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はじめに─「問い」をつくるということ
「問い」は学びの出発点になる。「何か変だな」「気になる」と感じたことを言語化し,問いの形にすることで,「調べてみよう」「答えを出そう」という行動につながる。ありきたりな問いに一般的な借り物の答えを当てはめて終わるだけでは進歩はない。自ら立てた問いに自らの答えを出すために,さまざまな情報を検索し,取捨選択し,考えをまとめる。その過程でまた新たな問いを得て,さらに答えを探究すべくさまざまな情報を検索し……というように学びのサイクルは回っていく。サイクルを回せるようになれば,その過程で自己の成長や変化を自覚し,さらに何が必要なのか問い続けるようになる。そして生涯,学びは続いていく。生涯学び続けるためにも「問い」は重要である。「問いづくり」のトレーニングは生涯主体的に学び続けるトレーニングであるともいえる。
にもかかわらず,学校教育では「問いづくり」ではなく「問いに答える」学習ばかりが行われている。ほとんどの小,中,高校の授業で問いをつくるのは教師である。生徒にとって,「問い」はつくるものではなく,与えられるものである。生徒は,教師から与えられた問いに答える練習に多くの時間を費やす。しかも多くの場合,問いの答えも教師の側に用意されており,生徒はその答えを探ることを強いられる。教師の用意した答えと一致すれば正解,違っていれば不正解となり,それにもとづいて成績がつけられる。良い成績を得るために,生徒は問われたことに答える練習に精を出す。
答える練習だけを積んだ生徒は,大学では問いをつくることを求められるので困惑する。多くの大学では1年生からアカデミックスキルとして,レポートの書き方が教えられる。レポートは問いを立てて,文献を調べ,答えを出すまでの考えの道筋を書くものである。問いは与えられるものではなく,自らつくり出すものとなる。「問いづくり」を学んだことのない学生は,まずどうやって探究に値する問いをつくればよいのか,悩むことになる。
では,生徒・学生の問いを立てる能力を教育現場で伸ばすにはどうすればよいのだろうか。本稿では,生徒・学生の問いを立てる能力を伸ばす方法の1つとしてQuestion Formulation Technique(問いづくりの技法,以下QFT)を提案し,内容を詳しく紹介する。
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