産婦人科の実際 70巻1号 (2021年1月)

特集 産婦人科医が知っておきたい性教育のポイント

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人間の性は,妊娠・出産のために必要であるのみならず,性感染症や子宮頸癌などの疾患にも関連し,さらに,多様な心理的・社会的側面ももちます。諸外国では幼児期から性教育を開始することがスタンダードとなっているのと比較して,日本は性教育後進国となってしまっています。一方で,日本のアダルトコンテンツは異常なほど豊富となっており,アダルトコンテンツをお手本に現実でもファンタジーの内容を「普通のこと」として実践してしまうため,相手との関係性がうまく作れない場合が多々あります。そして,感染症や妊娠については「お手本」には出てこないため,自分がやっていることの危険性や犯罪意識もないケースもあります。このような性に対する歪んだ認識は,日本社会全体に深刻な影響を与えており,早期から性教育を通じて子どもに性に関する正しい知識を伝えることの重要性は明らかです。

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現代女性の生涯月経回数は約450回。昔と比べ月経との付き合いが長いからこそ,かかりつけ産婦人科医のもと低用量ピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)を使用し,子宮内膜症の発症予防や効果的な避妊を行う選択肢は重要である。また将来若者たちが,知らなかったせいで後悔することがないよう適切な情報提供を行うことは大切である。しかし,いくら情報が得られても周囲の理解や利用可能な制度・選択肢がなければその知識を生かすことはできない。避妊や中絶など,性と生殖に関する健康と権利(SRHR)に関するサービスの提供体制や学校における性教育に関して,海外と日本は異なる点が多いことを踏まえたうえで性教育を行う必要がある。多様な選択肢を増やし自己決定を支援することは,女性にとっても,どんな性の人にとっても,生きやすい社会に変わることにつながる。

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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症,および後天性免疫不全症候群(AIDS)は,性教育を受ける年代の児童・生徒にとって身近な感染症ではない。抗HIV治療の進歩によって,HIV感染者の生命予後は飛躍的に改善し,近年は新規感染者数も減少傾向である。しかし,一度HIVに感染してしまうと,生涯にわたって抗HIV薬の内服を継続しなければならず,決して軽視してよい感染症ではない。本稿では,性教育を行ううえで重要な感染症として,HIV/AIDSの近年の疫学,治療法の進歩,予防について概説する。

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性感染症は,性教育など啓発・教育活動にもかかわらず,増加傾向ではないものの若い世代間で流行している。近年,梅毒の報告数の増加が問題となっており注目されているが,性器クラミジア感染症と淋菌感染症の報告数は,注目されている梅毒の報告数よりも多いという状況を認識していただきたい。新型コロナウイルス感染症の感染対策でうたわれている接触感染予防は,呼吸器と性器の相違はあるものの物理的な予防として共通し,感染リスクのある行動歴という面でも共通している。感染症予防は感染部位が異なっても,考え方は同じであるとすればわかりやすいのではないだろうか。

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近年,わが国では梅毒の症例が急増し,外来診療において常に念頭におかなくてはならない疾患となった。診断は病原体診断が一般化されていない現在,血清学的診断が主体となる。血清学的検査は自動化法に切り替わってまだ日が浅いため,結果の解釈に注意が必要である。治療についてはペニシリン内服療法のエビデンスが近年示されており,1期,2期の早期梅毒の症例についてはガイドラインに従った治療を行えばまず問題がない。しかし,ペニシリンアレルギーがある場合や後期梅毒,神経梅毒といった症例についてはまだデータが十分とはいえない。持続型ペニシリンの筋注の導入是非も含めてさらなる検討が必要である。

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尖圭コンジローマは,年間約4万人が罹患する性感染症であり,かつ母子感染することがある性感染症でもある。尖圭コンジローマは,診断にはしばしば苦慮し,治療には免疫賦活剤であるイミキモド5%クリームがあるが,その使用法は必ずしも統一されていない。さらに,性感染症のなかで唯一ワクチンによって予防できる性感染症であり,ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが普及している海外では,尖圭コンジローマは“過去の性感染症”になりつつある。本稿では,尖圭コンジローマの診断と治療のコツを詳説し,またHPVワクチンを取り巻く現状と問題点にも触れたい。

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性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)の性器感染によって発症する,代表的なウイルス性性感染症の1つである。感染症発症動向調査では,近年横ばい傾向であった定点報告数は2010年以降男女とも増加傾向にある。臨床像は,大陰唇,小陰唇から腟前庭部,会陰部にかけて浅い潰瘍や小水疱が多発する。一般に,初発例に比べ再発例は軽症なことが多い。典型的な症例は臨床診断可能だが,外来ではイムノクロマト法を用いた迅速抗原診断法が可能である。治療は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与が基本である。再発を繰り返す例では抑制療法が選択されるが,最近前駆症状時に内服を開始するpatient initiated therapy(PIT)が保険適用となった。

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外陰腟炎は,産婦人科外来診療において日常的にしばしば経験される。特に腟トリコモナス症と外陰腟カンジダ症は,帯下異常と外陰搔痒感を主訴とする女性性器感染症の代表疾患といえる。腟トリコモナス症は,近年わが国では減少傾向にあるものの,感染者の年齢層は幅広く,再発を繰り返す難治例も少なくない。また外陰腟カンジダ症は,75%の女性が生涯で少なくとも1回は罹患するといわれている。性交感染以外での罹患が多いものの,再発を繰り返す場合は,パートナーの検査・治療が必要となることがある。

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子宮頸がんは予防が可能な数少ないがんの1つである。WHOは21世紀内の子宮頸がんの排除を目指し,15歳までの女子におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種率90%,35歳,45歳時の子宮頸がん検診受診率75%,子宮頸部病変症例の治療率90%を目標に掲げている。一方,わが国では若年女性で子宮頸がんが増加しており,HPVワクチンと子宮頸がん検診の普及が強く望まれる。中高生に対しては,まずは子宮頸がんの身近さや重篤さの理解を促し,そのうえでワクチンと検診による予防の重要性を伝えていくことが大切と考えられる。

4.避妊方法 岡野 浩哉
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リプロダクティブ・ヘルスにおいて避妊は重要な位置を占めている。世界には多くの避妊方法が存在するが,誰もがそれらを自由に自分の意思で利用することができていない現状がある。わが国でもその状況は同様であり,意図しない妊娠,望まない妊娠を防げていない。日本における避妊方法選択の実際と特殊性を認識したうえで,各種ある避妊方法の特徴と有効性を理解し専門性の高いヘルスケア・プロバイダーとして,正確な情報と個々人にあった避妊方法を提供する責務が産婦人科医にはある。

5.緊急避妊法 北村 邦夫
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「知らないのは愚か,知らせないのは罪」とまでよばれている緊急避妊法。避妊しなかった,避妊に失敗した,レイプ被害に遭ったなどに際して,わが国では,72時間以内に服用する緊急避妊薬と120時間以内に銅付加子宮内避妊具を挿入する方法がとられている。特に,レイプ被害に対しては,犯罪被害者に対する医療支援事業の一環として,緊急避妊法と性感染症検査に公費負担制度があることを「知らない」国民が少なくない。最後の避妊手段である緊急避妊法を「知らない」まま,人工妊娠中絶を余儀なくされることなどあってはならない。産婦人科医が担当する性の健康教育のなかで,必ず「知らせてほしい」話題の1つであることはいうまでもない。

6.性暴力 種部 恭子
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女性の13人に1人は無理やり性交された経験をもつ。強制性交・強制わいせつのみならず,関係性を悪用した性虐待やセクシュアルハラスメント,パートナーからの暴力など,顔見知りからの被害のほうが圧倒的に多いことから,特に若年層においては被害申告がされにくい。

性暴力の被害を受けると,妊娠や性感染症などの身体的苦痛はもちろん,適切なケアがなされなければ心的外傷後ストレス障害(PTSD)に至るリスクが高い。性暴力被害ワンストップ支援センターが全都道府県に配置され,相談の敷居が下がったものの,加害者の処罰を望む場合,捜査や裁判を経て有罪を勝ち取るのは容易な道ではない。

政府は性暴力の根絶に向けて対策を強化し,予防教育にも力を入れる方針としている。

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健康教育や性教育の実施にあたり,配慮が求められるようになっている性的指向と性自認の多様性やLGBTs(エルジービーティーズ)とは何か,まずは「知る」ことが必要である。そしてLGBTsの学齢期におけるいじめ被害などの現状を一定程度把握したうえで,授業等に臨むことが求められる。本稿ではLGBTsに関する初歩的な知識および国や自治体の施策の状況,当事者を対象にした国内最大規模のインターネット疫学調査の結果を通じて,思春期保健に求められる情報を報告する。

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DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)についての医学的知識はこの20年で飛躍的に進歩し,また当事者・家族の人々の実情も明らかになってきています。そこでは,「半陰陽(男でも女でもない)」という社会的イメージこそが偏見であることも明らかになっています。しかし現在の性教育やLGBTQ等,性的マイノリティの人々についての教育では,DSDsに対しては旧態的な「男でも女でもない」という偏見・誤解をもとに伝えられることがほとんどで,現実に不登校や自殺未遂に至った当事者もいます。本稿では,DSDsに関する現在の新たなフレームワーク,当事者・家族の実情,LGBTQ等,性的マイノリティの人々との関係などを概説し,性教育でのポイントについても解説します。

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菅義偉総理は少子化対策の一環として,新内閣の政策の目玉に「不妊治療の公的助成拡大・保険適用」を掲げた。現状では,特定不妊治療助成制度により1回の体外受精治療あたり最大15万円(初回のみ30万円)の助成がなされるが,年齢制限や所得制限の問題があった。2020年度の補正予算により2021年1月から公的助成の拡大が実施されることになり,助成金は30万円に増額され,所得制限も撤廃される。回数制限は残るが,第2子以降の場合はリセットされることも決定した。2022年度には保険適用が開始され,保険外診療の併用も検討されている。

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婦人科悪性腫瘍は後腹膜リンパ節郭清を含む術式が実施されることが多い。術後合併症としてリンパ漏による腹水貯留を経験することがあるが,多くの症例は保存的治療にて軽快する。しかし,難治性リンパ漏による腹水貯留があり,腹水穿刺が頻回となると患者のQOL低下の原因となる。今回,われわれは術後難治性リンパ漏に対してリンパ管造影を行い,リンパ漏の改善を認めた5例を経験したので報告する。保存的治療で改善しない難治性リンパ漏に対して,リンパ管造影は有効な治療法の1つとなりうる。

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羊水塞栓症は,羊水および胎児成分が母体血中へ流入することによって引き起こされる,突然の呼吸不全および凝固異常を特徴とする妊産婦死亡の主要疾患の1つである。破水後や分娩前後の呼吸障害や循環不全を特徴とする心肺虚脱型と,非凝固性出血により産科危機的出血に至ることを特徴とする子宮型が知られている。近年,子宮型羊水塞栓症はフィブリノゲン製剤の使用などにより救命率が上昇している一方で,心肺虚脱型は治療に難渋する症例が少なくない。今回われわれは,帝王切開中に突然心肺停止となり,麻酔科管理のもと,羊水塞栓症を疑い蘇生処置するも治療に反応せず救命できなかった心肺虚脱型羊水塞栓症を経験したので報告する。

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精漿アレルギー(SPH)を呈する患者は,アレルギー素因を伴うことが多く,使用薬剤を個別化する必要がある。多剤薬剤アレルギー既往を認めるSPHの患者に対し,黄体ホルモンを用いた卵巣刺激法(PPOS)を選択し,アレルギー症状を認めることなく採卵に至った1例を経験したので報告する。

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産婦人科の実際
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電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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