臨床雑誌内科 113巻1号 (2014年1月)

糖尿病治療のパラダイムシフト

血糖管理目標の設定 植木 浩二郎
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日本糖尿病学会では,2013年6月をもって,それまでの「優,良,可,不可」の4段階の血糖コントロールの目標と評価を改訂し,以下のようにエビデンスに基づき国際的にも整合性がとれ,より簡素化された目標を発表した.血糖コントロールの目標は,個々の患者で個別に設定すべきである.これまでの臨床試験の結果から,合併症を予防するための目標をHbA1c 7.0%未満とし,基本的にはすべての患者が達成すべきである.食事療法や運動療法のみ,あるいは薬物療法を併用している場合でも低血糖などの副作用なく達成できるならば,血糖正常化を目指してHbA1c 6.0%未満を目標とする.低血糖などの副作用その他の理由で,治療が強化できない場合にはHbA1c 8.0%未満を目指す.

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食事療法は2型糖尿病の治療の根幹をなすが,食に対する価値観の多様化から,定型的な食事指導は困難になっている.炭水化物制限による体重減少,血糖改善効果を明確に抽出することは困難であり,極端な炭水化物制限の効果は,摂取エネルギーも減少することや遵守率が不良であることなどから,その科学的根拠を評価することはできない.糖尿病の食事療法について,栄養学的見地からみた科学的検証が不十分であることは否めない.食事療法の研究は,薬物療法のそれとは異なった諸種の困難を包含している.日本人糖尿病の病態に相応しい食事療法のあり方について,地道なエビデンスの構築が求められている.

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日本人2型糖尿病患者(以下,日本人)で細小血管症リスク低下のエビデンスがあるのはインスリンだけであるが,どの薬物を使用しても同様の効果が見込まれる.metforminは日本人での死亡率低下効果が示唆されており,中国人では大血管症予防効果も実証されている.pioglitazoneは日本人対象のRCTで大血管症リスクの有意な増減を認めていない.スルホニル尿素(SU)薬グリニド薬αグルコシダーゼ阻害薬DPP-4阻害薬に関する日本人対象のエビデンスはまだない.低血糖リスク増加も鑑み,血糖コントロール目標値は一般にHbA1c<7.0%が推奨される.

グルカゴン 河盛 段
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インクレチン関連療法の登場によりグルカゴンへの治療的アプローチが可能となり,病態理解の面においてもグルカゴンの重要性が再注目されている.グルカゴンは肝臓においてグリコーゲン分解や糖新生亢進を介して糖放出を促進し,強力な血糖上昇作用を呈する.糖尿病におけるグルカゴン分泌制御異常は,高血糖や低血糖の増悪といった血糖恒常性のさらなる破綻をもたらすと考えられる.グルカゴン分泌は血糖のみならず神経系や内分泌系,膵島内調節系などにより緻密に制御されている.これまでのインスリン中心の糖尿病治療に加え,グルカゴン分泌の是正や作用の抑制といった新たな治療戦略が開発されている.

ビグアナイド薬 太田 明雄 , 田中 逸
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日本でもビグアナイド薬(BG薬)の維持量が1日750~1,500mg,最高投与量は1日2,250mgまで投与可能となり,改めて有用性が見直されている.BG薬による血糖低下はAMP活性化キナーゼを介した肝臓での糖新生抑制とインスリン抵抗性改善が主な作用と考えられているが,最近ではグルカゴンシグナルの抑制や血中GLP-1増加などによる血糖改善効果も有することが明らかにされている.

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DPP-4阻害薬は血糖依存的にインスリン分泌を促す.DPP-4阻害薬へのSU薬併用時には低血糖に注意し,SU薬を減量する.GLP-1受容体作動薬を使用する際はインスリン分泌能を評価し,インスリン依存状態非依存状態を鑑別することが重要である.GLP-1受容体作動薬はその半減期の違いから,空腹時血糖食後血糖と血糖値を改善させる時間帯が異なる.

インスリン製剤 永井 聡 , 吉岡 成人
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早期インスリン療法の有効性が示されているが,低血糖や体重増加が問題となっている.新規持効型製剤であるinsulin degludecは,42時間以上の作用時間を有しピークのない安定した血中濃度を維持できる.insulin degludecは,insulin glargineに比べ低血糖が少ないことが期待される.insulin degludecは,1日2回基礎インスリンを投与中の患者,頻回の低血糖のある患者,肥満患者に推奨されるが,周術期や高血糖緊急症の患者では推奨されない.早期インスリン療法におけるinsulin degludecの有効性と安全性の実証が期待される.

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糖尿病神経障害に含まれる多くの病型は疼痛を呈しうる.そのなかでも慢性多発神経障害が高頻度で重要である.治療に際しては鑑別診断と確定診断が重要であり,第一歩は血糖正常化と生活習慣の改善である.疼痛改善薬の第一選択は,三環系抗うつ薬,pregabalin,duloxetineであり,選択薬剤の増量で無効の場合は,他の第一選択薬を使用する.2剤併用投与の有用性は確立していないが試みてもよい.今後,オピオイド製剤の有用性についての検討が待たれる.一方,急性疼痛をきたす治療後神経障害にも上記の後2剤は有効と思われるが,エビデンスには乏しい.糖尿病筋萎縮ではmethylprednisoloneのパルス療法や免疫グロブリン療法が奏効する場合があるが,治療法としては確立していない.

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糖尿病網膜症は糖尿病の細小血管合併症の一つであり,日本人の失明原因の上位を占めている.糖尿病網膜症は,眼底検査と造影剤を用いた蛍光眼底造影検査により診断される.糖尿病網膜症の重症度分類としては,国際重症度分類が簡便で治療方針決定にも有用である.治療法として高血糖や高血圧などの全身因子のコントロール,網膜光凝固,硝子体手術,抗VEGF(vascular endothelial growth factor)薬硝子体内注射などが行われる.視力低下を訴え始めた段階ですでに不可逆的に進行している場合もあり,糖尿病の診断を受けた場合,症状がなくとも定期的な眼科受診が望ましい.

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糖尿病性腎症(以下,腎症)は,血糖血圧脂質のコントロールを良好にする多角的強化療法により,非可逆的に進行するだけの疾患ではなくなった.しかし,その強化療法の目標を達成するためには,多職種(看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,医師など)の関与する包括的チーム医療が必要である.腎症は連続性をもつ疾患であり,病状によって境界線を定めるのではなく,全経過を包括的にマネージメントするという姿勢を臨床医としてはもちたい.腎症のみをみているのでは不十分で,網膜症をはじめとする他の合併症にも注意を払い,その相互関係も常にみていくことが腎症の包括的治療の基本である.

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糖尿病患者の増加と高齢化,罹病期間の長期化,合併症の進行,動脈硬化疾患の併発などを背景に,糖尿病足病変(diabetic foot)に罹患する患者が増加している.糖尿病足病変は一般に難治性であり,高い下肢切断率が特徴としてあげられる.糖尿病患者の下肢切断率は健常者より15?40倍高い.糖尿病患者と医療関係者へのフットケア教育,ハイリスク患者への定期的なフットケアによる発症予防,重症足病変への集学的なチーム医療などにより,足切断が49~85%減少することが明らかにされている.足病変は長期間に及ぶ治療の後に治癒しても再発率が高いだけでなく,生命予後も不良である.脳梗塞や虚血性心疾患などを生じて,患者のquality of life(QOL)やactivities of daily living(ADL)が大きく損なわれることも多い.患者のQOLやADLや生命予後を守るためには,患者の足の病態に即した予防的フットケアに心血管障害の治療を加えたトータルマネージメントが重要である.

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糖尿病は肝臓関連死が多く,NAFLD/NASHの関与が想定される.NAFLD/NASHの病態は,インスリン抵抗性,肝内の炎症,遺伝的因子などが関与する.NAFLD/NASHは生活習慣病や心血管疾患,肝細胞がん発症のリスクである.NAFLD/NASHは合併症を意識した治療法が重要である.

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糖尿病患者は糖尿病でない人と比べて,認知機能低下をきたしやすく,Alzheimer病を1.5倍,血管性認知症を2.5倍起こしやすい.糖尿病発症前から糖尿病合併症が起こる段階で,インスリン抵抗性,血糖コントロールの悪化,および脳血管障害は認知機能低下を加速する.短期または長期の血糖コントロールにより,糖尿病患者の認知機能低下が抑制される.また,重症低血糖は1回でも認知症の危険因子である.GLP-1受容体作動薬,DPP-4阻害薬,チアゾリジン薬は認知症のモデル動物における認知機能低下を抑制する.認知症の進行予防のためには,適切な血糖コントロール,動脈硬化危険因子の治療,インスリン抵抗性の改善などが重要であろう.

歯周病 西尾 善彦
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歯周病は歯周病菌による感染症であり,中高齢者が歯を喪失する主要な原因になっている.同時に歯周病は慢性炎症を伴う炎症性疾患であり,歯周組織で産生される炎症性サイトカインは全身に影響を与え,インスリン抵抗性を惹起することにより,糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させる.歯周病の治療は血糖コントロールを改善させることが報告されている.一方,糖尿病は歯周炎のリスク因子であり,糖尿病患者において歯周病の罹患率が高いことが報告されている.糖尿病は歯周病を悪化させ,歯周病は糖尿病を悪化させることから,両者には悪循環が形成されるうるのでその関連を断つ治療が必要とされる.

SGLT2阻害薬 福田 一仁 , 戸邉 一之
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SGLT(ナトリウム共役能動輸送性糖輸送担体)は,ナトリウムと連動してグルコースを細胞内に取り込む.グルコース吸収は,主に小腸のSGLT1とGLUT2(促通拡散型糖輸送担体),腎臓のSGLT2で行われている.SGLT2阻害薬は,SGLT2に作用し尿中グルコースの再吸収を90%以上抑制する.SGLT2阻害薬の大規模臨床試験では,尿中グルコースの再吸収抑制,血糖値の低下,体重減少,血圧低下などの効果が確認されている.SGLT2阻害薬の副作用として,脱水,尿路や性器感染,膀胱がんなどの発症が懸念されている.

GPR40作動薬 木村 友彦 , 加来 浩平
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糖尿病の管理目標達成には長期間にわたる良好な血糖管理が必須であるが,そのための有効性と安全性に優れた治療薬が求められている.遊離脂肪酸によるインスリン分泌促進の機序は長らく不明であったが,脂肪酸を内因性リガンドとし,膵β細胞に高発現するG蛋白共役型受容体(GPCR)GPR40の存在が明らかにされ,中長鎖脂肪酸刺激によるGPR40を介するグルコース濃度依存性のインスリン分泌が報告された.現在,fasiglifam(開発コード:TAK-875)が国内臨床第III相試験中であり,glimepirideと同等の血糖降下作用を有しながら,かつ低血糖の頻度が少ないことが報告された.

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DPP-4阻害薬は,インクレチン分解を阻害し内因性の活性型インクレチンを増加させることで,抗糖尿病作用血糖降下作用を発揮しているが,DPP-4はインクレチン以外にもさまざまな神経ペプチド,サイトカイン,ケモカインなども基質としているため,インクレチン作用以外の作用増強も期待できる.また,糖代謝以外にも血圧や脂質代謝の改善作用が報告されている化合物もあり,今後,これらの作用がどのように患者の予後に影響を与えるのか,さらなる臨床データの蓄積が待ち望まれる.

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臨床試験のメタ解析からインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬)と因果関係を明らかにされた重篤な副作用はない.インクレチン関連薬とSU薬との併用では,recommendationに従い,年齢や腎機能に応じてSU薬減量が望ましい.インスリンからGLP-1受容体作動薬への切り替えはインスリン依存状態の鑑別を含め判断が困難な場合が多く,糖尿病専門医へのコンサルテーションが望ましい.米国糖尿病協会,欧州糖尿病学会,国際糖尿病連合は合同声明として,一部グループが指摘するインクレチン関連薬と膵炎や膵がんの関連について,推奨事項を修正するには情報が不十分という見解を発表している.重篤な副作用について因果関係を明確にされたものはないが,膵炎や腸閉塞,間質性肺炎に加え現在報告されていない未知の副作用の可能性について,注意深い観察が今後も必要である.

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運動により骨格筋はIL-6をはじめとするマイオカインを分泌することにより,単に骨格筋の糖利用や脂肪酸代謝を高めるのみならず,全身の代謝状態を改善する.中等度の強度の有酸素運動は,高血糖の改善に有効性が高く,肥満の改善にも限定的であるが有効と考えられる.わが国のJapan Diabetes Complication Studyにおいて,研究開始時の身体活動度がもっとも高い群は,8年間の観察期間でもっとも低い群に比較し,脳卒中の発症頻度および全死亡率が半減していた.中等度の強度の有酸素運動を食後に行えば,運動時間依存性に血糖降下度は強くなるが,隔日に2倍の運動量で行った場合も,1日3分割して行った場合も,いずれも有効であることが示されている.糖尿病治療は個別化,すなわち患者個々に最適な目標を設定し,病態に即した治療を選択することが求められる.運動療法でも,患者の身体的特徴,合併症の程度,さらにアドヒアランスの面から達成可能な具体的目標を設定することが肝要である.

糖尿病とがん 能登 洋
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糖尿病は発がんがん死のリスク増加と関連している.日本の疫学データでは,糖尿病は全がん,大腸がん,肝臓がん,膵臓がんのリスク増加と関連している.がんリスク増加機序として高インスリン血症や高血糖が想定されているが,交絡因子関与の可能性もある.metforminはがん抑制作用を有することが示唆されている.がん予防には減量,禁煙,運動の励行が推奨される.糖尿病患者は,性別年齢に応じて適切に科学的に根拠のあるがんのスクリーニングを受診するよう推奨される.糖尿病患者で肝炎ウイルス陽性の場合には,肝臓がんのスクリーニングを受診するように推奨される.

膵β細胞量の調節機構 北村 忠弘
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2型糖尿病の発症に膵β細胞障害が関わっている.β細胞障害は酸化ストレス,小胞体ストレス,低酸素ストレス,サイトカイン誘導など種々のメカニズムにより惹起される.これらのストレス状態はβ細胞にアポトーシス,増殖障害,脱分化などを誘導し,β細胞量の減少や機能不全を引き起こす.転写因子FoxO1はβ細胞量や機能の調節に重要な役割を果たしている.新規同定タンパクbetatrophinはβ細胞増殖を促進する.

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54歳男。初診2ヵ月前、頭痛に対し解熱鎮痛薬を連用したところ霧視が出現し、近医の眼科で緑内障と診断された。今回、食欲不振をはじめ悪心、嘔吐で腎障害を認めたため近医の内科より著者らの施設へ紹介となった。受診時、2ヵ月間のNSAIDs連用から薬剤性腎障害が疑われ、服用を中止することで食欲不振、悪心、嘔吐は軽快し、左右腎ともほぼ正常となった。だが、皮質エコーレベルが上昇し、あわせて左顔面神経麻痺が出現、約3ヵ月目には左膝伸側に小皮疹ほか、血清Ca濃度や血清Cr値の上昇が認められた。一方、Intact-PTHは低値であったが、PTH-rPは陰性、ACE活性は51.5U/Lであることからサルコイドーシスの存在が疑われた。その後、約6ヵ月経過で両肺門部の異常陰影が認められ、CTを行なったところリンパ節腫脹が認められた。更にガリウムシンチでは肺門部に集積亢進を認めるも、ツ反は陰性であったが、ブドウ膜炎と皮疹の生検で非乾酪性類上皮肉芽腫を認め、両腎には結石が、また右腎には水腎症が認められた。以上より、本症例はサルコイドーシスの診断基準と組織診断群を充たし確定診断となり入院となった。治療としてステロイド投与を開始した結果、血清Ca濃度は低下し、腎機能は血清Cr値2.0mg/dL前後まで改善、水腎症は消失した。

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63歳男。食事は炭水化物が主体で外出もほとんどしない生活であった。今回、腰痛と両股関節痛を自覚し近医を受診、ALPおよびIntact-PTHの高値にて骨疾患が疑われ、著者らの施設へ紹介となった。所見では著明に高値なALPとintact-PTHほか、骨吸収マーカーであるs-NTx、u-NTx、 BCE/LおよびCrが上昇していた。また、骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)は高値であるもののオステオカルシン(OC)は低値で、1,25(OH)2Dは正常上限、25(OH)Dは著明に低値であった。一方、骨は菲薄化し腰椎L1、L2圧迫骨折を認め、骨シンチでは肩関節、仙腸関節、胸椎、腰椎に多発集積亢進像が認められた。以上より、本症例は骨粗鬆症と骨軟化症の鑑別を要したが、最終的に骨芽細胞の石灰化障害を来したビタミンD欠乏症に伴う骨軟化症と診断された。そこで、alfacalcidolにて治療を開始したところ、intact-PTHとs-NTxは減少し、ALPやBAPも著明に減少した。だが、OCは著しく上昇しており、治療8ヵ月後には腎機能の悪化傾向を認め、alfacalcidolを減量した。その結果、12ヵ月後の大腿骨頸部のBMD、T-scoreの骨密度は大幅に改善し、腰痛も両股関節痛も軽減した。尚、骨軟化症の診断、治療効果の評価ではBAP、OCの両測定が診断に有用であると考えられた。

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66歳女。両側腎盂水腎症の既往があった。今回、アジの刺身を食した翌日より心窩部から左側腹部にかけて痛みと嘔吐が継続した。3日後に腹痛が増強したため著者らの施設へ受診となった。腹部CTでは小腸粘膜下浮腫がみられ、左右腎盂尿管の拡張と腹水の貯留からアニサキス腸炎を第一に考えられた。そこで、保存的治療が開始されたが、改善は得られず、腹水穿刺を行なうと淡黄色で血性腹水ではなく、ループス腸炎の可能性が考えられた。所見では抗核抗体、抗DNA抗体および抗Sm抗体は陽性で、補体値低値に加え、腹部エコーでは漿膜が正常であるのに対し粘膜が浮腫性になるCorn signが認められた。一方、腹部造影CTでは腸管粘膜、漿膜が造影されるも、粘膜下層が造影されないtarget signが認められた。以上、これらのことから本症例はループス腸炎と診断され、Prednisolone(40mg)による治療を開始、1週間単位で5mgずつ減量した結果、20mgで退院となった。尚、患者は腸管閉塞が解除され、同時に腹水の減量や腹部膨満も改善し、更に水腎症も改善した。尚、目下は外来にてステロイド漸減治療を行い、副作用もなく経過良好である。

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60歳女。全身の倦怠感および呼吸困難と胸部圧迫感にて近医を受診、頸静脈怒張、血圧低下が認められた。X線では心陰影の拡大と右上肺野に腫瘤影および左胸水が認められ、胸部CTでは大量の心嚢液貯留と両側縦隔リンパ節腫大ほか、左上葉、リンパ節に複数の石灰化した結節影が認められた。心エコーにより心タンポナーデと診断され、心嚢穿刺にて500mLの血性排液を採取し、症状の改善が認められたがPerformance Status(PS)は4で、著者らの施設へ紹介となった。以後、心嚢ドレナージを心エコー・透視下に施行し、血性排液合計1160mLが得られたが、翌日に排液は消褪した。そこで、次いで左胸腔穿刺を行い、血性排液650mLを排除すると、呼吸困難と胸部圧迫感は軽減しPS2となった。一方、細胞診を行なったところ、心嚢液、胸水ともにClass Vで、乳頭状集塊や腺腔配列を呈していることから腺癌と病理診断された。更に骨シンチでは多発骨転移を認め、cT2aN3M1b IV期であった。以上より、治療としてerlotinibの投与を開始した結果、エクソン21のL858R EGFR遺伝子変異が認められ、数日で自覚症状は改善し、患者は内服16日目に退院となった。

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症例1(73歳男)。33年来の糖尿病であった。今回、高血圧症に対しcandesartan(4mg)の内服で安定していたが、頭痛が出現したため受診となった。所見では脂質異常症とTSHの高値を認めたほか、活性レニン濃度の低下がみられず、血漿アルドステロンもやや高値に留まっていた。対処としてcandesartanの増量が行われたが、4週後も血圧は高値であったため、服薬歴の聴収を行なったところ、患者は外来受診3週間前にこむら返りに対し他科から芍薬甘草湯が処方されていたことが判明した。以上より、本症例は薬剤誘発性高血圧症と診断し、芍薬甘草湯を中止することで8週間目以降は血圧は安定した。症例2(61歳女)。12年来の2型糖尿病であった。Candesartanの内服で血圧は安定していたが、外来受診時には上昇し、1週間後の自宅血圧でも171/80mmHgであった。一方活性レニン濃度の低下は認めず、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)投与にて血漿アルドステロンはある程度抑制されたが、依然血圧は高値であった。そこで、服薬歴の聴収を行なったところ、外来受診1週間前に他院にて芍薬甘草湯が処方されたことが判明した。以上より、本症例は薬剤誘発性高血圧症と診断され、芍薬甘草湯を中止することで3週後には血圧は安定した。

基本情報

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臨床雑誌内科
113巻1号 (2014年1月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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