JIM 23巻10号 (2013年10月)

特集 高齢者「主治医」事典

今月のQuestion & Keyword Index
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より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.

Question

Q1 高齢者のライフサイクルを知ることは,診療にどう役立ちますか? 823

Q2 advanced ADL(AADL)とは? 826

Q3 高齢者の住環境を考えるうえで重要なポイントは? 829

Q4 危険な入浴とはどのような条件の場合か? 832

Q5 高齢者の要介護状態予防のための栄養介入の具体的方策は? 835

Q6 在宅で口腔ケアが必要な患者とは? 839

Q7 「眠れない」とおっしゃる高齢者.注意すべきことは? 842

Q8 高齢者における不適切な排尿管理の原因と防止に必要なことは? 845

Q9 免許をもった認知症患者や認知機能低下患者への対応は? 849

Q10 高齢者は性行為を控えるべきか? 853

Q11 女性高齢者の性行為で注意することは? 856

Q12 在宅死を希望する独居高齢者に対応するポイントは? 858

Q13 終末期患者の倫理的対応に悩んだ場合には,どうすればよいのか? 860

Q14 現在の社会・医療背景における「老衰死」の意義とは? 866

Q15 特別養護老人ホーム(特養)で高齢者を最期まで看取ることはできますか? 869

Q16 「死についての話題」で世間話をする時のコツは? 872

Q17 終末期に家族が不安にならないか? 875

Q18 「人は死んだらどうなるのか」ということをどう考えたらいいでしょう? 878

Q19 認知症患者とのコミュニケーションの基本はどのようなものでしょうか? 882

One more JIM
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Q1:高齢者と共通の話題がなくて困っています.何かいい方法はありますか?

A1:高齢者の生きてきた時代について,高齢者に聞くといろいろと教えてくれます.戦争や疎開の体験,子どもの頃の話を折に触れて尋ねることは,高齢者にとっても治療効果があります.

 多忙な医師におすすめの趣味として俳句があります.俳句は,季節感や人間の本質などを切り抜く文芸です.歳時記を読んだり,自分で句作をすることで季節の変化に敏感になり,診察室での話題も増えるでしょう.

【高齢者を理解する】

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 「世の中の老年期に対するイメージはすっかり変化した.当時は未だ『長老』という意味をこめたものとして老年期を考えることができた.長寿は少数者に与えられた神聖な贈物であり,かつ少数の人間に課せられた特殊な義務であるとする文化の中で,この発達段階に適わしい務めをもの静かに果たしかつ尊厳ある死に方を知っている少数の賢明な人間,という意味の長老である.しかし今日のように,極めて多数で,急速に増大しつつあり,しかも年齢より相当若く見える単なる『年配者』の集団によって老年期が代表される時代には,上述のような意味をもつ用語が果たして通用するのだろうか」と1980年代にエリクソンは書いている.

 わが国が直面している超高齢社会では,エリクソンの次の言葉を考える必要があるだろう.すなわち,「老年期に関する生きた理念を文化としてもっていなくては,われわれの文明は人生全体の概念を真にもつことはできない」のである.

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Case

飲酒量減少で異変に気づいた1例

患者:72歳,男性.

現病歴:糖尿病,アルコール性肝障害,陳旧性肺結核を認めるが,雀荘を経営しながら麻雀,飲酒(ビール大瓶を毎日5本),喫煙(1日20本,52年),競馬,競輪などを日々楽しんでいた.いざとなれば禁煙はできるが,飲酒は死ぬまでやめないと日頃から言っていた.1週間前より雀荘には行けるが飲酒量が減ってきて,昨日はビールを1本も飲まなくなった.そのため,本人は受診を拒否するも,家族が異変だと考え病院を受診させた.診察の結果,急性肺炎と診断され,1週間の入院加療後に自宅退院した.入院中から外出時にビールを飲むようになり,退院後は普段通りビール大瓶を毎日5本飲むようになった.

【高齢者の生活と診療】

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Case

転倒を機に転居・住宅改修を検討した1例

患者:80歳,女性.

経過:都市部の戸建て日本家屋(築40年以上)に独居.認知機能は保たれているが,伝い歩き程度のADL.近所には知人も多く,介護サービスに加え,インフォーマルケアにも支えられて生活を続けてきたが,先日,自宅内で転倒して腰を痛めた.それを機にケアマネジャーからは床の段差をなくす工事をしきりに勧められるようになった.一方,遠方に住む娘からは,娘宅近くの高齢者用賃貸住宅への引越しを勧められている.サービス担当者会議が開催され,主治医として意見を求められた.

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Case

入浴中に“金縛り”状態になった1例

患者:85歳,女性.

既往歴:骨粗鬆症にて投薬を受けている以外,重篤なものはない.

現病歴:遠出はあまりしないが,近所への買い物などを含め生活機能は自立しており,過去数十年,一人暮らしを続けている.日ごろから入浴方法については気を使っており,熱い湯や長湯は避けているが,入る時間帯はたいてい就寝前である.ある夜,一人で入浴中,浴槽内で突然“金縛り”にあったように動けなくなった.数十分くらい経ったころ,少し手が動くようになり,浴槽の栓を抜いて湯を流した.さらにしばらくして少しずつ手足を動かせるようになり,ようやく浴室から這い出た.この間1時間以上かかったようであるが,正確な時間は覚えていない.それ以来,入浴するときはホームヘルパーに隣室で待っていてもらい,夕方までには入るようにしている.

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健康日本21(第2次)から

 2012(平成24)年7月に,わが国の国民の健康増進のための総合的な取り組みの基本的方針として「健康日本21」の全面改定がなされ,新たに今後10年の取り組み目標を含めた「健康日本21(第2次)」が策定された.その骨子は,①健康寿命の延伸と健康格差の縮小,②主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底,③社会生活を営むための必要な機能の維持および向上,④健康を支え,守るための社会環境の整備,そして,⑤栄養・食生活,身体活動・運動,飲酒,喫煙および歯・口腔の健康に関する生活習慣および社会環境の改善,という5項目である.このなかで,とくに高齢者の栄養に関しては,高齢者の要介護状態の予防または先送りという視点から「低栄養傾向の高齢者の割合の増加の抑制」が設定されている.すなわち,高齢者においては,やせ・低栄養が,要介護および総死亡に対する独立したリスク要因として重要なことが広く知られており,低栄養状態を予防あるいは改善し,適切な栄養状態を確保する必要が重要課題として提示され,「低栄養傾向の高齢者の割合の増加の抑制」が設定された.「低栄養傾向にある高齢者」の操作的定義あるいは具体的指標として,要介護や総死亡リスクが統計的に有意に増大するポイントとして示されている「BMI 20以下」が有用と考えられ1~4),これを指標として採用された.BMI 20以下の者の割合は65歳以上の高齢者において加齢とともに増加する.今後,高齢者人口のうち75歳以上高齢者の占める割合が増加することから,現在の出現率がその後一定と仮定しても,2023(平成35)年にはBMI 20以下の者の割合は22.2%に達すると推定され,そこで,自然増により見込まれる割合(22.2%)を上回らないことを目指して,22%を目標値とすることが考えられた.これに基づく現状および目標値は以下のとおりに設定されている(表1).

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Case

継続した口腔ケアにより全身状態の改善が見られた認知症患者の1例

患者:76歳,女性.

疾患名:アルツハイマー型認知症.

経過:誤嚥性肺炎による発熱を繰り返し,食物および唾液によるむせの増加,食事量の減少,栄養状態の悪化(2011年6月アルブミン値3.4g/dl)がみられた.体幹は左傾斜し,頸部の前屈が認められた.口腔内は清掃不良により多量のプラーク(J1)付着,歯肉の炎症,う蝕歯も存在し,強い口臭が認められた.強い口腔周囲の筋緊張がみられ,介護者による口腔ケアは困難であった.発声は可能であるが,意味不明で意思疎通は不可能であった.2011年7月から歯科介入によりう蝕歯の治療を行い,口腔ケアを継続したところ,歯科介入以後の発熱は消失し,むせはほとんどなくなった.食事量が増加し,それに伴い栄養状態が改善(2012年10月アルブミン値3.8g/dl)した.体幹の左傾斜と頸部の前屈はほぼ消失した.介護者による口腔ケアが可能となったことで,口腔清掃状態は良好となり,歯肉状態の改善,口臭は消失した.ときに単語での返答が可能であり,笑顔も多く見られるようになった.

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Case

退職後,不眠,食欲低下,倦怠感を呈した高齢男性

患者:72歳,男性.

既往歴:50歳ごろ高血糖を指摘されたことはあるが,現在まで通院・服薬はしていない.53歳時胃癌にて胃切除.

現病歴:2カ月前から不眠,食欲低下,倦怠感出現.消化器内科にて諸検査を実施したが異常を認めず,「ストレスが原因ではないか」とのことで,精神科へ診察依頼あり.

初診時所見:本人は「眠れない」とひとこと言うも,口調重く,動作も緩慢.同伴した妻によれば,もともとは午後10時に就床し,朝5時に起きて,6時過ぎには自分の経営する工場に出る勤勉な生活ぶりであった.半年前に経営権を長男に委譲.このところ,午後10時に就床しても,午前2時ごろに目が覚めてしまい,その後なかなか眠れないという.一方で日中テレビを見ながらうとうとすることも増えてきた.以前は妻と毎日2キロ程度のウォーキングをしたり,趣味の盆栽の手入れをしたりしていたが,最近はそれもしない.促されても「だるい」と言って,横になってしまうことが多いとのこと.夕食後に臥床することも多く,まどろんでしまいがちであった.

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Case

多職種連携によりカテーテルはずしができた1例

患者:73歳,男性.

経過:転倒にて頸椎損傷あり,四肢不全麻痺.排尿障害のため入院施設にてカテーテル留置され,老人保健施設を経て在宅看護となる.開業医による定期的カテーテル交換.訪問看護師がカテーテル抜去できるのではないかと思い,市民病院の泌尿器科へ紹介し,膀胱機能検査にて膀胱収縮障害はあるが,蓄尿機能は良好であることがわかった.入院にて,妻に清潔間欠導尿(J1)指導.毎回の導尿を行うと,徐々に自排尿が増加し,残尿が200mlから50ml以下となり,導尿から脱却して排尿自立となった.脊髄損傷で,表層的には排尿自立困難と思われた事例が,知識のある訪問看護師,専門医,家族との連携により,カテーテル抜去,排尿自立ができた事例.

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Case

無免許で運転を続けるアルツハイマー病患者

患者:75歳,男性.生活圏に公共交通機関はほとんどない.元公務員.趣味:農業.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:数年前から物忘れが目立ち,運転中に行き先を忘れることがあった.半年前から同じことを何度も繰り返したり,接触事故を頻回に起こし,認知症が疑われ,A大学病院の物忘れ外来を受診した.MMSE 23/30でエピソード記憶障害を認めた.頭部MRIで両側海馬と頭頂葉萎縮を認め,臨床経過からアルツハイマー病と診断し,塩酸ドネペジルを処方した.その後も頻回に接触事故を起こすため,本人,家族の同意のもと,公安委員会に診断書提出を行い,免許を停止した.しかしながら初診6カ月後,免許停止を忘れてしまい,家族が鍵をつけたままにしていた車を運転し,自損事故を起こした.

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EDとは

 勃起障害は,以前はインポテンスと呼ばれたが,差別的であることから勃起障害と呼ばれるようになった.英語でerectile dysfunction と書き,頭文字をとってEDと呼ばれている.EDの定義は「満足のいく性行為に十分な勃起を達成できない,もしくは維持できないこと」ということで,誰でもなる可能性がある.この状態が繰り返す,中折れ気味のことが多くなった,勃起硬度が弱くなったと感じる,などが勃起不全治療薬などで治療されている.

女性高齢者の性 木村 好秀 , 齋藤 益子
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 今日,女性の平均寿命は85歳となり,人生の1/3が閉経以降の生活になっている.閉経すると女性ホルモンの分泌が低下して,標的臓器である外陰部,腟,子宮,乳房などが萎縮性変化をきたし,それに伴い心身の状態も変化して性生活にも大きく影響してくる.

 今回,筆者らが2009(平成21)年9月からの1年10カ月間に,都内の某病院での子宮癌検診に来院した45~65歳(平均56.2歳)の女性を対象にした性に関するアンケート調査のなかで,本稿では55歳以上の229名(平均60.4歳)を対象にした調査から性行動の実状を示し,女性高齢者の性について述べてみたい.

【多死社会と主治医】

地域で独居高齢者を診る 鈴木 央
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 今後,高齢者の増加とともに独居高齢者が増加すると予測されている.全国では独居高齢者の数は2025年には2000年の2倍以上(124.3%)に増加すると考えられている1).大都市周辺はさらに深刻である.愛知県,千葉県は約3倍の上昇(図1),全国トップの予測は,埼玉県の263.4%である.一方,人口減少が予測されている高知は56.2%の増加にすぎない.独居高齢者の増加は,地方と都市部で大きな隔たりがあるのである.

 高齢者が増え,死亡者数が増えることもわかっている.現在と同じく多くの国民が病院で亡くなったとしたら,病院はキャパシティを超え,入院医療,救急医療の崩壊の危機が指摘されている.もし,これらの独居高齢者が通院できなくなった時,独居であるから在宅療養が困難と判断したとしても,施設や病院の余裕はすでにないかもしれないのである.

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市立病院の高齢化問題

 ちまたでは,高齢者の多死時代が襲来する2025年問題が喧しいが,地域の医療問題が直接反映する市立病院では,すでに,患者の高齢化で身動きできない状況になりつつある.患者を,年齢差別せずに受け入れる某市立病院では,たとえば90歳以上の入院患者が常に10%以上を占めている.これは,ある意味誇るべき数字であり,近隣の病院は断らない救急を売り物にしても,高齢者は差別して入院はさせない.

 高齢患者は,多臓器障害を抱え,かつ,治りが遅い,場合により回復しない,患者だけでなく家族も高齢化し,独居,老々介護(老人同士で介護している世帯),認認介護(認知症患者を認知症家族が介護している世帯)などの社会的・経済的・家庭的問題を抱えていて,介護力がなく,退院も簡単にはできない.施設から入院すると重症化し,施設への回帰を拒否される.かくて,行き場のない衰弱した高齢患者が市立病院に滞留することになる.

老衰死―老衰死を意識する 今永 光彦
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Case 1

患者:94歳,女性.

現病歴: 慢性心不全あり,他院に通院していた.1年ほど前までは自立していたが,徐々にADL低下.3カ月ほど前より食欲低下も認めるようになり,さらにADL低下したとのことで,家族に連れられて当院外来受診.最近はほとんど食事がとれず,眠っている時間も長くなっているとのこと.本人とは細かい意思の疎通は困難であったため,家族に意向を聞いたところ,「できれば最期は家で看取りたい.しかし,なにか原因がわかるのであれば,そのほうが気持ちとして自宅でみやすいので,本人がつらくない検査ならしてほしい」とのことであった.本人に負担が少ないという意味で,採血・X線・体幹部CT検査を行ったが,明らかな異常は認めなかった.それ以上の消化管精査などは行わずに「老衰」の経過であることを家族と共有し,訪問診療開始とした.多職種と連携し,介護環境や食形態の調整など行い,一時的には食事摂取量も増加.その後,再度,食事がとれなくなっていき,眠っている時間も長くなっていった.訪問診療開始より3カ月後にご自宅で永眠された.

居住施設における終末期 福間 誠之
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Case

入院精査を希望せずに施設で看取った事例

患者:87歳,女性.

病名:脳梗塞(左片麻痺),慢性呼吸不全,喘息,ネフローゼ症候群.

経過:5年前に特養に入所.入所後,喘息発作がひどくなり,チアノーゼがみられ,2回入院したことがあったが,最後に両下肢の浮腫が強くなり,入院してネフローゼ症候群の診断を受けた.本人および家族はそれ以上の侵襲的な検査や治療を希望せず,中心静脈栄養も中止して施設に戻ってきた.施設では点滴注射はせず,経口的にわずかであったが食事をするようにし,家族に車椅子を押してもらい施設周辺を散歩し,入浴もして,退院1カ月後に,娘や孫が10人ほどベッドの周りを囲むなか,苦しむことなく静かに息を引き取った.

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Case

患者:94歳,男性,独居,Hさん.

経過:20年前より当院に高血圧で通院.脳梗塞のため経管栄養で療養していた妻を10年間自宅で介護して5年前に看取った.以後,外来では「あかんようになったら,先生,頼むでね」とよく口癖のように言っていた.半年前に進行胃癌と癌性腹膜炎が見つかり告知をした.徐々に状態悪化,経口摂取が低下.本人の意向を確認しながら最終的に自宅での看取りを選択して,家族やスタッフ,近隣住民,研修生のサポートで思いを遂げることができた.

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 医学は日進月歩で発展し,多くの病を治せる時代になった.患者さんのなかには,ついつい不老長寿も夢でない時代がくるかと勘違いしている人もおられるようだが,「老い」を治す方法はいまだに見つかっていないのも事実である.人の一生を考えてみると,ほとんどの人生には「生・老・病・死」がある.言い換えると「死」や「老」も含めて人生のはずなのだが,われわれは生活のなかから「老」や「死」を遠ざけすぎてはいないだろうか.たとえば,おじいさんがご飯を食べられなくなると入院し,退院した後は施設に入る,寿命が訪れて息をひきとられたあとは葬儀場へ直行…なんてことは,ごく普通にある光景だと思う.しかし,日常生活から離れたところで老いて息をひきとることで,残された人,とくに幼い子どもたちの心のなかに,おじいさんやおばあさんが生きていた頃の思い出を刻むことはできるだろうか? なにより,それは本人が望んだ人生の最期だったのだろうかと問いたい.

周死期学(J1)からの視座 対本 宗訓
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死のプロセスを知る

 人はどうやって死んでいくのか,死ぬとき何が起こるのか,死んでどうなるのか.これらは患者さんにとって不安や苦悩の根源であるにもかかわらず,現代医学がカバーしにくい領域でもあります.死のプロセス,すなわちdyingの死についてはあまりにも何もわかっていませんし,わかっていないことがかえって不安や恐怖を増幅させるのです.死をどうとらえ,どう受け容れていくかは患者さん個人の問題であるにしても,患者さんやご家族の心の動揺に対応し寄り添っていくことは医療者としての大事な役割です.

 医療者自身,死生観の涵養が必要なことは言うまでもありません.たとえば身近な人の死を経験することなどを通して,自分自身のなかにある死というものに対する感情(恐れ,嫌悪など)を意識化し,その反応の仕方を知っておくのは大切なことです.あるいは補完伝統医療(J2)や宗教文化に学ぶことで,現代医学とは違った豊かな生命観があることを知るのも有益です1, 2)

【スペシャル・アーティクル】

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 人口の高齢化が進む日本において顕在化してきた,さまざまな問題のひとつに急性期病院における高齢者医療とケアの困難を巡る問題があります.年齢が上がるにつれ,ひとの認知機能は徐々に低下しますが,80歳以上の18.8%,85歳以上では33.9%に認知症があると言われています(図1).急性疾患で入院してくる高齢者には,ベースラインとしての認知機能の低下があり,これが理由となり疾患の治療・ケアの実施がままならなくなる事態を,多くの臨床医・看護師が経験しています.ユマニチュード(Humanitude)は35年前にフランスで誕生し,現在400を超えるフランス国内の病院・介護施設で利用され,さらに欧州・北米の国々にも広く受け入れられている感覚・知覚・言語による包括的なコミュニケーションとケアの方法論です.このメソッドの導入よって,患者の攻撃的な言動の減少,寝たきり患者の減少,向精神薬使用の減少(図2),ケアを実施する医療従事者の充足感の増加,ひいては看護師の離職率の減少などがもたらされています.このメソッドが現在日本が直面している問題の解決法のひとつとなることを,国立病院機構・東京医療センターで多くの医師・看護師が経験しました.本稿では,そのユマニチュードの概要についてお伝えいたします.

Editorial

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 今は優先席という呼び名に変わったが,かつて電車やバスには“シルバーシート”という「高齢者に譲るべき席」があった.名前はどちらにせよ,このような席があると,その席に座る資格がないことを自覚して座ることを躊躇したり,もし座っていても,高齢者などへ席を譲ることを促す効果があると考えられる.高齢者への特別な配慮といえるが,今後も有効に機能するものであろうか.

 言うまでもなく,今後,わが国では高齢者の増加に拍車がかかる.そして,電車やバスに乗る高齢者も増え,「これは“高齢者専用車両”か!?」と見間違う日が来るのも近いのではなかろうか.その際,優先席が足りなくなることは自明である.また最近では,「前期高齢者が後期高齢者へ席を譲る光景」をみることも少なくない.これを傍目に,“ふんぞり返っている”若者たちの意識を高めるためにも,これからは 「全席を優先席にして,一部の席のみを誰もが着席が可能な“非優先席”とするしか方法はない」とすら思うのである.

What's your diagnosis?[130]

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病歴

患者:64歳,男性.主訴:動けない.

現病歴:同居の妹夫婦から聴取.躁鬱病にて近医クリニックに通院していた.来院前日に軽度倦怠感あり,その他症状の訴えはなかった.来院当日の朝8時起床せず,尿失禁をしていた.体温は37.6℃.同日夕方まで朝と同様の状態であったため,家族が救急車を要請し,当院搬送となった.

ROS:聴取できず.既往歴:躁鬱病(24歳~),脂質異常症,高血圧,糖尿病.

服薬歴:ハロペリドール,クロルプロマジン,カルバマゼピン,リチウム,トリヘキシフェニジル,スルトプリド,エスタゾラム,アトルバスタチン,ニフェジピン,ボグリボース.喫煙:60本/日.飲酒:なし.職業:無職.

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 前号に引き続き,外来診療をテーマに行われた公開収録企画の模様をお届けする.今回は金城光代氏が提示した症例をもとに,前野哲博氏,松村真司氏,金城紀与史氏,そしてフロアを交えてディスカッションを行った.

 一筋縄にはいかない外来診療.そのアートは具体的な症例を通して学ぶのがもっとも効率的だ.すぐれた外来指導医として知られる四氏がリードする,白熱の症例ディスカッション!

レジデントCase Conference

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◆腹痛は,緊急を要する急性腹症を呈する疾患から経過観察のみで軽快する胃腸炎まで多彩である.その鑑別には注意を要し,腹痛以外の随伴症状にも注意が必要である.

みるトレ

Case 43 笠原 敬
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Case 43

患者:78歳,女性.

主訴:悪寒・戦慄を伴う発熱.

既往歴:特になし.

現病歴:1月上旬に腹痛や下痢などの症状があり,近医で感染性胃腸炎と診断され投薬治療を受けた.1月中旬から悪寒戦慄を伴う39℃台の発熱が出現した.近医で感冒と診断され,投薬(詳細不明)を受けていたが解熱せず,1月30日に近医に入院した.セフタジジム(1回1gを1日2回)を投与されたが解熱せず,フェリチンが232ng/mlと軽度高値であったため成人Still病が疑われ,2月6日からプレドニゾロン(20mg)の内服が開始になった.しかし,その後も解熱せず,精査加療目的で当院に紹介入院となった.咳,痰などの呼吸器症状なし,軽度の心窩部痛を認めるが下痢はなし.

身体所見:血圧126/78mmHg,脈拍数72回/分・整,呼吸20回/分,体温38℃.眼球結膜はやや貧血様.心音は胸骨右縁第2肋間で最強点を有するⅢ/Ⅵの収縮期雑音を聴取する.心窩部に軽度圧痛を認め,肝叩打痛も認める.四肢にOsler結節やJaneway病変なし,下腿浮腫なし.腸腰筋徴候陰性.

検査:WBC 10,500/μl(stab 7%,seg 88%,lym 3%),Hb 8.9g/dl,Plt 11.5×104/μl,ESR 62mm/hr,CRP 11.0mg/dl,AST 27IU/l,ALT 31IU/l,γ-GTP 189IU/l,ALP 564IU/l,Glu 208mg/dl,HbA1c(JDS)7.1%.

腹部造影CTを示す(図1).

Case 44 松村 正巳
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Case 44

患者:57歳,女性.

主訴:指が白くなる.

病歴:4年前から冬に水仕事をすると指が白くなることに気づいていた.温めると紫色,赤色になって元に戻る.この冬になって,指が白くなる頻度が高くなってきた.

身体所見:指は軽度腫脹しており皮膚はやや固い(図1).指以外の皮膚には異常を認めない.左中指,環指の爪の生え際を示す(図2).右中指~小指にも同様の所見を認める.関節炎,筋力低下は認めない.

米国ホスピタリストの「無知の知」・16

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 突然だが,オッカムの剃刀(Occam's Razor)という言葉がある.これは,「一つの原因は,観察される全ての事象の源である」ということを指し示す言葉だ.

 一方,ヒッカムの格言(Hickham's Dictum)という言葉がある.これは,「どの患者も偶然に複数の疾患に罹患しうる」ということを指し示す言葉だ.

慢性期の患者・家族とのコミュニケーション・7

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 経験の長い医療者は,対応の難しかった患者や家族に関する嫌な思い出の1つや2つはおもちだろう.今回は,患者・家族の陰性感情への対処の仕方について考えてみたい.困難事例への対応の仕方ととらえてもよい.

 いきなり矛盾することを言うようだが,ここでの問題は,実は,患者・家族の陰性感情ではない.いくら相手が怒り狂っていたとしても,それ自体は問題ではない.問題は,それによって医療者自身の心の土台が揺らいでしまうことであり,相手の怒りに単純に「反応」してしまうことにある.すなわち,真の問題の所在は,相手側にではなく,こちら側にあるということだ.これは考えようによっては,大変ありがたいことである.なぜなら,問題がこちら側にあるのであれば,こちらで問題をコントロールすることができるからだ.

JIM Lecture プライマリ・ケア医だからできる臨床研究入門・3

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◆日常診療で通り過ぎていく傍らに研究テーマがある:「Practice based research」とは?

 「あれ,これはどういうことだろう?」,「自分の思っていることと何か違うなあ」など,日常診療でふと気づいた疑問や仮説についてその現場で解明していくことを,「Practice based research(PBR)」といいます.本連載では筆者が地域医療の現場(山村の診療所)で行った,PBRの経験から作り上げた研究手法と,その実践方法(“Inoue Methods”)について紹介します.“Inoue Methods”の基本要素は,単純明快であること,応用性があること,(多忙な現場で)実行可能であること,そして一番大事ですが,楽しいことです.このシリーズの読後には,「自分にもできそうだからやってみよう!」という読者の方々が増えることを目標にしています.

メンタルクリニック便り・16

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 前回まで今どきの女性の「うつ」の心理的背景とその治療についてお話ししてきました.今回からは男性編です.典型例はこんな感じでしょうか.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[76]

「ハーヴェイ・ミルク」 浅井 篤
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観るべし!

そして,あなたの社会の見方が変わる

 観るべし.書くべきことはこの一言に尽きます.今まで多くの映画のなかに描かれる生命・医療倫理問題や人権問題を取り上げてきましたが,このドキュメンタリーは自由,勇気,夢,人権,尊厳,理想,そして相互尊重の大切さを完璧に描いています.同時に差別,不寛容,偏見の恐ろしさも十分見せてくれます.1985年のアカデミー賞最優秀長編記録映画賞を受賞したこのノンフィクション作品は,観た者のその後の社会の見方を変えてしまうかもしれません.ゲイの権利獲得のために48年の生涯を捧げたハーヴェイ・ミルクというホモセクシャルの男性の一生が,87分に見事に凝縮されています.

 映画は繋がります.大学の授業でジョナサン・デミ監督,トム・ハンクス主演の『フィラデルフィア』(1993年,米国)を取り上げる時,ホモセクシャル問題に言及する必要性が出てきました.ちょうどその時,ショーン・ペンがガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』(2008年,米国)でアカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得したことを知り,内容に関連性があり,観る価値があるなら学生にも勧めようと思い,仕事の合間に劇場に足を運びました.文字通りの傑作.「半年後には必ずDVDを購入するぞ」と心に決めていたところ,20年以上前に製作されたこのドキュメンタリー作品のDVDが再販になり入手・観賞した次第です.どちらも素晴らしい.

読者へのお知らせ

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今年度も『JIM』編集室では,第一線で活躍中のジェネラリストをお招きし,『JIM』presents公開収録シリーズを開催します.今回は“ジェネラリスト道場”と題して全4回実施.詳細は,本誌巻頭(表紙の裏面)のお知らせまたは医学書院ホームページをご参照ください.

第1回「ティアニー先生の診断道場 2013」

日時:2013年11月4日(月)  会場:医学書院(東京都文京区本郷)

Update`13

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 「また仕事を引き受けて来たの!!?」呆れ顔でうちのかみさんがつぶやいたのが2012年の年末.福知山で日本感染症教育研究会(IDATEN)の夏セミナー開催が決定し,そのスタッフとなったと言った時のことでした.

 IDATENは,2005年に臨床感染症診療と教育の普及,確立,発展を理念として発足し,年2回合宿セミナーを開催しています.2013年7月26日から3日間にわたる講義では全国から医学生を含む88名の参加者と,21名の日本を代表する感染症臨床医との真剣勝負が繰り広げられ,予防接種入門から超緊急疾患までカバーする熱気あふれるセミナーとなりました(詳細はIDATENのHP,福知山IDATENブログ参照).印象的だったのは,講義の内容が教科書的な原則論に終わることなく,日常業務での実地臨床に沿っていたこと.もちろん講師の経験(これだけでも十分に豊富なのですが…)だけではなく最先端のエビデンスを取り入れた講義が繰り広げられ,半年以内にpublishされた最新の知見もどんどん出てきて,知的好奇心をとても刺激されました.

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基本情報

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JIM
23巻10号 (2013年10月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

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