作業療法ジャーナル 55巻2号 (2021年2月)

特集 刑務所から地域で支える更生保護へ—いま作業療法士に求められていること

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特集にあたって

 本特集は,司法領域の作業療法における「そう遠くない未来」について,読者と共有するために企画した.

 病や障害等の生きづらさにより社会的に孤立し,さまざまなストレスにさらされた結果,適切な対処行動がとれずに犯罪や非行に至ることがある.犯罪や非行は社会全体の課題であるが,それを当事者だけの問題とする排他的な姿勢が,新たな社会的孤立を生む負の連鎖を引き起こす.

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Key Questions

Q1:更生保護とは何か?

Q2:更生保護における精神障害等に配慮した処遇の状況は?

Q3:作業療法に期待される役割は?

更生保護とは

1.刑事司法における更生保護の役割

 更生保護は,犯罪をした人や非行のある少年を社会の中で適切に処遇することにより,その再犯・再非行を防ぎ,自立・改善更生を助けるとともに,犯罪を生まず立ち直りを応援する社会の実現を目指した犯罪予防活動等を行うものであり,刑務所等での処遇を意味する「矯正処遇」や「施設内処遇」に対置して「社会内処遇」と呼ばれる.

 刑事司法の手続き全体からみた更生保護の位置づけは次の通りである.

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Key Questions

Q1:司法領域と作業療法の動向とは?

Q2:司法領域と作業療法との経緯とは?

Q3:司法領域で求められる作業療法の技術とは?

はじめに

 本特集のテーマである「刑務所から地域で支える更生保護へ」は,作業療法を含む保健医療の領域で叫ばれてきた「病院・施設から地域へ」というテーマと同一概念である.「人は施設で暮らすのではなく望む地域で暮らすもの」は,患者支援の中心概念である.支援者はいかに対象者を支援していくか,司法領域の支援でも同様である.作業療法専門誌において,司法領域の作業療法として,「刑務所から地域へ」という支援の連続性のあり方を問う特集が立てられることに,われわれも感慨深い.

 2005年(平成17年)に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(平成15年法律第110号.以下,医療観察法)が施行された当時,執筆者の一人である鶴見が社会復帰調整官として地域での普及啓発活動の中,精神障害に関与する医療関係者や地域福祉支援関係者,さらに同じ仲間であるOTを含め,司法領域および触法障害者への理解の低さや偏見に直面し,愕然とした思いをもったことを記憶している.あれから約15年,そのころの思いと今回のテーマからは隔世の感を禁じ得ないのが率直な思いである.

 さらに,司法領域の作業療法は,最近の動きからも加速していると感じている.2019年(令和元年)からの短期間だけを振り返っても,司法領域と作業療法の接点となる新たな動きが胎動しており,より深化を増している.その動きをいくつか以下に列挙してみると,①法務省矯正局管理下の長崎刑務所等3カ所の刑務所にOTを配置(今年度も府中刑務所等に新たに配置).②法務省保護局の地方更生保護委員会委員(仮釈放・少年院からの仮退院の審理等を行う)や保護司に就任するOTが出てきている.また,③医療観察制度の社会復帰調整官であったOTが,人事交流による異動で保護観察官として更生保護分野の中心業務で活躍を始めている.④日本作業療法士協会(以下,OT協会)と法務省矯正局が連携し刑務所見学会(札幌刑務所等3カ所)を開催.また,OT協会が「共生社会を創る愛の基金」から助成を受け司法領域の研修会を開催し,多数のOTと矯正局職員の参加と交流がなされた.⑤OT協会と法務省矯正局・保護局との話し合いと連携の中から,司法領域の研修会を法務省で合同開催.⑥OT協会の総会で法務省保護局長である今福章二保護局長の講話.そして本特集で今福保護局長からの寄稿が掲載される.

 以上のように動きを列挙したが,新型コロナウイルス感染症の影響により,⑤の2020年6月に開催を予定していた法務省での司法領域の合同の研修会,⑥の同5月に開催されたOT協会の総会での今福保護局長の講話は,残念ながら中止となった.しかし,これらの動きを俯瞰すれば,司法領域と作業療法との接点は,量および質ともに深化している.

 司法領域の作業療法に求められるものは,OTの配置や場の構築というテーマから,刑務所から地域の更生保護への支援のあり方,その技術の特性や支援の連続性のあり方,その中での作業療法の支援の構築,いわゆる支援の「質」に比重が移ってきているのであろう.本稿が司法領域における作業療法の質の構築に微力ながら貢献できれば幸いである.

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Key Questions

Q1:熊本県作業療法士会の刑務所支援チームとは?

Q2:高齢受刑者に対するOTの取り組みとは?

Q3:刑務所職員との連携体制の構築とは?

はじめに

 刑務所における受刑者の高齢化の問題は,マスメディアでも取り上げられ一般的に知られるところとなっている.特に処遇区分がLB(執行すべき刑期が10年以上であり,かつ犯罪傾向が進んでいる者)の者を収監する施設にとっては大きな課題である.

 熊本県作業療法士会(以下,県士会)は,2018年(平成30年)にLB施設である熊本刑務所より高齢受刑者のための身体機能維持や認知症予防のための取り組みを依頼され,「刑務所支援チーム」(以下,支援チーム)を結成し,現在まで「健康運動指導」を実施している.近年,司法領域に従事するOTは徐々に増加してきているが,以下に県士会のチームとしてかかわる新たな活動のかたちについて紹介する.

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Key Questions

Q1:再犯防止推進計画とは?

Q2:一般就労と福祉的支援の狭間にある者とは?

Q3:更生保護施設におけるOTの役割や関与の可能性とは?

はじめに

 2017年(平成29年)12月15日,「再犯の防止等の推進に関する法律」(以下,再犯防止推進法)に基づき「再犯防止推進計画」が閣議決定された.再犯防止推進計画策定の目的に目を通すと,わが国の現状では刑法犯の件数は減少を続けているものの,刑法犯により検挙された再犯者が占める割合は上昇しており,その背景には,貧困や疾病,嗜癖,障害,厳しい生育環境,不十分な学歴等,さまざまな生きづらさを抱える環境があることが指摘されている1).再犯防止推進計画の背景には,犯罪をした者が地域社会で孤立しない支援を行うために,刑事司法関係機関のみによる取り組みを超えた就労,教育,保健医療・福祉等関係機関や民間団体等との密接な連携が必要だと指摘されてきたことがある1).この再犯防止推進計画には,表 1に示した7つの重点課題が挙げられており,このうち,就労・住居の確保等のための取り組みの中には,具体的施策の一つとして,「一般就労と福祉的支援の狭間にある者の就労の確保」が示されている.

 障害者に対する就労支援は,作業療法が歴史的にも知識と技術を蓄積してきた領域である.しかしながら,再犯防止推進計画が掲げる「一般就労と福祉的支援の狭間にある者」への支援において,作業療法は社会保険対象外であり,また研究もほぼ存在しない現状にある.このような中,筆者らは2019年(令和元年)に法務省矯正局から共同研究のオファーを受け,作業療法の視点を活用した刑務所,少年院での効果検証を行ってきた.この結果をさらに活用するため,2020年度(令和2年度)より更生保護施設,保護観察所と研究協定を結び,一般就労と福祉的支援の狭間にある者を対象に就労支援のための作業療法プログラムを活用した介入研究を開始した.本稿では,介入に至る現在までの経緯と今後の方向性について報告する.

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Key Questions

Q1:保護観察とは?

Q2:更生保護領域における障害者へのかかわりは?

Q3:保護観察官の取り組みにおけるOTの強みとは?

はじめに

 筆者らは,OTとして精神科病院に勤務した後,社会復帰調整官として医療観察対象者(精神障害による心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者)にかかわり,現在は保護観察官として保護観察対象者(非行少年や犯罪者)にかかわっている.

 本稿では,病気や障害を抱える保護観察対象者に対する保護観察官の実践を報告し,OTであることの強みについて考えてみたい.なお,本稿における意見は筆者らの私見である.

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Key Questions

Q1:保護司とは?

Q2:保護観察官と保護司の役割は?

Q3:作業療法士が保護観察にかかわる意義は?

はじめに

 更生保護とは,犯罪をした人や非行のある少年を社会の中で適切に処遇することによって,再犯を防ぎ,安定した生活が送れるように助けることである.

 更生保護は,法務省保護局や地方更生保護委員会,保護観察所等の公的機関に加え,保護司会,更生保護法人,更生保護女性会,BBS(Big Brothers and Sisters Movement)会,協力雇用主等の民間の人々の協力を得て成り立っている1)

 本稿では,保護司会に所属している筆者が,保護司の紹介と実践を報告し,OTが保護観察を行う意義について考察する.

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Key Questions

Q1:訪問看護ステーションの役割とは?

Q2:地域生活で生活を続けるためには?

Q3:働くことから得られることは?

はじめに

 65歳以上の高齢者の刑務所入所受刑者数は,2018年(平成30年)は2,222人で,1989年(平成元年)と比べ約7.1倍に増加している.特に70歳以上の受刑者が増加しており,1989年と比べ約13.3倍に増加した.2018年の全入所者のうち65歳以上の高齢者は12.2%を占める1)

 精神障害者等の刑務所入所受刑者数は,1989年では総数2万4,605人のうち760人(3.1%),2018年では総数1万8,272人のうち2,733人(15.0%)と約5倍にも上る2)

 これらから高齢者・精神障害等の受刑者が全受刑者の約27%を占めることがわかる.筆者は訪問看護ステーションで働くかたわら播磨社会復帰促進センター(官民協働で運営する刑務所)にも身を置いている.日々の業務の中で,高齢者や精神障害,知的障害の受刑者に多く見受けられるのは,地域社会から孤立し,医療や必要な福祉サービス等につながっていないケース,もしくは医療や福祉サービスにつながっていても本人が望むような生活が送れていないケースである.

 医療や福祉サービスにつながらず地域社会から孤立した受刑者が世の中に多い中,今回は表題の通り,被通報歴があるも触法行為に至ることなく,本人に合った福祉サービスが提供され,各事業所が連携し合った結果,現在も落ち着いて地域生活が送れている事例を紹介したい.本人には今回の掲載に関して同意を得ているが,通報内容等の詳細は伏せて紹介する.

わたしの大切な作業・第34回

スラックライン 藤田 一照
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 スラックラインという5センチ幅の弾力性のあるベルトを2本の樹の間に張って、その上を綱渡りのように端から端までゆっくり歩いて渡る。距離にして20メートルくらい、高さは50センチくらいだ。実際にスラックラインの上に足を置いてみた人でないとわからないが、上に乗ろうとして足でラインを下に向かって踏み込むと、自分で揺らしているつもりはまったくないのに、当人には信じられないくらいラインが左右に揺れてしまう。ほとんどの人が「え〜、なにこれ〜!?」と思わず声を上げる。無理もない。初めての人には足を置くだけでラインがそんなに激しく左右にぶれてしまうことなどまったく想像できないからだ。ラインを踏むことが、結果的にラインをひどく揺らして自分を上にあがれなくさせてしまう。しかし、踏まなければ上にはあがれない。さあ、どうする? スラックラインにチャレンジする人は必ず、こういう禅の公案のようなジレンマに直面することになる。

提言

今こそ,「あり方」再考 片岡 聡子
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 災禍の年となった2020年.われわれの仲間を含む医療従事者には,日々最前線に立ち,闘っていただいていることに,あらためて敬意と感謝を申し上げたい.

 個人的には,この1年間ほど,これまでの価値観から離れ,新しい手段を見いだすことに注力した年はなかった.その過程において,自分自身の真髄ともいうべき,「あり方」について向き合わされたように思う.

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弊誌の名物企画「中村春基会長対談シリーズ」.今回のお相手は,日本の作業療法をリードする気鋭のお二人,澤田辰徳先生と竹林 崇先生をお招きし,鼎談形式でお届けします.編集室が設定したテーマは「作業療法はどこに向かうのか」.中村春基先生からは「このお二人とお話しするなら」と,特に「治療の質と量」というサブテーマをご提案いただきました.前編は主に治療の「質」についてのお話になりました.コロナ禍の中ご参集くださいました先生方に,あらためて感謝を申し上げます.(編集室)

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第74回

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OT放棄宣言(「おーT」へ)

 作業療法士は,OTであるが,「おーT」ではない.このことを,どれだけの作業療法士が知っているだろうか.「おーT」は理学療法もどきをやって満足している.

シリーズ ポストコロナ社会を考える—変わるもの,変わらないもの

The Post COVID-19 World Pattison Marilyn
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 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)のパンデミックの発生は,世界中の個々人,家族,コミュニティの生命と,健康および福祉(wellbeing)を変えた1).OTは,世界の人々の健康面でのニーズや作業ニーズに対応するために必要とされる,保健医療分野の重要な人的資源である.日常生活の中で,人々は現在,自分の人生に意味や目的をもたらす普段の活動に,これまで通りに携わったり,参加したりすることが難しくなっている.OTは健全な作業の重要性を理解し,福祉機器やリソースへのアクセス,ADL,移動,社会的および環境的適応,メンタルヘルスや,その他の作業参加に影響する多数の問題等への支援を行っている.

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 困難なときですが,一致団結して,頑張りましょう.

 差別はしないようにしましょう.

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はじめに

 2019年12月,中国武漢市において新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の集団発生が報告されて以降,全世界に感染が拡大し,日本国内でも患者数の増加により緊急事態宣言が発令された.欧米に比較して死亡者数は少ないものの,防護服の不足や院内感染の発生により医療崩壊を招く事態も懸念され,感染拡大を見据えた医療提供体制の強化への取り組みが求められている.当院では職員を感染から守ることを念頭に,感染のリスクをできるだけ削減する試みとしてタブレット型端末を導入した.リハ室でも,OT,PT共働でCOVID-19感染症者に対してタブレット端末を使用した遠隔リハを実践した.本稿は当院の遠隔リハの取り組みと作業療法の支援の可能性を述べる.

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 2020年(令和2年)は,世界的に新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染が拡大し,現在もなお収束がみえず,今までに誰も経験したことがない世界が広がっている.国内においても2020年1月には感染が確認されはじめ,その後,4月に緊急事態宣言が発令され,東京オリンピック・パラリンピックも延期され,もうすぐ1年が経とうとしている.COVID-19によりお亡くなりになられた方々,ご家族の方々には謹んでお悔み申し上げるとともに,罹患された方々には心よりお見舞い申し上げる.また,感染者の受け入れ,発熱外来等の対応に当たられている医療機関の医療従事者の方々,COVID-19関連相談やクラスター対応等をしておられる行政機関の方々には心から感謝申し上げるとともに,尊敬の意を表したい.

 私たち国民は新しい生活様式として,ソーシャルディスタンス,マスク着用,手洗い,消毒,換気等が求められた.テレビでもバラエティー番組がバーチャルセットにより出演者の3密を避けたり,ドラマでもマスク着用の場面があったりと,この情勢下の生活様式の変化を物語っている.働き方においても,時差出勤,在宅ワーク,web会議,オンライン研修等,さまざまな対策が採られた.皆さんの職場でも,感染症対策はもちろんのこと,業務内容の工夫,人員配置や備品整備等,多岐にわたり変更を求められたかと思う.これらの過程において,作業療法自体のあり方までも考えさせられたのではないだろうか.

連載 作業療法を深める ㊿漢方医学

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はじめに

 漢方医学は,古代中国医学由来ではあるが,伝来してから1500年以上の歴史をもつ日本の伝統医学であり,日本で独自に蓄積された臨床経験を基に発展してきた.江戸時代中期に日本に入ってきた蘭方,すなわちオランダ医学と区別するため,漢方と命名された.漢方医学には,湯液(漢方薬を使った治療),鍼灸,そして推拿(マッサージ)が含まれる.

 鍼灸に関しては,療養費の給付という形式で患者負担が軽減される場合もあるが,ほとんどの場合は自由診療で,病院とは別の施設である治療院等で施術が行われることが多い.そのため,医療従事者が鍼灸治療の効果や有害事象を知り,情報を聴取しやすい状況をつくることが大切である.鍼灸治療の疼痛改善効果は,その効果発現機序が一部解明されていることもあり,欧米では湯液治療よりも利用されている.また,Cochrane Libraryにも鍼灸治療の肯定的な結論が述べられている疾患や症状が掲載されている1)

 このうち,漢方薬は昭和中期から保険医療に組み込まれ,医師が処方するという形態で治療に役立ってきた.このような形態は世界で日本のみであり,日本は伝統医学と現代医学を一元化した,伝統医療先進国といえる.現在の医療における漢方医学の特徴は,①医療用漢方製剤(エキス剤) 148種類,調剤用生薬 約200種が,医師の診察により,健康保険で薬剤投与を受けられること,②予防的に用いることができること,③西洋医学では対処できない症状(全身倦怠感,食欲不振等)に対する効果が高いこと,④年齢や環境(四季,気候,多忙等)等を考慮して有効な処方を決定できること,⑤病名ではなく,患者の病態や症状を漢方医学的に診断して処方決定すること,である.

 漢方薬の効果機序に関しては研究も進んでいる.疼痛のみならず,嚥下機能の改善や呼吸機能の改善,高齢者のフレイルに対する補剤(人参養栄湯,十全大補湯等)の有効性等,他の治療では得られない効果も報告されている.

 また,漢方医学は,生理学や薬理学,免疫学,そして民俗学や気象学等,広い知識や知見を包含しており,西洋医学的な視点とは異なっている.だからこそ,その考え方を学ぶことで患者さんの治療を思案工夫することができる.よく「病は気から」と言う.一般的には,「病気は,その人の心の持ち方次第で軽くもなるし,また重くもなること」(大辞林)という意味で使われている.病気の症状を「気のせい」と言われてしまい,つらい思いをした患者さんもいらっしゃるのではないだろうか.しかし,実はこの表現は,漢方医学的には正しいのである.患者さんの治療にかかわる際に,「気」という概念は役立つと思う.本稿では,そのような視点から,作業療法に役立つ漢方医学の考え方についてお話ししたい.

 はじめに,筆者が漢方を学びはじめたきっかけとなった症例からお話しする.筆者は,小児外科医として働いていたころ,手術は完璧なのに,易怒性によるいきみで排便障害をきたした1歳児の症例を経験した.母親も夜泣きと排便障害で疲弊しており,今考えれば,術後の気の不足(気虚)と,うまく排便できないことによる怒り(気逆)による悪循環であったと考えられる.この患児に小建中湯と抑肝散を投与することによって良好な排便が可能となった(母親の疲労も改善した).

 また,小児外科疾患で入院していた子どもたちは,病棟で追いかけっこをしたり,クリスマス会の練習をしたりして一見元気に見えても,病気のない子どもたちに比べると,元気がなかった.たとえば,学校行事が忙しくなると熱を出したり,睡眠の質が悪かったり,風邪を引きやすかったり,おなかを壊しやすい,食が細い等,退院してからも普通の子どもたちと比べて問題があることが多かった.そうした,はっきりと病気とは言えないまでも,どこか問題を抱えているような子どもたちにも,漢方医学は効果的であった.

 このように,西洋医学的知識だけでは乗り越えられない多くの問題が漢方医学で解決できることを目の当たりにし,臨床の幅を広げるために漢方医学を勉強し,現在はこちらが専門になっている.

連載 老いを育む・第9回

自分の老いを生きるⅡ 柏木 哲夫
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 前回,執筆と講演を通して私なりの「人間理解」を人々に伝えるのが私自身の老いを生きることになる……と書きました.そして前回は<執筆>について書きましたので,この章では<講演>について記します.

 私が講演の依頼を受け出したのは,米国への留学から帰国して,淀川キリスト教病院で働き出してからでした.留学中に経験した末期患者へのチームアプローチ等を請われるままに講演しました.このチームアプローチはホスピスケアにつながるのですが,当時の日本の医学界では実に新しい分野でした.患者さんの治療にチームで取り組む,しかも,末期患者にチームアプローチをすることは,まったく新しいことでした.私はこの新しい取り組みをOCDP(Organized Care of Dying Patient)——死にゆく患者への組織的ケア——と名づけました.日本で初めてのホスピスケアのスタートでした.

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第54回日本作業療法学会を終えて

 日本作業療法学会初のオンデマンド型web開催となった第54回日本作業療法学会(以下,本学会)が2020年(令和2年)10月25日に閉会しました.

 皆様ご承知の通り,本学会をweb開催としたのは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止を最優先に考えたためです.2020年の3〜4月は,COVID-19の感染が拡大していた時期であり,政府の対策と方針,そして見通しが立ちにくい感染拡大の状況を勘案し,学会運営委員会で開催方法について検討しました.演題募集は終了しており,プログラムの概要も決まっていましたので,中止や延期はせずにwebで開催する方針を5月の連休明けに決定しました.オンデマンド型をとるということで,視聴できる期間をできるだけ確保するために,会期を2020年9月25日(金)〜10月25日(日)までの1カ月間としました.また,質疑応答機能を設けることにより,演者と参加者とのやり取りができるようにしました.演者の皆様にオンデマンド型に伴う講演やシンポジウム,演題発表の準備をお願いするのは非常に心苦しかったですが,ご理解いただき対応をしていただいたことに感謝申し上げます.

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 爽やかな秋空の中,第36回日本義肢装具学会学術大会が東京大学本郷キャンパスで開催された.本学会長は,東京大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学分野教授の芳賀信彦先生がされた.

 今年は,新型コロナウイルス感染症の拡大の中で数多くの学会が中止や延期を余儀なくされ,多くの学術的活動が制限されている.本学会は,対面開催形式とweb開催形式を併用したハイブリッド学術大会として開催された.対面開催期間は10月31日(土)〜11月1日(日),web開催期間は10月23日(金)〜11月16日(月)とされ,大会長講演,特別講演,海外招待講演等はリアルタイムで行われ,その後のweb開催期間中ならいつでも視聴可能であった.このような方法は,会員および参加者にとって大変ありがたい対応であり,学会長ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げたい.新型コロナウイルス感染症の終息を願うばかりであるが,今回の学会開催形式は新たな生活様式に適応した取り組みとして,今後の学術大会に大きな影響を与えることだろう.

ふぉーらむ

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はじめに

 筆者が勤めている障がい福祉サービス事業所地域サポートセンターみなみは,北広島でリハセンター,デイサービス等を運営する社会福祉法人に属します.

 当施設では機能訓練事業・生活介護事業の多機能型のサービス提供により,生活の質や日常生活動作の向上を目指しています.入浴・排泄・食事等の介助,生活等に関する相談・助言,その他の必要な日常生活上の支援,創作的活動・生産活動の機会の提供の他,身体機能や生活能力の向上のために必要な援助を行っています.

 また,各種リハの他,利用者の要望を取り入れながら,外出行事の企画,季節を感じる行事等を行っています.

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Abstract:近年の関節リウマチ(以下,RA)の病態解明により,さまざまな生物学的製剤が誕生し,治療効果を上げている.今回,生物学的製剤使用中に,誘因なく長母指屈筋(以下,FPL)腱断裂を呈したRA事例の作業療法を経験した.事例は60代女性,職業は翻訳業,配偶者へのマッサージを機転としてFPL腱断裂を発症し,当院で腱移行術と骨棘切除を行った.術後早期よりmodified Kleinert法とDuran法を実施した.術後3週時に母指IP関節のブロッキング訓練を実施し,母指IP関節全周式のCM関節スプリント作製,皮膚硬結には超音波を実施した.5週以降から段階的にCM関節スプリントを変更した.また患者教育も実施した.最終時には右手の自動屈曲の改善と筋力,上肢機能の改善を認めた.術前から状態を把握し,術後早期からの段階的なスプリント療法と患者教育は効果的であり,患者にとって“useful hand”の定期的な支援が必要と考えられる.

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はじめに

 高齢のクライエントに趣味を問うと,編み物を挙げる方1)や,「昔は家族の毛糸物は全部私が編んだのよ」と自慢げに話す方がいる.その方々が作業療法で編み物に挑戦すると,認知症や視力低下等により,鎖編みは可能だが他の編み方は困難で,作品にはならない場合もある.今回,鎖編みを用いた3作品の製作方法と作業同一性2)を維持した事例を紹介する.

昭和の暮らし・第50回

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 北名古屋市歴史民俗資料館「昭和日常博物館」では,昭和時代,特に昭和30〜40年代の間に使われた生活用品,子どもたちの学用品や玩具等,あらゆるモノを資料として収集し,展示している.

 展示の特徴として,1品を紹介して説明書きをつけるという通例の手法ではなく,モノを組み合わせることによって当時の情景を再現するという方法を用いている.

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目次

表紙のことば/今月の作品

第56巻表紙作品募集

Archives

学会・研修会案内

お知らせ

研究助成テーマ募集

次号予告

編集後記 香山 明美
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 大学の研究室から外を眺めれば,はらはらと雪が舞っている.今季一番の寒さの中,大雪になりそうな予報も出ている.寒さもまた,われわれにとって必要な季節の循環ではあるが,この寒波の中で,新型コロナウイルス感染症拡大の波は大きくなるばかりである.

 先日,虐待され続けた娘が,やがて成人し母親を殺してしまうドラマをみた.虐待を受け続けている子どもがそこから抜け出すには,親から離れるしかない.その方法として親を殺してしまう,その方法しかなかった.何とも痛ましい限りの話である.虐待や殺人は社会的には犯罪事件である.しかし,虐待をしてしまった親もまた,虐待を受けたり,親からの愛情を受けられないで育った背景があるといわれている.実際に筆者が体験した虐待のケースの親もまた,同じような境遇で育っていた.虐待を受けているケースはその過程で,うつ病やアルコールや薬物依存,そして非行,犯罪といった流れをとるケースも多い.犯罪は自ら望んで行うケースはほぼなく,生きていく過程の中で逃れようのない状況になってしまうと思われる.新型コロナウイルス感染症拡大が,閉鎖的な生活を余儀なくし,上記のような虐待のケースを増加させていることも心配されている.経済的なダメージがいち早く取り上げられているが,国民に与える心理的な影響を取り上げる必要性があると感じている.

基本情報

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作業療法ジャーナル
55巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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