臨床雑誌内科 110巻1号 (2012年7月)

血栓症診療update-新規経口抗凝固薬を加えて広がる世界

  • 文献概要を表示

・血栓は血小板と凝固系の相互作用により形成される。・動脈の血栓形成は血小板が、静脈では凝固系が主役を演じるが、血管壁や血液成分の性状、血流の状態などにより両者の関与の度合いは異なる。・動脈血栓の多くは、動脈硬化巣性プラークの破綻部に形成される。・プラーク破綻部では、血小板の粘着・凝集が初期の反応となるが、プラーク内で凝固系が亢進しており、血小板とフィブリンからなる白色血栓が形成される。・静脈は血流が緩徐で、凝固反応が進みやすい。・静脈血栓ではフィブリンと赤血球に富んだ赤色血栓が形成されるが、血栓内には多数の血小板も存在する。

  • 文献概要を表示

・これまで心房細動の脳梗塞予防のための経口抗凝固薬としては、warfarinのみが唯一使用可能な薬剤であった。・warfarinは食事や薬剤相互作用の影響が大きく血中濃度のモニタリングが必須だが、血中濃度を精密にモニタリングできるメリットもある。・直接トロンビン阻害薬やXa阻害薬などの新規経口抗凝固薬は、単一の凝固因子を直接的に阻害するという機序から高い塞栓症予防効果と低い出血リスクが証明されている。しかし血中濃度の精密なモニタリングはできない。・これらの抗凝固薬の使い分けは、塞栓症予防効果、出血・副作用発現率を参考にするとともに、代謝経路や1日投与回数などのさまざまな特徴を考慮するが、今後検証すべき課題が多い。

  • 文献概要を表示

・脳梗塞の既往は脳梗塞再発の大きなリスクであるのみならず、頭蓋内出血の大きなリスクでもある。したがって、再発予防を図る場合、頭蓋内出血の予防も併せて考慮する。・新規経口抗凝固薬の非弁膜症性心房細動に伴う脳梗塞の再発予防効果は、warfarinと同等かそれ以上である。・新規経口抗凝固薬では頭蓋内出血がwarfarinと比較して大幅に減少する。・頭蓋内出血を避けるには、その最大のリスクである血圧管理を徹底する。・脳梗塞予防効果と低い頭蓋内出血発症率を考慮すると、脳梗塞再発予防には新規経口抗凝固薬を第一選択とする。・腎機能障害など新規経口抗凝固薬投与に伴う出血リスクが高い症例では、用量調節が容易なwarfarinを考慮する。

  • 文献概要を表示

・最近warfarinに代わる新しい経口抗凝固薬が開発され、2011年3月には経口直接トロンビン阻害薬dabigatranが非弁膜症性心房細動(NVAF)を対象に使用可能となった。・2012年4月にはrivaroxabanが発売、apixabanは申請中、edoxabanは第III相国際共同試験中である。・dabigatranは発売1年を迎え、その間日本における使用経験をふまえ、原則としてCHADS2スコア1点以上で推奨となっているが、腎機能低下、高齢者、抗血小板薬やP糖蛋白阻害薬の併用時には出血合併症に十分留意すること、また定期的な腎機能や貧血のチェックが必要であることを強調しておきたい。・出血リスクを評価するうえでAPTTが指標となる可能性があるが、RE-LY試験の結果から少なくともトラフで正常上限の2倍を超える場合には大出血の合併症が多いことが報告されていることから、今後さらにデータを積み重ねて日本人における減量あるいは投薬変更基準を確立していく必要があると考えられる。

  • 文献概要を表示

・深部静脈血栓症(DVT)とそれに起因する肺塞栓症(PE)を静脈血栓塞栓症(VTE)と総称する。周術期に発症することが多く、発症すると致死的となり予防が肝要である。本邦でもその頻度は増加しており、とくに整形外科疾患での発症頻度が高い。・予防・治療薬は主に抗凝固薬であり、2006年までは未分画heparinとwarfarinのみであったが、現在はトロンビン・Xa阻害薬であるenoxaparin・fondaparinux、経口薬はedoxabanが使用可能である(整形外科疾患の予防のみ)。・新規経口抗凝固薬はwarfarinと異なり、モニタリングが不要で、食事の影響や他の薬との相互作用が少ないため、周術期の絶食期間が少ない整形外科領域において、今後使用が増えていくと予想される。・新規経口抗凝固薬の治療への適応拡大が望まれる。

  • 文献概要を表示

・心血管疾患は世界人類の死因に大きな影響をもたらしている。・日本でも心血管疾患は増加しているが、依然死因の第1位は悪性疾患であり、日本人におけるアテローム血栓性イベントリスクは欧米人より低い。・日本における抗血小板療法を考える際には、地域差についての十分な配慮が必要である。

  • 文献概要を表示

・aspirinはもっとも早くから用いられてきた抗血小板薬である。・aspirinの薬理を理解することは、その副作用や近年話題のaspirin抵抗性などを理解するうえで重要である。・aspirinの病的血栓症の一次予防に関してはハイリスク集団において、利益があるか否かが現在の検討課題である。・aspirinに関しても、わが国と欧米の臨床試験の結果は著しく異なる場合があり、欧米のデータを安易にわが国に当てはめることは適当とはいえない。

  • 文献概要を表示

・clopidogrelはaspirinと並び血管性イベントの二次予防にもっとも用いられている経口抗血小板薬である。・clopidogrelは肝臓で活性体に代謝され、血小板膜上のADP受容体P2Y12をブロックすることで抗血小板作用を発揮する。・CAPRIE試験においてclopidogrelはaspirinを上回る血管性イベントの二次予防効果が示された。・clopidogrelレジスタンスは日本を含むアジア人でとくに頻度が高く、重要な問題となる可能性がある。

  • 文献概要を表示

・脳梗塞にはさまざまな病態が含まれ、病型によって抗血小板療法の有効性と安全性が異なるため、両者を勘案し有効性が上回る症例を選択して抗血小板療法を行うことがもっとも重要である。・脳梗塞は発症機序により大きく心原性と非心原性に分類され、抗血小板療法の適応があるのは非心原性脳梗塞である。・非心原性脳梗塞の中でも、アテローム血栓性脳梗塞は心筋梗塞や末梢動脈疾患と病態が共通しており、抗血小板療法のよい適応と考えられる。・ラクナ梗塞の基盤となる細動脈硬化は、脳梗塞とともに血管破綻から脳出血も起こしやすいため、抗血小板療法の適応は慎重に判断し、血圧を十分にコントロールしたうえで抗血小板療法を行う必要がある。

  • 文献概要を表示

・血管内治療の主流はステントを用いたインターベンションである。しかし、ステント血栓症という重大な合併症があり、予防には抗血小板薬が必須である。・ステント使用後の抗血小板療法は、aspirin+チエノピリジン系の2剤投与が基本である。ただし、2剤投与は1剤に比べて出血性合併症が増加するため、もっとも適切な抗血小板薬の投与期間を症例や状況に応じて検討する必要がある。・金属ステントは2剤投与を1ヵ月間、その後1剤に減量する。・薬剤溶出性ステントでは、2剤投与1年間が推奨されている。・頸動脈、末梢動脈においても金属ステントが主体であり、2剤投与を1ヵ月間、その後1剤に減量する。

  • 文献概要を表示

・イコサペンタエン酸(EPA)は、1970年代に行われた魚を多食するグリーンランドイヌイット集団の疫学調査の結果から注目された物質である。・EPAを血小板に添加することにより、血小板凝集が抑制される。JELIS試験ではEPAによる主要冠動脈イベントの発症抑制が確認された。・セロトニンは、血小板のアゴニストの一つであり、sarpogrelateはセロトニン(5-HT)受容体に対する選択的拮抗薬である。・sarpogrelateでは、糖尿病を合併した、脳梗塞患者の再発予防効果が示されている。またaspirinと比し出血性合併症が少ないことも示されている。

  • 文献概要を表示

・低用量aspirinの上部消化管出血のリスクは、case-control studyの検討で1.8~8.2と報告されている。・低用量aspirinによる上部消化管粘膜障害予防に、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)が有用である。

  • 文献概要を表示

・warfarinのモニタリングはPT国際標準比(PT-INR)を指標として行う。・PT-INR2.0~3.0を目標にwarfarinを投与することが多い。・warfarinの抗凝固作用は遺伝子型、併用薬剤、食品などの影響を受ける。・warfarin投与初期は連日ないし数日に1回、維持量が決まった後も定期的なモニタリングが必要である。・新規経口抗凝固薬(dabigatran、rivaroxaban、edoxaban)投与に際しては通常凝固能のモニタリングは必要としない。

  • 文献概要を表示

・急性冠症候群(ACS)は、ステント留置およびaspirinとチエノピリジンの抗血小板薬併用療法が標準治療として行われている。・抗血小板療法のモニタリングは血小板凝集計で行い、主として抗血小板薬の薬理学的作用の情報(効き過ぎ、至適値領域、不応症)を得るのに有用と考えられる。・aspirinまたはclopidogrelの不応症とは、薬理学的な観点から標準用量のaspirinまたはclopidogrelの投与により血小板凝集能が十分に抑制されない状態である。・不応症の検出方法が標準化されておらず、また不応症の評価基準は報告者によりさまざまであるが、概してACS+PCIでは不応症例の心血管イベントの発症リスクは高いとする報告が多い。・日本人のclopidogrel不応症に関するオールジャパン(多施設共同研究)の取り組みが必要である。

  • 文献概要を表示

・抗血栓薬内服中の患者に対する観血的な内視鏡検査・治療の機会が著明に増加している。・内視鏡に伴う出血性合併症のほとんどは内視鏡的止血が可能であり、重篤な予後はまれである。・血栓塞栓症の合併はQOLが著しく損なわれることが多く、致命的なケースもまれでない。・通常の内視鏡検査に伴う生検の場合、抗血栓薬を中断する必要はない。・高周波を用いて行う内視鏡的手術に際しては抗血小板薬の一時的中止および抗凝固薬のheparinへの変更が原則である。・INR測定が不要である新規の抗凝固薬については原疾患の担当医と内視鏡医の連携がさらに大切である。・抗血栓療法施行中の患者に対する事前のインフォームド・コンセントがとくに重要である

  • 文献概要を表示

・血小板間のpositive feedbackや血小板と凝固系間のpositive feedbackにより動脈血栓は産生され動脈閉塞を引き起こすのであるが、この二つのpositive feedbackにおいてトロンビンは重要なメディエイターとなっている。・トロンビン受容体として、ヒト血小板にはPAR1とPAR4が発現しているが、PAR1がトロンビンに対する主要な血小板活性化受容体である。・臨床試験されているトロンビン受容体阻害薬はPAR1阻害薬である、atopaxarとvorapaxarがある。重篤な出血の合併症を増加させることなく動脈血栓症を抑制する可能性がphase II試験では示唆されたが、急性冠症候群、アテローム血栓症を対象としたphase III試験にて重篤な出血合併症の増加が示された。

  • 文献概要を表示

・従来および新規の抗凝固薬は出血性副作用を有する。・新規経口抗凝固薬はモニタリングが不可能である。・解決への糸口は、止血に関与せず血栓の成長に働く因子にある。・ヒト第XI因子欠損症は出血傾向がほとんどなく、血栓塞栓症になりにくい。・第XI因子阻害薬は、出血なく抗血栓作用を有することが基礎研究で確認された。・第XI因子阻害薬は近未来の抗凝固薬として期待される。

  • 文献概要を表示

・プラスミノーゲンはリジン結合部位を介してフィブリンのC末端リジンに結合してtPAと3者複合体を形成する。その際、高次構造が変化して活性化されやすくなる。・生じたプラスミンはフィブリン等の基質タンパクのリジンあるいはアルギニン残基のC末端側ペプチド結合を切断し、新たなC末端リジンを露出させて線溶活性発現を増幅する。・TAFIはトロンボモジュリン結合トロンビンにより活性化され、フィブリン上あるいは細胞表面蛋白のC末端リジンあるいはアルギニン残基を除去し線溶活性発現を阻害する。・TAFI阻害薬はTAFIa活性を阻害してフィブリン上のC末端リジンを温存し、効率的な線溶活性発現に寄与することが期待される。

  • 文献概要を表示

・血栓性血小板減少性紫斑病には、von Willebrand因子(vWF)切断酵素であるADAMTS13活性著減で発症する症例がある。・vWFは血管内皮細胞で合成・貯蔵されており、刺激依存性に超高分子量vWFマルチマーとして放出され、このマルチマーは血小板活性化能が高い。・ADAMTS13はvWFモノマー中のA2ドメイン内のペプチド結合を部分的に切断し、vWFの血小板凝集能を抑制する。この切断にはA2ドメインがずり応力依存性にunfoldする必要がある。・ADAMTS13は活性型として血中に存在し、基質vWFのA2ドメインが露出されることにより切断するというきわめてめずらしい機構で血栓形成を制御している。

  • 文献概要を表示

・血小板表面のGPIbα分子と血管壁のvWF分子の分子間相互作用のレベルから、多数の赤血球・血小板の変形流動を含めた血流レベルの現象までを連成させたマルチスケール血栓シミュレータについて紹介する。・開発された手法は、赤血球の有無による血小板の壁面吸着頻度の違い、すなわち血小板の活性化への影響を定量的に評価することを可能とする。・将来的には血流も含めたシミュレーションに基づく薬効の評価による新しい医学の展開が期待される。

目でみる症例 肺結核 大島 信治

診療controversy medical decision makingのために 肝細胞癌治療後の抗ウイルス療法

意味を認めない 田中 真二 , 有井 滋樹

  • 文献概要を表示

82歳女。要全介助で特別養護老人ホームに入所中であった。数ヵ月前から誤嚥性肺炎を繰り返し、発熱も続いたため入院となった。抗生物質(ABPC/SBT)で軽快した後、胃瘻造設目的で上部消化管内視鏡検査を行った。十二指腸下行脚から連続性の浮腫、潰瘍、びらんを認め、胃液が多く嘔吐で誤嚥の危険があるため、胃瘻を造設しドレナージを行った。胃瘻造設翌日の腹部単純CTで、十二指腸、空腸の壁肥厚と骨盤内に少量の腹水を認めた。造設2日後に肉眼的血尿、発熱および下血を認め、大腸内視鏡検査を行ったところ、S状結腸まで全周性浮腫、発赤、びらんを認め、下行結腸は散在性発赤となり、横行結腸からは黒色便を認めた。造設4日後に白血球数、CRPが増加し、造設5日には四肢に点状出血が出現したため、Henoch-Schonlein紫斑病と診断し、PSLの経静脈的投与を行った。2日後に皮疹は紫斑となり消褪した。血液凝固第XIII因子は30%と低下していた。ステロイド投与2日後のS状結腸内視鏡検査では、直腸粘膜、S状結腸の浮腫は軽減し、S状結腸に紫斑様の所見が認められた。投与4日目の十二指腸粘膜の浮腫発赤は著明に改善した。

  • 文献概要を表示

81歳男。心筋梗塞に対して冠動脈ステント留置術、左下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)に対して血行再建術の既往歴がある。他院にてアスピリンとチクロピジンおよびラベプラゾールを内服していた。今回、全身倦怠感が生じ、ふらつき、血圧低下のため入院し、翌日、黒色便を生じたため消化器内科へ転科した。Hbの低下、BUN、CrおよびBUN/Cr比の増加を認めた。輸液後にHbがさらに低下し大量出血が疑われた。上部消化器内視鏡を行ったところ、食道裂孔ヘルニアとShort Segment Barrett's Esophagus(SSBE)、食道胃接合部に約15×8mm隆起した発赤、漏出性出血を認めた。Barrett食道癌0-I+IIa(m)を疑い、トロンビン散布で止血を確認した。第2病日より抗血小板薬を中止し、ランソプラゾールへ変更し、第6病日に内視鏡的粘膜切除術(EMR-L)で潰瘍部分をクリップで縫合した。病理結果は扁平上皮島の存在や筋板の二重構造がみられ、高分化型のBarrett食道腺癌で深達度m、ly0 v0、側方断端が一部陽性との診断であった。EMR-L翌日よりヘパリン点滴を、術後6日にアスピリン100mgを再開し、術後7日にヘパリンを中止し、合併症もなく退院した。

  • 文献概要を表示

71歳女。健診の超音波検査にて膵尾部に2個の嚢胞性腫瘤を指摘された。炎症所見や肝胆道系酵素値・膵酵素値の上昇、自覚症状なく経過観察としていたが、皮膚そう痒感・黄疸が出現したため入院となった。黄疸・肝機能障害を認め、膵酵素値の上昇、IgG高値を認めた。腹部超音波では、膵実質のエコーレベルが若干低く、膵尾部に球形3cm大とハート型の長径2.5cm大の2個の嚢胞を認めた。腹部造影CTでは、膵臓はびまん性に腫大し、尾部に連続性のある2個の嚢胞を認めた。ERCPでは、総胆管下部が著明に狭窄していたが、胆管内に腫瘤や結石は認めず、膵嚢胞は描出されなかった。減黄目的にENBDチューブを留置し、5日間はgabexate mesilateを投与した。膵生検は施行していないが、びまん性膵腫大・主膵管狭窄像、総胆管下部の狭窄像とIgG4値の高値より自己免疫性膵炎(AIP)と診断した。PSLの経口投与を行ったところ、総ビリルビン値・肝胆道系酵素値・膵酵素値は漸減し、黄疸は消失し、第10病日に退院した。その後、PSLを漸減したが膵嚢胞は縮小しなかった。

  • 文献概要を表示

67歳男。52歳より他院にて糖尿病の加療中であった。HbA1cは8.7%と悪化傾向で、意識レベルが低下したため救急搬送された。血中ケトン体の上昇はなく、高炎症反応、高血糖、代謝性アシドーシスを認めた。CTで右臀部皮下を中心に不整なlow density areaを認めたため、腰臀部膿瘍が疑われた。膿瘍にドレナージおよびクリンダイマイシン、セファゾリン、高血糖に対して持続インスリンを開始した。感染巣から黄色ブドウ球菌が培養され抗生物質に感受性があると思われたが、第3病日に突然吐血し、心肺停止となった。蘇生後に行った上部消化管内視鏡では、中部食道に半周性潰瘍、下部食道に多発潰瘍を認めた。下部食道からの出血に対して止血処置を行ったが、低酸素脳症を認め人工呼吸器管理となった。その後、膿瘍の縮小傾向であったが肺炎を併発し、痰培養からセラチア菌が培養された。抗生物質をmeropenemに変更したが改善なく、第17病日に死亡した。病態より急性壊死性食道炎の亜型と考えられた。

  • 文献概要を表示

62歳女。約14年前に腸管Behcet病と診断され、サラゾスルファピリジンで安定していた。約8年前に回腸潰瘍から下血し、絶食静脈栄養管理、メサラジンとコルヒチン投与後にステロイド療法でコントロール可能となり、その後はメサラジンのみで寛解状態を保っていた。今回、突然に腹痛が出現し、回盲部に打ち抜き様の円形多発性潰瘍を認めて緊急入院となった。ステロイド大量療法を開始し、免疫抑制剤アザチオプリンの追加、メサラジンとコルヒチンの増量を行ったが、治療抵抗性病態で改善せず、TNF阻害薬インフリキシマブを投与した。腹痛、CRPに即効性を認めたが、投与8日後に大量に下血を認めた。内視鏡を行ったところ、露出血管からの出血を認めたため、クリップによる止血操作と輸血を行った。症状は著明に改善し、2回目のインフリキシマブ療法施行で腹痛は消失し、CRPも陰性化した。その後、メサラジンとアザチオプリンの併用により完全な緩解状態となり、盲腸潰瘍は治癒瘢痕化状態であった。維持治療として8週毎にインフリキシマブ療法を継続し、2年経過現在も緩解を維持している。

  • 文献概要を表示

78歳男。糖尿病、高血圧、C型慢性肝炎で通院中であった。1週間前から全身倦怠感、家族から黄疸を指摘され受診した。総ビリルビン(T-Bil)の上昇、貧血、超音波で下部総胆管結石、肝内胆管拡張を認め、総胆管結石による閉塞性黄疸の診断で入院となった。全身皮膚黄染、眼球結膜黄疸、直接ビリルビン優位の黄疸はあるが、肝胆道系酵素上昇は軽度であった。また、大球性貧血を認めた。C型肝炎ウイルス(HCV)の血清型はgroup 2、HCV RNAはPCR法で5.8log copy/mlであった。腹部CTでは、多数の胆嚢内胆石、拡張した総胆管内部に径10mmの結石を認め、肝の軽度萎縮、表面不整、軽度の脾腫を伴った肝硬変所見を認めた。Vater乳頭切開でバスケットカテーテルおよびバルーンカテーテルによる総胆管結石除去術を施行した。結石は黒色で、ビリルビン結石と考えられた。胆管ドレナージ後に黄疸は改善したが、間接ビリルビン優位と同時に貧血が進行し、輸血に不応であった。内視鏡で出血源が認められず、尿中ヘモジデリン陽性、網状赤血球高値、直接Coombs試験強陽性より、C型慢性肝炎に伴う温式自己免疫溶血性貧血が強く疑われた。プレドニソロンを開始し、2週間毎に漸減、10mgまで減量した。LDHは200IU/L前後、ビリルビン値正常となり、輸血は必要ない状態となった。

  • 文献概要を表示

34歳男。約2年前にバセドウ病と診断され治療を開始したが、自己中断していた。その後、周期性四肢麻痺、体重減少、全身倦怠感を自覚するも放置し、浮腫、動悸、呼吸苦で近医入院となった。甲状腺クリーゼと診断され治療開始されたが、肝・腎不全の進行、心不全による呼吸状態の悪化したため、挿管のうえ転院となった。頸部に5×9cm大で弾性軟の甲状腺腫を触知し、両側頸静脈は怒張し、呼吸音は右前胸部で低下し、心尖部に最大収縮期雑音を聴取した。肝・腎機能障害、高Na血症、高K血症、甲状腺機能亢進所見、甲状腺中毒症、中枢神経症状、発熱、頻脈、消化器症状を認めた。X線で心拡大、両肺野うっ血像、心不全も認め、甲状腺クリーゼと診断し、MMI、KIで治療を開始した。心不全に対しては塩酸プロプラノロール、相対的副腎不全にヒドロコルチゾンを投与した。血小板低下、DICの併発、AST、ALTの上昇、PT%の著明な低下を認め、昏睡型急性肝不全と診断した。血漿交換(PE)、持続的血液濾過透析(CHDF)を行ったところ改善傾向となり、PT%は正常化、Creも改善し、PE、CHDFを離脱した。著明な甲状腺腫大と甲状腺クリーゼ再燃を考慮し、第79病日に甲状腺全摘出術を施行した。現在は職場復帰しADLは重筋作業が行えるまでに改善した。

基本情報

24329452.110.01.cover.jpg
臨床雑誌内科
110巻1号 (2012年7月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

文献閲覧数ランキング(
11月4日~11月10日
)