medicina 56巻1号 (2019年1月)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

野々垣 浩二
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 枠組みを考えるとは,問いに答えるために必要な論点のセットを考えるということである.今回の特集の問いは,「消化器疾患に対して薬をどのように選び,投与すべきか?」である.この問いに対する論点を具体的に挙げると,「投薬するにあたり主訴は何か,確定診断前それとも確定診断後なのか?」「診療場面は? 救急外来それとも一般外来,病棟?」「処方しようとしている薬のデメリット=副作用は何か?」などのように,実際に投薬する前に,抜け漏れがないように必要な論点=枠組みを考えることが必要である.患者を目の前にして,たまたま知っている薬を漠然と投与していないだろうか? 手元にある情報のみで対応していないだろうか? TPO(time:時,place:場所,occasion:状況)を意識し,どの薬をどのように投薬すべきかについて,処方医の立場に応じて知識の整理をすることは重要である.

 消化器薬は,誰が,いつ,どこで,どんな薬を,どのように処方すべきであろうか? 消化器薬を処方する立場で考えると,研修医,非専門医(開業医・勤務医),専門医に分けられるだろう.診断前,診断後で症候に応じて使用する薬も異なるであろう.消化器病患者を診察する場面はどうだろうか? 救急外来,一般外来,病棟,最近では在宅診療まで多くの消化器薬が処方されている.どんな場面で,どのような根拠をもって,そして処方する医師が,研修医なのか,非専門医なのか,専門医なのかによってカバーすべき知識の整理が必要である.消化器内科医の守備範囲は非常に広い.疾患分類でいうと,上部・下部消化管,肝疾患,膵・胆道疾患に分類される.消化器内科医でさえ,このすべての分野を網羅してup dateするオールランドプレーヤになることは難しい.

特集の理解を深めるための28題

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今回は一般内科医も診る機会の多い消化器疾患に対して,薬の作用や患者さんの背景,副作用,保険・コストなどを考慮してどのように選んで処方すればよいかを考えていきます.特に比較的コモンな消化器薬であるH2ブロッカー・PPI・P-CABや便秘薬の使い分け,また急速に治療が進歩した肝疾患の薬物療法について,現場で役に立つ熱いメッセージを読者の皆様にお届けできればと思います.(野々垣)

上部消化器疾患

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Point

◎胃食道逆流症(GERD)は胃食道逆流(GER)により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患と定義されている1)

◎日本では,食生活の欧米化やHelicobacter pylori感染率の低下,除菌治療の普及に伴う日本人の相対的な胃酸分泌の増加に伴い2),GERDは増加している3)

◎GERD診療ガイドラインでは,初期診療の第一選択としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が推奨されている1)

◎近年,標準量のPPIを8週間内服しても食道粘膜傷害が治癒しない,またはGER由来と考えられる症状が十分に改善しないPPI抵抗性GERDも多いことが明らかになってきた4)

◎日本では2015年に従来のPPIより酸分泌抑制効果が強力なカルシウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)であるボノプラザン(タケキャブ®)が発売された.

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Point

◎上部消化管出血の成因は,静脈瘤性出血と非静脈瘤性出血に大別され,後者のうち最も多いのが出血性胃十二指腸潰瘍である.

◎出血性胃十二指腸潰瘍に対する初期治療では,プロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択となる.

◎食道静脈瘤に対する薬物療法としては,β遮断薬,硝酸イソソルビド,血管作動薬が提案されているが,保険収載はなされていない.

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Point

◎ディスペプシア症状が持続し上部消化管内視鏡検査を行っても器質的疾患がみつからない場合,機能性ディスペプシアを疑う.

◎ディスペプシア様症状をきたす器質的疾患の除外が必須である.

Helicobacter pylori陽性患者は,まず除菌治療を行う.

◎初期治療が奏功しない場合,2次治療として抗不安薬,抗うつ薬,漢方薬を考慮するとされており1,2),プライマリ・ケアの段階で2質問法3)を用いた抑うつ状態のスクリーニングは診断の助けとなる.

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Point

◎上部消化管潰瘍を疑う症状があれば,内視鏡検査での確定診断までは制酸薬などの薬剤で治療を行うことが望ましい.

◎NSAIDsや副腎皮質ステロイドの定期内服が必要な人は,PPIやP-CABの定期投与による潰瘍予防治療が望まれる.

Helicobacter pylori除菌治療により上部消化管潰瘍や胃癌の発症リスクを減らすことができるとされ,適応患者には治療が推奨される.

下部消化管疾患

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Point

◎感染性腸炎の治療で最も重要なのは,脱水の評価と補液の必要性の判断である.

◎細菌性腸炎で抗菌薬を必要とする例は限定されており,個々の症例の重症度を判断し,適切に抗菌薬を使用することが重要である.

◎細菌性腸炎か,ウイルス性腸炎かの鑑別が難しい場合のempiric therapyで抗菌薬を使用することは避ける.

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Point

◎入院患者の新たな下痢症では,必ずClostridioides difficile(旧名Clostridium difficile)感染症(CDI)を考慮する.

◎迅速検査にてCD抗原(GDH)(+)・トキシン(−)の場合,毒素遺伝子検査(NAAT)を検討する.

◎重症例ではメトロニダゾールではなく,バンコマイシンを用いる.

◎再発率は約25%であり,症例によっては再発率低下のために新規薬剤の使用を検討する.

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Point

◎診断,治療法の決定に必要な問診事項,検査項目を漏らさない.

◎重症化し治療困難な場合には,早急に炎症性腸疾患(IBD)専門医,専門施設に相談する.

◎最新のガイドライン,新薬の登場による治療法の変化,長期経過患者における発癌に注意する.

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Point

◎Crohn病の累積手術率は10年で44〜50%とされており,いったん病変を切除しても再発しやすく,再手術率も高い慢性進行性の炎症性疾患である.

◎若年者での慢性下痢,腹痛,発熱,体重減少をみた場合は,炎症性腸疾患の可能性を念頭に置き,大腸内視鏡や消化管造影検査を進めることが重要である.

◎Crohn病は治療前に,病変範囲や重症度など患者の病態を正確に把握することが必須である.

◎早期に抗TNF-α抗体製剤を導入するaccelerated step up治療が広がっている.

◎IBDの内科治療の選択肢は近年急速に拡大し,その複雑化が予想されている.

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Point

◎慢性の腹痛と便通異常がある場合,器質的疾患を除外し,Rome Ⅳを基準に過敏性腸症候群の診断を行う.『機能性消化管疾患診療ガイドライン2014』を参考にする.

◎消化管機能調節薬,プロバイオティクス,高分子重合体に加えて,下痢型に5-HT3拮抗薬,便秘型に粘膜上皮機能変容薬を使いこなせるようにする.

◎第1段階の治療効果が乏しい場合にストレス・心理的異常を考えた投薬,消化器病専門医や精神科医へのコンサルトを考える.

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Point

◎虚血性腸炎の治療は絶食による腸管安静が基本である.一般的に抗菌薬は必要としない.

◎大腸憩室炎は身体所見・血液検査・画像所見によって,ドレナージや手術が必要となることがある.

◎大腸憩室炎の治療に対して抗菌薬を用いる場合,腸内細菌と嫌気性菌をカバーできるものを選択する.

膵臓・胆道疾患

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Point

◎急性膵炎は迅速な診断と治療の開始が重要であり,その成因によって治療の選択肢も異なる.

◎初期対応として重要なことは除痛,十分な輸液であり,重症例では抗菌薬も投与する.

◎発症48時間以内の経腸栄養の開始は,感染予防,死亡率の低下に寄与し重要である.

腹痛—慢性膵炎 杉本 啓之
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Point

◎慢性膵炎による疼痛には,一般的にNSAIDsの内服,坐薬が有用である.

◎薬物治療とともに禁酒,禁煙,食事指導が慢性膵炎治療の中心であることに留意する.

◎早期慢性膵炎の診断,治療介入が非可逆性疾患への進展を予防する可能性がある.

◎成分栄養剤は栄養改善のみでなく,慢性膵炎の疼痛軽減にも有効性が報告されている.

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Point

◎急性胆囊炎の本態は胆汁うっ滞による胆囊粘膜の循環不全であり,感染は副次的なものに過ぎない.

◎急性胆囊炎は抗菌薬で治す疾患ではない.治療の要は胆囊摘出術や胆囊ドレナージ術であり,抗菌薬はあくまで補助である.

◎急性胆囊炎での抗菌薬投与においては,ガイドラインを鵜呑みにせず,起因菌とアンチバイオグラムを考慮した適正使用を心がけるべきである.

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Point

◎急性胆管炎患者は高齢者が多く,脱水も加わり,腎障害を呈していることが多い.

◎腎障害の程度に応じて薬剤,投与量を決定する.

◎ガイドラインでは,胆管炎の重症度別に推奨抗菌薬を提示している.

◎各施設の採用薬剤,検出菌別の感受性率に基づいて抗菌薬を選択する.

肝疾患

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Point

◎急性肝炎は主に肝炎ウイルスの感染が原因で起きる急性の肝機能障害を呈する病気であり,特に薬剤の投与が必要でない例がほとんどである.

◎急性肝炎はC型肝炎とB型肝炎ゲノタイプA型を除き,本来一過性に経過し,自然治癒しやすい疾患である.

◎約1〜2%の患者は劇症化し,劇症化すると高率に死に至るため,治療においては,極期を過ぎたか否かの見極めが重要である.

◎肝障害の重症度を評価するためには,肝予備能を鋭敏に反映するプロトロンビン時間という血液凝固機能検査が有用である.

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Point

◎慢性B型肝炎ではALT 31 IU/L以上の上昇,かつHBV-DNA 2,000 IU/mL(3.3 logIU/mL)以上の慢性肝炎症例,肝線維化進展例ではHBV-DNA陽性で治療対象となる.

◎治療は長期継続する必要があり,耐性化のリスク・安全性を考慮して薬剤を選択し,治療開始後もHBV-DNAの定期的なモニタリングが必要である.

◎HBs抗原の陰性化が最終目標であり,Peg-IFN治療を含めた治療の可能性を慎重に検討する.

肝機能障害—C型慢性肝炎 土谷 薫
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Point

◎HCV抗体陽性であればHCV-RNA測定および腹部超音波検査を施行する.

◎直接作用型抗ウイルス薬(DAA)治療前には遺伝子型の同定と肝線維化の診断(慢性肝炎または肝硬変)が必要である.

◎DAA治療は非常に高額であり,多くの症例において治療前に申請が必要である.

◎DAA治療不成功例における再治療については薬剤耐性ウイルスを念頭に置き治療薬を検討する.

◎DAA治療でHCV-RNA陰性化が得られても肝癌スクリーニング検査は継続する.

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Point

◎アルコール離脱せん妄の予防には,ベンゾジアゼピン系薬剤を用いる.

◎肝性浮腫の治療の際には,肝性浮腫をきたす以前の体重を目標体重とする.

◎腹水の原因精査を行う場合は腹腔穿刺を行い,細胞数と分画,生化学,培養検査,細胞診などをオーダーする.

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Point

◎肝性脳症急性期で意識障害があるときは,分岐鎖アミノ酸輸液製剤の点滴を行う.

◎末期肝不全やアルコール離脱症状の意識障害に対して,分岐鎖アミノ酸輸液製剤は無効である.

◎ラクチトールはラクツロースより効果が早く,下痢や腹部膨満も少ない.

◎肝性脳症における高アンモニア血症の改善に対して,リファキシミンが保険適用となった.

◎難治性肝性脳症にはカルニチンや亜鉛製剤の併用も検討する.

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Point

◎脂肪肝患者を診療する際に,肝形態の変形や線維化マーカーの上昇を伴う場合は積極的に肝生検を行い,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者を見逃さないようにする必要がある.

◎NASH治療の基本は体重の減量であり,効果不十分の場合は合併疾患に合わせた薬物治療を選択する.

◎線維化の進行したNASH患者を診療する際には,肝硬変や肝細胞癌などの肝関連合併症だけでなく,心血管イベントなど肝外合併症にも注意を払う必要がある.

日常診療のコツ

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Point

◎がん患者の痛みのすべてが,がんによる痛みではないことに注意する.

◎オピオイドの選択は,それぞれの薬剤の特徴を踏まえたうえで,患者にとって最も適切なものを選択する.

◎オピオイド開始時に,副作用対策,レスキュー薬の使用方法,増量の目安について患者にしっかりと説明することで,スムーズな導入が可能となる.

慢性便秘診療のコツ 大前 知也
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Point

◎まず問診により本当に便秘症かどうか,特に器質性でないかを確認することが必要である.

◎次に便秘の原因となる基礎疾患,薬剤がないか確認し,減量や変更が可能なものはないか考える.

◎下剤については浸透圧性下剤か上皮機能変容薬を基本とし,刺激性下剤や浣腸は頓用で使用すべきである.

漢方薬のコツ 印牧 直人
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Point

◎漢方薬は多成分系であるため,一剤でいくつもの作用が認められる.

◎消化器領域の漢方薬は安全性の高いものが多い.

◎漢方薬の第一選択は,FDでは六君子湯(リックンシトウ),IBDでは桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)である.

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Point

◎児への影響を評価する際は,薬剤の使用時期(妊娠週数)を確認することが重要である.

◎児への影響を説明する際は,ベースラインリスクを患者に理解してもらう必要がある.

◎添付文書の記載は実際のリスクとは結びつかない場合がある.

◎授乳中の薬剤使用は,母乳を介した児の薬剤摂取量,月齢,哺乳量や頻度を総合して評価する.

悪性腫瘍の化学療法

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Point

◎化学療法の対象は切除不能・再発胃がんであり,全身状態や臓器評価から適応を判断する.

◎化学療法の主な目標は生存期間の延長であり,根治を望める治療ではないことを理解する.

◎1〜3次化学療法まで推奨レジメン,条件付き推奨レジメンが決まっており,患者の年齢,病態,身体・臓器機能,ライフスタイルなどを踏まえレジメンを選択する.

◎抗がん剤による副作用を,予防対策,投与量の減量,投与スケジュールの延期などでマネジメントしながら,効果のある治療レジメンを上手に継続する.

大腸がん 松岡 歩
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Point

◎切除不能進行大腸がんでも化学療法により約30カ月の生存期間が期待できる.

◎5-FU,オキサリプラチン,イリノテカンを「使い切る」ことが重要である.

RAS遺伝子変異を確認したうえで,分子標的薬(ベバシズマブ,パニツムマブ,セツキシマブ)を上乗せする.

膵臓がん 桑原 崇通
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◎膵がん診療は最初に手術適応があるかを判断することが重要である.

◎腹腔動脈や上腸間膜動脈など,重要血管に対する腫瘍浸潤の場所と程度で治療方針が変わる.

◎化学療法は新規抗がん剤(FOLFIRINOXやナブパクリタキセル)の登場により予後の延長が得られる.

◎家族歴やUGT1A1遺伝子多型を調べることによって化学療法による効果や副作用発現の程度を類推することができる.

肝細胞がん 葛谷 貞二 , 石上 雅敏
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Point

◎肝細胞がん(HCC)に対する分子標的治療薬としては,ソラフェニブ,レゴラフェニブ,レンバチニブの3種類が実臨床で投与可能である.

◎進行がんであっても肝予備能や全身状態が良好であれば分子標的治療薬の投与対象となる.

◎HCCに対する薬物療法の進歩は目覚ましく,さらに良好な抗腫瘍効果が期待されている.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・9

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 上肢のわずかな麻痺を検出する方法で,いわゆる上肢のBarré徴候(pronator drift sign)はとても有名です.しかし,神経所見はどれか1つだけで確定診断を下せるものではありません.時には,いくつかの所見を組み合わせて異常を指摘する必要もあります.

 やはりおかしい,そう感じたときに手軽にできるテストがあります.上肢のわずかな麻痺を検出する方法,“forearm rolling test”と“finger rolling test”が有用です.それでは,一緒に勉強していきましょう!

連載 母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・7

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症例

 32歳のAさんは妊娠37週になりました.出産準備のため,3日前に電車に乗って大型ショッピングセンターへ夫と買い物に出かけました.昨日の夜から体の節々が痛くなり,重い荷物を運んだせいで筋肉痛になったのかと思い様子をみていましたが,今朝から39℃の発熱があり,倦怠感や頭痛,咽頭痛,鼻汁があります.一緒に外出した夫が昨日発熱し,インフルエンザA型と診断されています.夫も節々の痛みや頭痛を訴えており,症状が似ていることを心配したAさんはかかりつけの内科を受診しました.

Aさん:「夫がインフルエンザと診断されました」

連載 物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・8

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ポイント

SDは特徴的な失語症状が前景に立つ疾患で,症状からは原発性進行性失語症に含まれます.残存機能を生かした治療・対応を行います.

連載 ストレスと病気のやさしい内科学 診療の幅が広がる心療内科の小ワザ集・3

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 第1回では心療内科や心身症の概論,第2回では心療内科初診外来をみてみようということで実際の問診票や病態仮説の形成について取り上げました.今回からは症例をもとに,「明日から使える心療内科の小ワザ」をお伝えしたいと思います.

連載 目でみるトレーニング

連載 医師のためのビジネススキル・8

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事例

 初期研修医や専攻医の研修病院として人気のあるN病院に勤務する専攻医Sは,ある問題に頭を悩ませていた.それは,専攻医が中心に行うカンファレンスを担当するようになったが,例年に比べ,盛り上がりに欠けることであった.自ら発言する人も少なく,遅刻する人,居眠りする人などもみられるようになった.全体的な活気もなく,意欲がわかないようにも見受けられた.S医師は「昨年度O先生がファシリテーションを行っていたときは,あんなに盛り上がっていたのに….どうやったら,あの時のようなカンファレンスができるのだろうか….」と考えていた.

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 セントルイスのワシントン大学医学部と関連病院は米国でもトップの医学部の1つである.そこで10余年の内科臨床研修に始まる豊富な臨床経験をもつ加藤良太朗さんと,やはり米国での内科臨床研修ののちに同じくセントルイスのワシントン大学で感染症のフェローを体験した本田 仁さんが監訳者となり,30人の仲間たちとの労作がこの邦訳である.

 二人の監訳者にとってはなじみのある原著者も多いであろうワシントン大学によるこの著書は,クリントン大統領時代の1999年のInstitute of Medicine(IOM:現在はNational Academy of Medicineと改名し,3つのアカデミーをそろえて‘National Academies of Sciences, Engineering and Medicine’となっている)の歴史的報告書「To Err is Human(人間は間違える)」に出発した医療事故の分析と対策を受けての,ワシントン大学医学部病院群の現在に至る活動報告といえよう.このIOM報告書は米国での医療事故と対策への現在に至る大きな流れを作ったのは間違いない.

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 大都市の総合病院の救急外来はもちろんのこと,中小病院の外来さらには病棟での急変対応,また,郡部やへき地の診療所において遭遇する準救急的な健康問題など,われわれプライマリ・ケアに携わる医師は多様な健康問題に対し,病歴,身体診察,簡単な検査で対応する基礎体力を身につける必要がある.評者も,患者でごった返す総合病院の救急外来を一人でさばく経験,北海道の郡部で一人救急搬送される患者に対応する経験,訪問診療を行う在宅患者に想定外の急変があり慌てて往診する経験などをもち,これまで数多くの救急に対応してきた.大事なのは,救急対応において一定のパターンを体得しつつ,例外的状況に対する鋭敏な感覚を養うことだと思う.そのために,経験ある指導医から学ぶことの価値は計り知れないが,そうした指導医が在籍する医療機関はそう多くないのが現実である.

 ショック,喀血,頭痛,陰囊痛,高Ca血症,創傷処置,皮膚疾患への外用,肘内障の整復…….多彩かつ素早く的確な対応が必要な病態が広く網羅されている本書を手に取ると,その簡潔ながらも要点をしっかり押さえた内容が印象的である.特に「はじめの5分でやることリスト」は,次から次へと受診するER外来でオリエンテーションをつけるための一助となり,「検査」「鑑別診断」と一歩深めた評価がわかりやすい図表で示される.そして,「Q&A」では「そう,そこがいつも悩ましいところだよな」と感じる論点が詳しく説明されており爽快さを覚える.音羽病院という北米型ERのメッカで培われた指導医の知識と技術がふんだんに網羅された本書をポケットに入れて診療に臨めば,診療に臨む不安のかなりが解消されるだろう.あたかも,すぐそばに熟練の指導医が付き添ってくれているような感を覚える.

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 臨床現場において「病変の質的診断」は治療方針の決定に直結するため極めて重要である.特に,消化管,肝胆膵領域では悪性病変の頻度が低くなく,常にがんを念頭に置いて鑑別診断していく必要がある一方,がん以外の腫瘍や良性病変も存在するため慎重な診断が求められる.質的診断は画像診断と生検や細胞診などの病理診断の両者によって行われるが,ここに「落とし穴」があることを知っておく必要がある.臨床側では生検や細胞診の検体を病理に提出さえすれば確定診断が得られると考えている「勘違い」の医師が多いが,種々の理由によるサンプリングエラーがあること,肝生検やEUS-FNAの場合には腫瘍細胞の播種の危険性があることも忘れてはならない.片や,病理側では病理医の中でも専門性に差があること,HE染色だけでは確定診断ができない病変があること,病理判定の中にもグレーゾーンがあること,そしていまだわかっていない病態や病変も存在する.この「落とし穴」を埋めるために臨床医も病理を学ぶ必要があり,かつ病理医との連携を深めることが重要となる.

 『臨床に活かす病理診断学—消化管・肝胆膵編(第3版)』が医学書院から出版された.本書には,病理医だけではなく,臨床医が知っておくべき内容が満載である.入門編,基礎編,応用編で構成されており初学者にも理解しやすい.中でも入門編の「Q&A」,基礎編の「特殊染色の基礎知識」,見返しの「使用頻度の高い組織化学染色」は臨床医,研修医に大いに役立つ.「抗体早見表」や資料編として「病理診断用語集」も読者にはありがたい.

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56巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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