特集 フローチャートでわかる 婦人科外来診療パーフェクトブック
Ⅲ 腫瘍
32.出血性黄体囊胞,卵巣出血
國富 千智
1
,
西井 修
1
C. Kunitomi
1
,
O. Nishii
1
1帝京大学医学部附属溝口病院産婦人科
pp.1307-1310
発行日 2024年11月1日
Published Date 2024/11/1
DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000003167
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卵巣出血は急性腹症を呈する婦人科救急疾患の1つである。急性腹症の定義1)を急激に発症した腹痛のなかで緊急手術を含む迅速な対応を要する腹部疾患群とした場合,卵巣出血は急性腹症の原因としてはそれほど頻度が多くはない2)。発症年齢は生殖年齢全般にわたる。症状としては急性の下腹部痛が主であり,悪心,嘔吐,下痢を伴う場合もある。出血量が多くなると血圧が低下し,ショック状態をきたす場合もある。原因としては外因性,内因性,特発性に大きく分けられる(表1)3)。外因性ではART治療などの採卵や内膜症や悪性腫瘍などの卵巣への波及による出血が挙げられる。内因性としては,抗凝固薬の服用など全身性の血液凝固異常が挙げられる。特発性は正常と思われる月経周期での止血機構の破綻によるもので,大きく卵胞出血と出血性黄体囊胞からの出血がある。卵胞出血は排卵時に卵巣表層部分の破綻部からの出血である。出血性黄体囊胞は,排卵時に生じた血液が黄体内に貯留して血腫を形成したもので,新生血管の増生により出血をきたしやすい状態である。性交渉などのなんらかの原因によって出血性黄体囊胞内の血管が破綻すると,卵巣外へ大量出血をきたす。卵巣出血の原因で最も多いのが出血性黄体囊胞からの出血であり,腹腔内への出血は卵胞出血より多くなる。黄体は排卵後1週間程度で最も大きくなるため,月経1週間前の時期が好発である。また左卵巣は直腸,S状結腸が緩衝するため右側のほうが卵巣出血の頻度が高い(60~80%)4)5)。臨床的に重要な鑑別疾患としては異所性妊娠が挙げられる。
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