- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
事例提示
A氏.90代,女性.趣味は手芸,要介護2,デイサービス利用 3回/週
基本性格:短期記憶障害を伴う認知機能障害はあるが,楽天的で温厚な性格.同居の孫との野球番組観戦や,手芸が趣味で,晩酌も楽しみにされており,お肉が大好物.義歯がないことが自慢
既往歴:子宮筋腫(X-41年),腰椎圧迫骨折(X-5年),認知症
現病歴:X年Y月,体動時の息切れや気分不良,前胸部痛で近医にて検査したところ,鉄欠乏性貧血の診断があり,O病院にて入院精査し胃がんと診断された.家族の希望によりA氏にがんの告知はせず,胃潰瘍による貧血と伝えられた.がんの根治的治療は行わず,症状緩和を行うこととなった.
家族:夫とは死別し,長女夫婦と孫(男性)の四人暮らし.隣市に次女や孫(看護師),他県に三女が在住する.主介護者の長女は介護に積極的で,献身的に取り組まれ,細部まで気になる傾向が認められる.同居の孫も積極的にかかわり,A氏の居室で自分の仕事をしたり,一緒にテレビを観たりされ,好きなパンを買いに行くようなドライブにも連れ出してくれる.次女親子も毎週のように通ってきてくれる.
経過(表):
X年Y+1カ月,輸血により貧血症状軽快し自宅退院され,同月よりデイサービス 3回/週,1回/週ずつ訪問看護と訪問リハの利用が開始となった.
Y+10カ月の入院時経過
咳をしたときに血痰が出たのでO病院に入院となる.A氏は病識がないために不穏で,自宅生活を強く望まれた.長女以外の家族は,長女の介護負担の大きさを心配して入院の継続や緩和ケア病棟への入院等を検討されたが,長女の強い希望により5日で退院された.主治医より,「A氏の希望と主介護者の希望を叶えたい」と他の家族に説明があり,皆納得された.このとき,受診困難な場合の往診や疼痛コントロールの内服薬変更等も主治医より提案してもらい,家族の安心は増していた.
Y+14カ月4〜40日の入院時経過
疼痛コントロール困難な時間が増えており,家族から訪問看護師に相談がある.主治医とも相談し,オキシコドン塩酸塩水和物散(以下,オキシコドン)が処方された.自宅で5日間,疼痛増悪時に内服し,少し傾眠傾向は気にされていたが,疼痛は軽減したので家族も安心された.しかし長女はオキシコドンが麻薬であるということを十分認識しておらず,それを知ったことをきっかけに入院加療に切り替わった.A氏は疼痛コントロールが良好なときには帰宅願望が強くなりやすかった.食欲もあり,入院5日目から在宅中と同様にリハ介入を開始した.臥床傾向だったが,気分のよいときを見計らって作業療法室での編み物作業を提案したところ,熱心に取り組まれた.数日後に訪れる長女の誕生日はしっかりと記憶しておられ,そのときに贈れるようにと,かぎ針でアクリルたわしを作制された.1作品目は不具合を自分で修正しつつ,見守りレベルで完成した.少しいびつさがあるものの完成度は十分とOTは判断したが,A氏は納得できず,2作品目に挑戦した.そしてさらに2日ほど20〜30分の作業に従事し,作品を完成された.A氏に前日の記憶はないため,病室でお誘いするときに昨日の活動の話をすると,「それじゃあ続きをせんといけんね」と車いすで作業療法室に向かうのが日課となった.2作品目はとてもきれいに完成し,「ありがとう」という言葉を自筆で書いたカードを添えた.誕生日の翌日から3作目に挑戦しはじめたが,作業能力は急激に低下して介助でも作業は進まなくなった.車いす移乗もつらくなり,ベッドサイドで気分がよいタイミングを見つけながらのかかわりを5日間継続し,緩和ケア病棟のあるP病院に転院された.
Copyright © 2019, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.