産婦人科の実際 67巻5号 (2018年5月)

特集 卵巣癌の手術up to date

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卵巣癌手術の目標は最大限の腫瘍減量maximum debulkingを行うことである。進行卵巣癌症例の標準治療は,初回手術(PDS)を行った後に化学療法を行うことである。PDSに対して術前化学療法(NAC)後にinterval debulking surgery(IDS)を行うNAC-IDSを比較したJCOG0602試験の予後に関する結果も待たれるが,NAC-IDSはPDSに比較し,低侵襲性で完全手術完遂率が高く,ASCO,SGOのExpert Panelからも周術期高リスク症例や残存腫瘍径が1cm未満にできないと予想される症例にはNAC-IDSが勧められている。

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卵巣癌の手術療法は,残存腫瘍径を指標とする腫瘍減量術(PDS)と術前補助化学療法(NACT)や術後化学療法など化学療法との併用を前提として進歩してきた。Optimal surgeryの定義は残存腫瘍径2cm以下から1cm以下となり,それを目指した拡大手術が一部の施設において積極的に行われるようになってきた。しかし,すべての患者に拡大手術を目指すのではなく,R0可能な患者の選別こそが肝要であり,そのための新たなアプローチとして審査腹腔鏡を用いた観察や腫瘍生検の分子生物学的解析が注目される。近年のランダム化比較試験においてNACTがPDSに対して非劣性であることが明らかになってきた。今後はNACTが有効な患者の選別が重要になってくるであろう。ゲノム医療がいよいよ実装化され,個別化医療が確実に浸透している婦人科がん医療において,手術もまた症例の選別という意味では個別化が重要なキーワードとなってくる。

2.Staging laparotomy 田部 宏
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各癌腫の早期がんに対する術式は,がんが明らかに認められる原発臓器の摘出だけでなく,がんが転移している可能性が高い臓器の摘出まで推奨されることが多い。これはがんの広がりを確認する診断的意義と,転移している臓器を摘出することで予後をよくする治療的意義の2つがあり,前者の意義で行われる手術手技をStaging laparotomy(ステージング手術)という。この稿では早期卵巣癌に対するステージング手術に関して,その手技と臨床的意義に関し近年報告されている論文も参考とし述べてみる。

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進行卵巣癌の予後改善には最大限の腫瘍減量手術が重要である。これまでの後方視的検討では,腫瘍減量手術として系統的な後腹膜リンパ節郭清は進行例の予後を改善する可能性が示唆されてきたが,臨床的にリンパ節転移が明らかでない場合のリンパ節郭清の役割は前方視的に証明されていない。この状況下,2017年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたLION試験では術前にリンパ節転移が指摘されない進行卵巣癌症例の56%にリンパ節転移が確認されたにもかかわらず,リンパ節郭清の有無で予後が改善されない結果であった。この結果を受け,病変の可及的な完全切除をゴールとして,骨盤および傍大動脈リンパ節郭清は省略される方向へ向かう可能性がある。

4.PDSにおける腫瘍減量術 奈須 家栄
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進行卵巣癌の手術に際しては,病巣の肉眼的完全摘出を目指した最大限の初回腫瘍減量術(PDS)を行うのが原則である。しかし,積極的にPDSを行うには,上腹部の手術操作や骨盤内臓器の合併切除,後腹膜リンパ節郭清などの技術の習得,他科との協力体制の構築など,様々な課題が存在する。また,画像診断を含めた術前の評価により,optimal surgeryの可否を正確に判定し,PDSが予後の改善に寄与できる症例を正確に抽出することが重要である。

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Neoadjuvant chemotherapy(NACT)/interval debulking surgery(IDS)で完全切除率は上昇するものの,必ずしもその完全切除手術には良好な予後が伴っていないと指摘されている。重要なことは,NACTの役割が「腫瘍の消失ではなく,腫瘍の縮小であること」を認識しIDSを行うことである。筆者らは,IDS完全切除例における予後を不良にさせる理由の1つに,NACTにより腹腔内の播種巣が消失したように肉眼的に見えるため,IDS時に,見えなくなった腫瘍の取り残しと考えている。また,NACT/IDSのメリットは手術手技を縮小させることで周術期の合併症を下げることではなく,手術手技を縮小させなくても周術期の合併症を下げることであると考えられる。

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卵巣癌は,患者の約2/3は進行期で発見されて初回治療が行われ,進行卵巣癌症例の大半が再発する予後不良な癌腫である。再発卵巣癌に対する治療の主体が化学療法であることは論を俟たないが,2017年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)において,プラチナ製剤感受性再発卵巣癌に対する腫瘍減量手術(SDSあるいはSCS)の有用性を示唆する重要な臨床試験の結果が報告された。この臨床試験AGO DESKTOPⅢ/ENGOT ov20の解説と,再発卵巣癌に対するSDSの手技の実際として,左上腹部手術である 1 脾臓・膵臓尾部切除,2 326 latero aortic a1およびa2リンパ節切除,の2つの術式について解説する。

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進行卵巣癌では,残存腫瘍の最大径を1cm未満にすること(optimal surgery)により予後が改善するため,最大限の腫瘍減量手術が行われる。進行卵巣癌では,原発巣の直接浸潤や腹膜播種による直腸浸潤を伴うことも多い。この場合,直腸合併切除術を行うか否かは,患者の予後だけでなくQuality of Lifeにもかかわることであり,非常に悩むところである。本稿では,消化器合併切除のなかでも,特に卵巣癌の直腸浸潤について,直腸合併切除術の適応と実際の手技に関して概説する。

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腹腔内に多数の播種を伴った低異型度漿液性癌の1例を提示する。術前にCTにて脾門部に腫瘤を認めたため摘出手術を行い,摘出後の脾門部の触診にて残存腫瘍がなく,PDS(primary debulking surgery)によるcomplete surgeryであったと思われた症例である。しかし,術後CTにて脾門部に残存する石灰化病巣があることが判明し,化学療法を6コース施行した後,脾摘を行ったところ,病理診断は低異型度漿液性癌であった。画像診断の重要性を再認識させられた1症例である。このような症例を皆で共有し,今後の診療に役立てていただきたい。

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卵巣癌ⅢC期に対するprimary debulking surgery(PDS)後に発生した,難治性リンパ囊胞の対応に苦慮した痛恨の症例を経験した。PDS後2カ月で骨盤内に多発するリンパ囊胞を認め,穿刺排液やドレナージ,ミノマイシンや無水エタノールによる硬化療法,経リンパ節リンパ管造影塞栓術などの各種治療を実施したが難治性であった。発症から軽快までに3カ月を要し,うち入院期間は38日間に及んだ。さらに,リンパ囊胞の軽快直後より両下肢リンパ浮腫が出現し,リンパ管吻合術やリンパ管移植術が必要となった。後腹膜リンパ節郭清は卵巣癌の標準術式に含まれ,その診断的意義は確立しているが,治療的意義は不明とされている。リンパ節郭清に伴う術後合併症・後遺症のリンパ囊胞やリンパ浮腫は,患者のQOLを著しく低下させる病態であり,その実施には十分な説明や配慮が必要である。

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腹腔内の広範囲に播種性転移を認める進行卵巣癌の予後を改善させるためには,手術にて残存腫瘍を認めないcomplete surgeryをなし遂げることが重要である。ただし,そのためには従来の婦人科手術の枠を超え,消化器外科のスキルが必要である。それを習得するために必要なことは,「Human Cadaver Training」「Animal Lab Training」,そして「On the Job Training;OJT」にて研鑽を積むことである。特にOJTは,従来のシステムでは現実的に実施困難であるため,婦人科腫瘍医のための新しい「外科研修」システムを構築することが大切である。本稿ではこれらを踏まえて,わが国における外科的トレーニングの現状と展望を考察する。

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子宮頸癌・子宮体癌に対する鏡視下手術が保険ないし先進医療で認められ,卵巣癌に対しても鏡視下手術の導入・適応拡大が期待されている。広範囲に及ぶ病変の根治的切除は容易でなく,腹腔鏡・ロボット手術それぞれに手技上の限界もあり,安易な適応拡大は慎む必要はあるものの,鏡視下手術と悪性腫瘍手術をすでに取り扱っている施設では安全性と有用性が期待できる術式もあり,今後の発展性が期待される。

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腹腔内温熱化学療法(HIPEC)は,腹腔内を加温した状態で抗がん剤を直接投与する治療法である。2018年1月,van Drielらは,New England Journal of Medicineに新たな多施設第Ⅲ相ランダム化比較試験の結果を報告した(OVHIPEC試験;NCT00426257)。この報告では,卵巣癌Ⅲ期症例に対し術前化学療法施行後のIDS時にHIPECを1回行うだけでOSを約12カ月延長させ,重篤な有害事象もなく,手術時間を2時間,ICU入室も1日追加するのみであった。この報告は実臨床上大きなインパクトを与えることとなった。本稿では,当院での経験を踏まえHIPECの実際を報告する。

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妊孕性温存手術を行う際,類内膜癌と粘液性癌では後腹膜リンパ節は生検が適切かもしれない。手術時に正常にみえる対側卵巣の生検は省くべきかもしれない。術中迅速組織診断ができない場合,行っても病理医が確定的な診断を下せないと判断した場合には二期的手術の選択が賢明であろう。強固な癒着がある場合は癒着面に腫瘍細胞の露出を伴うか否かの確認が必要であろう。患側の腫瘍摘出術は不可と考えるが不可とするに足るエビデンスはない。前方視的臨床試験であるJCOG1203は,主解析対象例はもちろん,非主解析対象例の検討からより望ましい術式に関しても示唆を与えるかもしれない。

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遺伝性腫瘍における臨床目標の1つが,「病的バリアント保持者(遺伝子変異保持者)に対するがん死低減」である。遺伝性腫瘍に対するリスク低減手術はわが国においても実施施設では着実に実地臨床に導入されている。本稿においては,リスク低減卵管卵巣摘出術の効果およびその対象となる遺伝性腫瘍の概要を中心に,実際の手術手技のポイントについて述べる。その実施にあたっては,オカルト癌の可能性を念頭に病理学的に詳細な検討を行うことや,遺伝診療部門との堅実な連携体制を構築し,十分な遺伝カウンセリングを行うなど,他診療科との体制整備が必要である。

アメリカ臨床遺伝学会(ACMG)ガイドラインの表記に従い,最近では,「変異(mutation)」の代わりに「バリアント(variant)」が使われるようになってきている。もともと変異という言葉に否定的な響きがあり,また定義そのものがあいまいで混乱をきたすということを理由に,最近はこうした表現をやめ,代わりにバリアント(多様体)という言葉を使うことが推奨されており,本稿ではバリアントという表記に統一する。

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卵巣癌根治術は,肉眼的完全腫瘍切除を目標とし,子宮・両側付属器・大網切除の基本術式に加え,後腹膜リンパ節郭清や他臓器合併切除も高率に行われうる拡大手術である。それゆえ,様々な部位における出血時の対処法,他臓器損傷に対する修復法,および術後合併症を予防する術を常に念頭に置き,術中トラブルを避けることはもちろん,いかなる術中トラブルにも対応できる万全の体制で手術に挑むべきである。

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従来,子どもの健康教育は学校と家庭とが連携することが大前提であったが,社会情勢の変化から徐々に難しくなってきている。震災がきっかけとなり,妊婦支援が性教育へ拡大したことや,肥満などの健康課題がより重要視された。しかし,成果として現れるには多くの課題があり,子ども自身が考え行動するように行動変容を促す取り組みが鍵を握る。震災により大きな影響を受けた福島が,何を学び,そしてこれからどこへ向かうのか。真の復興に向けたこれからの取り組みが問われている。

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無痛分娩は,疼痛緩和や呼吸器・循環器系の負荷軽減から,健常な妊婦だけでなくハイリスクな分娩においてメリットが多い。対して無痛分娩は,分娩第2期遷延や異常分娩の増加に伴い,帝王切開率の上昇が危惧される。本研究では2015年当院で行った正期産症例に対し,無痛および非無痛分娩に分け帝王切開率などに関して後方視的に検討した。単変量および多変量解析にて無痛分娩は帝王切開率の上昇させないことが示唆された。

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子宮体癌の診断における鋭匙による子宮内膜組織診と吸引組織診の有用性を比較検討する。2011年1月~2015年12月に当科で実施した889回の子宮内膜組織診のうち,子宮内膜全面搔爬術もしくは子宮摘出により組織の確認をしえた316症例を対象とした。鋭匙による子宮内膜組織診群(A群:127例)と吸引組織診群(B群:189例)の2群に分類した。A群では感度87.5%,特異度100%,PPV 100%,NPV 92.9%,正診率95.3%,B群では感度90.2%,特異度100%,PPV 100%,NPV 95.5%,正診率96.8%であり,両群間に有意差を認めなかった。合併症においてもその頻度に有意差を認めなかった。

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患者は月経不順を主訴に来院した35歳の女性である。経腟超音波検査およびMRIで骨盤内に最大径10cmの腫瘤を認め,腫瘍摘出術を施行した。術中所見で卵管から発生する腫瘍を認め,腫瘍子宮側の卵管捻転による卵管の浮腫状変化を認めた。病理組織像で2胚葉成分を含んでおり,卵管から発生した成熟奇形腫の診断となった。奇形腫が卵管から発生することは非常に稀であり,術前に診断することは難しく,術中や術後に診断されることが多い。よって,画像診断で正常卵巣が確認できる骨盤内腫瘤を認めた場合は,卵管奇形腫も鑑別診断として考える必要がある。

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リベド血管症は下肢を中心に疼痛を伴う網状斑を生じ,潰瘍を形成する原因不明の疾患である。その病態には血栓形成による血行障害との関連が示唆されている。今回,リベド血管症で治療中の症例に生殖補助医療を行い,妊娠および生児を得た1例を経験した。症例は36歳女性,未経妊。28歳時にリベド血管症の診断を受け,治療開始された。生殖補助医療を希望して当院紹介となる。採卵後に卵巣過剰刺激症候群を発症し,入院加療を要したが,ホルモン補充周期の凍結融解胚移植で妊娠成立した。リベド血管症に対する治療を継続したことで,臨床症状が増悪することなく順調な妊娠経過をたどり,生児を得た。リベド血管症と妊娠,分娩についての報告例はいまだ少なく,今後の症例の蓄積が望まれる。

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産婦人科の実際
67巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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