INTENSIVIST 11巻4号 (2019年10月)

特集 気道

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恐怖を感じる何かと対峙した時,人間の対処パターンはその恐怖が大きければ大きいほど極端な2つの形に分かれるように思われる。一つ目は徹底的に避けること。もう一つは,覚悟を決めてその恐怖の対象を深く理解し,抱擁することである。おそらくその中間にいる人は,その対象をそれほど恐ろしいものと感じていないのであろう。

 さまざまな医療行為のなかでも,気道管理は特に怖いものである。一歩間違えば,患者の疾患とは関係なく「自らのスキル不足が原因となる患者の死」が大きな口を開けて待ち構えている。そして,そのような取り返しのつかない事態は,しばしばその恐ろしさを認識していない医療従事者に降りかかってくる。自らは,気道管理にかかわることを避け,必要に応じて気道管理に精通した麻酔科医,救急医,集中治療医などに依頼することは,患者の安全のために賢明な選択肢の一つである。しかし,本特集を手にしている読者は,気道管理にかかわらざるを得ない,または依頼される立場の人たちであろう。

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気道確保は救急医療における最も重要な手技の一つである。気道確保を適切に行うためには,気道の解剖・生理に関する知識が不可欠である。そして,体位による換気や喉頭展開への影響を知る必要がある。

 本稿では,基本的な気道の解剖・生理の知識を整理するとともに,さまざまな体位での気道の開通性や喉頭展開の視野について文献を交えて解説し,現時点で最も気道確保に有利な体位を考察する。さらに困難気道とされる肥満患者における最適の体位についても言及する。

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cannot ventilate,cannot intubate(CVCI)に明確な定義はないが,気道確保に関連した致死的有害事象である。困難気道difficult airwayを管理するなかで最も危機的状態としてCVCIが位置づけられている。舌根沈下,軟口蓋沈下を含む複合的な要因により発生する上気道狭窄が解剖学的要因と推測されているが,原因不明なことも多い。手術室内での全身麻酔時と比較して,ICUや救急外来では病態が不安定で気道の事前評価が十分できない高リスクの患者が多いため,気道トラブルが発生した場合には死亡や脳損傷などの重篤な合併症につながる可能性が高い。近年は,ビデオ喉頭鏡の普及や各種ガイドラインによる手技(テクニカルスキル)の向上によりCVCIは減少傾向にあるが,発生時の対応にはノンテクニカルスキルも重要である。

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気管挿管は重症患者の気道確保,呼吸管理のうえで,欠かせない手技である。手技の失敗は患者の予後に直結し,低酸素性脳障害や死亡など重篤な合併症を起こすため,成功率を高めるための系統立った事前の評価と準備が必要である。現在までに公開されているガイドラインは複数あり,麻酔科医向けの手術室での気管挿管,挿管困難を想定したガイドライン1〜7)が多くを占める。重症患者を対象としたものとしては,英国のDifficult Airway Societyのガイドラインがある1)。これらのガイドラインでは,対象とする状況設定(術者の専門,技術の習熟度,場所,対象患者)が統一されておらず,気道困難(換気困難,挿管困難,声門上デバイスの留置困難,外科的気道確保困難)の定義も一致していない。このため,本稿で対象とする日本のICUでの気管挿管前の評価と準備については,エビデンスレベルの高い内容は提示しにくいのが実情である。本稿では,可能なかぎり学術的な論拠に基づきつつ,本邦で行われているプロトコルも紹介しながら,実践的な内容となるように努める。是非それぞれの施設での今後の参考にしていただきたい。

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手術室における予定手術患者の気管挿管と異なり,重症患者の緊急気管挿管は合併症を起こすリスクが高くなる。最も重要なことは,致死的な低酸素血症,および低血圧を回避することであり,事前の準備が極めて大切である。気管挿管時の低酸素血症を未然に防止する手段として,前酸素化preoxygenation,および無呼吸酸素化apneic oxygenationが用いられているが,重症患者におけるエビデンスはまだ十分ではない。血行動態の不安定な患者における気管挿管時には,ケタミンとフェンタニルの有用性が示唆されている。

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重症患者は,しばしばICUやemergency department(ED)で気管挿管を必要とする。重症患者は予定手術の患者と違い,情報が少なく,時間がなく,重症度が高いため,手技に伴うリスクが高い。迅速導入気管挿管rapid sequence intubation(RSI)は気道管理においてよく使用される方法で,我々はこの手技に精通する必要がある。RSIは,速効型の鎮静薬と筋弛緩薬を使用することで適切な挿管環境を作り出す方法で,気道管理を容易にし,結果的には成功率を高め,合併症発生率を軽減させる。通常,①準備,②前酸素化,③挿管前安定化,④筋弛緩薬投与,⑤体位,⑥適切に挿入されているかの確認,⑦挿管後のマネジメント,の“7つのP's”といわれる要素から成り立つ。RSIの最も重要な禁忌はdifficult airwayが予想される状況であり,特に“CVCI”のリスクがある場合は注意が必要である。適切な評価と事前準備を周到に行うことで,RSIの初回成功率を最大限に高め,合併症の発生率を最小限にできる。

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バッグマスク換気(BMV)は最もシンプルな換気手段であり,気道管理に携わるすべての医療従事者が習得すべき手技である。気管挿管や外科的気道確保と比較すると注目されにくいが,他の気道管理手技の補助として,もしくは挿管困難時のレスキュー手段として,患者のアウトカムを変えるだけの力を発揮する。有効なBMVを行うためには,デバイスの理解,上気道の開通,マスクフィッティング,適切な換気などの要素が重要である。本稿では,BMVの重要性および有効なBMVを行うための必要な要素に焦点を当てて議論を行う。

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集中治療領域において気管挿管は必須の手技である。近年,直視型喉頭鏡以外にもビデオ喉頭鏡,軟性気管支鏡,ガムエラスティックブジーといった挿管器具が普及している。気管挿管において重要な点は,解剖と生理学の理解を前提に困難気道を評価し適切な挿管器具を準備・使用できることである。直視型喉頭鏡においてMiller型を用いるのはどのようなときか,ビデオ喉頭鏡は常に第一選択となり得るのか,軟性気管支鏡はビデオ喉頭鏡よりも成功率を上げるのか,ガムエラスティックブジーはスタイレットと比較し成功率を上げるのか,本稿では各挿管器具の利点・限界を中心に述べる。

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人工呼吸器管理患者の早期抜管のためには,人工呼吸器関連肺炎(VAP)を起こさないように予防することが重要である。VAP発生機序の1つに,口腔内分泌物の気管内への「誤嚥」が考えられており,カフ上吸引付きチューブを用いてカフ上分泌物を吸引することでVAPの発症率は低下すると報告されているが,費用対効果は不明である。さらに抜管後の気道メンテナンスのためには,誤嚥リスク評価と咳嗽の強さを評価することが重要であるが,確立された評価方法はない。また,抜管後の吸痰目的での輪状甲状靱帯穿刺キットの使用は,再挿管予防を示したエビデンスはなく,適切な挿管タイミングを逸する可能性がある。

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困難気道difficult airway(DA)の定義はAmerican Society of Anestheologists(ASA)ガイドライン上において「通常の訓練を受けた麻酔科医が経験するマスク換気困難・気管挿管困難もしくはその両方が合わさった臨床状況」とされている。一般的に麻酔導入時に困難気道に遭遇する確率は低いとされているが,万が一合併症を伴った場合の予後は死亡もしくは不可逆的な転帰を取るとされている。「CI,CV,CO」の状態で,なおかつ声門上器具などの使用でも換気できない場合は外科的気道確保の適応である。静脈留置針を用いた輪状甲状靱帯穿刺よりも,市販のキットを用いての輪状甲状靱帯穿刺・切開や通常のメスと鉗子を用いての輪状甲状靱帯切開が外科的気道確保では選択される場合が多い。

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はじめに

抜管の失敗の原因の1つとして,抜管後喉頭浮腫があり,その発症率は5.0〜54.4%1〜6)とされている。抜管の失敗すなわち,48時間以内の再挿管とその後の患者の死亡率には関連がある7)との報告が多数あり,事前にリスクの高い患者を予測する必要性から,抜管後喉頭浮腫の予測方法としてカフリークテストが考案された8)。現在までに多くの研究が行われたが,方法論の未確立や不十分な診断精度などにより,実臨床で使用する際には細心の注意が必要である。

 本コラムでは,カフリークテストの歴史から現時点でのエビデンスや各種ガイドラインの推奨について整理する。

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下気道の完全閉塞(気管腫瘍,気道異物,大量気道出血,等)および気管/主気管支の離断症例には,urgent V-V ECMOの適応がある。ECMO導入には主に盲目的挿入,X線透視またはX線写真ガイド下の挿入,およびエコーガイド下挿入の3つがあるが,経食道エコーを含めたエコーガイド下のECMO cannulationが,迅速性と安全性とを両立させやすい。urgent V-V ECMOは,大腿静脈経由の下大静脈脱血および内頸静脈経由の右房送血を基本とする。最近は1本のカニューレを挿入するのみでV-V ECMOを確立できる,bicaval dual-lumen cannula(AVALON)が使用可能であり,urgent V-V ECMOでの使用報告が散見されている。

●挿管困難症例:私ならこうする

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気道狭窄が進行しつつある喉頭蓋炎の気道管理においては喉頭蓋の腫脹の程度,坐位を保とうとするか,パニックになっていないか,反射がどのくらい保たれているかに留意する。まず鎮痛をしっかり行ったうえでの意識下経鼻ファイバー挿管を試みる。喉頭蓋の腫脹が高度な場合は気管チューブを経鼻声門上器具として使用することで姿勢の問題が解決し,定型的な気管切開が可能な場合もある。患者のパニックが危険をもたらすと判断される場合は躊躇なく鎮静薬を投与し,経口挿管または輪状甲状靱帯切開により気道確保を行う。これらいずれも不成功の場合はすみやかにECMOを導入する。

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first lineとして迅速導入気管挿管rapid sequence intubation(RSI)を行わない。しっかりとpreoxygenation後にフェンタニル50〜150μgを投与し,その後,口腔内にキシロカインスプレーで麻酔を追加する。気管チューブは6.5mmを選択する。喉頭鏡を喉頭蓋にかけて,この際に十分な視野が得られないのは折り込み済みである。その際は,ビデオ喉頭鏡をfirst lineとして使用してもよいが,それでもなお十分な視野が得られないこともあり得ることを念頭におく必要がある。荒々しい呼吸があるはずなので,その空気の流れのところに気管チューブをもっていき,声帯は呼吸に合わせて閉じたり開いたりしているので,吸気に合わせて気管に入れる。“気道”は重要であり,難しいし,怖いものである。airwayの異常に対する気道確保については,リスクの少ないuniversalな方法として,自発呼吸を残した気道確保がよいと思われる。そのためには,普段からその手法に慣れることが肝要である。

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アナフィラキシーは生命に危機を与え得るアレルギー反応である。アナフィラキシーによる上気道閉塞では,迅速かつ適切な気道管理が求められる。救急からの入電後,まず人員を確保し,治療手順,緊急事態への対応など,搬入前に情報共有(ブリーフィング)を行う。初期治療として,まずアドレナリンの筋注が急がれる。上気道閉塞が高度の場合は,気道確保が必要である。麻酔導入の際には,鎮静薬や筋弛緩薬により完全な気道閉塞をきたす可能性があることを念頭に,慎重に麻酔導入方法,薬物を選択する。気道確保器具は,患者リスクと術者の慣れを考慮して選択するが,外科的気道確保を躊躇せずに行う。最後は,症例の振り返り(デブリーフィング)をしっかり行うことが重要である。

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本症例は,顔面熱傷と吸入障害を認める症例である。本症例において気道の評価は優先すべき事項であり,予防的意味を含め,早期の気管挿管を十分に考慮すべき状態である。また,気管挿管を含めた気道確保が必要と判断した際も,さまざまな点に注意しながら診療を進める必要がある。

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大量喀血は気道緊急であり,上気道閉塞から死に至る致死的疾患である。喀血患者では,確実な気道確保,それに引き続く出血源の同定,根本的止血,という流れが最も重要である。気道確保のため広径の気管チューブを,直視でも使用可能なビデオ喉頭鏡を用いて挿管することを第一選択として,筋弛緩薬の投与は避ける。ダブルルーメンチューブdouble lumen tube(DLT)や気管支ブロッカーによる非出血肺の保護は重要であるが,あくまで出血源の同定と根本的止血までの時間稼ぎである点を忘れてはならない。

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顔面外傷の症例の気道確保では,まず,口腔内吸引による気道のdecontaminationをはかる。気道が開通され換気可能となれば時間的余裕が生まれるが,持続する口腔内出血と下顎骨骨折により換気困難に直面するであろう。換気困難となれば,声門上器具を試行することになるが,下顎骨骨折があれば固定も不十分となり,また口腔内出血により気道のdecontaminationがやはり困難であるため,十分な気道確保になり得ない。最終的に外科的気道確保をためらわず,迅速に行える用意と心構えが必要である。

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

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パルスオキシメーターの基本的な測定原理

パルスオキシメータは,可視光線の赤色光(Red:波長660nm付近)と近赤外線の赤外光(IR:波長940nm付近)の2波長(図1-A)1)の透過光量を計測することで非侵襲的に経皮的酸素飽和度(SpO2)を計測することができる。透過光量を「容積脈波法」と「分光光度法」で測定している。

 体組織は直流成分(DC)(血液以外の筋や組織,静脈,動脈の非拍動成分)と交流成分(AC)(心臓の拍動により変化している動脈成分)(図2)に分けられる。容積脈波法では,光が体組織を通過する際,交流成分の拍動によって光路長は変化し,透過光量にも変化が生じることから,動脈成分を同定して計測している。

連載 国際学会へ行こう!

SATA annual meeting 深澤 恭太
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SATAについて

米国ではOPTN(Organ Procurement and Transplantation Network)の資料によると,2018年度341施設,36529件(脳死ならびに心臓死移植29680件,生体移植6849件)の移植が行われており,またこの移植数は年々増加傾向にあります。これに伴い,移植医療に携わる麻酔・集中治療医数も著明な増加傾向を示しています。これにより(1)情報の共有や研究を通して診療の質を確保すること,(2)現場の麻酔・集中治療医の声を移植の実際に反映させることができるような組織作りが必要となりました。そこで,移植麻酔・集中治療の診療情報交換,臨床ガイドラインの策定,研究,および教育を主な目的として米国で初めて結成されたのが,Society for the Advancement of Transplant Anesthesia(SATA)です。結成は2011年と比較的新しい移植麻酔・集中治療医のための学会ですが,年々会員数は増加しています。総会は,3年前から毎年1回,5月に国際麻酔学研究会議International Anesthesia Research Society(IARS)と合同で開催されております。

 移植件数の増加のみならず,米国では2013年から,ドナーを地域の移植施設間で分配するというシェア35ルール*1が導入されました。これにより地域ごとの移植情報の交換と連携の重要性が増しました。このような背景があり,SATAでは総会のみならず,地域の移植施設の情報交換と交流の促進を目的として,ニューヨーク,テキサス,そして西海岸などで地方集会を幅広く開催し,地域に根ざした移植麻酔医療の推進にも大きく貢献しています。最近では,アジア地域の移植麻酔・集中治療学会とも積極的に連携し,世界を代表する移植麻酔学会へと短期間で成長してきました。総会では,ドナー管理から,臓器移植の周術期管理までさまざまなテーマが取り上げられ,臨床的な視点が,他の学会では類を見ないほど多彩な分野に及びます。さらに,その分野の第一人者による講演,各移植施設からの代表者がパネリストに名を連ね,施設間の診療方針の違いなどについて積極的な意見交換が行われるなど,半日にしては非常に内容の濃い,魅力的なプログラムになっています。今回私は,2019年5月21日にカナダのモントリオールで開催された第3回SATA年次総会に参加しました(図1)。

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目次

倫理規定

次号予告

基本情報

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INTENSIVIST
11巻4号 (2019年10月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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