医薬ジャーナル 54巻12号 (2018年12月)

特集 Cardio Oncologyの現状と課題~専門医からプライマリケア医まで考えるべきこと~

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 超高齢社会を迎えたわが国では,がんが死因の第1位であり,生涯罹患率も50%と非常に高いものの,医療の進歩に伴い生命予後は年々向上してきている。このような状況下でCardio Oncology(腫瘍循環器学)が新たな学際領域として急速に広まりつつある。そこで,これまでのように,がん治療関連の心血管有害事象には,抗がん薬と心毒性といった個別的対応でよいのかなどの問題の提起,さらに個別的対応ではなく心毒性関連unitを形成するなどの組織的対応の必要性に迫られている。本特集では,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬による心毒性,心筋障害,がんサバイバーの心血管リスク,共通する病態の解明などへいかに対応すべきか,またそれぞれの専門医からプライマリケア医までを巻き込んだ医療連携の整備,教育などが必要になっている状況について,それぞれの専門家に解説してもらった。

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 がんと心血管病は危険因子を共有するため,がん患者には心血管病がよく見つかり,心血管病患者にはがんがよく見つかる。がんの30%は生活習慣病であり,5つの健康習慣(禁煙・節酒・食生活・身体活動・適正体重の維持)で,およそ40%が予防可能とされる。  プライマリケア医は,がん予防を意識した診療が求められる。がんに罹患した時点で,喫煙や飲みすぎなどの生活習慣があれば,心血管病の併存の可能性が高いことをがん医療に携わるスタッフは認識する必要がある。また,がん治療後は健康的な習慣を実践できるように,サバイバーへの支援が必要である。そのためには,がん専門医とプライマリケア医の連携が重要である。

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 がん患者の生存期間の延長,高齢化により心・血管障害の合併が増える中,血管新生阻害作用を有する分子標的薬に代表されるがん薬物療法によってリスクが高まる心毒性が問題となっている。頻度が高い高血圧症のほかに,一度発症すれば重篤な経過となり得る出血・血栓症,不整脈,心筋症など,薬剤によっても注意すべき心毒性は異なっている。患者背景,病態にも配慮した適切な対応,予防,教育への取り組みが注目されている。代表的な抗凝固薬であるワルファリンでは,分子標的薬と併用することが多い5-FU(フルオロウラシル)系抗がん薬との薬物相互作用を念頭におく必要がある。多職種によるチーム医療を進める上で,がん診療の現場で遭遇する注目すべき心毒性について概説する。

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 がんの治療成績の向上に伴って,化学療法や放射線治療による心血管合併症が生命予後やQOL(quality of life)を左右する大きな要因となってきている。特に,AC(アントラサイクリン)系抗がん剤のように心毒性が古くから知られた薬剤に加えて,HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2)阻害剤や血管新生阻害剤,チロシンキナーゼ阻害剤,プロテアソーム阻害剤,免疫チェックポイント阻害剤など,分子標的薬による心血管系の副作用が問題となっている。がん化学療法による心血管系への影響は多岐にわたっており,その分子病態は不明な点が多く残されている。今後,腫瘍循環器学(Onco-Cardiology/Cardio-Oncology)の取り組みによって,発症メカニズムの基礎的検討がさらに進められていくことが期待される。

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 高齢化時代の重要な概念の一つが,Multimorbidity(多疾患併存)である。慢性疾患を複数抱えることで,多剤併用(Polypharmacy),入院や救急外来受診,死亡率増加など,さまざまな健康問題のリスクが高まる。また,治療内容が複雑化することで,病状理解や服薬アドヒアランスは低下し,患者の治療負担が増大する問題がある。循環器疾患とがんが併存する場合には,その疾患特性や患者・家族の治療期待・価値などに注意を向けながら,バランスの取れた診療を目指したい。専門医の診療にプライマリケア医も協働する形のShared careを提供し,チーム医療の包括的な評価と治療負担の軽減,チームアプローチが期待されている。

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 炎症は生体防御機構の一つであると同時に,がんや心血管疾患の発生・進展に大きく関与している。これまで抗炎症薬による心血管イベントリスク減少は報告されていなかったが,2017年に発表されたCANTOS(the Canakinumab Antiinflammatory ThrombosisOutcome Study)試験では予後改善の結果となり,ターゲットとしての炎症の妥当性が示唆された。一方,がんは疫学的に炎症や感染症との関連が報告されており,腫瘍からのさまざまな炎症性サイトカインの分泌,免疫細胞の浸潤も認められる。さらにがん薬物治療では,しばしば薬剤による酸化ストレス,炎症増加などが加わり,循環器系への有害作用が生じ,がん疾患そのものよりも患者の生命を脅かす場合がある。  本稿では,がんと心血管疾患,腫瘍循環器の視点で基礎,臨床研究をレビューし,抗炎症的治療の有効性と今後の展望について考えてみたい。

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 がん薬物療法の心毒性の予防に対して,最も多くのエビデンスがあるのは,デクスラゾキサンである。他の薬剤(β遮断薬,アンジオテンシン変換酵素〔ACE〕阻害薬,スタチンなど)の予防効果は明らかではない。また,心毒性を減らすため,アンスラサイクリン系薬剤を使わず,他の化学療法で代用していく試みが乳がんなどでなされている。  がん患者の心毒性に対する臨床試験は,それほど多くは行われていない。心毒性の頻度がそれほど多くないためである。本稿では,これまでの心毒性に対する臨床試験に関してレビューするとともに,今後の方向性について考察する。

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 超高齢社会を迎えた今,がんの生涯罹患率は高まる一方,がん医療の進歩も目覚ましく,がんサバイバーの数は増加しつつある。  従来から,がん治療では合併する心血管疾患へ細心の注意が払われてきたが,最近登場した分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬では多種多様な病態が報告されており,その診断・治療・予防に向けた体制整備が急務となっている。Cardio Oncologyとは,腫瘍専門家と循環器専門家の連携を核として教育・診療・研究の質を向上させる,国際的な流れである。  既に欧米では,がん拠点医療機関におけるCardio Oncology Unitの整備が進み,国や学会レベルでも現状認識や将来に向けた課題が共有され,疫学研究・基礎研究・臨床研究が加速しつつある。  本稿では,最新の診療ガイドラインを元に,今後必要な臨床試験について,循環器内科医の立場から概説する。

連載 薬剤師が知っておくべき 臓器別画像解析の基礎知識 96

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 骨粗鬆症や悪性腫瘍の治療薬(ビスホスホネート〔BP〕,デノスマブ,分子標的薬等)の副作用の一つとして,薬剤関連顎骨壊死(Medication Related OsteoNecrosis ofthe Jaw:MRONJ)がトピックスとなっている。しかし,発症のメカニズムや治療法,予後に関してはいまだ十分なコンセンサスが得られていない。今回は,その口腔内所見と画像所見について紹介する。

連載 感染症診断と病理(18)

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 横浜国際女子駅伝に参加する23歳のケニア人選手が,発熱を訴えて駅伝出発点にほど近い総合病院に来院した。駅伝前日のことだった。末梢血Giemsa染色で赤血球に感染する熱帯熱マラリア原虫を少数認めたため,本人が持参していたクロロキンを飲むこととなった。そして翌日,彼女は駅伝区間を走りきった。実は,6人の駅伝選手のうちもう1人も発熱し,塗抹標本でマラリア原虫が確認された。さて,結果は?全日本チームが優勝。ケニアチームは新聞記事に掲載されない成績だった。さもありなん。それにしても,マラリア原虫を抱えながらの長距離走。さすが!巻頭図にGiemsa染色液のpHによる染色性の違いをあわせて示す。pH 7.2(左)では赤血球が灰青色に染色され,通常のpH 6.4(右)に比べて,輪状体がみやすくなる。本稿では,まず原虫症3種を紹介する。

連載 リスクマネジメント~院内での薬剤師の活動~(126)

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 医療安全においてインシデント注1)情報を分析し,有効な対策を立案するためには,根本要因の抽出が重要である。インシデントの中で最も数が多いのは,薬剤に関わるものであるが,その根本要因分析には,薬剤師業務に精通している医療安全管理部専従薬剤師の役割が重要である。大阪市立大学医学部附属病院(以下,当院)では,医療向けに開発された分析手法である「ImSAFER」からの時系列事象関連図と,WHO(世界保健機関)が推奨する根本要因分析の手法である特性要因図の2つを組み合わせ,問題点を明確化した上で根本要因を抽出するインシデント分析を行っている。  今回,医療安全管理部専従薬剤師が薬剤に関わるインシデントについて,当院における分析手法を用いた事例分析を行ったので紹介する。

連載 クリニカル・パスと薬剤師(80)

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 そうごう薬局天神中央店(福岡市中央区)では,外来がん薬物治療患者のケアを標準化,かつ質を向上させるために2015年9月から『外来がん薬物治療患者における保険薬局クリニカルパス(以下,パス)』の開発に着手した。そして,患者病態や治療目的を把握する「がん患者初回確認シート」,患者の状態を継続的に把握する「事前状況確認シート」,アドヒアランス不良や副作用発現などを評価する「スクリーニングシート」を作成し,2016年3月から運用している。今回,これらパスの使用前後の介入事例を比較した結果,疑義照会件数が増加し,パスの有用性が示唆された。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART I .院内製剤(93)

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 院内製剤は,市販化されている医薬品とは異なり,有効性・安全性,品質面において十分な保証がなされていない。近年,院内製剤に関する報告は減少している。一方,院内製剤の需要は一定数ある状況が依然として続いている。亀田総合病院薬剤部では,特に院内製剤の服薬指導およびモニタリング強化に取り組み,院内製剤のエビデンス形成に取り組んでいる。今回,院内製剤に合わせた,服薬指導およびモニタリング方法について紹介する。市中病院では製剤試験用器具や分析機器の整備が不十分であり,院内製剤の品質管理が今後の課題である。院内製剤に関する課題を解決していくには,他施設との連携が重要だと考える。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART II .服薬指導と病棟活動(128)

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 平成28年(2016年)度の診療報酬改定において,高度急性期医療を担う治療室での薬剤師業務に対して病棟薬剤業務実施加算2が新設され,集中治療室専任薬剤師による薬物治療への更なる貢献が期待されている。集中治療室では重篤な患者が多く,病態が複雑かつ急速に変化するため,全身状態を把握し適切な薬物療法を支援するには,より多くの知識と経験が必要となる。東海大学医学部付属病院薬剤部では,集中治療室専任薬剤師による能動的介入事例を継続して収集してきた。我々は最適な薬物療法を支援するために収集した事例を分析し,対応策を立案・実施することで処方提案件数を増加させることができたため,ここに報告する。

連載 ●副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.健康成人を対象とした試験において,緑茶抽出物の併用によりジゴキシンの血漿中濃度が約30%低下したことが報告されている。 2.健康成人を対象に高地で行われた試験において,ゾルピデム服用後3.5時間で起床した場合,認知機能や姿勢制御機能に影響が認められたことが報告されている。 3.有害事象データベース,大規模病院の診療録データ,臨床試験のメタアナリシスにより,致死的な有害事象として抗PD-1/PD-L1(programmed cell death-1/programmed cell death ligand 1)抗体では肺炎,肝炎,神経毒性などが多く,抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4)抗体では大腸炎などが多く,これらは治療開始後早期に発現し,死亡までの期間も短かったことが報告されている。

4.高用量のシルデナフィルを高用量で服用した男性患者が,赤視症や光視症といった視覚障害を訴え,症状は3カ月経っても改善しなかった症例が報告されている。 5.北カリフォルニアの医療情報データベースを用いた症例対照研究によると,気道疾患患者では吸入ステロイドが非結核性抗酸菌症のリスクを上昇させる可能性が示唆されている。 6.健康成人を対象とした薬物動態試験において,セントジョーンズワート併用によりマシテンタンのAUC(血中濃度−時間曲線下面積)は約50%,リバーロキサバンのAUCは約25%低下したことが報告されている。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈35〉

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◆ 製剤の特徴  「テセントリク点滴静注1200mg(アテゾリズマブ)」は,Programmed Death-Ligand1(PD-L1)を標的としたヒト化免疫グロブリンG1(IgG1)モノクローナル抗体である。PDL1は,主として腫瘍細胞または免疫細胞上に発現する膜タンパクであり,PD-L1がこれらの受容体に結合すると,T細胞増殖,サイトカイン産生および細胞溶解活性が阻害され,T細胞の機能的不活化や抑制に至ると考えられている。これまでの国際共同第II相臨床試験(BIRCH試験),国際共同第III相臨床試験(OAK試験)の結果より,2018年1月,「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能・効果で承認を取得した。

連載 医薬ジャーナル 編集長VISITING(421)

医薬ジャーナル論壇

働きがいを支える環境整備へ 佐々木均
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 安倍晋三首相は内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置し,生産年齢人口(15~ 64歳)の減少に対応すべく,働き方改革の取り組みを提唱した。戦後,国民は生活のために必死に働き,会社の成長に貢献して,日本は高度経済成長期を迎えた。経済的に豊かになり,生活者の価値観やライフスタイルが多様化した今,働くことの意味は見出しにくくなっている。医療従事者は,責任が重く,緊張感とストレスの多い職業ではあるが,それ故に働きがいが強く感じられる。しかし,長時間労働による過労死や自殺などといった歪みも見えている。この働き方改革を契機に,働く条件や環境を次世代にどう伝えるかを真剣に考える必要がある。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 第20回骨粗鬆症学会が,伊東昌子会長(長崎大学ダイバーシティ推進センター センター長・教授)の下,10月26~ 28日の3日間,長崎ブリックホール,長崎新聞文化ホールで開催された。今回のテーマは「健康長寿を極める!~私たちのミッションとチャレンジ~」。本学会では,ユマニチュード(認知症ケア)の哲学から医療事故との向き合い方まで,骨粗鬆症との関わりの中で,よりバラエティに富んだ特別講演をはじめ,アップデートされた最新の話題を中心にした15のシンポジウム,11の教育講演(知っておきたいシリーズ)などが企画された。その中から,特別講演2「骨粗鬆症診療の発展と疫学-広島コホート調査から-」と,知っておきたいシリーズ1「男性骨粗鬆症の診断・治療・予後」を紹介する。

メディカルトレンド・姉妹誌から

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2019年1月号特集内容予告

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医薬ジャーナル
54巻12号 (2018年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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