INTENSIVIST 13巻3号 (2021年7月)

特集 COVID-19(ICUにおけるパンデミック対策)

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2020年初めから続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは,今なお我々の生活へ暗い影を落としている。外出先でのマスク着用や手指消毒は恒常化し,今まで対面形式で行われてきた行事の多くは簡略化やリモート形式へと形を変えた。この新しい生活スタイルは,時間や費用の節約という面で恩恵をもたらした一方で,本来人と人とのふれあいから生まれる心の絆や安心感を奪い,人々の心の中に不全感が残るようになった。度重なる緊急事態宣言で生じた経済的損失も大きく,この先我々の生活はどうなってしまうのか,パンデミックはいつまで続くのか,など心配の種は尽きない。

 さて,本特集では「パンデミック」をテーマとして取り上げた。パンデミックとは新規感染症が短期間のうちに急速かつ世界的に広がり流行する状態である。かつてはペストや天然痘,結核のパンデミックで多くの人々が命を落としてきた。今回のCOVID-19パンデミックもすでに多くの死者を出しており,医療者はかつてない問題に直面している。本特集の目的は,現場で働く医療者がパンデミックを通じて得た貴重な経験を形として残し,今後のパンデミックへ備えることである。

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新型コロナウイルス感染症のパンデミックが今後どのような軌跡をたどることになるのか,現時点で正確に予測することはできない。ただパンデミックが遷延すれば,私たちは,私たちが知る世界とは異なる世界の出現を目撃することになるかもしれない。

 それがどのような世界かは,もちろん誰にもわからない。しかしそれはもしかすると,14世紀ヨーロッパのペストのように,旧秩序(アンシャンレジーム)に変革を迫るものになる可能性さえ否定できない。そうした変化は,流行が終息したあとでさえ続く。

 感染症は社会のあり方がその様相を規定し,流行した感染症は時に社会変革の先駆けとなることがある。そうした意味で,感染症のパンデミックは社会的なものとなる。

 歴史が示す一つの教訓かもしれない。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する医療体制作りを考える際には,病院あるいはICUの運営など医療現場に近い視点と日本の医療制度や地域医療圏など全体を俯瞰する視点の両方をもつ必要がある。現場レベルでは,まず災害など有事の医療体制作りの考え方であるHICS(Hospital Incident Command System)をもとに指揮命令系統を確立しなければならない。そして,感染管理に留意したうえで4S〔Space(場所)・Staff(スタッフ)・Stuff(資器材)・system(機能)〕を整えて感染者の急増に対応する必要がある。同時に,地域や日本全体において限られた医療資源の有効利用も考えなければならない。そのためには,さまざまな情報共有システムを利用することで地域の感染動向を迅速に共有し,流行の程度に応じて医療提供体制を自治体や国と協力して柔軟に変更していかなければならない。本稿では2つの視点から医療体制作りについて考えていきたい。

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病院におけるパンデミックへの備えには,手指衛生の実施率を常に高水準に維持し,血液・体液曝露が生じ得るあらゆる場面においてリスクに見合う個人防護具(PPE)を使用すること,新興感染症の発生に関する情報収集を行いながら現実味のある状況設定に基づいた訓練を行うことなどが含まれる。さらに,サプライチェーンが断絶した場合の対応についても検討しておくとよいだろう。パンデミックの発生後は,感染対策の根拠となる疫学・臨床情報を継続的に収集しながら,疑似症を早期発見し,隔離予防策を行うための体制を迅速に構築しなければならない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は,パンデミック対応における多数の課題を浮き彫りにした。COVID-19はいずれ終息するだろうが,パンデミックは再度起こる。今回の経験は必ず次回に活かさなければならない。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の診療において院内感染予防のための対策をとることは,すべての患者への安全な医療の提供のためのみならず,診療に携わるすべての医療従事者を守るためにも重要な課題の1つである。感染制御のうえでまず重視すべき概念としてエンジニアリングコントロールがあり,具体的にはコホーティングやゾーニングのことを意味する。本稿では,聖マリアンナ医科大学病院におけるコホーティングやゾーニングの一例を紹介し,また濃厚接触者への対応や感染患者の隔離解除の基準に関して,欧米の動向をふまえ,日本国内における現状も紹介する。

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2020年4月,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院では患者・職員合わせて80名という新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の院内感染を経験し,約1.5か月の病院機能の停止を余儀なくされた。この経験から我々が得た教訓は,COVID-19の院内感染は医療体制に多大な影響を及ぼすため,“Zero tolerance”を目標に,一例も院内感染を許さない徹底した感染管理を組織として実践していくことが重要であるということだ。今回の院内感染の概要と,院内感染を収束させた手段,現在も行っている再発予防策などを文献的考察も交えて記述する。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより世界中が混乱に陥る一方で,接触感染のリスクを回避しながらコミュニケーションを可能にするデジタルツールへの注目度が一気に高まった。臨床現場でもさまざまなツールが導入され日常的に使われるようになってきてはいるものの,こうしたデジタルツールを用いた遠隔医療の知見は取り組みレベルのものがほとんどである。しかし,その有用性に関しては,十分な可能性を秘めており,今後の展開が期待される。本コラムでは,パンデミックを含めた災害と遠隔医療(主に集中治療に関連したもの)の知見について紹介し,今後の課題と展望について述べたい。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは,身体だけでなく,心理的,精神的影響も甚大である。一般市民や感染者のみならず,医療従事者,特に最前線で患者に対応する病院職員への心理的影響が問題となっている。医療従事者のメンタル危機はバーンアウトburnoutにつながり,離職に至る可能性も高い。医療従事者への支援は医療崩壊を防止し,地域住民の支援に直結する。COVID-19パンデミックにおける医療従事者の心理的影響に関して,災害精神医療という視点から文献的考察を示したうえで,我々が施行した病院全職員対象心理的調査の報告を示したい。また,患者および患者家族の強い心理的反応は,対応する医療従事者の苦悩にもつながる。患者および患者家族へのメンタルケアの要点についても考察したい。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより,今まで当たり前のように提供できていたケアができないという未曾有の事態が続いている。個人防護具(PPE)を装着しながらのケア,電話やインターネットを活用したコミュニケーション,オンライン面会の工夫や,臨死期および死後の対応など課題は多い。聖マリアンナ医科大学は,クルーズ船内で発生したCOVID-19患者の受け入れを皮切りに,現在も継続して重症患者を中心に対応している。未知の感染症に対し,治療はもちろん,患者・家族に対するケアについて,現在も病院一丸となって取り組んでいる。

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国際化に伴い,新興再興感染症の診療の重要性が増してきている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え,近年の温暖化に伴う気候変化による熱帯地域の感染症の流行拡大も懸念されている。しかし,本邦において,重症の新興再興感染症に対する集中治療を行うための指針はない。そこで,本邦における敗血症診療の指針である,日本版敗血症診療ガイドライン2020が重症の新興再興感染症の診療に応用できる可能性について検討しまとめた。

各論:COVID-19パンデミック

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はヒト-ヒト感染を起こす7つ目のコロナウイルスであり,2021年5月現在は,感染性増加や免疫逃避に関連する変異を獲得した変異ウイルスが世界的に問題となっている。約3〜4割は無症候性感染者とされるが,発症者の潜伏期は約5日であり,インフルエンザ様症状を呈する。嗅覚障害・味覚障害は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に特異度の高い症状である。発症者の約2割が発症から7〜10日目に重症化するのが典型的な経過である。高齢や基礎疾患や肥満などが危険因子である。急性期を脱して回復したあとも症状が遷延するlong COVID,いわゆる後遺症の病態が注目されている。

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2019年末に発生した,新型コロナウイルスsevere acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)を原因病原体とする新型コロナウイルス感染症coronavirus disease 2019(COVID-19)の患者数は世界中で急増しており,その感染予防策は重要な検討課題である。本コラム執筆時点(2021年5月下旬)では,SARS-CoV-2の感染経路のなかで,飛沫感染とエアロゾル感染,空気感染が重要であると考えられているが,このうちどれが主要な感染経路であるかの結論は出ていない。本コラムでは,これまでの報告から,「COVID-19に対して空気感染予防策は必要か?」というクリニカルクエスチョンについて検討する。

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ICUで治療された患者とその家族に生じ得るpost-intensive care syndrome(PICS)は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者も例外ではなく,パンデミックの終焉を待たずして懸念すべき重要問題である。COVID-19患者に特有のPICS発症因子についてはまだ明らかではないが,PICSに関するこれまでの知見をもとに,想定される要因と対策について考えたい。

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世界的に大流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染者数は増加の一途をたどっている。感染者や死者を減らすための介入を見つけ出すには,まずCOVID-19の病態生理を理解する必要がある。COVID-19の病態生理には2つの大きな特徴がある。それがサイトカインストームと凝固機能障害である。さらに,これらの特徴を反映して,COVID-19の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は既存の古典的なARDSとは異なることが知られている。

 本稿では,COVID-19の病態生理について,現在得られている知見を解説する。さらに,病態生理の観点からCOVID-19に対する有効性が期待されている治療について,その機序と臨床研究の結果を紹介する。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断は,どのようにして行われるべきであるのか。

 ひとまず患者の鼻咽頭拭い検体や唾液を抗原検査やPCR検査にかけてから考えるものなのだろうか。ひとまず患者の胸部CTを撮影してから考えるものなのだろうか。感染症診療は「詳細な現病歴聴取と身体所見から検査前確率を考え,必要な検査を組み立てて診断する」ことが基本であり,COVID-19においても,その基本から外れるものではない。もちろん抗原検査やPCR検査,CTが有用な検査であることは間違いないが,それらをいかに上手く使うかが重要であろう。周囲の流行状況や曝露歴を意識することこそが重要であり,それを無視した診療は妥当ではない。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する薬物療法は,抗ウイルス療法,抗炎症療法,そして抗凝固療法に分類される。COVID-19の病態の理解とそれに基づく多数の臨床研究の結果,徐々に治療法が確立されてきたが,2021年6月時点において大規模無作為化比較試験で死亡率低下効果が示された薬物は,デキサメタゾンとトシリズマブのみである。また本邦でCOVID-19に対して承認が得られている薬物はレムデシビル,デキサメタゾン,バリシチニブの3剤のみと非常に限られている。本稿では各薬物のエビデンスを概説し,重症度に応じた薬物療法を解説する。

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患した患者の一部が重度の肺炎を発症し,酸素療法および侵襲的人工呼吸器管理を含めた呼吸療法を要することから,医療を逼迫し世界的な社会的問題となっている。SARS-CoV-2によって惹起された免疫炎症性反応を抑制することが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において重要な治療法であることがわかってきている。それと同時に免疫炎症性反応が治るまで患者の肺を傷害しない適切な酸素・呼吸療法を行うことが我々に求められている。これまでCOVID-19ではない呼吸不全で蓄積されてきた酸素・呼吸療法における生理学とエビデンスを,COVID-19患者に適切に応用することが重要である。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の体外式膜型人工肺(ECMO)の治療成績は,パンデミック以前のrespiratory ECMOの成績と同等の結果を示しており,ECMOはCOVID-19に伴う重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)への治療戦略の「最後の砦」として確固たる地位を築いている。パンデミック下であっても,基本的な管理法や導入基準は変わらない。各医療機関はサージキャパシティレベルに応じてECMOの不適応基準を厳格化すべきである。また,ECMO治療成績の維持・医療供給体制の維持のためにECMOセンターどうしがネットワークを構築し,資源の共有化・管理の画一化・患者の分散搬送を行い,医療資源の枯渇・医療崩壊を回避しなければならない。

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診療ガイドラインの目的は,患者と医療従事者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示することである。その推奨は,GRADEシステムに基づき質の高いシステマチックレビュー,そして望ましい効果(益)と望ましくない効果(害)のバランスなどを考慮して決定されることが望ましい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する各種ガイドラインも多くはGRADEシステムを用いており,かつエビデンスの更新が非常に速いため,living guidelineが採用されている。日本を含めた複数の診療ガイドラインを比較すると,感染管理や診断検査には大きな差異は認めない。一方,レムデシビル,トシリズマブ,抗凝固療法などの薬物療法に関しては,推奨に違いを認めた。診療ガイドラインを正しく適用するためには,これらの違いが生じた背景にある科学的根拠や作成者の意図を読み解く必要がある。

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COVIDワクチンはmRNAワクチンおよびウイルスベクターワクチンを中心に開発が進み,すでに上市されたものも複数ある。日本で接種中のmRNAワクチンは変異株も含め効果が高く,副反応も疼痛,発熱およびアナフィラキシーといった予想範囲内のものに留まっている。一方で,長期効果およびウイルスベクターワクチンで報告された血栓症のようなまれだが重大は有害事象については,今後の情報更新を待たざるを得ない。効果と安全性を十分に理解しつつ,広く早く接種が進むよう国を挙げた取り組みが必要である。

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牧野 INTENSIVIST誌では集中治療を軸として,これまでさまざまな話題を扱ってきましたが,本特集ではパンデミックという大きなテーマを取り扱います。本日の主なトピックは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが,今後起こり得るかもしれない新たなパンデミックについても,我々はどう対応していけばよいのかを語っていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 まずは,皆さん,今回のパンデミックでは,どのような立場でかかわられたのかをお聞かせください。

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体外循環の回路は,脱血カニューレを静脈に挿入し,静脈血は重力や陰圧により人工心肺の貯血槽である静脈リザーバーに入り,心臓の役割を果たす遠心ポンプなどの血液ポンプにより拍出され,人工肺により動脈血化されて,送血カニューレから動脈内へ戻るという構成である(図1)。脱血カニューレはポリ塩化ビニルで形成され,先端孔の開いたエンドホールタイプや,側孔の開いたサイドホールタイプなど,さまざまな形状のカニューレが存在する(図2)。脱血カニューレは体外循環回路のはじまりでもあり,安定した脱血流量が得られないことには送血流量を確保できず,安全な体外循環は不可能である。本稿では,脱血カニューレの研究から,心臓外科手術中の体外循環,ECMO臨床における注意点,吸引デバイスについて紹介したい。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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目次

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次号予告

基本情報

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INTENSIVIST
13巻3号 (2021年7月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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