産婦人科の実際 67巻4号 (2018年4月)

特集 エキスパートの内視鏡手術―コツとピットフォールⅡ

企画者のことば 堤 治
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本企画は前号の「エキスパートの内視鏡手術―コツとピットフォールⅠ」の姉妹編である。先に述べたように。婦人科領域では内視鏡手術の応用が進み,安全で安心な手術として広く普及,定着し,産科婦人科の必修技術として認識されつつある。医学生や初期研修医が内視鏡というサブスペシャリティーの魅力にひかれて産婦人科を選ぶ時代になったといっても我田引水とそしられることはあるまい。

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卵巣囊胞は,生殖年齢によくみられる疾患である。卵巣チョコレート囊胞はいうまでもないが,それ以外の囊胞であっても囊胞摘出術による卵巣機能低下のリスクがある。手術を行うにあたって注意すべきことは,まず卵巣実質と囊胞の間の適切な層で剝離を行うことにより,卵巣実質を温存すると同時に出血を最小限に抑えることである。次に,出血点を正確に同定することにより,止血操作を最小限にとどめるようにする。卵巣囊胞摘出術は主に生殖年齢に対して選択される術式であるが,囊胞を残存なく摘出すると同時に卵巣機能を可及的に温存する必要があり,丁寧で繊細な手術操作を行うよう常に心がけなければならない。

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子宮内膜症性囊胞は疼痛や不妊を主訴とし,腹腔鏡下囊胞摘出術の適応となる。最近,抗ミュラー管ホルモン(AMH)などを指標とした検討で術後の卵巣予備能の低下が危惧されている。卵巣実質への侵襲を最小限に留め,囊胞壁を摘出するには,実質と囊胞壁の境界を明瞭にし,適切なパワーソースを使用することがコツであり,不用意な出血は盲目的な止血操作を必要とし,特にバイポーラーの多用は卵巣機能低下というピットフォールに陥りかねない。子宮内膜症そのものが卵巣予備能を低下させ,手技の工夫によりむしろ卵巣予備能は改善しうるという観点から当センターで実施している囊胞摘出術を具体的に提示する。

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深部子宮内膜症は,ダグラス窩腹膜に好発する最も重篤な子宮内膜症の病態とされる。ダグラス窩深部子宮内膜症に対して薬物療法の効果が乏しい症例には外科的治療が適応となり,近年では腹腔鏡下手術が一般的である。しかし深部子宮内膜症病変の摘出には腸管や尿管などへの損傷のリスクがあり,これを回避するための一貫した手順による施術が必要とされる。本稿では合併症を起こさないためのダグラス窩深部子宮内膜症病変の腹腔鏡下摘出法を述べる。

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子宮腺筋症に対する根治療法は,子宮全摘出術である。一方,子宮腺筋症は流産と着床障害に関連するといわれており,妊娠高齢化により腺筋症合併不妊症は増加しているにもかかわらず,妊孕性温存の場合の治療方針や手術術式は未確立である。妊孕性改善に加え,術後の妊娠・出産という機能温存・改善を目的とする場合,まずは手術適応を十分検討した上で,腺筋症病巣の十分な摘出と,残存筋層の再建形成による子宮筋菲薄化予防に留意した術式が必要である。

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異所性妊娠は,近年の超音波断層法の普及や高感度ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)検出薬の登場により,破裂前の無症状の時期に発見される例が増えている。また,腹腔鏡下手術の進歩や普及に伴って,多くの異所性妊娠に対して腹腔鏡下手術が適用される例が増えているものと思われる。異所性妊娠に対しては,根治手術と妊孕性温存を目的とした保存手術が行われているが,卵管保存手術の場合には,絨毛が遺残してその後破裂するなどのpersistent ectopic pregnancy(PEP)と,手術した患側に再び妊娠する反復妊娠が欠点として挙げられる。患者年齢,背景,将来の妊孕性温存の希望などに応じて術式を選択する必要がある。

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女性の不妊原因として最も頻度の高い卵管不妊に対して,卵管鏡下卵管形成システムの開発が卵管内腔の観察と卵管通過障害の有効な治療を可能にした。低侵襲で高い治療効果を有する本システムは子宮頸管からのアプローチが基本であるが,腹腔鏡下に腹壁からアプローチし,行うことができる。安全に使用するためのルールと技術修得は重要であるが,安全かつ効果の高い治療法であり,合併症として術中に卵管に穿孔したとしても大きな課題を生じることはない。通過性回復効果は97%および再度癒着を生じる10%に対しても再治療が可能である。

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先天性の子宮形態異常では,まずは系統だった診断をして個々の症例の子宮形態の状態を把握することが,手術の要否や適切な手術方法を検討するために重要である。不妊や不育という点のみ重視されがちであるが,月経血の流出障害をきたす異常の場合には,診断が遅れることで子宮内膜症の増悪や将来の妊孕性にも影響するため,若年であっても手術適応となることがある。中隔子宮に対する手術療法は,子宮鏡下子宮中隔切除術が現在行われている。ただ,その手術適応を決める際には,子宮中隔の定義がまだ統一されていないこと,また手術効果についてもまだ明らかでないことも多いため,個々の症例に応じた慎重な姿勢が求められる。

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早発卵巣不全(POI)は,40歳以下で閉経に至り,不妊や更年期症状を呈する疾患である。現在最も確実な不妊治療法は若年女性の提供卵子を用いた体外受精胚移植であり,自己の卵子での妊娠は困難である。われわれは,早発卵巣不全患者の残存卵胞を特殊な卵巣組織体外培養と腹腔鏡下卵巣組織移植術を組み合わせる卵胞活性化療法(IVA)を開発し,POI患者の自己卵子による妊娠分娩に成功してきた。本稿では,IVAにおける腹腔鏡手術を中心に本治療法について紹介する。

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男性不妊症に対して最も多く施行される手術である精索静脈瘤根治術の術式は複数あり,両側症例の場合には腹腔鏡下精索静脈高位結紮術が有力な選択肢となる。本術式では拡大視野により動脈,リンパ管の温存が可能となり,合併症の発生を抑えられるが,動脈の温存の意義に関しては議論があり,静脈の残存を招きかねない場合は温存するべきではない。また吻合が困難な精管閉塞症無精子症例の精路再建術に際しては,同じポート構成で施行される腹腔内からの精管剝離術が有用である。これらの術式の導入に際しては,ポート構成や術野により慣れ親しんでいる婦人科医の助力が有用である。

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東日本大震災が子どもに及ぼした影響に関する報告が,徐々に発表されるようになった。郡山市では,震災翌年から小・中学校のすべての子どもの体力・運動能力を把握し,また生活習慣に関する調査を継続的に実施している。これまでのデータの分析から判明した問題点を現場にフィードバックし,今後の対策に役立てられている。また,災害が発達障害に及ぼす影響も懸念され始めた。郡山市での知見を紹介する。

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分娩時の新しい母体管理方法として近赤外線時間分解分光法を使用した脳組織酸素飽和度測定を行った。この方法は非侵襲的,持続的に,簡便に行うことが可能であり,直接脳組織の酸素状態を評価できるメリットがある。その結果,出血量が1,000gまでは脳組織酸素飽和度は変化しないが,1,000gを超えると低下することが判明した。また,脳組織酸素飽和度が60%となった場合は出血量が2,000gに達したと考えられた。この新しい管理方法を導入することにより,より客観的に母体の評価を行うことができ,その値が産科処置や輸血開始などの指標になる可能性がある。

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当院では,前置癒着胎盤を強く疑う症例に対して,hybrid手術室で帝王切開術を行っている。本稿では3例の前置癒着胎盤症例について報告するとともに,当科でのプロトコールについて紹介する。Hybrid手術室では,患者の移動をすることなく手術療法とinterventional radiologyを組み合わせることができる。また,開腹中に直視下で子宮摘出のリスクの評価や止血の確認をすることが可能で,安全な手技につながると考える。

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多囊胞性卵巣症候群(PCOS)症例に体外受精(IVF)を行う際の排卵誘発法は,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)回避のためクロミフェンを主とした低刺激法が選択される頻度が高い。筆者らは前周期の内分泌環境の違いがPCOS症例に対する低刺激排卵誘発IVFにどのように影響するかを検討した。前周期は黄体化ホルモン(LH)サージによる排卵を待ち,排卵後よりエストロゲン・プロゲステロン剤(中用量ピル)を投与し,negative feedbackにより黄体期の下垂体性ゴナドトロピンを抑制する内分泌学的前周期調整が最も優れたIVF結果につながるとの結果を得た。

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オウム病はChlamydiaChlamydophilapsittaciによる動物由来感染症であり,主に鳥類から感染する。インフルエンザ様症状をきたす軽症例から,播種性血管内凝固症候群(DIC)や多臓器不全などをきたす重症例まで臨床像は多様であり,死亡例の報告もある。妊娠中に発症したオウム病は海外から15例報告されており,母体死亡1例を含めいずれも重症例で,生児が得られたのは4例のみであった。今回国内初の妊娠オウム病症例を経験した。当初は病原菌を特定できないまま,子宮内胎児死亡,妊産婦死亡に至った。妊婦はオウム病のハイリスクであると認識し,妊娠中は鳥類や家畜との不必要な接触を避けるように,啓蒙,指導することが重要である。

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妊娠中の交通外傷は,常位胎盤早期剝離や子宮破裂などの重篤な疾患を引き起こす可能性がある。今回われわれは妊婦がシートベルトを着用していたにもかかわらず,交通外傷による子宮損傷に至った症例を経験した。症例は25歳,妊娠33週の初妊婦。交通事故のため当院搬送となった。腹部に打撲痕は認めなかったが腹痛あり,胸骨に打撲痕を認めた。胎児徐脈を認めたため,超緊急帝王切開術を施行した。消化管などには損傷を認めず,子宮前壁および後壁に漿膜から2分の1に至る筋層の断裂を認めた。本症例は子宮損傷がシートベルト損傷によって起こったと考えられる。妊婦の交通外傷においては,腹腔内出血の検索および児の評価が重要である。

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Wunderlich症候群は,重複子宮に片側腟閉鎖,そして閉鎖側の腎無形成を伴う稀な性器奇形である。今回われわれは,腟閉鎖側子宮に妊娠し,経過中に子宮頸管無力症による胎胞膨隆をきたすも腟中隔の存在により妊娠の延長を得た症例を経験した。症例は33歳,初産婦。前医で双頸双角子宮,子宮筋腫,両側内膜症性卵巣囊胞,右腎無形成が指摘されていたが,本疾患の診断には至っていなかった。排卵誘発法により妊娠成立。妊娠20週6日,経腟超音波所見での頸管短縮の診断のもと,当院に母体搬送された。不完全閉鎖型腟中隔を伴う閉鎖側子宮への妊娠で,胎胞は腟中隔により塞き止められている状況であった。妊娠25週5日,胎胞内への臍帯下垂,胎児成分の陥入をきたしたため分娩進行と判断し,緊急帝王切開術を施行,併せて腟中隔切除術を施行した。児は889gの男児(Apgar スコア 8/9)で軽度のdry lung syndromeを伴っていた。本症例は,子宮内膜症を有するも,中隔の小孔を介して腟閉鎖側子宮に妊娠が成立し,そして頸管無力症を併発するも腟中隔の存在により妊娠の延長が得られた極めて稀なケースである。

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産婦人科の実際
67巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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