総合リハビリテーション 47巻6号 (2019年6月)

特集 疾患管理プログラムとしての心不全リハビリテーション

今月のハイライト
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 心不全パンデミックともいわれ,高齢心不全症例が増加している今日,心不全リハビリテーションは,心不全の疾患管理プログラムとして重要な役割を果たすようになりつつあります.一方で,心不全に対するリハビリテーションという概念は,地域においてまだ普及が不十分なところもあります.

 本特集では,高齢社会における心不全管理の重要性,リハビリテーションの意義,そして地域社会での包括管理プログラムの実践について解説いただきました.

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心不全パンデミック

 わが国は戦後,皆保険制度に支えられ類まれな長寿国家を達成できたが,それゆえに高齢化が急速に進みつつある.高齢化とともに増加する疾患は多いが,心不全はその最たるもので,年齢とともに右肩上がりに有病率が上昇し,米国の統計では40〜59歳の有病率は男性1.4%,女性1.9%に対し80歳以上ではそれぞれ14.1%,13.4%に上昇する1).また米国における20歳以上の心不全患者数は2011〜2014年の平均で650万人で,年間新たに100万人弱の新規患者が発生し,2030年には2012年に比べて18歳以上の心不全患者数は46%増加し800万人に達すると推計されている1).わが国においては厚生労働省の患者調査総患者数(傷病別推計)に基づく推計では2014年度の心疾患全体の患者数(高血圧を除く)は172万9000人,心不全患者は約30万人となっているが2),これはかなり過小評価されている可能性があり,Okuraら3)の佐渡市のSado Heart Failure Studyを基にした推計ではわが国の左室機能障害を有する患者は既に100万人を超えており,2035年には130万人に達すると予測されている.米国とわが国の人口や高齢化率を考慮すると,実際にはさらに多くの心不全患者が存在すると思われる.また,日本循環器学会が指定する循環器専門医研修施設・研修関連施設を中心とした調査である循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases;JROAD)のデータでは年間に入院する心不全患者数は2017年で3万1648人と心筋梗塞の1万1200人の約3倍であり,心筋梗塞患者数が頭打ちであるのに対し,心不全患者数は増加しつつある4).Shimokawaら5)によると1950〜2030年にかけてわが国の65歳超の高齢心不全患者の新規発症数は年々増加しており,また,Shiraishiら6)らのわが国の代表的な3つの急性心不全レジストリを合わせたデータ解析結果では2007〜2015年の9年間で平均年齢は71.6歳から77.0歳に伸びており,既に人口が減少に転じているわが国の心不全患者数の増加の原因は高齢化であることがわかる.

 このような世界的な心不全の増加は心不全パンデミックと表現され,Cleveland ClinicのStarling7)はすでに1998年に来るべき心不全パンデミックに対する警鐘を鳴らしている.

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はじめに

 運動療法は元来,早期離床と社会復帰を目標に急性心筋梗塞発症後の入院患者を対象として心筋梗塞の患者数が多い欧米を中心に実施された.その後,冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス手術のみならず,弁置換術などの心臓血管外科手術後の患者,閉塞性動脈硬化症の患者に対しても実施されるようになり,その有用性が広く知られるようになってきた.さらに最近では心不全に対しても,運動療法が心不全患者の運動耐容能を改善し,再入院率の低下や長期生命予後を改善することが数多くの臨床試験から明らかになってきている1-3).特にわが国では近年,心不全患者が爆発的に増えてきていて,「心不全パンデミック」とも呼ばれる状況になっている.特に増えている高齢心不全患者の心不全増悪を予防するためには,運動療法に加え,栄養管理,併発疾患の管理,薬剤管理,生活指導など,多職種チームで疾病管理に取り組むことが重要で,疾病管理プログラムとしての心臓リハビリテーションプログラムの有用性が注目されている.わが国で心不全に対する心臓リハビリテーションが急速に広がるなか,リハビリテーションの質的担保はきわめて重要な問題である.心不全を含む心血管疾患に対する心臓リハビリテーションに関するガイドラインとして,日本循環器学会を中心とする合同研究班により策定された「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」が存在し基本的な方針や実施概要は記載されているが,臨床現場における具体的な手順については記載されていない.そこで,日本心臓リハビリテーション学会では心不全に対する適切な心臓リハビリテーション実施のための標準プログラムを,2017年7月に「心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)」4)として発表した.

心不全と骨格筋 沖田 孝一
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はじめに

 骨格筋の量と質は,心不全のみならず多くの慢性疾患において,予後を左右することが明らかになり,骨格筋をターゲットとした治療が各分野で進んでいる.慢性疾患のなかでも,特に心不全は循環不全を主とした病態あり,当然,心機能改善が治療のターゲットであった.しかしながら,心不全治療薬が奏効し血行動態が改善しているにもかかわらず運動耐容能(最大酸素摂取量,嫌気性代謝閾値)が改善しないことが明らかになり,併発する骨格筋の異常が注目されるように至った.慢性心不全患者の手足の筋はどうして萎縮し,るいそう(羸痩)状態を呈してくるのか,それがなぜ予後に影響するのか,どのような対策が必要なのか.本稿では,心不全における運動耐容能規定因子としての骨格筋障害について説明し,その成因と最も有効な対策である運動療法,さらに先進的な薬物療法を含めた治療方法について概説する.

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はじめに

 心不全患者の再入院率が高いことは米国の声明で指摘されており1),心不全患者の繰り返す再入院は世界共通の医療問題である.わが国は空前の高齢社会を迎え,心不全患者の数は増加の一途を辿っている2).心不全患者の慢性期管理は,今や重大な医学的かつ社会的課題となっている.慢性心不全は,服薬アドヒアランスの悪化,生活習慣の乱れ,過労やストレスなどの生活環境因子が引き金となって急性増悪する難治性の病態である.したがって,頻回入院を避けるため,日常生活におけるきめ細やかなサポートが望まれる.しかしながら,急性期治療を行った医療機関では人員や入院期間の制約もあり,十分な対応が難しいという現実がある.

 急性期を脱した後の慢性期管理は,回復期医療機関,福祉施設,自宅などで行われる.慢性心不全患者の再増悪予防のためには,医学的な薬物・非薬物治療に加え,運動療法,食事療法,患者自身の生活是正と自己管理支援,周囲の見守りを強化する環境社会支援などによる「減負荷療法」が重要となる.単独職種だけでそれらすべてを遂行するのは至難の業であり,かかりつけ医(循環器領域以外を専門とする医師を含む)に加え,かかりつけ薬剤師,訪問看護師,介護福祉士など,患者にかかわるさまざまな職種を巻き込んだ地域ぐるみの慢性心不全管理が必要である.

 広島県では,心不全患者の生活の質(quality of life;QOL)改善と増悪予防を目指す事業に地域を挙げて取り組んでいる.本稿では急性期医療機関とその周辺地域の施設を巻き込んだ慢性心不全患者の多職種包括ケアを紹介し,本邦が直面する医療事情を踏まえた,「あるべき慢性心不全マネジメント」について考察する.

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はじめに

 わが国の全体医療費を傷病分類別にみると,循環器系の疾患が5兆9818億円(全体の19.9%,2015年)と最も多くなっており,心臓疾患領域の医療経済を論じるのは他領域以上に望まれる状況にある.特に,医療費や症例数が拡大する心不全などへの各種介入については,重症化抑制・診断・治療・再発予防などのバリューチェーンを意識しつつ,総合的かつ長期的に疾病対策を論じることが重要である.心不全リハビリテーションにおいても,今後は,地域包括ケアシステムなどへの展開も視野に入れつつ国民皆保険制度の持続性の観点などから,医療経済学的な付加価値の最大化を志向することが希求される.

巻頭言

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 2018年4月より新専門医制度が始まり,リハビリテーション科は基本診療科19領域の1つと定められた.日本リハビリテーション医学会の施設認定委員会の委員をさせていただくなかで,新専門医制度の研修プログラムを確認する作業に携わり,どうなるだろうかとやきもきしていたが,1年遅れての開始となった.

 私が医学部を卒業したころは,すぐに大学病院の医局に入局し,医局の研修医プログラムに従って研修をした時代であった.その後,2004年4月からの新研修医制度(スーパーローテート),そして,この新専門医制度と,全診療科にかかわる改革は,リハビリテーション科へも少なからず影響を与えている.

入門講座 リハビリテーション医療のエビデンス—理学療法・3

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はじめに

 呼吸器疾患における理学療法は,内科系から外科系疾患,小児から高齢者まで,その対象は多岐にわたっている.また,その位置づけは呼吸リハビリテーションの一手段であり,昨今のシームレスなリハビリテーション・サービスの必要性(図1)1)が提唱されているなかで,急性期から慢性安定期,さらには集中治療室から在宅へとさまざまな病期においても適用されている.

 本邦では,超高齢社会へと急速に進展している背景から,特に高齢者を中心とした慢性呼吸器疾患に対する理学療法ニーズの高まりとともに,臨床研究報告が増加,さまざまなエビデンスが明らかにされている.本稿では慢性呼吸器疾患,なかでも臨床的に重要な慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)と間質性肺疾患(interstitial lung disease;ILD)の安定期を主たる対象とした理学療法手段のエビデンスについて概説する.

実践講座 障害者家族への心理的サポート・2

脊髄損傷 古澤 一成
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はじめに

 リハビリテーション医療において,最良のアウトカムを得るためには,患者本人や医療従事者の努力だけでなく家族の協力が欠かせない.一般的には,障害が重度な疾病では,家族に求める協力のレベルが高くなる.その代表的な疾病が脊髄損傷である.多くの脊髄損傷者は,社会復帰した後も,家族からの身体的,心理的,経済的なサポートによってその生活を維持しており,家族の協力体制,あり方が,脊髄の損傷を負った後の人生を左右するといっても過言ではない.

 脊髄損傷者の家族に協力を求める際に大切なのは,その立場で考え,家族のストレスが極力少なくなるように配慮することである.家族は時に脊髄損傷者以上に精神的なダメージを受けながら,本人をサポートする側に立たされている.脊髄損傷者が社会復帰しそれを継続するには,脊髄損傷者を支える家族に対しても,その努力を適切に評価し,身体的にも心理的にもサポートをする必要がある.

 本稿では,「急性期」,「回復期リハビリテーション病棟や,筆者が所属するような脊髄損傷の医療を主体としたリハビリテーション専門病院でのリハビリテーション治療開始から社会復帰まで」,「社会復帰後」に分けて,脊髄損傷者家族の心理的問題と,そのサポートについて述べる.

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要旨 【目的】日常生活活動(activities of daily living;ADL)動作に対する自覚的な腰椎の不撓性の影響度を評価するLumbar Stiffness Disability Index(LSDI)の日本語版を作成し,内的整合性と表面的妥当性を検討すること.【方法】質問紙票の異文化適合プロセスガイドラインに準じて,LSDIの翻訳を行った.翻訳した日本語版LSDIを用いて,腰椎術後患者47名に対して予備テストを行った.得られたデータを記述的に要約し,床効果および天井効果の有無とCronbachのα係数を確認した.【結果】日本語版LSDIの平均回答時間は1分15秒で,対象者から,文章表現について修正を要するようなコメントはなかった.平均点数±標準偏差は22.0±20.2点で,床・天井効果は認められなかった.Cronbachのα係数は0.88であった.【結語】日本語版LSDIは表面的妥当性および内的整合性を兼ね備えた,実用性の高い質問紙票である.

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要旨 【背景】大腿骨近位部骨折のリハビリテーションでは集学的アプローチが有効とされる.筆者らは生活期における生きがい活動の定着と家族内の役割の獲得を目指した4週間のプログラムを作成し,1症例に実施した.【対象・方法】症例は87歳の男性で,大腿骨人工骨頭置換術後に飯能靖和病院(以下,当院)回復期リハビリテーション病棟に入院した.プログラムに従って,主治医,理学療法士,作業療法士,医療ソーシャルワーカー,看護師および管理栄養士が初期評価を行い,初回カンファレンスで「野菜づくり」を「生きがい活動」に選定した.その後自宅を訪問し作業環境を整備するとともに,院内で身体機能訓練および野菜の調理法指導を実施した.さらに家族へ協力を依頼し活動の意欲づけに努めた.【結果】栄養状態および運動機能の改善に加えて生活の質(quality of life;QOL)の向上が認められ,退院4か月後もその傾向が維持された.【結語】本プログラムは受傷前の潜在的な廃用が想定される症例に有効な可能性がある.

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要旨 【目的】日本語を母国語としない両親をもつ脊髄性筋萎縮症Ⅰ型(spinal muscular atrophy Ⅰ型;SMAⅠ型)を呈した患者の急性期から在宅療養への移行について報告する.【方法】対象は,重症SMAⅠ型の4か月の男児で,誤嚥性肺炎を契機に呼吸不全の悪化を呈した.入院時に右肺野の浸潤影を認め,第2病日より人工呼吸器管理となった.その後,気管切開術および24時間人工呼吸器管理となった.理学療法では,右上葉無気肺に対して1日に頻回の介入を行い,第12病日に改善を示した.その後在宅療養移行の指導を実施したが,言葉の壁などにより難渋し在宅療養への時間を要した.信頼関係を築くために,対話時間を多く設けた.【結果】通訳を介すことで日本人と比較して時間を要したが,円滑に在宅療養に移行できた.【結論】毎日介入し顔をあわせる理学療法士が中心的な役割を担い信頼関係を築くことが,より効率的な医療ケアの提供の一助になることが示唆された.

連載 リハビリテーション医療に必要な薬物治療・第6回

骨粗鬆症 萩野 浩
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 骨は常に骨リモデリングと呼ばれる新陳代謝を繰り返している.古い骨や微小ダメージを生じた骨が破骨細胞によって吸収され,同部位に骨芽細胞によって新しい骨が形成される(図1).この骨形成と骨吸収は海綿骨では骨表面で,皮質骨ではハバース管に沿って,生涯にわたって継続される.閉経や不動状態では破骨細胞性骨吸収が亢進するため,骨芽細胞による骨形成が吸収された骨量を補うことができずに,骨量減少を生じて骨脆弱化を招来する.

 そこで骨粗鬆症治療薬は主として破骨細胞性骨吸収を抑制する骨吸収抑制薬と骨芽細胞による骨形成を促進する骨形成促進薬とに分類される.近年の骨粗鬆症治療薬の進歩は著しく,2001年に骨吸収抑制薬のアレンドロン酸が臨床応用されて以来,大規模臨床試験で骨折抑制効果が明らかとされた骨吸収抑制薬が相次いで登場し,臨床現場で広く使用されている.骨形成促進薬は2010年にテリパラチドが,本年,新たにロモソズマブが承認され,いずれも高い臨床効果を有するが,使用期間に制限がある.

連載 生理検査レポートのみかた・第4回

脳波検査 重藤 寛史
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 脳波報告書で最初に見るのがレポートの最後にある「コメント」と思われる.そこには脳波の判定と患者情報から判読者が推定した病態がコメントされている.しかし「コメント」はあくまで推定であり主観的要素が含まれている.一方,コメントに至る前段階の「判定」は,年齢以外の患者情報を排して行っており,背景活動,覚醒度,非突発性異常,突発性異常,賦活による変化,の各項目から総合的に導き出される客観的なものである.正しい判定をするにはこれら各項を網羅している必要がある(表1).

 日本臨床神経学会のデジタル脳波の記録・判読指針には脳波検査申込書/報告書が添付資料として公開されている1).最近のデジタルレポートシステムでは,判定の根拠となる代表的な波形を添付できるようになっており,どのような波形から判定に至ったのかを知ることができる.デジタルレポートシステムでなくても,突発性異常や非突発性異常の元波形を添付している報告書がよい報告書といえる.脳波レポートを見る場合には最終的な「コメント」を見るだけでは不完全で,そのコメントに至った波形の解釈や最終判定の根拠を把握することが重要である.

連載 ICF活用の実際と展望・第2回

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 世界保健機関(World Health Organization;WHO)では,異なる国や地域から,異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録,分析,解釈及び比較を行うため,世界保健機関憲章に基づき,複数の国際統計分類を作成しており,そのWHO国際分類ファミリーにおける「中心分類」の1つとして,「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems;ICD)」がよく知られている.

 国際的な障害に関する分類についてもWHOで検討が行われ,1980年にICDの第9回改訂に際して,補助分類として,機能障害,能力障害と社会的不利に関する分類である「国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps;ICIDH)」が発表された.その後,単に心身機能の障害による生活機能の障害を分類するという考え方ではなく,生活機能という人間を総合的に捉えた観点からの分類として,活動や参加,特に環境因子に大きく光が当てられ,2001年にICIDHの改訂版として「国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)」がWHO総会で採択された.これはICDの補助的な分類ではなく,ICDと同格の中心分類の1つとして位置付けられた.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 大正10年に斎藤茂吉の第2歌集として発表された『あらたま』(『斎藤茂吉全集第1巻』,岩波書店)は,大正2年から6年にかけて詠まれた作品で構成されているが,当時は茂吉が,松沢病院の前身の巣鴨病院に勤務した時期でもあるため,入院患者の様子を詠った歌が数多く収められている.

 たとえば,「かかる夜半に独語いふこゑきこゆ寝るに堪へざらむ狂者ひとりふたり」や,「夜の床に笑ひころげてゐる女わがとほれどもかかはりもなし」は,夜間も独語や空笑が止まない入院患者を詠った歌であるし,「うつうつと暑さいきるる病室の壁にむかひて男もだせり」は,病室の壁を向いたまま黙して語らない患者の姿を描いた歌である.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 「長いお別れ」(監督・脚本/中野量太)には,中野の家族観が反映されている.中野は,前作「湯を沸かすほどの熱い愛」において,家族とは何かというテーマに迫った.家族とは,血のつながりがあっても崩壊するし,血のつながりがなくても成立するものであること,さらに,心配し心配される事実の積み上げが家族という関係を形成していくこと,家族という「形式」以前に必要なことは,相互に交わされる心配や慰め,支え合いの確かな記憶であるということを<血のつながりのない>家族をとおして明らかにした.とりわけ眼差しによる表現が出色.14映画賞・34部門受賞という高い評価にも合点がいく.

 今回は,<血のつながりのある家族>.認知症を患い,日々記憶を失っていく元中学校校長の東昇平(山﨑努)は,「帰る」という言葉を多用する.自宅に居ても「帰る」と宣う.勢い家族は,帰る先として考えられる郷里の家に昇平を連れて行くが,そこでも「帰る」と言い張る.昇平は果たしてどこへ帰りたいのか.観客もまた,昇平の記憶の断片とでもいうべき言葉や行動を手がかりに推察することになる.冒頭に出てくる遊園地,手に持っている3本の傘,デイケアセンターの玄関で見た雨,次女・芙美(蒼井優)の風邪による発熱…….帰りたい場所は,わが家でも懐かしい風景でもなく,ある種の感情の世界.筆者の勝手な解釈だが,中野の家族観の中核を占める「心配」が謎解きのキーワードになる.

私の3冊

私の3冊 桑山 浩明

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1.Plug In GaitとPoint Cluster Techniqueの膝関節角度の精度比較

 徳島大学病院リハビリテーション部

  岡久 哲也・他

 成人男性7名を対象に歩行と2種類の着地動作をPlug In Gait(PIG)とPoint Cluster Technique(PCT)の2つの計測方法,2名の検者で調べ,膝関節角度の検者内,検者間信頼性を検証した.信頼性は膝関節回旋可動域に関してPIGと比較してPCTのほうが高いことが確認された.また,PIGの信頼性は着地動作の回旋角度を除くすべてにおいてPIG経験のある検者のほうが高かった.

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 これからの時代,リハビリテーション医療における意思決定には,臨床現場で創られた実証結果であるエビデンスが求められることは想像に難くない.そのエビデンスとは何か? 臨床および社会で生かすための幅広い研究法エッセンスを学べる書籍が本書である.

 本書の構成として小生が捉えた特徴的な点は3つである.1点目は研究デザインの網羅性,2点目はエビデンスの活用法にも触れている実用性(実践性),3点目はマンガを用いた理解へのリーチ性である.

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 「精神障害リハビリテーション」をライフワークとして実践と研究をリードされている池淵恵美先生が,帝京大学主任教授としての定年を迎えられるのを機に上梓された本書には,40年間の「精神障害リハビリテーション」第一人者からのメッセージが詰め込まれており,精神障害をもつ人への専門的援助について,精神療法家とも認知行動療法家とも薬物療法家とも違うスタンスが提供されている.著者は,専門家の視点からのリハビリテーション(社会参加などを目標とする客観的リカバリー)と当事者の視点からのリカバリー(満足できる自分なりの生き方を達成するパーソナルリカバリー)とが統合されて初めて本当の意味でのリカバリーが達成できると考えており,エビデンスに基づくパーソナルリカバリーの実践をめざした活動の軌跡が記述されている.

 リハビリテーションとは,脳とこころの機能回復と共に当事者が社会の中での生き方や人生を取り戻していくことを支援するアプローチであるが,著者が伝えたいことは,精神科治療にリハビリテーションが加わることによって,当事者がリアルワールドで生活していく支援が可能となるとの指摘である.精神科医,看護師,心理士,社会福祉士,リハビリテーション専門職など精神障害の臨床に携わる全ての人に知ってほしいメッセージである.

お知らせ

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目次

文献抄録

次号予告

編集後記
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 今年も「総合リハビリテーション賞」が決定しました.渡邉良太先生(津島市民病院)らによる「フレイルから改善した地域在住高齢者の特徴-JAGES縦断研究」(第46巻9号「研究と報告」)です.おめでとうございます!

 本賞は1993年に発足して以来,今年で27回目.これまでに28篇の論文が受賞しています(第10回のみ2本選出).これまでの28篇をちょっとふりかえってみました.受賞者の職種は理学療法士(13名),医師(5名),作業療法士(4名),看護師(3名),言語聴覚士,心理士,体育指導員が各1名と,「総合リハビリテーション」の名にふさわしく実に多岐にわたっています.理学療法士が13名と最も多いですが,意外にも初めて理学療法士が受賞したのは第9回目,医師(第1,3,5,6回),体育指導員(第2回),心理士(第4回),看護師(第7回),作業療法士(第8回)に続いての,職種としては6番目の受賞でした.

基本情報

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総合リハビリテーション
47巻6号 (2019年6月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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