医薬ジャーナル 54巻11号 (2018年11月)

特集 喘息治療における分子標的治療

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 重症喘息治療の開発過程では,IL(インターロイキン)-4,IL-13,TNF(腫瘍壊死因子)-α,IL-17などの阻害は有効性が示されなかった。しかし,現在2型炎症を標的とした分子標的薬の選択肢が増えており,抗IgE(免疫グロブリンE)抗体,抗IL-5抗体と抗IL-5受容体α抗体が承認されている。さらに,IL-4とIL-13の双方を阻害する抗IL-4受容体α抗体の臨床応用は近く,抗TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)抗体についても第III相試験が進行中である。現状の課題は,非2型炎症に対する分子標的薬が未確立であることと,長期予後を修飾できるかに関する知見が十分でないことにある。本稿では,分子標的薬の現状と展望につき,開発の歴史を振り返りながら,概説する。

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 平成30(2018)年6月に喘息予防・管理ガイドラインが改訂された(JGL2018)。その中で喘息管理目標が定められ(症状のコントロールと将来のリスク回避),その目標達成のための喘息治療の構成が示された(薬物療法,増悪因子の回避と除去,吸入指導とアドヒアランスの管理,合併疾患の管理)。薬物療法では重症度に応じた治療ステップを選択し,その中で種々の薬剤を単独もしくは組み合わせて長期管理を行う。

 JGL2018では分子標的薬を始めとする最新の薬剤,治療法が喘息長期管理の選択肢に加わった。

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 喘息における気道炎症には,さまざまな病態が存在する。アレルゲンによって活性化されたTh2細胞がIL(インターロイキン)-4,-5,-13等,Th2サイトカインを産生し,マスト細胞や好塩基球,好酸球を活性化させることが知られていた。さらに近年,気道上皮細胞から放出されるTSLP(thymic stromal lymphopoietin),IL-25,-33により活性化される2型自然リンパ球が,IL-5およびIL-13の産生源となり,好酸球性気道炎症を引き起こす経路が解明された。また,Th17細胞,3型自然リンパ球が関与する好中球性気道炎症による非好酸球性気道炎症の存在も明らかにされた。さまざまな喘息病態が明らかとなるのに伴い,主要な分子を標的とした分子標的治療への応用が進みつつある。

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 喘息に対する世界初の分子標的薬剤は,抗ヒトIgE(免疫グロブリンE)モノクロナール抗体のオマリズマブである。その薬理学的メカニズムは,血中に遊離したIgEに結合することによってIgEのマスト細胞をはじめとする炎症細胞への結合を阻害し,有効性を発揮する。本邦におけるオマリズマブの投与対象は,吸入ステロイドに加え複数の抗喘息薬を使用しているにも関わらず,喘息コントロールが不良の重症喘息患者である。オマリズマブは,従来の治療に抵抗性を示す重症喘息患者の喘息コントロールを改善し,経口ステロイドを減量もしくは中止させることができる。昨今新たに分子標的薬剤が登場しているが,現在も重症喘息に対する治療オプションとして重要な役割を担っている。

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 メポリズマブは,抹消血液中および組織中の好酸球を調節する主なサイトカインであるヒトインターロイキン5(IL-5)に高い特異性および親和性で結合する,ヒト化抗IL-5モノクローナル中和抗体である。気管支喘息で最も主要な病態である気道の好酸球性炎症は,2型ヘルパーT細胞(Th2)や2型自然リンパ球(ILC2)などが産生するIL-5,IL-13などのサイトカインにより制御される。IL-5は,好酸球の分化,増殖,生存,浸潤,および活性化を制御するため,好酸球表面に発現するIL-5受容体にIL-5が結合することを阻害するメポリズマブは,好酸球性炎症を抑制させることにより,既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治性気管支喘息患者に対して喘息増悪頻度の減少などの重要な臨床的ベネフィットをもたらす。

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 重症喘息患者の新規治療薬としてヒト化抗Interleukin-5受容体αモノクローナル抗体(抗IL-5R αモノクローナル抗体)であるベンラリズマブが,2018年1月よりわが国でも承認された。この薬剤は好酸球の活性化に関わるIL-5の受容体に強力に結合し,IL-5のシグナルを遮断するだけでなくNK(ナチュラルキラー)細胞やマクロファージの抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性により好酸球のアポトーシスを誘導する作用も有することで強力な好酸球の制御が可能となり,既存の治療ではコントロール不十分な好酸球増多を有する重症喘息の有力な治療選択肢となり得る。これまでの臨床試験からの報告では,年間の喘息増悪の抑制効果,FEV1(1秒量)改善効果,喘息症状の改善が認められ,さらには経口ステロイドの減量効果も期待できる。

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 重症喘息に対する生物製剤として,現在抗免疫グロブリンE(IgE)抗体(ゾレアⓇ),抗インターロイキン(IL)-5抗体(ヌーカラ),抗IL-5受容体α抗体(ファセンラⓇ)が実臨床で使用可能である。いずれも喘息症状を改善し増悪を抑制するなど,重症喘息の治療薬として画期的な効果を上げている。しかし,この3種の薬剤の使い分けについては明らかにされておらず,生物製剤同士の比較試験もない。従って,本稿では各製剤のエビデンスと特徴から,使い分けについて私見を交えて述べていきたい。

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 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は重症喘息の約3%に合併し(自験成績),通院治療中の中年以降の喘息患者の約0.6%に認める1)。好酸球性副鼻腔炎と重症喘息が先行し,著明な好酸球増多と全身の虚血症状で発症する。発症要因は不明であるが,一部ではワクチンとの関連が疑われている2)。同じく気道外症状と強度の好酸球性気道炎症を呈する,アスピリン喘息との鑑別に注意する3)。予後不良化させないためには,病理学的所見が得られなくても早期診断・治療を開始し,予後不良因子である心障害に注意を払う。ステロイドとシクロホスファミドの併用が治療の基本である2)~5)。追加治療薬として,末梢神経障害や心障害には免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)治療が奏効し6),抗IL-5治療(メポリズマブ)は,ステロイド減量と血管炎の再燃予防に効果的であり7)8),今後は重要な選択肢となるであろう。

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 アトピー性皮膚炎は,特徴的分布を示す湿疹とそう痒を呈するアレルギー疾患である。これまで,ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害薬の外用,スキンケア,悪化因子の検索などが治療の中心であったが,これらの標準治療ではコントロール不良な,治療に難渋する症例も少なくなかった。近年,病態の理解が進み,発症に重要な分子をターゲットとした生物学的製剤が開発され,2018年1月,IL(インターロイキン)-4受容体αサブユニットに対する抗体,デュピルマブが本疾患に対する初めての生物学的製剤として日本で承認された。本稿では,アトピー性皮膚炎におけるデュピルマブの位置付けと,現在臨床試験中である気管支喘息におけるデュピルマブの有効性について解説する。

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 重症喘息における非2型炎症として重要なのは好中球性炎症であり,近年,好中球性喘息に対する生物学的製剤が開発されている。標的は,好中球の接着や組織浸潤に関与するtumour necrosis factor(TNF)- αや,好中球遊走因子interleukin(IL)-8の産生を誘導するIL-17,さらに上流にあるIL-23であるが(可溶性TNF- α受容体,抗IL-17抗体,抗IL-17受容体抗体,抗IL-23抗体など),重症喘息全体に対するこれらの効果は,現在のところ限定的であり,効果をよく発揮するエンドタイプの解析が待たれる。一方で,機序からは2型炎症に効果があるが,非2型炎症にも効果があることが期待されている生物学的製剤として,抗thymic stromal lymphopoietin(TSLP)抗体があり,非2型炎症に対する実際の臨床応用により近い可能性がある。

連載 薬剤師が知っておくべき 臓器別画像解析の基礎知識 95

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 口腔癌は口腔内の表在癌であるが,その進展は口腔と頸部,さらに全身の臓器に波及する性質があり,その臨床では画像診断による進展範囲の正確な把握と原発病変周囲および遠隔転移の精査が治療上必須となっている。一般的に行われているCT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像法),US(超音波検査)ならびにPET-CT(陽電子放出断層/CT撮影)による一連の診断は,治療計画の立案と治療効果の評価および治療後の再発監視と経過観察において中心的な評価法になっている。

連載 感染症診断と病理(17)

病原体と紛らわしい構造物(2) 堤寬
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 病理標本中に観察される病原体類似物質あるいは非病原性微生物類の偶発的混入を適切に認識することは,正しい病理診断に貢献する。標本内にみえる食材を正確に同定することで,誤嚥性肺炎の早期治療に貢献できる可能性があるし,死因の検証に役立つことにもつながる。筆者がこれまでに体験したそんな貴重な事例を,前回に引き続き,再度エッセイ風に紹介したい。なお,細胞標本に混入する病原体と紛らわしい構造物については,本連載「11.感染症の細胞診断」(医薬ジャーナル54〔5〕:1135-1154, 2018)を参照されたい。巻頭図として,発見当初は原虫感染と考えられていたダリエー病の組織像を示す。

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 医薬品投与に用いられるプラスチック製医療機器が,併用する薬剤の影響により破損する事例が報告されている。これらの医療機器に用いられる材料と医薬品成分は多種に及ぶため,両者の組み合わせも多様となるが,適正使用に係る過去の行政対応は個別事例に限られていた。そこで,相互作用の全貌を解明するため,併用により不具合が発生する可能性のある組み合わせを網羅的に特定したとともに,破損機構を解明した。また,臨床現場から行うべき情報提供の在り方のほか,医療関係者が留意すべき事項を取りまとめた。これらの成果は,添付文書改訂,製品改良,並びに医療機関における不適切使用の解消へ向けた取り組みの実施に資することが期待される。

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 東近江総合医療センター(以下,当院)では2017年6月よりがん性疼痛緩和パス(以下,緩和パス)を導入した。以前当院で行ったアンケート調査によると,疼痛評価に対する共通認識は得られていなかった。そこで緩和パスの内容のうち,疼痛評価の項目を「持続痛」,「レスキュー使用前」,「レスキュー使用後」の3つに分けてより詳細に評価することとし,疼痛評価を均一化した。運用後に行ったアンケート調査の結果,緩和パスはがん性疼痛の緩和に有用であることが示された。緩和パスに組み込まれた診療項目(パスを適応した際に体温表上に表示される項目)は,薬剤師が薬物治療効果の評価や副作用マネジメントを行う際にも非常に役立つものとなった。

連載 薬剤師による処方設計〈69〉

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 これまで,腎クリアランス低下時における薬の投与量の減量等の調節については多くの研究報告がなされているが,腎クリアランス増加時における投与量の調節についての研究は少ない。敗血症等の病態において,クレアチニンクリアランス(CCr)>130mL/分/1.73m2の場合,通常のクリアランスを超えて薬が排泄される過大腎排泄(Augmented Renal Clearance:ARC)の発生が示唆されている。ARCのリスク因子としては,敗血症,頭部外傷,低アルブミン血症,血液腫瘍,若年者,ICU(集中治療室)入室患者等が報告されている。ARC発生下においては,通常投与量では薬の効果が不十分となる可能性が示唆されており,主に抗生物質でtime above MIC(定常状態の24時間で血中薬物濃度が最小発育阻止濃度を超えている時間の割合)やAUC/MIC(血中濃度-時間曲線下面積/最小発育阻止濃度)を指標とした研究が行われている。今回,ARCの発生機序,リスク因子について紹介するとともに,対応策を紹介する。

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 ウリナスタチン(UTI)は羊水中に多く含まれる成分であり,子宮頸管周囲の炎症を抑え,また子宮収縮を抑制する作用もある。だが日本では,切迫早産患者への投与は保険適用となっておらず,院内製剤としてUTI膣坐薬あるいはUTI生食を調製している。院内製剤は医療法のもと医療機関の責任下で院内において調製・使用されているが,薬事関連法規や製造物責任法を考慮し,日本薬局方の製剤総則に準拠することが求められる。院内製剤の調製には常に品質と安全性の確保が要求される。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART II .服薬指導と病棟活動(127)

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 妊婦や授乳婦への薬物治療は,母体のみならず児への影響も考慮する必要がある。実際,児への影響を懸念するあまり服薬を中断してしまうなど,大きな不安を抱いている妊婦や授乳婦もいる。産科病棟の病棟薬剤師の業務としては,薬剤師の職能を発揮し,海外のエビデンスを含めた情報の収集と評価,医師や患者への情報提供が求められている。また,母児の安心と安全のためには産科のスタッフに加えて,小児科や小児外科など他科の医師や看護師,薬剤師との連携も大切である。今回,名古屋大学医学部附属病院の産科病棟における薬剤師の取り組みについて報告する。

連載 ●副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.スコットランドの医療情報データベースを用いた症例対照研究,英国の医療情報データベースを用いたコホート研究において,PPI(プロトンポンプ阻害薬)服用と肝癌のリスク上昇との関連が認められたことが報告されている。 2.北イスラエルの医療施設での症例対照研究において,DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害薬の使用と水疱性類天疱瘡のリスク上昇との関連が認められ,特にビルダグリプチンとリナグリプチン,男性,70歳未満で関連の強かったことが報告されている。 3.本邦のクロザリル患者モニタリングサービスのデータの分析により,好中球減少症/白血球減少症の発現率は5.4%,耐糖能異常の発現率は12.8%であったことが報告されている。 4.イスラエルの医療情報データベースを用いたコホート研究において,睡眠薬を開始した患者の約20%が10年後も一定量を処方されており,ベンゾジアゼピン系よりも非ベンゾジアゼピン系の方が長期使用に至るリスクが高かったことが報告されている。 5.健康成人を対象とした試験において,シクロスポリンの併用によりグラゾプレビルのAUC(血中濃度−時間曲線下面積)が15.2倍に上昇し,エルバスビル/グラゾプレビルの併用によりタクロリムスのAUCが1.43倍に上昇したことが報告されている。 6.健康成人を対象とした試験において,タンジンの併用によりクロピドグレルおよび活性代謝物の血漿中濃度が低下し,血小板凝集抑制作用が減弱し,CYP(チトクロムP450)3A4を誘導する可能性が示唆されている。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈34〉

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◆製剤の特徴  「イブランス®カプセル25mg,同125mg(パルボシクリブ)」(以下,本剤)は,サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin Dependent Kinase:CDK)4および6に対して高い選択性を有する,世界で初めてのCDK4/6阻害剤である。種々の非臨床モデルを用いた結果より,本剤は,ホルモン受容体(HR)陽性乳癌の治療において有望な薬剤になり得ると考え,開発された。その後の臨床試験結果にて,HR陽性かつHER2(human epidermal growth factor receptor type 2)陰性の手術不能または再発閉経前/後乳癌患者に対する有効性が認められている。

連載 医薬ジャーナル 編集長VISITING(420)

カラー口絵

特集・喘息治療における分子標的治療

医薬ジャーナル論壇

生涯「学問」と薬剤師 寺田智祐
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 医療者には,自身の資質向上と患者への十分な奉仕のために,生涯「学習」の実践が求められている。学習法は個人によって多種多様であるが,昨今のパソコン・スマートフォン(スマホ)の普及に伴って,効率的な方法も広まっている。例えば,「調べる」という作業一つをとっても,WEBやアプリを介したキーワード検索によって,目的の情報に易々とたどりつける。一方で,このようなスマホの利用が,子どもの学力低下につながっているという心配なデータもある。我々薬剤師や薬学生とて例外ではなく,効率的で浅い学習法を繰り返してばかりいると,大きなしっぺ返しを食らうかもしれない。医療の現場では,正解のない局面に出くわすことが多く,そこでは正解の代わりに最も適した解(最適な解)が求められる。最適な解へたどり着くためには,「本当にこれで良いのか」,「他に解はないのか」など,問い続ける態度を忘れてはならない。学問の本質も“問い続けること”であり,生涯学習とともに生涯「学問」の姿勢を身につけていきたいものだ。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 第39回日本肥満学会が10月7~8日,神戸ポートピアホテル,神戸国際会議場で開催された。集会テーマは「肥満症学―新たなステージへ―」,会長は小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科内科学講座糖尿病・内分泌内科学部門教授)が務めた。本学会は2000年より「肥満症」を疾患単位として定義,提唱を行い,その重要性は広く認識されるところとなっている。

 集会初日,門脇 孝氏(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座)は理事長提言として,本学会が日本医学会連合に設置された「領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループ」と共同で,効率的・効果的な肥満症の克服に向けた「神戸宣言2018」を発出することを明らかにした。

 本集会には肥満症治療に携わる医師・研究者だけでなく,保健師・栄養士・看護師・薬剤師といった多くの医療職が参加し,連携の促進と知識のアップデートのために活発な議論が展開された。

メディカルトレンド・姉妹誌から

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2018年12月号特集内容予告

基本情報

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医薬ジャーナル
54巻11号 (2018年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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