Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「長いお別れ」—万人が直面することになる認知症者と家族の日々
二通 諭
1
1札幌学院大学
pp.605
発行日 2019年6月10日
Published Date 2019/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201675
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「長いお別れ」(監督・脚本/中野量太)には,中野の家族観が反映されている.中野は,前作「湯を沸かすほどの熱い愛」において,家族とは何かというテーマに迫った.家族とは,血のつながりがあっても崩壊するし,血のつながりがなくても成立するものであること,さらに,心配し心配される事実の積み上げが家族という関係を形成していくこと,家族という「形式」以前に必要なことは,相互に交わされる心配や慰め,支え合いの確かな記憶であるということを<血のつながりのない>家族をとおして明らかにした.とりわけ眼差しによる表現が出色.14映画賞・34部門受賞という高い評価にも合点がいく.
今回は,<血のつながりのある家族>.認知症を患い,日々記憶を失っていく元中学校校長の東昇平(山﨑努)は,「帰る」という言葉を多用する.自宅に居ても「帰る」と宣う.勢い家族は,帰る先として考えられる郷里の家に昇平を連れて行くが,そこでも「帰る」と言い張る.昇平は果たしてどこへ帰りたいのか.観客もまた,昇平の記憶の断片とでもいうべき言葉や行動を手がかりに推察することになる.冒頭に出てくる遊園地,手に持っている3本の傘,デイケアセンターの玄関で見た雨,次女・芙美(蒼井優)の風邪による発熱…….帰りたい場所は,わが家でも懐かしい風景でもなく,ある種の感情の世界.筆者の勝手な解釈だが,中野の家族観の中核を占める「心配」が謎解きのキーワードになる.
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