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Case
患者:84歳の男性.
現病歴:散歩中,「足腰に力が入らなくなった」といって,友人の付き添いで入院した.血圧120/74mmHg,脈拍100回/分(整),呼吸数18回/分,体温36.2℃.麻痺はなく浮腫もないが,質問に対して応答がかみ合わず,軽い意識障害がある.数日前から食欲がなく,平時の半分程度しかとれていないらしい.
検査所見:尿,血算は正常.生化学検査で,低Na血症(Na 118mEq/l,K 3.7mEq/l,Cl 83mEq/l)を認める.腎機能正常(BUN 12.2mg/dl,Cr 0.7mg/dl)で,尿酸は2.5mg/dlと低い.
経過:脱水と判断し生理食塩水の点滴が開始された.翌日,血漿浸透圧247mOsm,尿浸透圧380mOsm,尿Na値88mEq/lが判明した.浮腫のない,尿中Na排泄高値の低Na血症であることから,副腎不全,SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群),MRHE1)(mineralcorticoid responsive hyponatremia of the elderly,老人性鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症)を疑った.早朝血漿ACTH 66pg/ml,コルチゾール23.7μg/dl,尿中コルチゾール 167μg/日,TSH 0.95μIU/ml,FT4 1.7ng/dlで副腎不全や甲状腺機能低下症はない.ADH(抗利尿ホルモン)は1.4pg/ml(0.3~3.5)で抑制されていない.血漿レニン活性0.7ng/ml/時,アルドステロン66pg/mlと正常であった.画像検査で脳・肺病変は否定,特別な薬剤内服はなく,特発性SIADHと診断.食事を含めて約1l以下の飲水制限と経口食塩約10gを始めると,血清Na値は124mEq/lに上昇し,意識レベルも改善したかにみえたが,数日後111mEq/lまで低下,意識レベルも悪化して傾眠状態となった.この間,尿中Naは54~72mEq/lと高値が続いた.緊急に3%NaCl液500mlを1日かけて投与したところ,2日後には血清Na値は128mEq/lまで上昇し,意識状態も改善した.
診断・治療:飲水制限と経口食塩負荷が奏功しなかったことから,MRHEと考え,Fludrocortisone acetate(フロリネフⓇ)0.1mg/日の内服治療を開始したところ,血清Na値は徐々に改善し,2週後には130~135mEq/lとなり,食欲も増え,以降,意識状態の悪化はなかった.
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