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心不全パンデミック
わが国は戦後,皆保険制度に支えられ類まれな長寿国家を達成できたが,それゆえに高齢化が急速に進みつつある.高齢化とともに増加する疾患は多いが,心不全はその最たるもので,年齢とともに右肩上がりに有病率が上昇し,米国の統計では40〜59歳の有病率は男性1.4%,女性1.9%に対し80歳以上ではそれぞれ14.1%,13.4%に上昇する1).また米国における20歳以上の心不全患者数は2011〜2014年の平均で650万人で,年間新たに100万人弱の新規患者が発生し,2030年には2012年に比べて18歳以上の心不全患者数は46%増加し800万人に達すると推計されている1).わが国においては厚生労働省の患者調査総患者数(傷病別推計)に基づく推計では2014年度の心疾患全体の患者数(高血圧を除く)は172万9000人,心不全患者は約30万人となっているが2),これはかなり過小評価されている可能性があり,Okuraら3)の佐渡市のSado Heart Failure Studyを基にした推計ではわが国の左室機能障害を有する患者は既に100万人を超えており,2035年には130万人に達すると予測されている.米国とわが国の人口や高齢化率を考慮すると,実際にはさらに多くの心不全患者が存在すると思われる.また,日本循環器学会が指定する循環器専門医研修施設・研修関連施設を中心とした調査である循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases;JROAD)のデータでは年間に入院する心不全患者数は2017年で3万1648人と心筋梗塞の1万1200人の約3倍であり,心筋梗塞患者数が頭打ちであるのに対し,心不全患者数は増加しつつある4).Shimokawaら5)によると1950〜2030年にかけてわが国の65歳超の高齢心不全患者の新規発症数は年々増加しており,また,Shiraishiら6)らのわが国の代表的な3つの急性心不全レジストリを合わせたデータ解析結果では2007〜2015年の9年間で平均年齢は71.6歳から77.0歳に伸びており,既に人口が減少に転じているわが国の心不全患者数の増加の原因は高齢化であることがわかる.
このような世界的な心不全の増加は心不全パンデミックと表現され,Cleveland ClinicのStarling7)はすでに1998年に来るべき心不全パンデミックに対する警鐘を鳴らしている.
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