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Key Questions
Q1:司法領域と作業療法の動向とは?
Q2:司法領域と作業療法との経緯とは?
Q3:司法領域で求められる作業療法の技術とは?
はじめに
本特集のテーマである「刑務所から地域で支える更生保護へ」は,作業療法を含む保健医療の領域で叫ばれてきた「病院・施設から地域へ」というテーマと同一概念である.「人は施設で暮らすのではなく望む地域で暮らすもの」は,患者支援の中心概念である.支援者はいかに対象者を支援していくか,司法領域の支援でも同様である.作業療法専門誌において,司法領域の作業療法として,「刑務所から地域へ」という支援の連続性のあり方を問う特集が立てられることに,われわれも感慨深い.
2005年(平成17年)に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(平成15年法律第110号.以下,医療観察法)が施行された当時,執筆者の一人である鶴見が社会復帰調整官として地域での普及啓発活動の中,精神障害に関与する医療関係者や地域福祉支援関係者,さらに同じ仲間であるOTを含め,司法領域および触法障害者への理解の低さや偏見に直面し,愕然とした思いをもったことを記憶している.あれから約15年,そのころの思いと今回のテーマからは隔世の感を禁じ得ないのが率直な思いである.
さらに,司法領域の作業療法は,最近の動きからも加速していると感じている.2019年(令和元年)からの短期間だけを振り返っても,司法領域と作業療法の接点となる新たな動きが胎動しており,より深化を増している.その動きをいくつか以下に列挙してみると,①法務省矯正局管理下の長崎刑務所等3カ所の刑務所にOTを配置(今年度も府中刑務所等に新たに配置).②法務省保護局の地方更生保護委員会委員(仮釈放・少年院からの仮退院の審理等を行う)や保護司に就任するOTが出てきている.また,③医療観察制度の社会復帰調整官であったOTが,人事交流による異動で保護観察官として更生保護分野の中心業務で活躍を始めている.④日本作業療法士協会(以下,OT協会)と法務省矯正局が連携し刑務所見学会(札幌刑務所等3カ所)を開催.また,OT協会が「共生社会を創る愛の基金」から助成を受け司法領域の研修会を開催し,多数のOTと矯正局職員の参加と交流がなされた.⑤OT協会と法務省矯正局・保護局との話し合いと連携の中から,司法領域の研修会を法務省で合同開催.⑥OT協会の総会で法務省保護局長である今福章二保護局長の講話.そして本特集で今福保護局長からの寄稿が掲載される.
以上のように動きを列挙したが,新型コロナウイルス感染症の影響により,⑤の2020年6月に開催を予定していた法務省での司法領域の合同の研修会,⑥の同5月に開催されたOT協会の総会での今福保護局長の講話は,残念ながら中止となった.しかし,これらの動きを俯瞰すれば,司法領域と作業療法との接点は,量および質ともに深化している.
司法領域の作業療法に求められるものは,OTの配置や場の構築というテーマから,刑務所から地域の更生保護への支援のあり方,その技術の特性や支援の連続性のあり方,その中での作業療法の支援の構築,いわゆる支援の「質」に比重が移ってきているのであろう.本稿が司法領域における作業療法の質の構築に微力ながら貢献できれば幸いである.
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