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Key Questions
Q1:他害行為後の司法の処遇の流れとは?
Q2:司法領域の人材育成とは?
Q3:精神保健福祉法の改正とは?
はじめに
2001年(平成13年)に大阪府池田市で発生した小学生無差別殺傷事件を契機に,2005年(平成17年)7月,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)が施行された.これは重大な他害行為を行った精神障害者の治療および地域での処遇,社会復帰を規定する制度であり,欧米における司法精神医療制度に当たるものである1).欧米での司法精神医療制度は約100年前より実施されており2),日本においてもこの対象層に何らかの対策や制度が必要なのは明白であったが3,4),医療観察制度により,遅ればせながら欧米に並び,司法精神医療制度の出発点に立つことができた.
作業療法の面からこの制度の動きを概観すると,鑑定入院医療機関,指定入院医療機関,指定通院医療機関にはOTの人員配置が位置づけられている.さらに法務省の保護観察所の社会復帰調整官にもOTが採用されるようになったことは,本領域の新たな道がOTに開かれたことを意味している.欧米の司法精神科医療の中では,司法精神科作業療法の実践が進み,確立されてきた経緯がある.日本でも同様に,本制度の中での立場や役割を通し,臨床上の作業療法の実践が進んだことによって,この十数年で司法領域の作業療法という分野が作業療法の中で確立されてきたのではないだろうか.同時にそれは,関係職種や法務省を代表とする司法関連機関から作業療法が確実に認知されてきた経緯でもあると考えている.この分野では情報も少なく,臨床上の同僚も少ない中,おのおのの立場でOTが臨床を積み重ねた結果であることは明白で,尽力されたOTには敬服する次第である.
司法分野でのOTの臨床上の積み重ねが,以下の動きにも影響を及ぼしていると考えている.1つめは,2016年(平成28年)7月に起きた相模原市の障害者支援施設における殺傷事件(以下,相模原事件)である.この事件を契機に現在,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下,精神保健福祉法)の改正が図られようとしており,特に,措置入院制度に関する精神保健指定医制度の質の担保と同時に,措置入院対象者の処遇システムが法改正5)によって変わろうとしている.2つめに,法務省の矯正局の管轄である刑務所・少年院において,認知機能強化トレーニング,認知作業トレーニングが,犯罪者として取り扱われた障害者を対象としてパイロット的に展開されている.本特集の宮口氏の報告を参照していただきたい.この2つの動きの中で,新たなシステムや新たな領域において,OTのさらなる貢献が求められているのである.
医療観察制度によって司法精神科の作業療法がスタートし,その臨床上の実績から,新たな段階と広がりを迎えようとしている.本特集では司法分野での新たな動きを確認することになるであろうが,本稿においては,現場のOTより司法の処遇のわかりづらさを指摘いただいた経緯もあり,司法の基本的な処遇の流れと,犯罪と触法の定義を確認したうえで,司法分野の人材育成の必要性について展開する.また,司法分野に関連する精神保健福祉法の新たな動きについて付加したいと考えている.
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