総合リハビリテーション 47巻5号 (2019年5月)

特集 脊髄損傷のリハビリテーションup-to-date

今月のハイライト
  • 文献概要を表示

 国や地域による差はあるものの,脊髄損傷,とくに頸髄損傷の発生数は高齢化に伴い増加傾向にあるということです.脊髄損傷といえば,以前は特定の労災病院やリハビリテーションセンターでのリハビリテーション治療が行われるのが中心的でしたが,現在は回復期リハビリテーション病棟において治療されることも増えていると思います.しかし,脊髄損傷のリハビリテーション治療のスキルが不足している回復期の現場があることや,若年でスポーツ活動や職業面への対応の必要性があるのに自宅へ退院できればよしとされることなどの問題も生じています.一方,再生医療への期待が高まっており,リハビリテーション治療も大きな変化が求められてくるでしょう.本特集は,脊髄損傷のリハビリテーション治療と社会参加の現状と課題について,最新の知識をアップデートしていただくことを目的に,企画しました.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄損傷は紀元前2500年古代エジプト時代のパピルスに“治せないけがで死に至る”と記載され,この状態は20世紀前半まで続いた.第二次世界大戦後,導尿法の確率,抗生物質の開発により敗血症が治療できるようになり,脊髄損傷の生存率は飛躍的に伸びた.最近では,ドクターヘリが活用され救急現場から救命治療が開始され,脊椎を保護した搬送が可能となった.金属性の内固定器具が改良され,低侵襲脊椎固定術が行われ,超早期からリハビリテーションが開始されるようになった.また,脊髄再生の研究が進んでいるが,現時点では麻痺に対する直接的な治療はまだ確立されていないため,リハビリテーションが治療の主体となる.脊髄損傷のリハビリテーションとは合併症を予防し,恒久的な麻痺による機能回復を補い,生活を可能にするものである.現在,救命救急センターで行われている急性期治療と最近の疫学調査の傾向について紹介する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄損傷は四肢麻痺,膀胱直腸障害,呼吸障害,自律神経障害など重篤で永続的な症状を有する脊椎外傷疾患である.本邦では,脊髄損傷患者の年間新規発生数は5,000人,総数は20万人前後と推測されている.今まで受傷時の年齢は20歳前後と60歳前後に二峰性ピーク分布であったが,近年では高齢者転倒による受傷が増加しているのが特徴である1,2).健常人が予期せぬ事故により受傷後から生涯を通して重度の障害を抱え,重いハンディキャップを背負い,その社会的損失は非常に大きい.

 脊髄損傷の病態は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血,浮腫などに起因する組織の壊死や損傷神経線維の脱髄,軸索損傷,炎症などの二次損傷からなり,二次損傷を予防することがその後の治療成績に大きく関与する.脊髄損傷の症状としては,損傷髄節以下に運動麻痺や感覚障害,自律神経障害などを来す3).急性期脊髄損傷の標準治療は,脊椎の骨折・脱臼に対する整復固定術や脊髄の除圧術といった手術療法のみであり,これら急性期の治療を終えると,理学療法・作業療法といったリハビリテーションで自然回復を期待するのが脊損治療の現状である.急性期の追加治療として,受傷早期に用いられていたプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が限定的であり副作用のため推奨されていない4).損傷脊髄そのものを修復する治療法はいまだに存在せず,再生医療が期待されている.

 われわれは1990年台より脊髄損傷に対するさまざまな細胞を用いた再生医療の基礎研究を行ってきた.そのなかで骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)は,脊髄損傷以外の疾患である,脳梗塞やパーキンソン病,認知症など,他の多くの分野の再生医療においても有効的な細胞であることがわかった.われわれはこれまでに,脊髄損傷動物モデルに対するMSCの移植を施行し,良好な機能回復が得られたことを報告してきた5).また,脳梗塞に対して骨髄由来のMSCを経静脈的に移植し,著明な治療効果が認められるという研究結果を多数報告している6〜9).これらの研究結果に基づき,2007年札幌医科大学にて自家MSCを用いた細胞移植療法として,脳梗塞患者を対象にした臨床試験を行った.この試験で良好な成績が得られたため,2013年4月より,脳梗塞に対する自家MSCの生物製剤としての薬事承認を目指した医師主導治験(Phase 3)の実施を開始した.そして2013〜2017年で,脊髄損傷に対するMSCの静脈内投与の医師主導治験(以下,本治験)を行った.

 本稿では,われわれがこれまでに行ってきた脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の結果と,自己培養MSC移植療法の医師主導治験の概略と今後の展望について述べる.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄損傷といえば,以前は「特定の医療機関で治療される疾病」であったが,現在は社会復帰に至るまでに複数の医療機関がかかわり,そのなかでも,リハビリテーション医療の体制が整っている回復期リハビリテーション病棟が大きな役割を果たしている.今後,回復期リハビリテーション病棟における脊髄損傷のリハビリテーション医療がさらに充実することで,社会復帰までのソーシャル・システムが整備・確立されるのではないだろうか.

 本稿では,そのために必要な知識として,「脊髄損傷のリハビリテーション医療における回復期リハビリテーション病棟の役割」を述べるとともに,今後,回復期以降のリハビリテーション医療現場での活用が期待される「ロボット」についてまとめた.

スポーツ活動 緒方 徹
  • 文献概要を表示

はじめに

 リハビリテーションの分野にスポーツの要素を取り入れる意義は回復期と慢性期とで差はあるものの,運動を通じた身体機能の向上だけでなく,スポーツ実践を通じた社会参加にあると考えられる.パラリンピックの原点ともいわれるストーク・マンデビル病院の戦傷軍人を対象としたスポーツ大会も患者の精神面に対する働きかけの意図は強かった.したがって,脊髄損傷についてスポーツ活動を考える際には,麻痺の重症度はもちろんのこと,受傷からの時期や,その時のゴール設定によって検討するスポーツの内容や本人にとっての位置づけが異なってくることに留意する必要がある.

  • 文献概要を表示

はじめに

 わが国の障害者の就労環境は少しずつ改善されてきている.しかし,頸髄損傷者などの重度身体障害者の就労環境は依然として厳しい状態にある.今回,かがわ総合リハビリテーションセンター(以下,当センター)における重度身体障害者に対する在宅就労支援の取り組みを通して,今後の頸髄損傷者の就労の展望を探る.

巻頭言

  • 文献概要を表示

 1972年に策定された「難病対策要綱」では,難病は,①原因不明,治療方針未確定であり,かつ,後遺症を残す恐れが少なくない疾病,②経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず,介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く,また精神的にも負担が大きい疾病,と定義されており,この時すでに,医療だけではなく,介護,福祉の支援にも目が向けられている.2015年に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」では,基本理念を,「難病の克服を目指し,難病の患者がその社会参加の機会が確保されること及び地域社会において尊厳を保持しつつ他の人々と共生すること」(第2条)と示され,医療,介護,福祉を包括した総合的な支援の必要性が継承され,難病医療ネットワーク作りが進められている.このなかで,リハビリテーション専門職の役割はどのように考えられているだろうか?

 難病相談ガイドブック改訂第2版(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業の難病医療資源の地域ギャップ解消をめざした難病医療専門員のニーズ調査と難病医療専門員ガイドブックの作成研究班作成)の中で,リハビリテーション専門職の役割を紹介する記述の部分では,機能維持,生活上の課題が生じたときの対応を支援する職種という内容で示されている.1982年に示された国連の「障害者に関する世界行動計画」のなかで,「リハビリテーションとは,身体的,精神的かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能にすることによって,各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し,かつ時間を限定したプロセスである」と定義されている.前述のリハビリテーション専門職の役割の記述を読むと,まだまだリハビリテーション専門職の役割が浸透していないことを感じる.

入門講座 リハビリテーション医療のエビデンス—理学療法・2

  • 文献概要を表示

はじめに

 日本理学療法士協会では,科学的な根拠に基づく理学療法の実践をめざして,2011年10月に「理学療法診療ガイドライン第1版(担当理事 日本理学療法士協会副会長 内山 靖先生,理学療法診療ガイドライン部会長 鈴木重行先生)」を発行した1).網羅した内容は,背部痛,腰椎椎間板ヘルニア,膝前十字靱帯損傷,肩関節周囲炎,変形性膝関節症,脳卒中,脊髄損傷,パーキンソン病,脳性麻痺,糖尿病,心大血管疾患,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD),身体的虚弱(高齢者),下肢切断,地域理学療法,徒手的理学療法という理学療法の臨床に基づいた16疾患・領域である.そのうち運動器理学療法に関連するのは,背部痛(班長 鈴木重行先生),腰椎椎間板ヘルニア(班長 伊藤俊一先生),膝前十字靱帯損傷(班長 川島敏生先生),肩関節周囲炎(班長 立花 孝先生),変形性膝関節症(班長 木藤伸宏先生)の5疾患であった.

 この第1版のガイドラインは,第1章「はじめに」,第2章「参考としたガイドライン,引用したデータベース」,第3章「理学療法評価(指標)の推奨グレード」,第4章「理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベル」,第5章「現状と展望」,そして用語とアブストラクトテーブルという共通した内容で構成された.

 本稿では,まず「理学療法診療ガイドライン第1版」における運動器5疾患の理学療法ガイドラインのうち,理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベルについて説明する.そして,筆者がガイドライン・用語策定委員会委員長を務め,2019年6月発行を目標に作成準備が進められている「理学療法ガイドライン第2版」に収載される予定の頸部機能障害(班長 山内正雄先生),背部機能障害(班長 佐伯武士先生),肩関節機能障害(肩関節周囲炎,班長 村木孝行先生),肘関節機能障害(班長 横山茂樹先生),手関節・手指機能障害(班長 河西理恵先生),股関節機能障害(班長 対馬栄輝先生),膝関節機能障害(班長 赤坂清和),足関節・足部機能障害(班長 石田和宏先生)の運動器疾患8領域のガイドラインの構成について説明する.

 なお,推奨グレードは,公益社団法人日本理学療法士協会ガイドライン特別委員会理学療法診療ガイドライン部会にて策定した規準により決められた(表1).また,理学療法介入のエビデンスレベルは,「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」2)に準じて決められた(表2).

実践講座 障害者家族への心理的サポート・1【新連載】

  • 文献概要を表示

はじめに

 日本脳卒中データバンクの膨大なデータ1)によると,急性期の脳血管障害患者が退院する時点において,日本版modified Rankin Scale(日本版mRS)が4(中等度〜重度障害:歩行や身体的要求に要介助)あるいは5(重度障害:寝たきり,常に要介助)である例は,ラクナ梗塞(n=22,675例)では23%,アテローム血栓性梗塞(n=24,135例)では29.1%,心源性脳塞栓症(n=20,134例)では37.6%,高血圧性脳出血(n=14,602例)では42.4%,くも膜下出血(n=5,242例)では17.8%であった.このように,急性期治療を経た後,mRSが4あるいは5である例は,長期的予後においても何らかの身体的介助を要するとともに,高次脳機能障害をも残存すると考えられる.すなわち,脳血管障害患者の少なくとも30%以上は,高次脳機能障害が後遺すると推定される.

 東京都が2008年に高次脳機能障害者実態調査2)を施行したところ,通院している脳血管障害患者(n=734例)の高次脳機能障害の内訳は,失語症が44.0%,社会的行動障害が40.1%,記憶障害が39.2%,注意障害が38.1%,遂行機能障害が24.7%であり,社会的行動障害としては,意欲の障害18.5%,抑うつ状態17.0%,興奮状態8.0%,情動の障害6.8%と続いた.高次脳機能障害者を介護する家族の負担感は,以上の高次脳機能障害とそれから派生する失職や引きこもりなどの社会的帰結に対する「精神的負担感」である.ともすると精神的負担感は,肉体的負担感よりも重く介護者にのしかかり,介護者の精神的健康,ひいては肉体的健康にも影響を及ぼす.その結果は,翻って高次脳機能障害者そのものに悪影響を及ぼし,回復を阻害する要因にもなる.

 本稿ではまず,筆者が2018年に高次脳機能障害者(原因疾患は脳血管障害以外に頭部外傷などを含めた)を介護する家族に対し実施した介護負担感に関する実態調査結果を示し,どのような心理的サポートが求められているのかを示す.次いで,筆者らが今日まで行ってきた家族支援について述べたいと思う.海外の文献的考察は,拙著「外傷性脳損傷者・家族のメンタル支援3)」を参照していただきたい.

  • 文献概要を表示

要旨 【背景】若年健常者において心拍変動(heart rate variability;HRV)を用い,姿勢変換による自律神経系(autonomic nervous system;ANS)への影響,およびその変化パターンを明らかにした.【対象】若年健常者24名(平均25±3歳)を対象とした.【方法】背臥位からベッドの頭部を45°,60°および80°挙上(head up;H-up),および端座位,立位へ姿勢を変換した.各姿勢で5分間のHRV〔交感神経;low frequency/high frequency(LF/HF),副交感神経(high frequency;HF)〕,収縮期(systolic blood pressure;SBP),拡張期血圧(diastolic blood pressure;DBP),心拍数(heart rate;HR)を測定した.【結果】H-up 60°,80°ではHFのみ変化したが,LF/HFに有意な変化はなかった.端座位,立位では背臥位よりLF/HFは増加し,HFは減少した.またDBPとHRはH-upを含むすべての姿勢変換で増加した.一方,SBPに有意な変化はなかった.【結語】ANSはH-up 45°では有意に変化せず,60°,80°および端座位,立位で変化した.BPおよびHRは一連の姿勢変換により一定の変化パターンを示した.

  • 文献概要を表示

要旨 【背景】更衣動作の難易度は動作工程ごとに異なり,動作能力は介助者からの手がかりや環境により変化する.今回,動作工程ごとに能力を評価する新たな更衣動作評価尺度を作成した.【対象】2015年11月〜2017年8月の間に東京湾岸リハビリテーション病院(以下,当院)回復期病棟に入院した患者のうち,更衣動作の非自立者53名.【方法】評価尺度の素案を作成し,当院作業療法士38名へのアンケート調査により内容妥当性を検討した.その後作成した評価尺度を用いて対象者の更衣動作を評価し,信頼性と妥当性を検討した.【結果】評価尺度の項目について良好な内容的妥当性が得られた.動作工程に沿った全項目で良好な検者間信頼性と内的整合性が得られ,既存評価である機能的自立度評価表(functional independence measure;FIM),Barthel Index(BI)とも有意な基準関連妥当性が得られた(p<0.01).【結語】本尺度は患者の更衣動作能力や介助ポイントを明確化でき,患者の更衣動作自立に向け,作業療法士間・多職種間の情報共有や効率的な介入に有効と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 2016年4月,熊本地震が発生し,熊本県理学療法士協会(以下,当協会)の事務局は機能不全に陥った.熊本県災害リハビリテーション推進協議会(Kumamoto Japan Disaster Rehabiritation Assistance Team;Kumamoto JRAT)事務局担当の当協会は,その状況下で被災県として大規模災害で初の支援活動を行う地域JRATの受け入れ体制を整えなくてはならず,限られた会員に大きな負担をかけた.「受援」の重要性を再認識した当協会はこの経験を活かし,2017年5月,「大規模災害リハビリテーション支援チーム本部運営ゲーム(REHUG)」というカードを用い,ゲーム形式で大規模災害時の本部運営のシミュレーションができる教育教材を開発した.ゲーム内容は平成28年(2016年)熊本地震におけるJRAT熊本本部活動をベースとしており,本部で起こるイベントに対応するグループワークとなる.参加者からは,難易度は高いが楽しく学べたとの評価を得ており,他県からの関心も高い.次の災害に備えた人材育成の1つのツールとなれば幸いである.

連載 リハビリテーション医療に必要な薬物治療・第5回

関節リウマチ 田中 良哉
  • 文献概要を表示

 関節リウマチは,関節滑膜炎を病態の主座とする全身性自己免疫疾患(膠原病)である.30〜50歳台の女性に好発し,約70万人の患者数を数える.関節リウマチに伴う多関節の疼痛・腫脹やこわばりなどの臨床症候,関節変形が日常生活の質(quality of life;QOL)を著しく損なう.関節破壊は発症早期から進行し,いったん変形すると不可逆的な身体機能障害を引き起こすため,早期からの適正な診断と治療が必要である.また,多くの患者が発熱,倦怠感を訴え,乾燥性角結膜炎,唾液腺炎,間質性肺炎などの関節外臓器障害をしばしば伴う.治療の有害事象も含め全身の内科的な管理が必要である.

連載 生理検査レポートのみかた・第3回

換気機能検査 海老原 覚
  • 文献概要を表示

 肺機能検査は,呼吸のときの呼気量と吸気量を測定するスパイロメトリーと,ガス希釈法やBody box法などを用いる精密肺機能検査に分かれる.本稿では誌面の関係もあり,スパイロメトリーについて解説する.

連載 ICF活用の実際と展望・第1回【新連載】

WHOの動向 山田 深
  • 文献概要を表示

 国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)は世界保健機関(World Health Organization;WHO)によって定められた国際統計分類(WHO Family of International Classifications;WHO-FIC)の1つであり,WHOはICFの普及と利用促進に取り組むとともに,大規模な改訂(revision)および一部の改正(update)にかかわる作業を継続的に実施している.今回はWHOにおけるICFの取り扱いの枠組みと,将来のビジョンを踏まえた近年の動向を解説する.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

  • 文献概要を表示

 太平洋戦争当時,東京帝国大学の教授と松沢病院の院長を兼務していた精神科医の内村祐之は,自伝『わが歩みし精神医学の道』(みすず書房)の中で,空襲を契機に難病が快癒したという女性患者の事例を伝えている.

 その女性は,22歳の時に受けた虫垂炎手術の予後が悪く,前後5回にわたる手術を受けて東大病院に5年間入院するなど,ほとんど寝たきりの状態で過ごしていた.しかし,昭和20年4月25日夜の大空襲で自宅付近が火の海となったため,妹の介助のもとに辛うじて数十メートルを歩いて逃げることになる.

  • 文献概要を表示

 「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(監督/前田哲)を満席の劇場で鑑賞した.前の席から子供たちの笑い声,後ろの席から高齢者の会話が聞こえてくる.笑い声はもちろん,会話も画面上の出来事に共感的に反応したものであり,耳障りではない.むしろ首肯できる.これはもう昭和30年代前半の映画館の風情だ.万人が楽しめる作品に仕上げた製作姿勢を称えたい.

 原作は,重度身体障害者・鹿野靖明(1959〜2002)の自立生活の実相をさまざまな視座から活写した渡辺一史の長編ノンフィクション『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』.自立生活とは,渡辺の言葉を借りるなら「障害者もボランティアも,決してやさしかったり,純粋なだけの人間集団なのではなく,ときには危ういドロドロした,ひどく微妙な人間関係の力学の上に成り立つ世界」でもある.これこそ渡辺が突き動かされたポイントだと推測する.鹿野は「痰を吸引するにも,食事をするにも,トイレに行くにも,寝返りを打つにも人が要る」のであり,「眠ったら死ぬ」という不安を抱え,不眠症にも苛まれている.夜中であるにもかかわらずボランティアにバナナを買いに行かせる本作冒頭のエピソードも,鹿野の「夜寝ない」問題に由来する.渡辺の鹿野観の一部を援用するなら,鹿野とは,自分のできることが日に日に少なくなり,「死」に向かって,どんどん落ち続ける砂時計のような存在.生きる希望を見失うほどの過酷な状況下にある.

私の3冊

私の3冊 三木 貴弘

  • 文献概要を表示

 第41回総合リハビリテーション研究大会は2018年10月27日(土),28日(日)の両日に,千葉市のホテルポートプラザちばにて,千葉県千葉リハビリテーションセンター(以下,千葉リハ)センター長である吉永勝訓氏が実行委員長となられて開催された.実行委員会には千葉リハのスタッフの多くの方が参加された.第41回大会の基本テーマは「地域包括ケア時代における総合リハビリテーション」であったが,実行委員会がこの基本テーマを設定されたのは,かねて「地域包括ケアシステム」の構築を提唱してきた国が2017年に「地域共生社会に向けて」を発表し,地域包括ケアシステムにおける障害児・者等を含めたソーシャルインクルージョンの方向性を明らかにしたことに対応し,その理念を実現するには何が求められているかを明らかにする必要があると考えられたからであると思われる.

 第41回大会の1日目は実行委員長の吉永氏による基調講演「地域包括ケア時代に向けた千葉リハの取り組み」で開始された.1日目は基調講演に続き日本障害者リハビリテーション協会副会長の松井亮輔氏の講演が午前中に,午後にはシンポジウム1「『地域包括ケア時代における医療的ケア児者への支援』—医療ケアが必要な障害児者を地域の仲間で支えよう—」と,シンポジウム2「災害時の総合リハビリテーション」が行われた.

  • 文献概要を表示

 『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,21世紀に入り新たに作成された解剖学アトラス「プロメテウス解剖学アトラス」3分冊より,特に学生教育を意識して創られた.本シリーズは,当初より図版の美しさが話題となり,欧州で数々の賞を受賞し,今や独語から英語や日本語などにも翻訳され全世界に広まっている.

 まず第1の特徴である図版の完成度については,最新のコンピュータグラフィックスを駆使して作成される図版は,本書でも健在である.部位によるばらつきの少ない統一された仕上がりは,実物に近い質感を備えながら,かつ強調されるべき構造をきちんと伝え,より「リアル」が実現されている.従来の描き手の思いが伝わるデフォルメを最小限としたことで,かえって初学者は自然な形で人体の理解が進められる.

  • 文献概要を表示

 この本は著者の盆子原秀三氏がKirsten Götz Neumann氏の講演に触発され,歩行介入を効果的に実施してほしいと願い,長年にわたる臨床での試行錯誤を凝縮して意欲ある理学療法士たちのために書籍化したものである.

 私は2001年ごろに英国で開催された動作解析装置のソフトウエア講習会でKirsten氏と知り合い,彼女が米国のRancho Los Amigos National Rehabilitation Centerを拠点とする歩行分析講師の会(O.G.I.G.)の会長として講演活動をしていることを知った.彼女に誘われてドイツでの講演会に参加したところ,その講演の内容が日本の理学療法士に必要なものであることを確信し,彼女を日本に招待し山本澄子氏らとともに日本各地で「観察による歩行分析セミナー」と称した講演会を開催した.講演は大評判となった.この講演に刺激を受けたのが月城慶一氏であり,彼はKirsten氏が出版したばかりのドイツ語の著書『Gehen verstehen:Ganganalyse in der Physiotherapie』をあっという間に和訳した.同様に彼女に大いに刺激を受けたのが盆子原氏である.彼も2003年に東京の両国でKirsten氏の講演会を主催し,著書『観察による歩行分析』(医学書院)の訳者にも名を連ねた.

お知らせ

--------------------

目次

文献抄録

次号予告

編集後記
  • 文献概要を表示

 新元号につづき,新札のデザインが発表になりました.1万円札,5千円札,千円札の「顔」はそれぞれ,渋沢栄一,津田梅子,北里柴三郎に決まりましたが,財務省によると,紙幣の肖像の採用基準は,「紙幣は,老若男女すべての人が使用するものであることから,学校の教科書にも登場するなど,一般に良く知られており,また,偽造防止の目的から,なるべく精密な人物像の写真・絵画を手に入れられる人物であることなど」とのことです.では,ここで問題です.歴代の日本のお札の肖像として描かれた人々の中に,大河ドラマの主役として取り上げられた人物は何人いるでしょう? 答えは……なんとゼロ!「学校の教科書にも登場」し,「一般によく知られて」いて,お札の顔として選ばれたほどの偉人にもかかわらずです.というわけで,お札の肖像で大河の主役となる第一号は,ずばり! 2024年の大河ドラマ「渋沢栄一」と予想します! 我ながらすごく当たる気がしています.

 さて,いよいよ「令和」の幕開けです.令和時代も「総合リハビリテーション」をどうぞよろしくお願いいたします.

基本情報

03869822.47.5.jpg
総合リハビリテーション
47巻5号 (2019年5月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

文献閲覧数ランキング(
8月12日~8月18日
)