看護学雑誌 20巻4号 (1956年10月)

特集 こういう看護を何故すべきか

体温の科学 仲田 妙子
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体温

 生命とは,屡々火焔にたとえられますが,燃焼とは,物質が酸素と化合して熱を発生する現象と同様に,私共も酸素と固有の体物質と化合して熱を産生し,生命のあるかぎり,これを燃やし続けるのですから,誠に適切なたとえと言えるわけです。よく若き血潮は燃ゆるとか,燃ゆる我がハートとか言われますが,我が生涯において,この肉体は,ある時は盛に,又ある時は弱わくとも,絶えず燃焼という働きが続けられ,ここに体温が生じるのです。

呼吸に関する看護 菊谷 一子
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1.呼吸とは

 呼吸とは生体が生活を維持するために必要な酸素を取り入れ,体組織の酸化過程の結果生じた炭酸ガスを排泄をする働きを云う。高等動物に於ては,呼吸を,呼吸器管によつて行われる外呼吸と,組織内部で行われる内呼吸に別ける。即ち呼吸運動により気道に吸い込まれた空気は肺胞に達し,こゝで肺組織中の血液との間に酸素と炭酸ガスの給受作用が行われる。酸素に富んだ血液(動脈血)は肺から心に運ばれ,心搏出運動によつて末梢組織に送られ,そこで酸素は組織液中に移り細胞に達する。逆に細胞から組織液に出に炭酸ガスは血液中に重炭酸塩としてとけこみ静脈血となり心の働きによつて肺胞の毛細管に迄運ばれそこで炭酸ガスを肺胞中に放つ。

 即ち呼吸の本来の目的はガス交換ということであり,我々が各自の体を維持する為の熱量は吸収された栄養素(蛋白質,脂肪,炭水化物)が組織内で燃焼する事によつて生ずるのであるがその燃焼は呼吸作用によつて始て円滑に行われるのであります。

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 古く経験的に用いられている原始的な出血炎症疼痛の治療法として,冷罨法,温罨法又は乾燥熱を応用する所謂温熱療法である。殊に局所の炎症性の疼痛又は中枢性疼痛には広く応用せられている。この作用の原理は血管運動神経又は知覚神経とに関係するものである。

浮腫の看護 設楽 智子 , 佐久間 悦子
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浮腫とはどういうことか

 血液から毛細管壁を通して水分,塩類,血漿等が組織間隙内及び体腔内に正常より異常に多量溜つた状態を水症といゝ,特に組織間隙内の水腫を浮腫(水腫)といゝます。

 この異常に多量に溜つた液体成分は濾出液又は浸濾液(病的濾出液)で一般に淡黄色,透明アルカリ性で凝固性がないのが普通であります。

口腔清潔—義歯の取扱いを含む 林 貞
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1.口腔清潔は何故必要であるか

 口腔は消化器系の一部であり,消化管への入口であると同時に呼吸器系にも連つている。

 又口腔内には舌,歯,扁桃などがあり唾液腺が開口している。口腔内は細菌の繁殖するに必要な温度,湿気,栄養等好条件の場所である。又口腔は日常生活に大切な食物の味覚器官であると同時に健康な歯牙の正しい歯列は美貌の中心ともなる。従つて歯牙並びにその周囲組織を健康に保つには先ず口内を清潔にして疾患に侵されないことが肝要である。

洗髪 五月女 歌子
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I.洗髪の必要性

 頭髪を整え清潔に保つことは,入浴と同様に私達の一般的な日常生活の一部となつて居ります。殊に就床せる患者の場合には,毛髪と頭皮を洗い梳くことは単に気分を爽快にし気持を良くするというだけではなく,幾つかの重要な意義をもつものであり,更に洗髪を行わない場合には後述の様な,様々な悪影響のあることを考えれば,その必要性については改めて論ずる必要はないものと思われます。

 毛髪及び頭皮を不潔にしておくならば,如何なる疾患が起きるかという点に関しては,判つきりした文献はない様であります。然し常識的に考えてみましても,先づ塵埃により毛髪の光沢が失われるし,体分泌物の分解腐敗によつて悪臭を放ち,又その分解産物の刺激により,脱毛及び二次感染を起し各種の皮膚疾患も起り得るでありましようし,寄生虫の寄生も考えられます。更に汗の分泌状態脂漏の問題,皮膚のPHの関係等から考えてみましても,何等かの皮膚,毛髪疾患が起るであろうことが推測されます。それでは如何なる部位が如何なる状態で最も汚れ易いかということを考えてみましよう。

嘔吐の看護 星野 英子
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 嘔吐とはどういうことか。どうして起るか。嘔吐とは胃腸の内容物が食道を逆行して吐出される現象であり,その機序としましては,嘔吐時の種々の器官の作用は嘔吐中枢により支配せられる。嘔吐中枢は延髄の深部にあり,直接刺激(中枢性嘔吐)及び反射的に身体末梢部よりの刺激(反射性嘔吐)により興奮する。中枢性嘔吐は器械的(例えば脳圧亢進等)及び化学的(例えば薬物作用,細菌の毒素の作用,糖尿病アシドーシス,肝機能不全等の代謝障害による異常新陳代謝産物の作用)の刺激の他に,大脳皮質よりの刺激(強烈な感情の興奮,不快な臭,味等による)がある。反射性嘔吐を起す身体末梢部よりの求心性刺激は殆んどあらゆる部位よりくるが(例えば胃,胃以前の消化管,腹膜,子宮,腎結石,胆嚢,心臓,耳性等)特に迷走神経知覚枝,三叉神経,舌咽神経等を通じ,中枢へ伝達される。嘔吐中枢よりの遠心性刺激は,迷走神経運動枝(胃,食道,喉頭,咽頭)脊髄神経(腹筋,呼吸筋)その他の自律神経(皮膚血管,汗腺等)を通じて関係各器官へ伝達され,ここに“嘔吐”なる複雑な現象を呈するのである。

 嘔吐の原因として考えられますことはいろいろで,消化器疾患のみならず汎ゆる臓器の疾患においてみられる。しかも器質的疾患とは限らず機能的ないし心因的に起るものもあります。

せきの看護 神谷 豊子
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1.せきはどうして起るか

呼吸器の生理

 気道(鼻腔,咽喉,気管,気管支,細気管支)の内面は線毛をもつ粘膜で蔽われている。(第1図参照 気管及び気管支には,その粘膜に多数の腺があり粘液を分泌している。この腺は迷走神経が興奮すると分泌を増す。粘液は塵芥や他の粒子を吸気中から捕えて,肺組織の中へ落込んで行かないようにするはたらきをもつている。小さい線毛はそれら粘液や異物を喉頭部に,つまり外部に運び出させるはたらきをもつている。

胃洗滌 森脇 美音子
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I.胃洗滌を行う目的

 1)胃内の不消化物,腐敗物,醗酵物を除去する。

 イ)胃の休養をとる。

浣腸 前田 アヤ
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 浣腸は肛門から直腸へ液体を注入することである。これはいろいろな目的で行われる。

 中でも排便を促すためにこの処置が取られることが最も多い。これを催下浣腸又は排便浣腸と呼ばれている。このためには微温湯,石鹸液,食塩水等が多く用いられる。このほか鎮痛,鎮静,収敷,殺菌消毒,寄生虫駆除のためそれぞれ必要な薬液が用いられて浣腸が施行される。腸管内にあるガスを排除する場合もあり,直腸のX線診断のため特殊な薬液を注入する。疾患の治療の一つとして浣腸が用いられる。患者に水分補給,栄養補給のためにも浣腸が用いられる。

導尿 飯泉 智
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 尿道を通して,カテーテルを膀胱に挿入し,人工的に排尿を可能ならしめる方法である。

 一般に看護婦は道徳的又,技術的見地より男子患者は医師に依頼するのが望ましく,女子の場合を中心に考えてみることにする。

人工肛門 寺島 敏子
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 まえがき 人工肛門設営手術患者の排便,及び排泄物による人工肛門周囲皮膚の糜爛等,患者に与える精神的肉体的苦悩は多く,従来より人工肛門設営患者の看護に於て創意工夫されて来たが,ここに基礎的条件について取挙げて見た。

経管栄養法 松本 千代子
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 日常の食事の献立に栄養学的に特別の注意を払つている人は少いにも拘らず,栄養的疾患に陥ち入る人は極く稀れである。それは我々は無意識的に或は本能的に我々の体が必要とする栄養素を,又はこれを含んだ食物を摂つているからである。暑い時は水が飲みたくなると同時に塩からいものが欲しくなる。暑い時には体温調節機能をはたす汗腺が活躍して塩分を多量に含んだ汗を放散させるからである。激しい運動をした後には甘いものが欲しくなるのは,血液中の糖が筋肉運動の為のエネルギーに変えられて減少した為の生理的欲求である。魚の嫌いな人は時々見かけるが,魚も肉も嫌いな人は殆どいない。魚と肉は三大栄養素の一つの蛋白質の補給源である。新鮮な野菜とか果物は誰しも好むものである。これらは抗壊血病因子ビタミンCと,又は抗角膜乾燥炎因子ビタミンAなどを供給してくれる。従つて我々は健康状態にあればいわゆる食欲を満しておれば更に健康を保つて行くことができる。

 しかしながら我々は複雑な社会生活を営んでいる為,肉体的にも精神的にも健康であるとはいえない。身体的には全く健全な入でも正常な食欲を持つているのは稀で,偏食に落ち入る危険があるので,栄養的に欠陥が起きないよう意識的に食事を摂らねばならぬ。それでは日常の食事に含まれてなければならぬ栄養素にはどんなものがあろうか。

皮下注射 向窪 雅子
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注入された薬液はどうして吸収されるか

 これは皮下組織に注入されることにより組織液と混入して血液中に吸収されるのであるから先ず体液の移動について考えてみます。

 これには濾過と,拡散の二つがある気体以外の物質は,凡て水に溶けて体内に取入れられ,濃度の異る体液又は,気体を混ずると,全体が均一になるまで,気体又は液体の分子は運動する。これを拡散と云い細胞内で液体が混じ合う時みられる。ところが拡散作用が隔膜でさえぎられつゝ起る場合には,これを滲透と言う。今水の分子は,自由に通すが,糖分子は通さない様な隔膜で,水と糖液を仕切ると,水分子のみは,隔膜を通して糖液中に入りこむ。此の隔膜は,水の分子を通過させるのみで,一方的の性質をもつている丈であるから,半透性膜と云う。細胞の原形質の外部即ち原形質膜は半透性膜の性質をもつていて,或る物質は通過させるが,或るものは通さないと云う性質をもつている。然し此の性質は自由に変化させる事が出来る。従つて細胞は,滲透作用によつて,必要な物質を取り入れ拡散によつて各部に伝え,又他の細胞へ滲透によつて物質を転移させる事が出来る。こゝに滲透圧の異る溶液を応用すれば,溶液内の成分と,細胞内成分とは,その分圧の差によつて或は細胞内に入り,或は細胞外に出る。従つて注入された薬液と組織液との両者の成分は細胞膜を通して互に滲透してこゝに細胞成分の変化を起し,作用を発現する。

薬の扱い方 森田 道子
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I.投薬上の責任はどうあるべきでしようか

 (1)医師の処方した薬剤が,薬剤師によつて調剤された薬を正確に患者に投与すること。

 (2)薬物に対する知識をもち,その薬物の薬理作用を理解し,注意深い操作と,容態の観察を正確に行うこと。

検査物の取り扱い 阿久津 フミ子
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I.目的

 多くの試験検査の結果は疾病の診断及び治療の適否又は予後判定等の資料として重要なものであり,正確な結果を得るためには,可検物の採取方法及び試験方法が適切でなければならない。検査物の採取のあるものは医師自身で行われるが屡々行われる多くの検査物は看護婦が採取しなければならない。従つて看護婦は検査目的及び可検物の性状をよく弁え,科学的な理解と正しい方法により責任をもつて取扱うことが大切である。

患者の動かし方 小山 ちせ
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 肉体の安静に対する姿勢の重要性を認識し安臥させることが科学的に裏付けされることは看護の根本であるといえよう。ベツドの整え方,楽にする方法ならびに動かし方もすべて以上の考え方から出発しなければならない。

患者の運搬 間宮 秀子
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まえがき

 運搬を必要とする患者は自分では動くことが出来ない患者である。即ち重症患者,衰弱した患者,手術前の基礎麻酔中の患者,安静を要する諸検査の為に歩行が出来かねる場合等である。

 患者を運搬する場合は,(1)他動的運搬方法,((イ)運搬具を利用する場合と,(ロ)徒手運搬法)と,(2)患者の歩行を助ける,二つの方法がある。他動的運搬方法のうち,運搬具を利用する場合と,徒手運搬を行う方法のいずれにしても,運搬に関しての原則を見出すことができる。

褥創の看護 長谷川 美佐保
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褥創は何故どんな時に出来るか

 先ず直接の原因としては,身体のある一部分が持続的に圧迫をうけ,そのために血行及び栄養の障害を起し,その結果組織が死滅するのであるが,誘因としては次の様に摩擦,湿潤,不潔,しわのある寝具などをあげることができる。

 〔1〕圧迫:患者自身の体重からの圧迫が最も大きく,長時間同一体位で寝ていて,体の重量が同一局所を,ながく圧迫することによつて血行障害を起す結果となる。

包帯法 宮島 昭子
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“巻軸帯を行う場合,どんな注意が何故必要か。効果的にするためには如何にすべきか”

死後の処置 宮田 千代子
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この処置を行う目的

 1.患者を清潔にするため。

 2.外観の変化をできるだけ見えないようにするため。

口絵

自衛隊中央病院
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 秋の一日,近代建築ど近代設備をもつて知られた自衛隊中央病院を見学する。場所は東京都世田谷区池尻町,広々とした敷地の中央に十字型に建てられた名にしをう近代病院にまず目を見張る。

 中央剤料室には最新型の高圧釜,注射器槽納箱,「これはまだ日本に一つしかない機械です」と,剤料室の婦長さんは説明して下さる。「国民の税金が……」とすぐ目に角たてるなかれ。完備されるという事はやはり良い事である。

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 「私の病院」とは,たつた四字の言葉ではあるがなんと深い意味を持つている事であろう。「私の病院」とは大勢の看護婦が,身を捧げて生きて行く所である。大阪府立の羽曳野病院の吉中アイ子さんは,満ちあふれる愛情を持つて「私の病院」を紹介して下さつた。

 「希望に満ちた私達の一日がはじまる」「この地で日々をすごすごとの出来るのを最大のよろこびとしなければならない」といつておられる。しかし,美しい風景だけが,喜びのすべてであろう筈はなく,完全看護,完全給食という言葉の影にも,ふみこえなければならない種々の問題が含まれている事だろう。しかし,「私の病院」をより美しくする為に胸をふくらませて生きていらつしやる吉中さんの生活の足跡を,これらの写真から耳を澄して聞こう。

とびら

“力”への憧れ
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 日ソ交渉は,どうもうまくゆかないようだ。ことは私たちの現実の生活とは,ほど遠いことであつて,ジヤーナリズムのかきたてる狂騒曲も,なにかスクリーンを通してものを見たり,綿をつめた耳で音を聞いたりといつたようなきらいがないでもない。だが,おそらく,後世の歴史家はこの日ソ交渉の結末に大きな頁を割いて日本の歴史の重要な一こまとするに違いない。私たちは,先ず,そのことを銘記したいのである。

 それにしては政府の無統一と国民の足なみの揃わなさはどうしたものだろう。すべてこれ敗戦のもたらした無気力さに由来すると言つてしまえばそれまでであるが,それにしてもあまりにも腑甲斐のない話である。

講座

性病の現況 大野 宰
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1.統計より見た性病

 性病予防法の第6条に医師は性病患者を診断した時には24時間以内に管轄する保健所長を経て必要な事項を都道府県知事に届出なければならないと云う義務をおわされている。第1表はこの届出に基くわが国の性病患者数を示したものであるが,これによると戦後性病の届出が最も多かつたのは昭和23年の473,822名であり,それ以降は次第に減少し昭和30年は167,950名となつている。勿論これ等の患者はあくまで届出による限られた者だけで,数年前東京都が一定期間を限り健康保険,医療券による性病患者に就て実際にどれくらいの割合で報告されているかを調査されたことがあるが,それによると僅か1/10しか届出られていないと云うことが判つたのである。

 これに関連あるものとして厚生省統計調査部が昭和28年7月29日に於ける全国病院の約19%及び診療所の約2%を対象に当日の入院,外来性病患者に就て調査しこれによりわが国に於ける年間の推定患者数を算出したものを発表している。それによると昭和28年の性病患者実数は約63万人で,年間延795万人の患者が診療を受けていることになつている。尚患者の約70%は男子であり,年齢では15歳より24歳迄が26万人,25歳より34歳迄が18万人となり,性病新患者実数の約85%が之等青少年層で占められている。

近視の医学 鹿野 信一
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 近視は,正常24mmある眼球の長径(眼軸)が,仲びて長くなり,無限遠よりまた光線が,眼底より手前に像を結んで了い,眼底の像は不明瞭となつた状態の眼であります。従つて,近視の人の眼球はその近視の度に応じて大きく,眼鏡を外したときは強度の近視では眼球が凸出した感じをもたせます。

 この様に眼球が延びるという事は近視症状として眼底に色々の変化をおこします。軽い場合には網膜,脈絡膜の色素が薄くなり,豹紋状眼底といい多少の眼底所見の上のみの変化をますのですが,之が強度となると所々眼底に萎縮が現れ,それが,殊に網膜の中心にまで及ぶと,視力を害う事も多く,時には出血,或いは硝子体にまで変性がおこり溷濁が現れ,その溷濁が眼底に影をうつし,何もないのに眼前に虫でも飛んでいるような感じ(飛蚊症)をおこします。更に近視が強度になれば,網膜も過度の伸展の為に破れ,裂孔が出来,変性した硝子体より,液が網膜下に浸入,網膜剥離をおこす危険も多い。網膜剥離は難治の疾患であり,失明することも多く厄介な併発症といえます。

ペニシリン・シヨツク 真下 啓明
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 今日ペニシリンの使用によつておこる副作用の中で,このペニシリン・シヨツクは臨床像の激しさ,ときに死に至ることなどから単に医学上の問題としてばかりでなく,新聞紙上その他の報道によつて一般の人々の関心をも高まらせている。ペニシリンが抗生物質剤中第一番目に出現した薬剤であり,またその効果のきわめてすぐれていることから広く臨床に用いられ,ついには素人療法として乱用といえる状態に立ち至つていた時に,この問題が脚光をあび,ペニシリン・ノイローゼという言葉まで用いられるに至つた今日の状態はまことに皮肉という外はない。

近代病院の管理〔2〕 守屋 博
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病院の評価

 大きな病院,小さな病院,綜合病院,単科病院,急性病々院,慢性病病院,病院には種類万別です。同じ種類でも,よく管理された病院,感心しない病院があります。いい病院と悪い病院は何によつて区別されるでしようか。八階建の本建築で堂々地を圧しているものもあるでしよう。冷煖房完備,各室に電話のある病院もあるでしよう。又,患者の数より多い看護婦が勤務している病院もあるかも知れません。大きな研究室をもつて毎年学会で数々の発表をする事を得意とする病院があつてもよいわけです。しかし一般に,沢山の経費をつかえば,立派な病院をつくるのは容易です。それだけ患者の負担が増すので,誰でも入院出来るとは限りません。現在社会が要求しているのは,小数のゼイ沢な病院より,大衆がよろこんで,入れる病院であります。幸いに日本では,国民の6割までが,何らかの,社会保険に加入しているので,その額までは,容易に支払う事が出来るので,病院の,経営をするにしても,その辺の水準で,いかによいサービスをするかを考えねばなりません。

 又医師や看護婦に,都合がよいからと云つて,患者も満足しているとは限りません。否むしろ,今までの病院は,医師にのみ都合がよくて,患者がお留守になつている病院が,多すぎるのです。

病院と色彩 木村 俊夫
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1.色彩調節の始まりと病院

 色彩調節という言葉が最近頻りに使われていますが,皆さんはそれがどういうことだか御存知でしようか。多分既に知つておられることゝは思いますが,一応念のために説明しておきましよう。即ち,色彩調節とは建物・乗物・調度品・機械・器具等々を,それらが本来持つている生活上の意義とか機能とかを充分に発揮し得るように,それに適した色彩の性質や機能を選んで,組織的に配色することである,とでも申しておきましようか。

 このような色調節の技術が何時頃からどのようにして発達して来たか,ということを述べますと,自然に主題の“病院と色彩”の本質的の関係に触れるのです。そこで暫くの間,歴史的回顧に耽けることにしまよう。

新しい医学用語 福島 三保子
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 さきに玉重博士は本誌1)において「新解剖学用語」について述べたが,それは統一された新しい医学用語の普及を目的としたためであつた。

 わが国の医学用語は,在来の言葉に外国語が加わつたものに外ならない。日本の文化は古くから中国文化の影響を受け,言葉を表わすために漢字が採用されていたが,その後西洋医学がとり入れられるようになつて医学は非常な進歩を来し,そのために医学用語の訳がどしどし行われた。当時は漢学の素養の深い学者が多かつたため,非常な苦心の結果,漢字による意訳,音訳等適切な訳語が用いられ,中には新語まで作られた。当時の先覚者達の苦心の有様は「蘭学事始」を読んだ人ならばその一端を容易に知ることが出来よう。

教養講座

“女であること”について 乾 孝
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 “女であること”といつても,いまA新聞に連載中の小説の話をしようというのではありません。けれど,その小説が,この文章のひとつのキツカケにはなつているのです。

 ともかく,その小説を読んでいると,もともと女性を描くことで定評のある作者のキメ細やかな筆致で,“女であること”の神秘と美しさと悲しさとが,毎朝,しみじみと思い知らされるような,そんな小説なのです。

一葉と癩病 長谷川 泉
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 奇をてらうつもりはない。樋口一葉が癩病であつたというのではない。御承知のように一葉は肺結核で,あたら25歳の生涯を終つた明治文壇の奇才である。

 一葉の代表作は「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」など。これらの作品は近代古典と言つてもよい。最近は映画にもとりあげられたから,薄命の女流作家の傑作というひいきめばかりでなく,その作品の神髄を以て人口にかいしやする機会を得たということもできる。

くらしと花(4) 北条 明直
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 半髪頭をたたいてみれば因循姑息の音がする。総髪頭をたたいてみれば王政復古の音がする。ザンギリ頭をたたいてみれば文明開化の音がする。

教養講座 小説の話

浪漫主義と「文学界」 原 誠
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 私たちは毎日の生活の中で,よく,ロマンティックだとか,浪漫的だとかいう言葉をつかつています。誰かさんと誰かさんのロマンス,などということも云います。が,嚴密にいつて,それらの言葉の歴史的背景と正確な意味内容はどんなものなのか。案外,私たちは無関心に使いすぎているようです。

 文学の歴史からみて,浪漫主義(Romanticism)というめは,18世紀の後半から19世紀の前半にかけて,ドイツ,イギリス,フランスなどヨーロッパ各地におこつた非常に大きな文学運動を総括した名称なのです。簡単に説明しつくすことは容易でありませんが,このヨーロッパの浪漫主義がどんな歴史的社会的な条件のもとにおこつたかというと,ドイツの場合も,イギリス,フランスの場合も,それぞれ今までの社会秩序が崩れたあと,新しい社会がおとずれるまでの,不安と混乱をきわめた過渡期におこつたものなのです。

随筆

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梗概

 急性虫垂炎が起因となつて以後3回にわたる開腹手術をうけた私は,久しい春秋のあけくれを絶えず死の恐怖と生の執着にもだえ乍ら孤愁の病床にこの手記を綴つてきた。もとより筆のつたなさから必ずしも世に問うべき作品ではない。しかし苦悩の中から画かれた「患者のたわごと」は今なお人知れぬ患者の悲哀であり苦悩であると信じたい私は,自己の未熟をも省りみずここにその手記を掲げることにしたが万一にも之が若きナースや学生達の一助にともなれば誠に幸いとするところ,不本意にも文中に非礼の段があれば平に御容赦希いたい。なお現在の健康が数多い人々の真実に支えられてきたことを思うとき,あるものはただ無限の感謝であり更に終始献身的努力を惜しまれなかつた鈴木,彦坂両博士並に片桐監督はじめ多くの方々に対し満腔の謝意に代えてこの一編を贈りたい。

 斗病記というよりは懐かしい追憶にもにたものが年とともに私の脳裡を楽しませてくれるばかりか,これからの残された人生にも時折は心のなぐさめと安らぎを見出してくれることだろう。

ナースの作文

梅雨晴れに,他 田辺 良
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梅雨晴れの麗かな日差の中で,私は色々と思い患つている。「患つて」とは私の場合二つの事からの意味で,私は文字通り患つて,ベットに臥しており,胸中でも何かと思い患つていて,これでは二重の患いが私を圧する様ですが,案外本人はサジスト的気分を,味わつていると云つたなら変でしようか—

 看護の道に入つて6年,この職に在る人にとつて6年間は決して永いものではありません。云わば駈けだし時代とでも申しましようか,もともと私の場合敗戦の翌年に厚生女学部に籍を置き,この頃逼迫した食糧事情に,食欲多感な年令が屈伏せずに,学院主事の注告も何のそのと,逃げ帰えりその頃の事で,300円幾等かの奨学金を返済しておりますが,又この6年間に2年患つて入院しておれば,後に残るのは僅かの事で免状の手前,誠に気恥かしい気持が隱くせません,と云うより身弱が寂し過ぎる。

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I.はじめに

 小児に於ける脱水症といえば,下痢,嘔吐を主症状とする腸管内感染症又は腸管外感染より二次的に起つた腸管系疾患を考えがちであるが,単に上記症状を呈する疾患だけでなく,水分の十分な摂取が不能な場合,及び水並びに電解質の異常な喪失を起すようなあらゆる場合にみられる。即ち,高熱,消化不良症,疫痢,自家中毒症,幽門痙攣,腸閉塞症の如き疾患,未熟児,火傷,その他外科手術の後,或いは副腎皮質機能障碍時にもみられる。こゝに本質的には全く異つた疾病であるが脱水症に対する処置に成功した2例を挙げ,これを中心に脱水と補液に就て述べる。

読者文芸欄

俳句,他 吉川 春藻
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 大南風むきひきに舟もやひをり

 〔評〕海の入江に強い南風が吹いてもやつてある舟が風浪のため思い思いの方をむいている。いかにも夏らしい俳句です。

——

看護婦第11回国家試験問題
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A

 〔1問〕 次の文章の□内に下記より適当な語句を選び,その符号を記入しなさい。

 身体の運勤や感覚と関係がなく□1や□2に分布して,各器官の運動や□3をつかさどる別個の神経系がある。この神経の働きは,無意識にすなわち,われわれの意志から独立して行われるから□4とも呼ばれているが,これに,胸,腰髄に中枢をもつ□5と,このほか脳,もつぱら□6と□7とまた□8とを中枢とする□9の2系がある。いずれも内臓,血管,腺等に分布して,それぞれの働きをたがいに調節しているが,このうちで内臓と最も関係深いのは,延髄から発する□10である。

附録・写真でみる看護技術・32

肺結核のアフターケアー 植村 敏彦
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 肺結核は非常に再発の多い病気で,以前に「不治の病」とさえいわれた理由の中には,この事が大きな役割を果していた。即ち,一見完全に治癒したかの如く見えても,数年以内に再発する者が大部分であつたので,これは「不治」であると考えられた訳である。

 しかし,現在の進んだ医学から見れば,このことは,結局当時の診断方法が極めて幼稚であつた為,充分治癒していないものを,「治癒した」と判断していた為に他ならない。最近の化学療法,外科療法の長足の進歩により,徹底した治癒状態にまで治すことが出来るようになり,又レントゲンの進歩,培養法の発達等により,治癒程度に就ての診断方法も,以前に比べれば段違いに正確になつた。しかしながら,それでも猶現在,或る恢復者に向つて「貴君は自分の職場に戻つても決して再発する危険がない」とか「貴君を再発させない為にはこの程度の仕事に従事していればよい」とはつきりいい切れる程には結核の医学は進歩していないのである。しかし,現実の恢復者にとつては,この事が最も重大な問題で,幾ら治つたといわれても,無事に働ける保証がなくては,社会生活に戻るのが不安な訳である。

基本情報

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看護学雑誌
20巻4号 (1956年10月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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