作業療法ジャーナル 53巻2号 (2019年2月)

特集 司法領域における触法障害者等への支援

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特集にあたって

 2005年(平成17年)に医療観察制度が開始されてから,日本において本格的な司法精神科作業療法がスタートした.この十数年での実績によって,国の施策は徐々に広がっている.

 PFI(private finance initiative)方式の刑務所である社会復帰促進センターでのOTの関与につながり,さらに部分的ではあるが一般刑務所でのOTの関与が展開されるようになった.この動きは,OTの関与が触法の精神障害者に限局されていたものが,高齢者や発達障害,軽度の障害者等を含む,全領域の障害者への関与に広がっていったことの軌跡である.

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Key Questions

Q1:他害行為後の司法の処遇の流れとは?

Q2:司法領域の人材育成とは?

Q3:精神保健福祉法の改正とは?

はじめに

 2001年(平成13年)に大阪府池田市で発生した小学生無差別殺傷事件を契機に,2005年(平成17年)7月,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)が施行された.これは重大な他害行為を行った精神障害者の治療および地域での処遇,社会復帰を規定する制度であり,欧米における司法精神医療制度に当たるものである1).欧米での司法精神医療制度は約100年前より実施されており2),日本においてもこの対象層に何らかの対策や制度が必要なのは明白であったが3,4),医療観察制度により,遅ればせながら欧米に並び,司法精神医療制度の出発点に立つことができた.

 作業療法の面からこの制度の動きを概観すると,鑑定入院医療機関,指定入院医療機関,指定通院医療機関にはOTの人員配置が位置づけられている.さらに法務省の保護観察所の社会復帰調整官にもOTが採用されるようになったことは,本領域の新たな道がOTに開かれたことを意味している.欧米の司法精神科医療の中では,司法精神科作業療法の実践が進み,確立されてきた経緯がある.日本でも同様に,本制度の中での立場や役割を通し,臨床上の作業療法の実践が進んだことによって,この十数年で司法領域の作業療法という分野が作業療法の中で確立されてきたのではないだろうか.同時にそれは,関係職種や法務省を代表とする司法関連機関から作業療法が確実に認知されてきた経緯でもあると考えている.この分野では情報も少なく,臨床上の同僚も少ない中,おのおのの立場でOTが臨床を積み重ねた結果であることは明白で,尽力されたOTには敬服する次第である.

 司法分野でのOTの臨床上の積み重ねが,以下の動きにも影響を及ぼしていると考えている.1つめは,2016年(平成28年)7月に起きた相模原市の障害者支援施設における殺傷事件(以下,相模原事件)である.この事件を契機に現在,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下,精神保健福祉法)の改正が図られようとしており,特に,措置入院制度に関する精神保健指定医制度の質の担保と同時に,措置入院対象者の処遇システムが法改正5)によって変わろうとしている.2つめに,法務省の矯正局の管轄である刑務所・少年院において,認知機能強化トレーニング,認知作業トレーニングが,犯罪者として取り扱われた障害者を対象としてパイロット的に展開されている.本特集の宮口氏の報告を参照していただきたい.この2つの動きの中で,新たなシステムや新たな領域において,OTのさらなる貢献が求められているのである.

 医療観察制度によって司法精神科の作業療法がスタートし,その臨床上の実績から,新たな段階と広がりを迎えようとしている.本特集では司法分野での新たな動きを確認することになるであろうが,本稿においては,現場のOTより司法の処遇のわかりづらさを指摘いただいた経緯もあり,司法の基本的な処遇の流れと,犯罪と触法の定義を確認したうえで,司法分野の人材育成の必要性について展開する.また,司法分野に関連する精神保健福祉法の新たな動きについて付加したいと考えている.

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Key Questions

Q1:触法高齢・障害者を生み出す原因とは?

Q2:欧州諸国に触法高齢・障害者が少ないのはどうしてなのか?

Q3:入口・出口支援とは?

はじめに

 読者の皆さんは,日本の刑事司法で今何が問題となっているのかをご存じだろうか.現在,日本では,少年非行を中心に犯罪が大きく減少している.当然,刑事司法のクライエントも減り,毎年のように少年院や刑務所が閉鎖されている.実は,少年非行については,2007年(平成19年)前後からほとんどの先進国で減少傾向にある.2007年はiPhoneが発売された年でもある.iPhoneに代表されるスマートフォンの登場によって,非行少年を含む若者のライフスタイルが大きく変化したといわれている.以前の非行少年は,家族の不和や貧困,学業不振等によって家庭や学校に居場所がなくなると,さみしさを紛らわすために地域の不良集団や暴走族に加わり,そこでバイク盗やシンナーの吸引等の悪さを学び,非行を繰り返していた.だから,少年鑑別所や少年院は,そんな不良交友型の非行少年でいっぱいだった.しかし,最近,暴走族や公園や駅前等にたむろしている不良少年の集団をほとんど見かけなくなった.スマホがあれば,いつでも,どこでも,自宅にひきこもっていても,同じような趣味をもつ人と手軽につながることができる.わざわざ怖い思いをして不良集団に加わる必要はない.不良集団が弱体化したことで,そこを中心として広がっていた非行文化(飲酒,喫煙,不純異性交遊,暴走,各種窃盗)も衰退していった.今や非行はもちろん,中学生の飲酒・喫煙率,高校生の性経験率も大きく減少傾向にある1)

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Key Questions

Q1:境界知能者とは?

Q2:認知機能強化トレーニング(COGET)とは?

Q3:認知作業トレーニング(COGOT)とは?

はじめに

 日本の少年矯正施設における一般就労や障害者への社会復帰体制については,ハローワークとの連携等,すでにさまざまな対策が講じられ充実・強化が図られてきているが,発達障害等の傾向を示す者(境界知能者)への特別な支援は,どのような介入プログラムが,どの程度効果的か等,実証的に検証されていない.

 認知行動療法やソーシャルスキルトレーニングは,多くの先行研究からその効果が検証されてきているが,一方でいくら指導しても深まらない少年たちの存在にも苦慮させられているのが現状である.その中には,視覚認知,聴覚認知,概念力,ワーキングメモリ等,さまざまな認知機能に問題をもっているケースも多い.矯正教育の成果を上げるためには,対象者にある程度の知的機能が保たれていることが前提となる.しかしながら,このような基礎的な認知機能を向上させることに特化した体系的な介入プログラムは見当たらず,さらにこのような課題に対して,医師やOT等,医療,保健領域の専門職の関与が必要であるが,診断がない場合は臨床心理士以外に医療保健の専門家がかかわる機会はほとんどない.子どもや青年,成人の境界知能は“忘れられた障害”ともいわれており,少年院だけでなく,学校教育や就労等の場面で不利益に合う場面は少なくなく,そのため医療保健領域で,後述するように筆者らが提案するCOGET(Cognitive Enhancement Training)やCOGOT(Cognitive Occupational Training)等の専門的視点を活用することには,研究的意義だけでなく,社会的意義もあると考えている.

 このような現状の中で,筆者らは2010年(平成22年)から宮川医療少年院を皮切りに現在まで,広島県内および山口県内の刑務所に外部講師として社会復帰支援プログラムにかかわる機会があり,一定の効果を確認してきた.一方,境界知能の受刑者が刑務所内のプログラムを終了しても,多くが就労にまで至らないことを知った.さらに,プログラムを実施していく過程では,2018年(平成30年)より法務省矯正局総務課更生支援室において,一般就労と福祉的支援の狭間にある者への支援について継続的に協議を行っており,広島県内の矯正施設および保護観察所,さらにOTがかかわる就労支援,就労移行支援事業所との事前準備を進めているところである.

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Key Questions

Q1:医療観察法通院処遇者の全国調査からみえた課題とは?

Q2:医療観察法通院処遇下の地域支援とは?

Q3:司法精神科領域の作業療法士が行う支援とは?

はじめに

 2005年(平成17年)に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」(以下,医療観察法)が施行され,13年が経過した.2018年(平成30年)10月現在は全国で33カ所の国立・自治体立病院が指定入院医療機関として,556カ所の病院および73カ所の診療所が指定通院医療機関として登録されている1).また,法開始から2016年(平成28年)12月までの間に,2,739名が入院処遇に,564名が通院処遇にという司法判断を下されている2)

 安藤ら3)は2013年(平成25年)に全国的な通院対象者の調査を行い,全国の指定通院医療機関388施設から通院対象者1,190名のデータを収集,分析した.その結果,対象行為以前から56%に入院治療歴,79%に通院治療歴があり,精神科医療に接点をもちながら対象行為に至っていることや,地域での処遇開始から1年未満に自殺や医療観察法入院処遇への再入院等の発生率が有意に高いことを報告している.

 今回は,岡山県精神科医療センター(以下,当院)の医療観察法通院処遇の支援の現状を振り返りながら,これらの課題についてOTに必要な視点を考察する.

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Key Questions

Q1:医療観察制度対象者の地域処遇とは?

Q2:医療観察制度の対象者評価と支援のポイントとは?

Q3:医療観察制度対象者へのリカバリー,ストレングスモデルを活用した支援とは?

はじめに

 医療観察制度対象者(以下,対象者)は,再発と同時に再他害というイメージが先行しやすいかもしれないが,そこに至るまでの時間経過もさまざまであり,経済的問題を含めた心理社会的ストレスにさらされていることが多い.

 対象者の地域生活は,病状面の問題だけでなく,さまざまな課題にぶつかることが多く,医療,福祉,行政の連携した手厚い重層的支援体制が必要である.

 筆者は,社会復帰調整官であり,対象者の鑑定入院から処遇終了となるまで,一貫して介入型のケアマネジャーとして対象者支援にかかわっている.医療観察法制度が目的としている「対象者の社会復帰の促進」のためには,一面的にはリスクを冒す過程も必要になる場合もある.鶴見ら1)は「ストレングスとリスクマネージメントの融合」を示唆しており,本対象者へのかかわりには,そのバランスを常に考えながらの支援が要求される.筆者自身,対象者ごとにそのバランスについて悩んでいるのが実際である.

 ここでは,医療観察制度対象者が地域でどのような支援を受けているか事例を踏まえ報告する.読者の参考となることを願っているが,個人情報保護の観点から,事例については情報の変更をしている.

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Key Questions

Q1:医療観察法における地域処遇の実際とは?

Q2:触法精神障害者への支援のポイントとは?

Q3:触法精神障害者の地域支援におけるOTの強みとは?

はじめに

 医療観察制度は,①入院処遇から通院処遇への適切な移行と医療の継続,②指定通院医療機関における通院医療,保護観察所における精神保健観察,地域における支援の3要素の連携型のケア,③対象者・家族の希望やニーズの尊重,これら3点への配慮がガイドライン1)により明示され,あくまでも対象者へのかかわりの目的(ゴール)は社会復帰であるとされている2)

 今回,医療観察制度施行以前から再発・再犯により措置入院を繰り返し,医療観察法施行後にさらに再犯に至ったことで医療観察法制度の適用となった対象者への,医療観察法入院処遇中から通院処遇までの経過を振り返り,触法等,リスクが高い精神障害者の地域支援のポイントについて考えてみたいと思う(個人情報保護のため,事例は一部再構成している).

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Key Questions

Q1:医療観察制度におけるリスクアセスメントとは?

Q2:精神障害者のリスクアセスメントとは?

Q3:リスクアセスメントに基づいたストレングスアプローチとは?

はじめに

 精神障害ゆえに自傷や他害行為に至る場合がある.そのようなリスクのある対象者に対する的確なアセスメントは,精神医療に携わるすべての専門職に求められるものだが,現在,あらためてその必要性と重要性が高まっている.

 2018年(平成30年)3月27日に,法改正も含めたさまざまな議論を経て,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下,精神保健福祉法)に規定される「措置入院の運用に関するガイドライン」が見直された.この指針を受けて,いくつかの地方自治体では,措置入院患者本人の同意を得て退院後の支援計画を立案し,多機関と連携しながら継続的に地域生活の定着を支援する取り組みを開始している.こうした動きにおいて重要なのは,いうまでもなく,措置入院に至った精神障害の悪化のリスク要因やそのプロセスを入院中に的確にアセスメントしておくことである.

 その一方で,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)は,施行されて13年が経過した.社会復帰を促進することを目的とした医療観察制度では,2017年(平成29年)末までに4,562件の検察官による審判申立てがなされ,地方裁判所の入院決定により,3,073件の入院処遇が開始され,その件数も含めた2,485人の地域社会における処遇(通院処遇)が開始されている.そして,1,818人が医療観察制度の処遇を終了し,一般の精神医療および精神保健福祉へ移行している1).これは,心身喪失等の状態で重大な他害行為に至った医療観察対象者に対するリスクアセスメントとその継続的な支援の取り組みが,一般の精神医療や精神保健福祉に引き継がれていることを意味している.

 本稿では,医療観察制度におけるリスクアセスメントを紹介しながら,一般の精神医療を利用する事例に対する自傷・他害のリスクアセスメントとその具体的な介入方法も含めた技術的な解説を行ってみたい.

 本稿中の意見にかかわる部分はあくまで筆者らの私見ではあるが,精神障害ゆえの自傷や他害行為をより的確にアセスメントするうえでの参考になれば幸いである.

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Key Questions

Q1:刑事収容施設法によって刑務所において変化が起こった点は?

Q2:司法領域における作業療法の役割は?

Q3:司法領域における作業療法士の課題は?

はじめに

 2005年(平成17年)7月,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)が施行された.医療観察法の目的は,“病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,社会復帰を促進すること”であり,社会復帰に向けた治療やリハが明示され,指定入院医療機関,指定通院医療機関,そして社会復帰調整官等で役割を果たすOTが増加してきた.

 加えて刑事司法領域である刑務所や少年院において,出所予定の方を対象とした社会復帰プログラムを担当する専門職としてOTに依頼されることが多くなってきている.その背景には,2007年(平成19年)に,1908年(明治41年)以来法改正がされなかった監獄法が,「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下,刑事収容施設法)に改正され施行されたという歴史的変化が大きく関与していると思われる.

 本稿では,これまでの司法領域におけるOTの取り組みを振り返り,刑事収容施設法施行後の処遇の変化を概観し,今後この領域での活躍が期待されているOTの役割を考察する.

講座 作業療法士が知っておくべき認知行動療法・第3回

行動活性化と認知再構成法 大野 裕
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 前号では,認知行動療法の基本構造について,導入パート,相談・対処パート,終結パートの3つに分けて解説した.今回は,相談・対処パートで用いる認知行動療法の主要なスキルのうち,「行動活性化」と「認知再構成法」とについて説明することにしたい.

講座 VISITを活用する・第2回

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はじめに

 厚生労働省は,2015年(平成27年)4月にリハビリテーション(以下,リハ)およびリハマネジメントの機能強化を図るため,各種見直しを実施した.さらに,2016〜2017年度(平成28〜29年度)に「通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業」を実施し,リハの質改善に向けて必要となる客観的かつ標準化されたデータを効率的に収集するためのシステム(monitoring & eValuation for rehabIlitation ServIces for long-Term care:VISIT)を開発した.2018年度(平成30年度)介護報酬改定では,同システムを使って,アセスメント票やリハ計画書等のデータを厚生労働省に提出することを報酬上で評価するリハマネジメント加算Ⅳが新設され,国が継続的にデータを収集し,リハの質を評価できる仕組みが導入された(図 11)).

 他方,成長戦略と構造改革の加速化により日本経済の再生を目指す「未来投資会議」においても,介護にかかわる科学的データの収集とそれに基づく有効なサービスの分析等の仕組みの構築が提唱され,自立支援・重度化防止に向けた科学的介護の実現が「未来投資戦略2017—Society 5.0の実現に向けた改革」(2017年6月9日閣議決定)に盛り込まれた.なお,VISITは,これを具現化するための重要なツールとして位置づけられている.

 このように,VISITは,国の施策とも大きく関係しているが,当然,現場レベルで実践される生活期リハ/リハマネジメントのあり方にも大きく影響を及ぼすことになる.しかしながら,現時点では一部の加算算定事業所しか利用できないため,なじみのない読者も多いと思われる.

 そこで,本稿では,VISITに対する理解を深めるべく,①科学的介護の実現に向けたVISITの位置づけと活用イメージ,②データベース(以下,DB)作成に向けた事前準備,③VISITの利用手続きと主な機能,④VISITで収集されたデータの活用方法について解説する.

連載 作業療法にいかすビジョントレーニング・第3回

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視空間認知機能の簡単なチェック方法

 連載第1回でも解説したように,「視空間認知機能」は,目で見た情報を分析・記憶・加工する力のことで,自分や物が空間のどこにあるのかを把握する力も含んでいる.この力が弱いお子さんは,漢字がなかなか覚えられなかったり,図形問題が苦手であったりする.

 視空間認知機能のチェック方法として,ブロックやペグボードのペグを,見本の通りに上下左右を間違えずに置けるか確認するというものがある(図 1).左右を間違えている場合,左右認知がはっきりしていないと考えられる.

連載 作業療法を深める ㉖ネット依存,ゲーム依存

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はじめに

 現代人の生活においてインターネットは,仕事,学業,趣味,家事等,生活の多様な側面に広がり,多くの人々が利用している.IT技術の急速な発展は,インターネットを利用する簡便さを向上し,パソコン,スマートフォン,タブレット等,多様な方法で幅広い年代に取り入れられるようになり,情報検索やオンラインゲーム,ソーシャルネットワーキング・サービス(以下,SNS)を介した相互的なコミュニケーションをとることも,日常生活ではごくあたり前のこととなった.

 一方で,1990年代より,インターネットの過度の使用によって,日常生活の遂行,身体および精神的健康,社会生活に影響を及ぼす,いわゆる「インターネット依存(以下,ネット依存)」が世界的に社会問題化してきている.われわれが,厚生労働科学研究の一環として,2012年(平成24年)に全国約10万人の中高生に対して行った調査1)によると,男子生徒の6.2%,女子の9.8%の者にネット依存が強く疑われ,その数は約52万人と推計された.また別の厚生労働科学研究調査2)によると,2008〜2013年までの5年間に,成人でネット依存傾向にある者は1.5倍にも増大し,その推計値は420万とされる.

 実際の臨床場面でも若年層の受診が多く,久里浜医療センター(以下,当院)の専門外来では,中高生が全体の50%,大学生を加えると全体の70%を占める.最も依存しているネットサービスはオンラインゲームであるが,最近スマートフォンのサービスを使用する者が増えてきている.ネット依存症者においては,学業,家庭内関係,健康等への影響が大きく,遅刻,欠席,成績低下が多くの者にみられ,不登校,留年,退学,転校も少なからず認められる.また,ネット使用について,親に対する暴言・暴力はほぼ全例にみられ,昼夜逆転,ひきこもり等もまれではない.さらに犯罪につながるケースも認められる.

 合併精神障害を有する患者も一定の割合で認められ,ADHD,自閉症スペクトラム障害,社交不安等の合併頻度が高い.

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Abstract:OTは,人と作業と環境の観点から,クライエントの作業に焦点を当て,支援を行う専門職であるが,この専門性の理解は作業療法学生(以下,OTS)にとって容易ではなく,実習時期の影響もあり,自身の将来の仕事について知る機会が十分ではない.そこで,われわれは,早期作業提供実習プログラムを開発した.本プログラムは,作業療法教育の早期において,施設利用者集団に対して提供する作業をOTSが立案し,実施する機会を提供するものである.本研究では,2年生32名を対象者に,本プログラムによる職業アイデンティティと健康状態への効果を確認することを目的とした.統計学的分析を行った結果,プログラム前後に,作業に関する自己評価の「作業同一性」,SF-36®の「活力」,「精神的側面のQOLサマリースコア」に有意な得点向上がみられた.このことより,職業アイデンティティと精神的健康状態の向上における本プログラムの有用性が示唆された.

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Abstract:今回,OTとしてイスラム教徒が9割以上を占めるチュニジア共和国の発達障害児・者通所施設において,ADLにかかわるプログラムを行う機会を得た.プログラム中,知的障害のある児の発言から整容におけるイスラム教徒としての意味に気づき,周囲のスタッフに共有した.そのことから二者間の内的期待と外的期待のずれが減少し,結果として児のイスラム教徒としての作業(整容)を保障することとなり,児のプログラム参加での積極性や整容に対する発言に変化がみられた.特に,宗教的側面の強い作業は,クライエントのみならず,信仰を共有する人々・集団からの情報収集,宗教を基盤とした共同体意識への働きかけがクライエントを支える周囲のサポートを拡大させる大切な要素になることが考えられた.OTは,同じイスラム教徒でなくとも,作業・それを行う人・周囲の人を含む環境に視点を置き,つないでいくことで,宗教にまつわる作業も支えていくことができることが示唆された.

わたしの大切な作業・第10回

1日1回運動すること ちばてつや
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 元来出不精なボクは、ウチに引き籠もって机に向かうのが仕事の「マンガ家」になったことから、ますます外に出る機会も少なくなり、そこへ持ってきて典型的な夜型人間。

 気がつけば顔はローソクのように青白く、血管が透けて見えるほどに不健康な身体になっていました。

提言

未知と既知 田中 栄一
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 筆者の所属する病院には,長期療養を続ける筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症等,小児期発症の神経筋疾患の方々が生活している.近年の高度医療の恩恵で,青年期から成人期へと生活期間の改善が可能となり,かつては想定していなかった未知の領域への対応が求められている.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第50回

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人生100年時代を豊かなリハビリテーション・マインドで健康に生きるための頼りになる技

 健康寿命が世界一の長寿社会を迎え,2007年に日本に生まれた子どもが107歳まで生きる確率が50%もあるという.1990年代に長寿で有名になった双子の姉妹といえば,きんさん・ぎんさんである.きんさんは107歳,ぎんさんは108歳まで生き,「100歳を超えても元気な姿」をTV等で見せ,当時の日本人に「理想の老人像」を示してくれた.当時日本作業療法士協会長であった私は,「100歳の人数とOTの人数はほぼ同じ.急速な伸び率もほぼ同じ.共に頑張ろう」,「OTはきんさんぎんさんのポジティブライフに学ぼう」とあちこちで呼びかけた.2018年の現在,100歳以上の日本人は6万7,824人,OTは有資格者数約8万人と,共に順調な伸びを続けている.人は誕生から終末までの人生の折々の時期に「作業=生活行為のできる化」の専門職であるOTが必要となる.そのときに「頼りになる技」をしっかり届けよう.同時に,セルフOTによって自分自身を健康に生きさせよう.

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事例提示

A氏.90代,女性.趣味は手芸,要介護2,デイサービス利用 3回/週

基本性格:短期記憶障害を伴う認知機能障害はあるが,楽天的で温厚な性格.同居の孫との野球番組観戦や,手芸が趣味で,晩酌も楽しみにされており,お肉が大好物.義歯がないことが自慢

既往歴:子宮筋腫(X-41年),腰椎圧迫骨折(X-5年),認知症

現病歴:X年Y月,体動時の息切れや気分不良,前胸部痛で近医にて検査したところ,鉄欠乏性貧血の診断があり,O病院にて入院精査し胃がんと診断された.家族の希望によりA氏にがんの告知はせず,胃潰瘍による貧血と伝えられた.がんの根治的治療は行わず,症状緩和を行うこととなった.

家族:夫とは死別し,長女夫婦と孫(男性)の四人暮らし.隣市に次女や孫(看護師),他県に三女が在住する.主介護者の長女は介護に積極的で,献身的に取り組まれ,細部まで気になる傾向が認められる.同居の孫も積極的にかかわり,A氏の居室で自分の仕事をしたり,一緒にテレビを観たりされ,好きなパンを買いに行くようなドライブにも連れ出してくれる.次女親子も毎週のように通ってきてくれる.

経過(表):

 X年Y+1カ月,輸血により貧血症状軽快し自宅退院され,同月よりデイサービス 3回/週,1回/週ずつ訪問看護と訪問リハの利用が開始となった.

Y+10カ月の入院時経過

 咳をしたときに血痰が出たのでO病院に入院となる.A氏は病識がないために不穏で,自宅生活を強く望まれた.長女以外の家族は,長女の介護負担の大きさを心配して入院の継続や緩和ケア病棟への入院等を検討されたが,長女の強い希望により5日で退院された.主治医より,「A氏の希望と主介護者の希望を叶えたい」と他の家族に説明があり,皆納得された.このとき,受診困難な場合の往診や疼痛コントロールの内服薬変更等も主治医より提案してもらい,家族の安心は増していた.

Y+14カ月4〜40日の入院時経過

 疼痛コントロール困難な時間が増えており,家族から訪問看護師に相談がある.主治医とも相談し,オキシコドン塩酸塩水和物散(以下,オキシコドン)が処方された.自宅で5日間,疼痛増悪時に内服し,少し傾眠傾向は気にされていたが,疼痛は軽減したので家族も安心された.しかし長女はオキシコドンが麻薬であるということを十分認識しておらず,それを知ったことをきっかけに入院加療に切り替わった.A氏は疼痛コントロールが良好なときには帰宅願望が強くなりやすかった.食欲もあり,入院5日目から在宅中と同様にリハ介入を開始した.臥床傾向だったが,気分のよいときを見計らって作業療法室での編み物作業を提案したところ,熱心に取り組まれた.数日後に訪れる長女の誕生日はしっかりと記憶しておられ,そのときに贈れるようにと,かぎ針でアクリルたわしを作制された.1作品目は不具合を自分で修正しつつ,見守りレベルで完成した.少しいびつさがあるものの完成度は十分とOTは判断したが,A氏は納得できず,2作品目に挑戦した.そしてさらに2日ほど20〜30分の作業に従事し,作品を完成された.A氏に前日の記憶はないため,病室でお誘いするときに昨日の活動の話をすると,「それじゃあ続きをせんといけんね」と車いすで作業療法室に向かうのが日課となった.2作品目はとてもきれいに完成し,「ありがとう」という言葉を自筆で書いたカードを添えた.誕生日の翌日から3作目に挑戦しはじめたが,作業能力は急激に低下して介助でも作業は進まなくなった.車いす移乗もつらくなり,ベッドサイドで気分がよいタイミングを見つけながらのかかわりを5日間継続し,緩和ケア病棟のあるP病院に転院された.

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 PT・OTの養成カリキュラムが改定される予定(2020年入学生より適用)で,その素案が明らかになってきた.その中で,臨床実習は診療参加型臨床実習(clinical clerkship:CCS)を推奨するとされている.PT協会とOT協会も,今後CCSを奨めていくようである.CCSとは何かの説明もなくCCSに移行してよいのか,また臨床実習(以下,実習)の質の向上のために何を整備すべきかについて,筆者の見解を述べる.

ひとをおもう・第11回

痕跡に接続する 齋藤 佑樹
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 重度の認知症を抱えるキミさんが,廃用症候群やBPSDの改善を目的に回復期リハ病棟に入院してきました.入院直後から病棟の中を歩き回り,「私はどこに行けばいいんですか?」と,すれ違う人,皆に質問しながら,不安そうな表情を浮かべています.

 前院からの申し送りには,“昔から歌うことが大好き”との情報が記載されていました.転院時の各書類を確認し,さっそく私は不安そうに歩き回るキミさんに声をかけ,一緒に作業療法室へと向かいました.作業療法室には,料理の練習をする人,習字をしている人,PCの練習をしている人……さまざまな作業に従事する人たちがいました.

昭和の暮らし・第26回

日光写真 市橋 芳則
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 科学玩具の代表格でもある日光写真はサンピクチャー等とも呼ばれ,印画紙(感光紙)の上に種紙を置き,それを太陽の光にさらすことによって印画紙が感光し,写真ができ上がるものである.種紙に描かれた柄が光を遮り印画紙が感光しないため,絵柄とは白黒が反転した写真ができ上がる.ただし,定着液を用いないので,数日で画像は消えてしまう.

 種紙は,トレーシングペーパーのような光を通す薄い紙にモノクロで印刷されている.大きなシートに何枚もの絵柄が並んでいて,そこから一枚一枚を切り離して使用する.絵柄は時代によって変化しており,戦前のものでは道徳,戦時下の暮らし,時代劇等が描かれ,昭和30年代に入るとテレビ等に登場するキャラクターや人気俳優が多く用いられるようになってくる.

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目次

表紙のことば/今月の作品

次号予告

研究助成テーマ募集

Archives

第54巻表紙作品募集

学会・研修会案内

編集後記 長野 敏宏
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 本号の特集は精神科領域,現在の重点事項「脱施設化」,「地域包括ケア」,そのプロセスとしての「多様な精神疾患に対する対応」,「アウトリーチの充実」に対し示唆に富む内容で,とても読み応えがあった.すべてのOTの皆さんに読んでいただきたい.読まれた方は未読の方へ,ぜひ紹介してほしい.

 日々の現場で感じている印象にすぎないが,OTにかかわらず,医療福祉関係者は「司法・触法」という枕詞がつくと,それだけでかかわりを断ることが多い.「依存症の治療は行っていない」,「発達障害は断る」等といった精神科医療機関のことも耳にする.ようやく医療的支援を受けようとされた方が路頭に迷うことも少なくなかろう.特集の中でも何度も触れられているが,どのような状況の方でも支援の基本は変わらない.経験豊富な機関や先輩にアドバイスを受けながら,あらゆる方とかかわることを拒否しないOTでいてほしい.もちろん,私たち医師をはじめ,すべての職種にいえることで,自身にもいい聞かせ続けたい.

基本情報

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作業療法ジャーナル
53巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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