medicina 54巻1号 (2017年1月)

特集 肺炎への最新アプローチ—ジェネラリストの立場とスペシャリストの視点から

関 雅文
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 肺炎は,いよいよわが国の死因の第3位となり,超高齢社会を迎えた昨今では,誤嚥性肺炎をはじめとして,一般診療でも避けては通れない疾患群です.肺炎に対しては,従来の市中肺炎や院内肺炎のほか,医療・介護関連肺炎(NHCAP)の概念も登場したため,その対応,すなわち治療および予防の重要性から,両者のバランス,そしてワクチンや口腔マネジメントも含めた具体的アプローチの探求が,医師以外の各職種も巻き込んで進められてきています.

 一方,比較的若年者における重症肺炎へのアプローチも重要です.例えば,インフルエンザに関連した2次性細菌性肺炎の重症化が改めて知られるようになってきましたが,抗菌薬以外での対応,すなわちステロイドや抗凝固薬,ICUでの呼吸管理も含めた多角的かつ集学的な治療戦略が必要であることは,現場の医師が強く感じていることです.このように,肺炎はきわめてジェネラルな疾患であるとともに,その診療においては,スペシャリストによる的確かつ迅速な対応が求められてきていると言えます.

特集の理解を深めるための28題

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超高齢社会において肺炎は一般診療でも避けて通れない疾患です.今回は地域の基幹病院である新潟市民病院で診療をされている塚田弘樹先生と,開業医として多くの患者さんを診ている中浜力先生に,最近の肺炎診療の動向や2017年に改訂される新肺炎診療ガイドラインについてお話を伺います.(関)

診断─肺炎をどう診断するか,どう判断するか?:病態の把握と重症度評価

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Point

◎肺炎は発症する場所によって市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎に大別され,患者の臨床背景,病態,疫学が異なる.

◎患者のバイタルサインおよび肺炎の重症度を評価する指標であるPSIやA-DROPなどを参考として,予後予測および治療方針の決定を行う.

◎肺炎の起炎微生物を特定することが抗菌薬の適正使用に重要である.

誤嚥性肺炎 梅木 健二 , 門田 淳一
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Point

◎誤嚥性肺炎は,嚥下機能障害により口腔内常在菌などの下気道への流入で生じる.

◎多くの誤嚥性肺炎は不顕性誤嚥によって生じるため,誤嚥のエピソードが明確でない.

◎厳密な定義は困難であり,世界的にも明確な診断基準はない.

◎耐性菌誘導のリスクを考慮して,初期治療の選択肢としてescalation治療を考慮する.

◎胃瘻は誤嚥性肺炎の予防として推奨されない.

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Point

◎人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生頻度は高く,合併した場合の致死率は9〜13%と高い.

◎VAPの主な原因は上気道や消化管細菌叢の下気道への落ち込みである.

◎VAPの診断は総合的な臨床判断に基づく.臨床肺感染症スコア(CPIS)が有用である.

◎晩期VAPでは耐性菌が問題となることが多い.

◎VAPの予防として,半座位管理,手指衛生,口腔ケアが重要である.

免疫抑制患者の肺炎 伊藤 功朗
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Point

◎免疫抑制患者の肺炎を治療するためには,3つのステップ(免疫不全の分類,起炎微生物検査,適切な抗菌薬選択)が必要である.

◎細胞性免疫不全患者のびまん性肺炎では,ニューモシスチスやサイトメガロウイルスが重要である.

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Point

◎敗血症の新定義は臓器障害に重きを置いたものとなり,qSOFAスコアとSOFAスコアが診断に用いられる.

◎CRP,白血球数,血液培養,プロカルシトニンはあくまでも敗血症の補助診断ツールである.

◎qSOFAスコアは,敗血症疑い例をベッドサイドで迅速にスクリーニングするためのツールである.

◎敗血症性ショックの診断は,急速輸液負荷を行ったうえで平均血圧と乳酸値を指標とする.

診断─原因を把握する:さまざまな微生物検査法と具体的な現場での使用例

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Point

◎感染局所から得られた検体のグラム染色により,原因病原体に関する重要な情報が得られる.

◎免疫クロマトグラフィー法による病原体抗原検出検査の有用性が高まっている.

◎遺伝子検査において,検体接種から約1時間で結果が得られる方法が開発されている.

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Point

◎ESBL産生菌はセファマイシン系薬やカルバペネム系薬を除き,ほとんどのペニシリン系薬やセファロスポリン系薬に耐性を示す.

◎CREはカルバペネム系薬に耐性を示す腸内細菌科の総称である.

◎国内ではCREのうちIMP-6産生菌が優位であるが,イミペネムのMIC値が低く,薬剤感受性検査で判別できないことがある.

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Point

◎培養を中心とした従来法では肺炎の原因菌検索に限界があった.それらは培養法に関連する問題や網羅的な検索ができないことなどが原因と考えられる.

◎質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いることにより迅速かつ正確に菌種を同定することが可能となり,従来法と比べて1〜2日程度早く結果が判明する.

◎細菌叢解析法は,網羅的に菌種を検出してその菌種の割合を評価することができる手法である.

◎次世代シークエンス技術を用いたマイクロバイオーム解析により,健常者や非感染性肺疾患の下気道にも細菌叢が存在し,細菌叢が疾患活動性に関与している可能性が指摘されている.

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Point

◎常食を食べている人の誤嚥の評価には,質問表によるスクリーニングが有用である.

◎誤嚥の生理学的評価では,「気道を防御する能力」を測ることが重要である.

◎気道を防御する能力で重要なのは,「気道防御機構としての嚥下反射」と咳反射である.

◎気道防御機構としての嚥下反射で見落とされがちなのは,呼吸と嚥下の協調性である.

◎標準的な嚥下機能評価法である嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査は,オールマイティの検査ではない.

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Point

◎肺炎を対象としたブレイクポイントでは,臨床的に難渋するペニシリン耐性肺炎球菌はほとんど存在しない.

◎マクロライド耐性肺炎球菌は高頻度に存在するが,高度耐性株であってもマクロライド系薬は臨床的にも細菌学的にも有効である.

◎マクロライド耐性マイコプラズマは,2012年をピークに減少傾向である.

◎通常,マクロライド耐性マイコプラズマ症例は最終的にマクロライド系抗菌薬で治癒し,重症化や死亡した報告はない.

◎抗菌薬の臨床評価基準に照らし合わせた有効性と実地医療での即効性は異なる.

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Point

◎原因菌や宿主の免疫状態・基礎疾患の違いから,肺炎には軽症〜超重症まで存在し,予後が異なる.

◎初診時迅速検査で病原微生物が判明した場合には標的治療を行い,同定できない場合にはエンピリック治療を行う.

◎市中肺炎では,敗血症の有無と重症度から治療の場と治療薬を決定する.

◎院内肺炎と医療・介護関連肺炎では,誤嚥のリスク,敗血症の有無,重症度,耐性菌のリスクから治療方針を決定する.

◎抗菌薬投与開始3日後あたりに効果判定を行い,軽快しない場合には非感染性疾患も含めて改めて鑑別診断を行う.

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Point

◎耐性菌は広がり続けているが,新たな抗菌薬開発は滞っている.

◎Antimicrobial stewardship(抗菌薬の適正使用支援)の考え方が広がってきている.日本では従来のinfection control team(ICT)から派生した,より感染症治療に特化したantimicrobial stewardship team(AST)の活動の重要性が増している.

◎呼吸器感染症領域では肺炎発症の場や重症度,グラム染色所見を考慮して起炎菌の想定をしたうえで,エンピリック治療が必要なことが多く,広域抗菌薬の使用や併用療法も考慮される場面がある.

◎耐性菌抑制という面から考慮した場合,発症以前の不要な抗菌薬使用を抑制することがより重要である.

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Point

◎耐性菌肺炎の診療には,原因菌の同定と病態を把握することが要求される.

◎グラム染色結果のほか,菌量,臨床経過,正常細菌叢を意識することが重要である.

治療─抗菌薬の使い分けや適応の基本的な考え方

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Point

◎最も頻度の高い市中肺炎の原因菌は肺炎球菌であり,ほぼ全例ペニシリンG感受性である.

◎喀痰のグラム染色で肺炎球菌性肺炎と診断した場合,ペニシリンGまたはアンピシリンで治療する.

◎非常に広域なスペクトラムを有するピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)は,緑膿菌の関与を疑う状況で使用する.

◎市中肺炎の治療において,PIPC/TAZを経験的治療として使用する状況は限定的である.

◎免疫不全者の市中肺炎,気管支拡張症などの慢性肺疾患をもつ患者の肺炎,院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎の経験的治療薬として,PIPC/TAZは有用である.

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Point

◎セフトリアキソンは市中肺炎の経験的治療で使用する.

◎セフタジジムは緑膿菌性肺炎の標的治療で使用する.

◎セフタジジムは十分量使用する(1回1gを6時間毎または1回2gを8時間毎,ただし日本の保険適用は1日最大4g).

◎セフェピムはセフトリアキソンとセフタジジムのスペクトラムを併せもち,さらにAmpC型β-ラクタマーゼ産生菌に対しても有効である.

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Point

◎レスピラトリーキノロンは,非定型病原体に対するカバーと優れたバイオアベイラビリティをもつため,外来での肺炎治療のempiric therapyとして有用である.

◎definitive therapyとしてキノロン系抗菌薬が用いられる場面は,レジオネラ肺炎,緑膿菌肺炎に対してである.緑膿菌に対しては特にシプロフロキサシンが有効である.

◎キノロン系抗菌薬は結核菌に抗菌活性があるため,常に結核の可能性を考慮して使用する.

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Point

◎イミペネム(IPM)とメロペネム(MPEM)は,いずれも広域スペクトラムで優れた抗菌活性をもつ.

◎IPMとMPEMの体内動態は近似している.

◎市中肺炎と院内肺炎の経験的治療では,IPMとMEPMの治療効果に差がある.

◎ターゲット療法では,どちらの薬剤を選択するかが予後に影響する.

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Point

◎マクロライドは市中肺炎のうち,非定型肺炎における第一選択薬として推奨される.

◎重症肺炎の治療では,抗炎症作用や免疫調節作用を狙ってマクロライドが併用される.

◎アジスロマイシン徐放製剤や注射薬は,十分な血中濃度および組織中濃度が維持される.

治療─その他の治療薬や管理 【重症肺炎への対応】

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Point

◎重症市中肺炎では,ステロイドによって死亡率を軽減できる可能性がある.

◎ARDSあるいは敗血症性ショックを来した院内肺炎,人工呼吸器関連肺炎では,ステロイドにより病態改善の可能性がある.

◎医療・介護関連肺炎においては,救命ではなく緩和目的での使用も考慮される.

◎宿主免疫,原因菌の種類などを考慮し,総合的にステロイドの適応を判断すべきである.

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Point

◎重症肺炎に対するトロンボモジュリン投与にエビデンスはない.

◎重症肺炎に敗血症性DICを合併していれば,トロンボモジュリン投与は有効かもしれない.

◎特発性間質性肺炎の急性増悪に対するトロンボモジュリン投与の有効性が示唆され,現在研究が進んでいる.

◎重症肺炎に対するスタチン投与,シベレスタットナトリウム投与にエビデンスはない.

治療─その他の治療薬や管理 【高齢者肺炎への対応】

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Point

◎口腔ケアだけでなく,タイムリーに専門的介入(オーラルマネジメント)を依頼する.

◎「口腔のバイタルサイン」として,清浄度と湿潤度をモニタリングする.

◎口腔清掃においては,「口腔・咽頭のクリアランス」「汚染物の回収」を意識する.

◎義歯を使用していた患者は,装着を指導し,必要に応じて義歯を調整・改造する.

◎ルーチンの「とりあえず絶食」を脱却し,口腔の自浄性を高めるために経口摂取を促す.

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Point

◎2015/2016シーズンからインフルエンザワクチンは4価ワクチンとなっている.

◎インフルエンザ関連肺炎の抑制にインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン接種が有効である.

◎肺炎球菌ワクチンの定期接種を行い,ワクチン接種率を高める必要がある.

◎PCV13には追加接種によるブースター効果があり,「PCV13→PPSV23」の連続接種も有用である.

治療─その他の治療薬や管理 【特殊な肺炎への対応】

インフルエンザ関連肺炎 川上 健司
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Point

◎インフルエンザ関連肺炎では,純粋なインフルエンザウイルス性の肺炎は少ない.

◎インフルエンザウイルスと細菌との混合感染肺炎や,インフルエンザ後に発症する二次性の細菌性肺炎が多い.

◎インフルエンザ関連肺炎は死亡につながる重要な病態である.

◎肺炎の発症リスクが高い場合には,インフルエンザ診断時に胸部X線写真の撮影を検討する.

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Point

◎成人市中肺炎に占めるウイルス感染の割合は20%を超える.

◎成人市中肺炎に関与する主な呼吸器ウイルスはインフルエンザウイルス(A型,B型),HRV,hMPV,RSV(特に高齢者)である.

◎呼吸器ウイルスが細菌感染に合併すると,呼吸不全の増悪に関与する可能性が示唆されている.

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Point

◎MERSは,原因ウイルスが中東のヒトコブラクダで維持されている人獣共通感染症である.

◎感染リスクとして,中東への渡航歴,ラクダや未加熱のラクダ製品(ミルクなど)への曝露,MERS患者との接触などが挙げられる.

◎症状や一般検査のみでMERSの診断は不可能で,渡航歴や行動歴の聴取が不可欠である.

◎院内で,通常と異なる呼吸器感染症,医療従事者の感染が増加した場合,MERSの可能性も検討する.

◎日常から,手指衛生や咳エチケットなどの基本的な感染予防策を徹底することが重要である.

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Point

◎主な病型として,侵襲性肺アスペルギルス症,慢性肺アスペルギルス症,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症がある.

◎画像検査や血液検査は感度・特異度ともに十分ではなく,治療開始は総合的判断によることが多い.

◎治療期間は数カ月以上に及ぶことがしばしばである.

◎侵襲性肺アスペルギルス症,慢性肺アスペルギルス症では外科的切除術の併用も検討することが望ましい.

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Point

◎肺結核・肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)は珍しい疾患ではない.肺結核患者は減少しているが,今後,肺NTM症患者はさらに増加することが予想されている.

◎臨床的に肺結核が疑われた場合には,喀痰の抗酸菌塗抹を3回提出し,感染性に関して判断する.

◎キノロン系抗菌薬の安易な処方は,肺結核の診断の遅れにつながる.

◎肺NTM症が鑑別に挙がった場合には,少量のクラリスロマイシンやアジスロマイシンの投与は行わない.

◎肺NTM症において空洞を有する症例や病変の範囲が広い症例は,早期に専門医への紹介を検討する.

治療─その他の治療薬や管理 【特殊な肺炎の治療】

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Point

◎インフルエンザのサーベイランスは,国や学会などが主導してさまざまなものが行われている.

◎質的(重症度,合併症の頻度など)情報についてもリアルタイムで収集できることが理想的である.

◎日本呼吸器学会がインターネットを用いたインフルエンザのサーベイランスを開始した.

◎今後,その他の感染症への展開も検討されている.

連載 Webで読影! 画像診断トレーニング・10

気にしたい血管変異 石田 尚利
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次の3症例について,どのような解剖学的異常が推定できますか?

症例1 50代女性.固いものを食べた際の嚥下困難感を主訴に来院した.上部消化管内視鏡では食道に壁外性圧排が認められた.粘膜下腫瘍が疑われ,胸部CTを施行した.

症例2 60代男性.人間ドックの上部消化管内視鏡検査で食道に壁外性圧排を指摘された.特に症状や既往歴はない.精査のため胸部CTを施行した.

症例3 70代男性.受診前日より発熱と右胸痛を認めた.胸部単純X線写真で右中下肺野に異常陰影を認めた.なお,3年前に右膿胸で入院歴がある.胸部CTを施行した.

連載 Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・6

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「やはり,発熱したか….恐れていたことが…」

 出張先の病院のデスクで,私はしばらく呆然としていた.電話口から,ナースの声が聞こえていた….

連載 あたらしいリウマチ・膠原病診療の話・17

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 本連載を通じて,リウマチ性疾患・膠原病の診断は,基本的に除外診断であることを強調してきた.関節痛や持続する発熱を主訴に来院した患者が特定のリウマチ性疾患に罹患しているかどうかは,「感染症による症状ではないこと」「未診断の悪性腫瘍による症状ではないこと」「その他の疾患(内分泌疾患など)による症状ではないこと」を確認する過程こそが重要であり,個々の疾患の「分類基準」に合致するかどうかは臨床現場においては二の次であるとしてよい.

 以下では筋骨格症状を引き起こしうる内分泌疾患について,診断のポイントを整理する.本連載で過去に言及した状態(病態)と重複する部分も多いが,確認の意味で再録した.

連載 診断力を上げる 循環器Physical Examinationのコツ・22

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症例

 50代男性.会社員.

 病歴 幼少時から,心雑音を指摘されていたが,学校の体育の授業は普通にできていた.20歳時に近医へ入院し,心臓カテーテル検査を施行.二次孔欠損型の心房中隔欠損症(ASD)と診断され,手術を勧められたが,本人が手術を希望せず,経過観察となっていた.最近になり,労作時の動悸を自覚するようになり,当院へ入院となった.

連載 目でみるトレーニング

連載 いま知りたい 胃炎の診かた・3

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 わが国の胃癌の年齢調整死亡率は低下してきているが,胃癌罹患数や胃癌死亡数は決して減少しておらず,横ばい状態が続いている.現在,悪性新生物のなかで罹患数は2位,死亡数は年間約5万人と3位であり,今後20〜30年間の胃癌対策は重要である.胃癌発生において,Helicobacter pyloriH. pylori)感染は必要条件と位置づけられ,それに伴う進展した胃粘膜萎縮や高度の胃粘膜炎症は高リスクと考えられる.従来,胃X線検査による胃癌検診は胃癌を疑う直接所見や間接所見があるかどうかだけを見ていたが,最近ではH. pylori感染胃炎の有無も含め判断するように変化してきた.

 本稿では,胃癌発生リスクを考慮した胃炎診断について内視鏡所見と血清診断について概説する.

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 倉原優先生のブログは,文献量とその質の高さから,呼吸器内科医では知らない人がいないくらいである.このたび,その倉原先生による『COPDの教科書─呼吸器専門医が教える診療の鉄則』が出版された.COPDの患者は重症度,呼吸困難感の訴え,合併症によってさまざまな臨床像を示し,診療に当たっては個別化が必要である.

 複雑なことを難しく書くことは誰にでもできるが,わかりやすく述べることは容易なことではない.多様なCOPDの診療を詳しく書けば書くほど,〈COPDの本質〉を見失いがちになる.一方,単なるガイドラインの解説だと実際の患者像から遠く離れてしまう.本書は,読み物という体裁を取ってはいるが,〈COPDの本質〉を極めている優れた医学書である.文献の英語原著論文の数からもわかるように,最新のエビデンスを基盤に,おそらく著者が出会った一人ひとりの患者から得られた実体験が,その内容に反映されている.

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 高齢化に伴う高血圧,心房細動,虚血性心疾患の増加に伴い,心不全患者は著しい増加傾向にあり,いわゆるパンデミックな状態に陥ると危惧されている.心不全を専門としない循環器内科医,心臓外科医あるいは一般内科医も,心不全を治療しなければいけない時代に突入している.心不全の研究分野は,分子生物学的な手法で飛躍的に発展しているが,まだまだ未解決な部分が多い.その理由として,心不全の病態の多面性が挙げられる.実際,臨床現場では,いろいろな顔を持った心不全患者と遭遇する.それゆえに,しっかりとした心不全患者に対するアプローチを各自習得しておく必要がある.

 著者は,豊富な臨床経験から,心不全の診療の“いろは”をこの本で教えてくれている.特別な病気ではなく,普通にみかける心不全に対する基本的な情報が網羅されている.特に,診察のアプローチなどは,心不全患者に初めて接する,あるいは不慣れな研修医の先生には参考になると思われる.どのように問診するか,どのように診察するかから,基本的な検査の意味,読み方をひとつひとつ,短い文章で説明しており,理解しやすいと思われる.後半では,急性期から慢性期につなぐ治療法も,わかりやすく記してあり,心不全に不慣れな医師にとっては,まとまった理解が得られやすい.心不全に対する病態生理に関しては,未確立なところにも言及しているため議論の余地は残るが,まだまだわかっていない分野に対して,著者の考えをうまく届けている.後半では,具体的な症例を提示し,それに対するアプローチを実践的に解説しており,著者の経験してきた臨床現場を垣間見るようで興味深い.

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 今の医学は過去の失敗の積み重ねから成り立っている.

 「自分が下した診断のもと帰宅させた患者が,翌日別の診断で入院した」という経験は,多くの医師が経験したことがあるのではないだろうか.しかも,その経験は何年経っても忘れられない記憶となり,部下の指導で最も強調しているのは,このような失敗が大きく影響しているからであろう.診断エラーがなぜ起きてしまい,どのように対処したらよかったかを共有することができれば,患者の不幸を回避できるだけでなく,難解な疾患の診断への近道となる.

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 その名の通り,白衣のポケットにすっぽり入るコンパクトな本であるものの,内容は非常に充実しており,肺癌の診療に必要なことほぼ全て,すなわち疫学,診断,治療,emergency,緩和医療,薬物の副作用対策,合併症のある肺癌,社会資源,チーム医療,臨床試験と非常に広汎な領域が網羅されている.

 わが国屈指の施設である国立がん研究センター中央病院の医師,看護師,薬剤師,相談支援室など関連各部署の総力を挙げて執筆されているだけに内容も非常に充実しており信頼がおける.2015年改訂された病理のWHO新分類はもちろん,2017年より改訂されるTNM分類8版も収録されており親切である.推奨する根拠となった臨床試験や文献などについても要領よく記載されており,知識の整理にとても有用である.

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 確かに救急外来では実にバラエティ豊かな訴えの患者が行き来する.専門分化が進んだ昨今であればこそ,「専門以外の疾患を見て訴えられたらどうしよう」という当直医の不安はよくわかる.でもね,患者も条件は同じなんですよ.救急となれば背に腹は変えられず,患者も医者を選べない.相思相愛といかない条件下での診療こそ,「患者の期待に応える医療」であって,自分の好きなものしか診ない「選り好みの医療」ではないのだ.当直で頑張っている先生方は本当に偉い!

 一方,「困ったらいつでも呼んでもらっていいですよ」というオフィシャルな他科コンサルトルールはあっても,いざコンサルトすると「マジ? この程度で呼びつけたの?」といったように,各科から見れば初歩中の初歩の処置で済んでしまうということも少なくない.そんな時に強い味方が本書なのだ.

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medicina
54巻1号 (2017年1月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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