medicina 55巻10号 (2018年9月)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

岩田 充永
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 私は,内科全般の研修をした後に救急で働いています.救急で働いていると,ERの現場では内科診断学が重要であること,集中治療室でも「診断に基づいたアプローチ」と「循環・呼吸の維持,代謝・栄養のサポート,感染管理など全身サポート」の両輪が必要であると感じてきました.

 米国では,呼吸器内科を中心にクリティカル・ケアが発展したのに対して,日本の集中治療は,麻酔科学をベースにして輝かしい発展を遂げてきました.これは,侵襲の高い大手術後の管理を行うという点で素晴らしいことと考えます.もちろん,現在もこのような患者さんも多数いるのですが,重症内科疾患で集中治療が必要な患者さんの増加が著しく,内科の重症疾患の管理(診断と治療を系統的なアプローチで並行すること)は,総合内科医が担うべき重要な分野であると考えます.このようなことを学びたいと考えている若手内科医が多い一方で,日本において,内科学をベースに集中治療のトレーニングを受ける機会は,きわめて少ないのが現状です.

特集の理解を深めるための25題

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重症例の患者さんに対しては循環・呼吸の維持は当然として,代謝・栄養のサポート,全身管理,感染管理が必要となります.一方で,もともと何らかの重篤な病態があってICUに入室しているため,病態に対する診断も欠かせません.こういった点を踏まえると,内科医は重症の患者さんの治療にもっと参画していかなければならないと感じます.(岩田)

内科クリティカル・ケア実践編─このパターンを押さえれば8割は対応可能

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Point

◎てんかん重積状態は緊急事態であり,救急処置,病歴聴取,一般身体診察,神経診察,検査,治療のすべてを並行して,ポイントを絞って効率的に行う.

◎てんかん重積状態の持続は重篤な臓器障害に繋がるため,発作のコントロールが不十分と判断したら全身麻酔を躊躇しない.

◎てんかん発作後のもうろう状態の不自然な遷延や原因不明の意識障害や臓器機能障害では,非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)を鑑別に挙げる.

脳炎の対応 安藤 孝志 , 勝野 雅央
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Point

◎急性もしくは亜急性に中枢神経障害(大脳,大脳辺縁系,脳幹,小脳)をきたした症例では,脳炎を鑑別診断に含める.

◎頻度が高いとされる5つの脳炎の典型像を理解する.

◎主に自己免疫性脳炎は検査で異常が検出されにくい場合があり,診断においては,病歴・診察所見も含めた総合的な判断が必要である.

◎脳炎が疑われた症例では,頻度・重症度ともに高い単純ヘルペス脳炎を念頭に,アシクロビルをまず開始する.

◎自己免疫性脳炎を疑った時点,もしくは感染性脳炎の可能性が低くなった時点で免疫抑制療法を検討する.

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Point

◎病歴,身体所見,画像所見,微生物学的検査で,多くの急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因は判明する.

◎ARDSの原因疾患がはっきりしない場合,または通常のARDSより緩徐に発症する場合は,特異的な治療のあるARDS mimicsの可能性を考慮する.

◎気管支肺胞洗浄(BAL)は比較的安全に施行可能なため,ARDS mimicsを鑑別する場合,またはニューモシスチス肺炎などの免疫不全者の呼吸器感染症を疑う場合などに積極的に施行し,外観の評価,細胞分画分析,微生物学的検査,細胞診を行う.

◎BALのみで確定診断に至ることは少ないが,臨床経過,胸部画像,微生物学的検査を踏まえて解釈する場合に,診断と治療方針の決定において有用な検査となる.

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Point

◎喘鳴・呼吸困難を訴える患者では,喘息発作,COPD増悪,心不全,肺塞栓,上気道狭窄などを考える.

◎喘息発作,COPD増悪の呼吸器管理では,「吸気時間を短くして十分な呼気時間を作る」ことがポイントである.

◎非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)管理中に鎮静を要する場合には,デクスメデトミジンの使用を考慮する.

心原性ショックの対応 若林 禎正
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Point

◎心原性ショックの典型的な臨床像を知ることが重要である.

◎診断アプローチと同時にバイタルサインの安定化と緊急手術の検討を行う.

◎PreSepカテーテル®,FloTracセンサー®,Swan-Ganzカテーテル®などの循環動態モニタリングを使用して治療し,低灌流を改善する.

◎ショックが薬物療法で改善せず,低灌流が進行する場合には補助循環を導入する.

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Point

◎重篤病態に合併した急性冠症候群(ACS)は,類似疾患が多く診断が難しい.救命には血行再建が必要な冠動脈疾患がないか,常に鑑別に挙げる.

◎重篤病態でACSの治療を行うに当たっては,抗血栓薬に伴う出血リスク,ステント血栓症リスクを常に念頭に置く必要がある.

急性腎障害(AKI)の対応 田川 美穂
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Point

◎急性腎障害(AKI)をみたら,病歴・身体所見,尿定性・尿沈渣(目視),腎エコーをチェックする.

◎AKIでは過剰輸液は避け,予防や尿量確保目的の利尿薬投与は行わない.

◎AKIの栄養管理では,エネルギー摂取については20〜30kcal/kg/日が推奨され,透析を避けるための蛋白制限は推奨されない.

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Point

◎副腎不全,甲状腺クリーゼは内分泌系の緊急疾患であり,早期診断・早期治療が重要である.

◎これらは見逃しやすい疾患であるため,常に鑑別に挙げておくことが必要.

◎CIRCI(critical illness-related corticosteroid insufficiency)は,重症患者に生じるステロイド活性低下状態を示す,比較的新しい概念である.

◎甲状腺クリーゼの診断には,交感神経亢進症状と多臓器不全がポイントとなる.

高血糖緊急症のマネジメント 上田 剛士
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Point

◎補液は生理食塩水もしくはリンゲル液で循環不全を改善するように十分量投与するが,補液過多に注意する.

◎血糖は50〜70mg/dL/時で低下することが多いが,有効血清浸透圧の変化は最小限にとどめる.

◎血糖が200〜300mg/dLとなれば糖を補充しインスリン量を減ずる.

◎Kの補正は重要だが,アシドーシスと低P血症の補正の必要性には議論がある.

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Point

◎複雑な症例では,診断フローチャート(図1)で診断にたどり着かないことが多いため,病態生理を考慮した病歴や身体所見が重要となる.

◎重篤な(=脳浮腫を示す)症状がある場合は,Na 5 mmol/Lの上昇を目標に3%食塩水で急速に補正を行う.

◎48時間以上低Na血症がある(またはあると考えられる)場合は,浸透圧性脱髄症候群(ODS)予防のため補正速度を緩徐に行う.

重篤なカリウム異常の対応 丹羽 俊輔
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Point

◎K異常は一般的によく目にする電解質異常であるが,重篤な場合は致死的となるために,緊急の対応が必要となる場面がある.

◎K排泄は主に腎臓で行われており,腎排泄が亢進することによる低K血症,腎排泄が低下することによる高K血症の鑑別が多岐にわたる.

◎低K血症に対して,Mg欠乏に気づかずにK製剤を補充していると治療失敗に陥ることがあるため,低K血症をみたらMgの評価を忘れずに行う.

◎高K血症に対してのglucose-insulin(GI)療法は低血糖のリスクがあるため,十分な糖を補充し,適宜血糖値を評価する.

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Point

◎消化管出血の鑑別疾患を「型」として列挙できる.

◎消化管出血マネジメントを「型」としてアウトプットできる.

◎消化管出血以外の出血部位の「型」を列挙できる.

◎ショックの4分類の「型」を速やかに列挙・アセスメントできる.

◎輸血の「型」を頭に入れたうえで消化管出血に対する輸血を決定できる.

◎緊急止血術の選択肢の「型」をアウトプットできる.

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Point

◎ICUにおける血小板減少では,敗血症や一過性侵襲による播種性血管内凝固症候群(DIC)として典型的かどうかに注目する.

◎典型的ではない場合は,治療が必要な病態を意識してチェックする.

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Point

◎低心拍出または腸管を栄養する動脈の狭小化により,「すでに腸管への酸素供給量が必要最低限であった」患者が重症化したときに,非閉塞性の腸管虚血が起こる.

◎リスクは透析患者,心臓血管外科術後,不整脈,慢性心不全,血管作動薬使用,ジギタリス内服などである.

◎リスクがある患者で,原因の説明できない乳酸値上昇や代謝性アシドーシスが生じた場合は腸管虚血を疑う.

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Point

◎初期蘇生と同時に血液培養を2セット採取する.

◎広域抗菌薬の投与は容認されるが,決して感染巣の検索を怠らない.

◎外科的介入のタイミングを逸しない.

◎de-escalationを常に考慮する.

◎最初の1時間から目標を達成すべく,全身管理と感染症治療を行う.

深在性真菌感染の考え方 雨宮 哲郎
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Point

◎ICUにおける深在性真菌症は,カンジダ血流感染症と侵襲性肺アスペルギルス症が多い.

◎ガンジダ血流感染症,侵襲性肺アスペルギルス症は特有のリスク因子をもつ患者に生じる.

◎深在性真菌感染症の診断は血清学的検査に依存せず,可能な限り微生物学的に証明する.

壊死性筋膜炎の早期診断 伊藤 亮太
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Point

◎蜂窩織炎との鑑別は困難だが,「激痛」「急速進行性」「皮膚所見を越える部位の疼痛」などは早期診断の手掛かりとなる.

◎壊死性筋膜炎を疑ったら,早期に外科にコンサルトし,皮膚切開による確定診断を行うことが重要である.

◎治療の原則は,早期のデブリードマンと抗菌薬治療である.

内科医が診る急性薬物中毒 都築 誠一郎
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Point

◎原因不明の意識障害,呼吸不全,ショック,肝・腎機能障害,アシドーシスを呈している場合には薬物中毒も考慮する.

◎薬物中毒を疑った場合,トキシドロームを同定し原因物質の推測をする.

◎薬物中毒に対する基本的な対応や特異的治療薬を知っておく.

内科クリティカル・ケア 知っておくべき知識・技術をまとめる─重症にはこれを武器に立ち向かう

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Point

◎誰が見ても直ちに概要を理解できるように記載する→short summary+problem list.

◎重要なプロブレムの見落としを防ぐために記載する→by system.

適切な鎮痛・鎮静 窪田 佳史 , 讃井 將満
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Point

◎痛みと不穏の評価を適切なスケールを用いて行う.

◎まず十分な鎮痛を行い,鎮静の必要があれば浅い鎮静,または1日1回の鎮静中断を行う.

◎鎮痛・鎮静を行う際には,十分なモニタリングと気道,呼吸,循環の悪化に対応できる準備をしておく.

モニタリング 辻坂 勇太 , 北井 豪
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Point

◎輸液反応性の指標としての中心静脈圧(CVP)は信頼性が低く,動的指標を用いるべきである.

◎至適な左室前負荷を得るためには,背景疾患を考慮した左室拡張終末期圧(LVEDP)の目標設定が必要である.

◎Swan-Ganzカテーテル®の適応は慎重に検討する必要があるが,依然として血行動態の把握において有用である.

◎近年ではより非侵襲的なモニタリングツールが開発されており,その使用頻度が高まっている.

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Point

◎重症患者の輸液管理は,体液動態の4つのフェーズを踏まえ慎重に行う.

◎輸液反応性を指標とした適切な輸液量を判断する.

◎クリティカル・ケアで用いられる輸液は,リンゲル液(バランス電解質液)が主流となってきている.

◎クリティカル・ケアでのアルブミン製剤・輸血の使用は,個々の患者の状態により限定的に使用すべきである.

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Point

◎急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療は,原疾患の治療と肺保護管理である.

◎肺傷害の原因は人工呼吸器関連肺傷害(VALI)や高濃度酸素,非同調などが挙げられる.

◎VALIを回避するために,至適PEEPやlow tidal ventilation管理を徹底する.

◎ARDSの人工呼吸器管理中の合併症を知っておく必要がある.

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Point

◎経鼻高流量酸素療法(HFNC)は,安定した吸入酸素濃度や呼吸仕事量の軽減,気道内圧上昇効果,相対湿度最適化を機序とし,QOLに優れた酸素デバイスである.

◎HFNCを活用しやすい臨床場面は,高圧PEEPを要さない急性Ⅰ型呼吸不全,術後,抜管後であり,他領域でも今後のエビデンスが期待される.

◎非侵襲的換気(NIV)は,NHFCと比較して高圧PEEPが可能で換気補助もでき,豊富なエビデンスが確立している.

◎NHFCとNIVのそれぞれに失敗予測因子があり,これらを見逃さないモニタリングが重要である.失敗が示唆されれば,早期に侵襲的人工呼吸器管理や,HFNCからNIVへの変更が求められる.

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Point

◎腎代替療法(RRT)の開始に当たっては目的を明確にする(①尿毒素除去,②電解質バランスの是正,③水バランスの是正,④酸塩基平衡の是正).

◎治療モード選択に関しては,①間欠的か持続的か,②血液透析(HD),血液濾過透析(HDF)あるいは血液濾過(HF)か,③血流や透析量をどうするか,④アクセスはどうするか,⑤膜素材をどうするか,⑥抗凝固薬をどうするかを患者の病態ごとに検討する.

◎重症患者へのRRTは,血圧低下,出血ならびに感染症などの合併症に留意する必要がある.

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Point

◎重症病態におけるエネルギー供給は,異化から得られる「内因性エネルギー」と栄養療法から得られる「外因性エネルギー」の総和である.

◎患者の重症度に合わせた内因性エネルギー産生量を概算し,状況に応じた栄養投与量を設定する.

◎重症患者における栄養療法は早期経腸栄養を第一選択とし,重症化した後24時間以内に開始することが推奨される.

◎総栄養投与量だけでなく蛋白質投与量を確保することが重要である.

◎経腸栄養管理中には,経腸栄養不耐性,下痢,高血糖などのさまざまなトラブルが生じるが,適切に対応し,経腸栄養を中断しないように努めることが重要である.

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Point

◎ストレス潰瘍予防薬は適応およびリスクと利益を吟味し,薬剤を使い分ける.

◎深部静脈血栓症(DVT)予防は血栓と出血のリスクを併せて評価する.

◎人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防は5つのバンドルを遵守する.

◎不必要な血管内カテーテルや尿道カテーテルは速やかに抜去する.

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Point

◎Post intensive care syndrome(PICS)は,運動機能,認知機能,精神に障害が起こり,数カ月〜数年単位で持続する.

◎精神障害は患者家族にも生じる(PICS-F).

◎予防には“ABCDEFGHアプローチ”を用いる.

◎PICSを予防するためには多職種による関わりが必須である.

重症病態の常用薬管理 藤井 健一郎
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Point

◎重症病態では,昇圧薬使用や人工呼吸管理のため投与や調整が難しく,内服薬を使用することは少ない.

◎常用薬の継続が必要な場合は注射薬や貼付薬で代用するため,投与方法や換算のための力価を理解する.

◎常用薬管理として特に重要な循環器系薬,免疫抑制薬(ステロイド),ベンゾジアゼピン,抗Parkinson病薬を押さえる.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・5

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 頭後屈反射,下顎反射,肩甲上腕反射(Shimizu reflex)──いわゆる健常者では,わずかに認められます.しかし,反射が存在すると病的な意義が強いとされ,頸髄から上の錐体路病変を示唆します.また,知っておくと病変の局在診断でとても有用です.一般臨床で皆さんのお役に立つように,一緒に学んでいきましょう!

連載 母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・6

咳がひどくてつらいです 三島 就子
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症例

 32歳のAさんは妊娠28週になりました.2週間前に鼻汁とのどの痛みがあり,37℃くらいの微熱が出ました.症状は数日で治まりましたが,その頃から咳が出るようになりました.すぐに落ち着くだろうと思って様子をみていたAさんでしたが,なかなか治まらず,昨日は夕方から咳が強くなって夜も眠れないほどでした.以前,かぜをひいた後に咳が長引き,喘息っぽくなったことがあります.Aさんは今回も喘息っぽくなってしまうのではないかと不安になり,内科を受診しました.

Aさん:「咳がひどくてつらいです」

連載 物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・4

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ポイント

・Alzheimer病は病理学的に確定されます.

・バイオマーカーで病理変化を推定できるようになりました.

連載 医師のためのビジネススキル・4

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事例

 人口30万人の地域で3次救急を行っているのはX病院とY病院の2つであった.今年度,Y病院は諸事情のため3次救急対応が困難となり,X病院のみで対応することになった.X病院は500病床規模の急性期病院で,昨年度まで救急車受入件数4,000台/年前後だったが,今年度は6,000台/年前後になると予測されていた.

 X病院に初期研修医から勤務しているS医師は,今年度から内科スタッフとして採用された6年目の医師である.スタッフ医師の仕事内容や役割分担は毎年5月に個人事業計画を作成し,部長面談で決定することになっていた.先輩のE医師に計画の作成について相談してみると,「一般的には目標管理制度というんだ.私たちの病院では,それぞれの科に事業計画がある.それら事業計画について,具体的に1年間どのような業務を担い,行動をとるかを考え,部長面談で話し合って計画を決めている.もう少し制度について知りたいなら,MBOとか目標管理制度という言葉を調べてみるといいよ.」と教えてくれた.

 早速,A医師はインターネットで調べ,それらが人材マネジメントの一部であることを知った.

連載 目でみるトレーニング

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 編者のお一人である大村和弘先生とは,当時大村先生がご所属だった総合病院国保旭中央病院にカンファレンスなどで評者が定期的に伺っていたことでお会いして以来14年の付き合いとなる.初期研修の後,NPO法人JAPAN HEARTで吉岡秀人先生と出会い,アジアを中心とした国際医療協力に一時期身をていしたことは,明るく奔放なようでいて繊細な神経を持つ彼を知るものとして好ましく,ずっと好感を抱き続けてきた.プライマリ・ケア,総合診療といった世界から一見最も距離のある,巨大な機械力に取り囲まれた大学病院という環境に身を置きながら,臨床医として誰もが身につけておきたい「一定水準の診察,基本検査,救急を含めた手技の習得」をめざした本書を生み出した大村先生ならではの歴史である.本書の,特に大村先生自身が執筆された章には,大学病院で週6日の診療を受け持ちながら,年に一度は自費でアジアの国を訪ね,国際協力活動に取り組む一人の医師としての,単なる知識や技術を越えた優しさや矜恃が溢れている.

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 2004年度から卒後臨床研修が必修化され,幅広い基本的臨床能力を身につけることを目標として,医学部卒業生が全国の基幹病院へ臨床研修に行く時代となって,もうすぐ15年になろうとしている.この間,大学医局を中心としたこれまでの教育システムから,より開かれた研修システムが少しずつではあるが定着してきつつある.すなわち,医学部で受けた教育を実際の臨床現場での研修によって自分のものとすることで,医師としての将来的な発展のための基礎づくりが標準化されたのである.同時に初期研修修了後は,引き続き後期研修を選択する人やより専門的分野への興味を実現したい人など,個々人によってさまざまな選択が可能となり,医師生涯教育の多様化時代といえる.

 医の原点は救急現場にありとはよく知られたことであるが,それまで必ずしも十分に救急や集中治療のトレーニングを受ける機会に恵まれなかった研修医たちにとって,新しい臨床研修制度下で救急現場研修が義務化されたことは歓迎すべきことである.救急現場における神経系の疾患は最も遭遇頻度が高いものの一つであり,脳卒中をはじめ,頭痛,めまい,ふらつき,しびれ,けいれん発作,髄膜炎,脳炎,せん妄など多様な症状から鑑別すべき疾患もまた多様であり,救急患者の意識レベルの判定や,基本的診察手技,脳画像検査,血液ガス分析,腰椎穿刺,脳血管造影など枚挙にいとまがないほど多数の検討項目がある.このような,一見難しいが基本をしっかり体得すればどのような救急・集中治療現場でも意外とすんなり対応できる神経救急について,これまで座右に置く参考書が少なかったのは不思議である.

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◆総合診療,感染症内科の実力者が執筆

 レプトスピラ症,メリオイドーシスなど感染症医が喜びそうな診断名も散見されるが,本書は決して,感染症オタクのための本ではない.

 私は常日頃から,感染症の研修を開始するに当たり,まずは内科の研修をしっかり修了することを勧めている.というのも私自身がそうであったのであるが,単なる微生物や抗菌薬に詳しいだけでは,バイキンの先生であって,真の感染症内科医にはなれないのである.これは循環器でも,消化器でも同じではないかと思う.感染症科医なのか,それとも感染症内科医なのか.循環器科医なのかそれとも循環器内科医なのか.私は真の内科医に憧れる.

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 『救急レジデントマニュアル』が5年ぶりに改訂されたのでご紹介したい.本書は,慶大病院救急部初代教授の相川直樹先生が初版を刊行され,堀進悟教授,そして佐々木淳一教授と,3代30年に及ぶ,慶大救急医学の,経験と英知が凝縮されたマニュアルである.日本の救急医学を臨床面のみでなく,研究面においてもリードしてきた,あの慶大救急医学の歴々が総力を挙げて執筆しているからこそ,エビデンスに基づいた格調高い教科書となっている.

 本書は,ポケットサイズでありながら550ページを超す情報量がある.内容は,全10章に分かれており,まずレジデントの諸君が救急診療を行う際の心構えと基本的な診察法に始まり,次にERでよく経験する症候や疾患について,「鑑別・診断の進め方」「重症度の判定」「救急処置」などが,表やイラストを多用してわかりやすく親切に解説される.また,慶大が得意としている「外傷・熱傷」「中毒」に関しては,新たに章を立てて詳述している.さらに,マイナー診療科を含む各科救急疾患についても網羅し,救急関連の処置や検査については,使用する器具,手順,ピットフォールまで丁寧に解説している.最終章では脳死や災害医療,医療安全,感染対策などにも触れてあり,もはやその射程はマニュアルを超えた広がりを持っている.

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medicina
55巻10号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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