIの手術療法が保険適用となりました。しかし,適用の条件としてホルモン療法をしていないことがあげられるため,混合診療をしている当事者たちは手術療法に対して保険適応外となってしまいます。

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目次

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 看護学生は,臨地実習をとおして,目を見張るほどの成長を遂げる。それは学生が患者と出会うことで,病むことの苦難や生きることの喜びといった人生の意味を反芻したり,その人にかかわる看護師の看護観にふれたりすることで,自らの在り方を問い,看護実践をとらえ直す機会を得るからである。このような学生像は,本書の編者である安酸が重視する看護実践の経験を省察しながらケアリングを学ぶ姿勢として現れる。それは「経験型実習教育」理論が体現化される一端ともいえるだろう。しかし学生が臨地に赴けば,いずれもがこのように学べるのかといえばそうではない。看護を教える人の「教師力」が,その鍵を握る。

 本書は,4章から構成されている。第1章は「経験型教育の学びを深める」ための編者の教育理論にもとづいた看護学のための実習教育が述べられており,第2章では理論にもとづく「経験型実習教育の導入ワーク」を進めるための実習教育の方法,さらに第3章で「読んで学ぶ 解説事例10」にもとづく具体的な指導方法が提示され,第4章は事例を発展させていく「シナリオをつくろう 研修事例8」である。本書で提言されているのは,「いかに教えるのか」ではない。教師は,学生を「よく見て,よく聴く」ことで学生の経験に接近し,学生が自らの経験を探求し意味を見出すという「反省的経験」へと導く,実習場面の教材化という実践である。そのために教師は,学生が患者とのかかわりにおける経験を自由に表出できるような,「教師の学習的雰囲気」を保証することが重要になる。

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 本書は医学書院のJJNブックスとして1991年に初版が上梓されて以来,2001年に第2版,2009年に第3版,そして2017年12月にはJJNから離れた書籍として第4版が出版された。実に,四半世紀を超えて愛読されている書籍であり,本書に導かれて脳神経を学んだ医療者は多く,その意味から医療の世界への貢献は計り知れない。

 私も本書に導かれた1人である。1987年ごろから脳卒中後の嚥下障害を課題として研究に取り組み始め,正常の機能から嚥下障害のメカニズムを理解しようとした折に,偶然に出会ったのが本書であった。それは衝撃的であった。とにかくわかりやすい。脳と神経の複雑なしくみの理解は一般的に難しいが,本書では目的にそって情報が精選されたイラストを中心として,視覚的に構造と機能が説明されて,障害のメカニズムが表現されている。第3版では「摂食・嚥下障害」「認知症」が追加され,この第4版ではこれまでのコンセプトを引き継ぎながら,第2章の障害のメカニズムで「てんかん」「高次脳機能障害」が追加された。

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新刊紹介

基本情報

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看護教育
59巻7号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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