胃と腸 13巻1号 (1978年1月)

今月の主題 胃癌の発育経過

はじめに 芦沢 真六
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 胃癌の発育経過については『胃と腸』の第5巻1号,第8巻5号でも取り上げられ,またそれに関連してのテーマも,本誌その他や学会などでしばしば発表されている.そして良性の潰瘍やポリープからの癌化はかつて考えられていたほどには多くないこと,あるタイプの癌はその経過の過程でいわゆる悪性サイクルを示すこと,Ⅰ型早期癌の前段階としてⅡb様病変からⅡaを経てのコースが考えられること,Borrmann 2型の進行癌の前段階としてはⅡb様病変からUl(-)Ⅱcの時期のあること,スキルスは見かけは極めて短期間に進展したような像を示すことなどの印象が一般のものとなりつつある.

 そもそも胃癌と診断されたからには,出来得れば切除することが現状では唯一の根治療法であり,特殊の場合を除きその経過を見ることは許されない.まして良性の潰瘍やポリープで行われているごとく(常に細心の注意が必要なのだが)癌の発生になるべく近い時点からきめ細かく長期に亘り発育の経過を追うことなどは不可能である.すなわち,かつては別々の症例の病理学的検索の結果を総合し,胃癌の発育の推定が行われていた所以でもあり,いわば点をなんとか線にしようとする努力が行われていたともいえよう.

主題症例 A.胃癌の発育経過(形態の変化を中心として) 1)隆起型胃癌の発育経過

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 患 者:谷○忠○ 59歳 男

 新鮮切除胃(Fig.1)の肉眼所見では,前庭部小彎に3.3×1.2×2.0cmの二峰性の隆起性病変を認める.組織標本のルーペ像(Fig.2)では腫瘤全体が癌腫で,周囲粘膜とは化生性胃炎で鮮明に境界されている.粘膜筋板の立ち上りは「箱型」よりも「噴水型」に近い.癌組織型は乳頭状腺癌,深達度mでリンパ節転移なし.

 Fig.3の術前胃カメラ像では,前庭部小彎に切除胃そのままの所見が見られる.Ⅰ型早期胃癌である.Fig.4(術前6カ月の胃カメラ)では,病巣は表面平滑でいびつな形のⅡa様隆起で,手術時の所見とは異なっている.この時点で強く癌の疑いを持ち,一般洗浄細胞診を連続3回施行するも陰性であった.Fig.5は術前2年9カ月の集検胃カメラ像で,後になって腫瘤形成を見る拡がりにほぼ一致して限局性のハレーションが見られ,軽度の凹凸不整像が認められる.本例は,組織所見で隆起部にATPやhyperplastic polypを認めず隆起全体が癌であったこと,および短期間に著明な形態の変化が見られ全経過が3年にも満たぬことから,初回検査時既に,腫瘤の大きさに相当する類似Ⅱbの粘膜内癌があったものと思われる.

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 粘膜下腫瘍として経過観察中,2年後に表面に潰瘍を生じ,潰瘍底からの生検で初めて癌の診断が得られたunclassifiedの肉眼型を示す進行癌の例である.

 患 者:大○敏○ 62歳 男

 1973年12月,職場検診で胃角変形を指摘され,生検で癌の疑いと診断された.しかしその後,再三の生検にも拘らず,癌が証明されないため,経過観察されていたが,術前7カ月頃から隆起が急に目立つようになり,術前2ヵ月には隆起の表面に潰瘍を生じてきた.この潰瘍底からの生検で未分化癌が証明されたため,1976年11月手術を施行した.

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 本症例はすでに冨岡らと共に本誌8巻5号に報告した症例である1).したがって,本稿では資料の一部のみを呈示し,問題点を述べる.

 患 者:宮○三○ 60歳 男

 症例はTable 1の如き検査歴を有した.

 客観資料の呈示:Fig.1~12参照

 この症例の経過は以下の如くまとめられる.

 1)胃角部後壁に最大径約10mmの2コの隆起性病変が認められた.

 2)2コの病変のうちの1コ(病変1:Fig.1の太矢印)は,経過を追って徐々に増大し初回検査より,4年3ヵ月後にはBorrmann 1型癌となった.他の1コ(病変2:Fig.1の細矢印)は経過中,その大きさはほとんど不変で切除胃の検索にてもgroup Ⅲの病理像を示した.

 3)術前3年,術前2年3カ月の時点で病変1より採取された生検標本では,通常みられるgroup Ⅲの異型上皮巣とは異なった異型細胞群より構成されていた.

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 患 者:74歳 男 会社員

 1965年より労作性狭心発作があり,精査のため1968年10月来診し,冠不全と診断された.その際行った胃X線検査で幽門前庭部前壁に有茎性ポリープを発見され,X線写真上では大きさは約20mmで表面は顆粒状で可動性に富んでいた.引き続いて行った胃内視鏡検査ではFig.1のごとく,頭頂部に白苔と小出血がみられた.また,生検は頭頂部より2コ,基部より2コ行い,Fig.2のごとく,腺窩上皮の過形成と間質の細胞浸潤がみられ,再生性ポリープと診断され,癌は認められなかった.1969年10月の内視鏡像はFig.3のごとく,頭頂部は白苔におおわれ大きさと形には変化がなく,この時の生検では頭部より4コ,茎部より1コ行い,前回と同様の組織像で悪性像は認められなかった.さらに洗滌細胞診はClass Ⅰであった.1970,1971年は高血圧と狭心発作のため内視鏡検査は行わず,1972年4月に行った内視鏡検査では胃ポリープは発赤を伴っていた他には著変がなかった.1974年8月の内視鏡検査では形態学にはFig.4のごとく著変がなかったが,頭頂部よりの生検は4コとも乳頭状腺管腺癌であった(Fig.5).高齢,高血圧症および心疾患のため,入院して内視鏡的高周波胃ポリペクトミーを1974年9月に行った.その6年間,胃X線検査6回,胃内視鏡検査4回,胃生検2回(すべて陰性),洗滌細胞診(Class Ⅰ)1回が行われた.

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 前庭部大彎の有茎性ポリープが5年4カ月の経過中に,茎が次第に短縮して広基性となり,ついに頭部の大半が崩壊して広基型のⅠ型早期癌に変化した例である.これは組織所見から,さらにBorrmann 2型への進展が想定された.

 患 者:福○英○郎 70歳 男

 1971年6月,特に自覚症状なく胃X線検査を受け,前庭部に有茎性ポリープを指摘された.経過観察中にみられた形態の著しい変化から,悪性を強く疑いながら1973年8月と1974年8月の生検でいずれもnegativeと診断された.1976年8月の胃X線検査では,有茎性のポリープは,すっかり広基性に変化しており,生検で初めて腺癌が証明されたため手術を施行した.

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 切除可能と診断した胃癌の治療は外科的治療が原則であり,切除不能例を除いてその進展を観察することは許されない.しかし,合併症や手術拒否などのために外科的治療を行いえず経過観察を行う症例も稀に存在する.

 ここに報告する症例は高齢であることおよび本人,家族の手術に対する協力が得られず,診断時より2年11カ月の進展をX線および内視鏡的に観察しえた1例である.

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 患 者:片○四○ 55歳 男

 患者は8年前より胃集検にて4回X線検査を受け,常に「異常なし」の判定であった.Fig.1のX線像は術前2年のもの.ところが術前3カ月の胃集検(5回目)の際に,Fig.2のごとく胃角に透亮像を認めた.1カ月後(術前2カ月)の胃ファイバースコープ検査にて胃角に亜有茎,そら豆状の小さなⅡa様隆起を認め(Fig.3),生検により中分化型腺癌と診断した.

 1カ月後(術前1カ月)の胃カメラ検査では,(Fig.4),Ⅱaは脱落し小潰瘍とおき換わっていた.またその周囲には広範な類似Ⅱb病変を認めた.

主題症例 A.胃癌の発育経過(形態の変化を中心として) 2)陥凹型胃癌の発育経過

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 患 者:大○次○ 65歳 男

 吐血を主訴として来院,内視鏡検査で胃体下部後壁寄りの潰瘍よりの出血と診断された.この際,幽門前庭部大彎側に軽い発赤を伴う小結節状凹凸を呈する病変の存在には気づかなかった(Fig.1).10カ月後に潰瘍は内視鏡的に治癒が観察された.このときにもやはり前記病変は見逃された.初回から2年後に上腹部鈍痛のため来院し,内視鏡検査の結果潰瘍の再発が証明されたが,このとき初めて前庭部の病変に気づいた.すなわち隆起性病変は著しく増大して,ドーナツ状を呈し,表面の凹凸が明瞭となっている.わずかに発赤を示し,一部浅い陥凹を呈する.ヒダの集中はない.容易にⅡa+Ⅱcと診断できる.手術をすすめたが,本人の同意が得られず,さらに9カ月経過することになった,そして初回から2年9カ月後にようやく手術されることになった.その直前の写真がFig.3である.隆起は一層その高さと大きさを増し,同時に内部の陥凹も深くなり,淡い付着もみられる.ヒダの集中はないが,やや伸展性の制限をうかがわせる像である.切除胃写真(Fig.4)にみるように病変は粘膜ヒダの集中を伴わないⅡa+Ⅱcである.病巣のほぼ真中を通る切片のルーペ像がFig.5aであるが,マークした癌浸潤範囲のうち,左約1/2は中分化型腺管腺癌であり,一部で粘膜筋板を間隙性に粘膜下層への侵入がみられる.軽い線維化を伴っている(Fig.5b).右約1/2は低分化型腺癌の像を示し,ほぼ全面で粘膜筋板を圧排性に破壊して粘膜下層に浸潤を始めている(Fig.5c).潰瘍形成は証明されない.

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 患 者:○田○次○ 77歳 男

 主 訴:心窩部膨満感

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:45歳時,高血圧症

 現病歴:1972年春,某院にて胃腸透視および内視鏡検査を受け,前庭部前壁の胃ポリープと診断されたが放置していたところ,1974年12月頃から心窩部膨満感を認めるようになり,翌年3月精査の目的で入院す.

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 患 者:横○登○子 45歳 女

 Table 1に示されるように,この9年5カ月の間にX線10回,内視鏡13回,生検または細胞診を9回と,丹念に検査して追跡した.1972年(術前1年)の胃X線では「ポリープ不変」と報告されており,隆起の脱落は最後の1年間に起こったことになる.

 Fig.1(新鮮切除胃標本)で病変部は臼状の肉眼所見を有する.陥凹の大きさは1.4×1.3cm.・レーペ像(Fig.2)では,癌巣は粘膜筋板を越えてmassiveに粘膜下層に浸潤している.狭義のⅡa+Ⅱc(著者の臼型)早期胃癌の初期像である.組織型は高分化型腺癌で深達度sm,リンパ節転移なし.切除胃そのままの所見をFig.3(手術直前胃カメラ像)にも認める.

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 初回の内視鏡像では粘膜不整と軽い発赤の所見であったものが,4年4カ月の経過中にⅡc型,さらにⅡa+Ⅱc型早期癌を経て,Borrmann 2型の進行癌に発育進展したと思われる例である.

 患 者:加○文○郎 60歳 男

 1969年6月,全身倦怠感,眩暈とともに吐血し,X線および内視鏡検査で,胃体部後壁に潰瘍を指摘された.1年後の内視鏡検査で前庭部にⅡc様病変を認め,生検を行ったがnegativeと診断された.以後,体部病変を中心に定期的に経過検査を受けてきたが,1973年11月,胃X線検査で前庭部の以前Ⅱc様病変を認めた部位にBorrmann 2型病変が発見され,生検でも腺癌が証明されたため胃切除術を施行した.

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 患 者:49歳 女 主婦

 1965年10月,激しい上腹痛のため受診し,胃X線検査及び胃カメラ(PⅡ型)検査の結果胃潰瘍と診断されて入院した.その際の胃カメラ像はFig.1の如く,胃体下部小彎と前壁の境界に1cm弱の胃潰瘍(H1)があり,底部は白苔におおわれ,辺縁はやや不整だが周辺隆起は軽度で凹凸不整も著しくなく,前壁から2本のひだの著明な集中がみられるが蚕蝕像ははっきりしない.型通りの食餌,安静と薬物療法でとう痛は消失し,37日後の胃カメラ像はFig.2の如く,いわゆるalmost healed ulcer(H3)で中心にごくわずかのびらん状白苔があり,ひだの集中はあるが蚕蝕像は認められない.初めより約3ヵ月後はFig.3の如く,中心の発赤とわずかの凹凸不整,その辺縁の褪色,ひだの集中と蚕蝕像?を認める.患者は神経質のため,X線とpⅡ型胃カメラ検査には応じたが,生検は拒否した.

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 患 者:浜○ 広 67歳 男

 本例は漿膜に達した進行癌であったが,最終的に胃癌として切除されるまで胃潰瘍として3年5カ月間経過を観察され,この間22回のX線検査と12回の内視鏡検査を受けている.この間の検査回数およびその時点での潰瘍の状態をTable 1に示したが,本稿では頻回の検査材料の中で,矢印で示した時点の内視鏡写真と手術標本肉眼写真,病理組織所見を呈示し,若干の考察を加えた.

 癌巣内消化性潰瘍の経過 Fig.1は1963年5月9日(術前3年5カ月前)の内視鏡像である.胃角にやせと陥凹部を認める.陥凹部には,面積を有した発赤とまだら模様をみる.潰瘍はほぼ瘢痕の状態にある.この状態は,時に病巣部にpin pointの白苔の出没をみながら,1963年12月までの5回の内視鏡写真上,ほとんど変化しなかった.

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 患 者:高○ 弘 49歳 男

 Fig.1(新鮮切除胃標本)はⅡc集中(+)型早期癌の典型像で,癌巣模式図(Fig.2)の灰色がm,黒がsmへの浸潤を示す.癌組織型は印環細胞癌で,一部pmに深達している.リンパ節転移(-).Fig.3(予術直前胃カメラ像)では胃角中央に深い陥凹とひだの断裂を伴うⅡc病変を認める.術前1カ月(Fig.4)には浅いⅡcの陥凹と小さなⅢが見られる.術前1年2カ月(Fig.5)にはⅡcの陥凹はほとんど見られないが色調の変化が鮮明,角中央やや前壁寄りに小白苔が見られる.この時点で深達度mと推定する.

 術前1年10カ月(Fig.6)には,胃角の大きな活動期潰瘍が見られる.2年1カ月前(Fig.7)の所見で,弧の変形は明らかであってもⅡcの境界を読みとるのは困難である.

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 胃X線,内視鏡診断学の進歩は,潰瘍性変化の鑑別診断を確実なものにし,消化性潰瘍の多くは内科的に治療され,瘢痕治癒後も長期間にわたって経過観察が行われるようになった.これら長期観察例において時に癌病巣の併存を発見することがあるが内視鏡的に癌病巣のRetrospective studyを行う場合,撮影条件など十分な資料が得られないことも多い.

 今回,胃角部の潰瘍の経過観察中に発見したⅡc型早期癌の1例は当初の潰瘍部に近接した部位の病変であったことが幸いして,術前2年8カ月間の内視鏡的推移をほぼ満足すべき条件で観察し得たので報告する.

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 患 者:阿○信○ 78歳 男

 最終内視鏡像(Fig.1)は,粘膜内または粘膜下に浸潤したと思われる前庭部小彎のⅢ+Ⅱc型早期癌と診断し,同時に施行した生検所見(Fig.2)では,粘膜固有層の表層近く,表面上皮直下に不規則な微小腺腔形成を伴う低分化な腺癌の像を示している.

 最終内視鏡像から1年7カ月前のX線像(Fig.3)では,明らかな潰瘍は認められず,Ⅱc+(Ⅲ)型早期癌と思われる像である.

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 患 者:K. E. 61歳 女

 主 訴:心窩部膨満感,げっぷ,嘔吐

 現病歴:1973年3月,上記の主訴により小牧市民病院に入院.初回検査(1973.3.8)にて,胃体下部小彎寄り後壁にニッシェが認められた(Fig.1).2カ月半後(1973.5.31)には,この潰瘍は粘膜ひだの集中を残して治癒した.しかし,その小彎肛側寄りに,粘膜像の乱れが認められた(Fig.2).3年後(1976.5.18)初回の潰瘍瘢痕のほか,先に粘膜像の乱れが認められた部位に,粘膜ひだの集中と中断が見られ,中心部には変色があって,粗ぞうな粘膜像を呈していた(Fig.3,4).したがってⅡcと診断し,その部位からの生検でも癌陽性と判定された.しかし患者は手術を承諾せず,それ以後来院しなくなった.

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 患 者:○久○貞 77歳 女

 主 訴:全身倦怠感および食欲不振

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:40年来,脊椎カリエス

 現病歴:1973年10月,胃体部潰瘍のため某院に入院したが,その際内視鏡検査で前庭部小彎のビランを指摘されている.潰瘍治癒後通院し,順調に暮していたが,1975年1月頃から全身倦怠感および食欲不振を認めるようになり,精査の目的で入院す.

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 患 者:笹○広○ 43歳 男

 Fig.1は切除胃肉眼所見(1971年5月20日手術)で胃角小彎の大きさ45×43mmのB-2型癌である.病理組織所見はwell diff tub ad ca seである.

 内視鏡所見経過:Fig.2の手術3カ月前の最終内視鏡所見では胃角小彎に周堤形成著明なBorrmann 2型癌がみられる.次の8カ月前の像でも所見はややおとなしいがやはりBorrmann 2型と診断出来る.

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 患 者:○原○め○ 45歳 女

 手術前5年4カ月の胃集検でチェックされ,胃カメラ検査を行った(Fig.1).胃角小彎に明らかなⅡcを思わせる所見があり,細胞診,生検などの精査をすすめたが受診せず,そのまま経過をみてしまった症例である.この時期のフィルムreviewでは,幽門部の硬化像は認められず,smまたは一部pmまでのⅡcと考えられる.

 初回から2年後(術前3年4カ月)の胃集検で再びチェックされ胃カメラ検査(Fig.2)を受けた.この時点では潰瘍や隆起の形成はみられないがⅡcを考えて,細胞診を行ったが陰性であった.reviewでは粘膜下を主にした拡がりを思わせる.

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 患 者:本○浅○ 65歳 男

 本例は悪性の疑診をおかれながら胃潰瘍として加療され,1年6カ月後,典型的なlinitis plastica型癌巣と進展し切除された症例である.その検査回数,潰瘍の状態などをTable 1に示した.

 客観資料の呈示:初診時1971年5月(術前1年6カ月)のX線所見(Fig.1,2):噴門直下後壁に大きなニッシェを認める.充盈像における潰瘍周辺の状態は,Schwellungshofとやや異なり,むしろSchattendefektの様相を示している.二重造影像ではバリウムの付着が悪いが,大彎側に肥厚蛇行する皺襞をみる.

主題症例 B.胃癌の発育経過(時間的要素を中心として) 1)長期間著しい変化を示さなかった症例

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 患 者:永○ は○ 初診時75歳 女

 主 訴:胃部不快感

 初回内視鏡所見:Fig.1aの如く,胃体下部から前庭部に,山田ⅠないしⅡ型の隆起性病変が約7コ多発しており,周囲粘膜は萎縮性で,胃小区は粗大である.これら隆起性病変のうち,幽門前庭部大彎にある最大のもの(約2.5×1.5cmと推定)は,亜有茎で表面像が他と異なっている.長形の隆起は,くびれによって大小2つに分けられ,口側の部分はむしろ蒼白,幽門側の部分は軽い発赤を示し,それぞれの表面は結節状の凹凸を呈している.びらん性変化などは認められない(Fig.1b).

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 患 者:○藤○信○ 73歳 男

 手術4年前の胃集検でチェック,胃カメラ検査を受け,当時の診断は異常なしであった.しかし,フィルムのreviewをしてみると,幽門前庭部の胃カメラ像(Fig.1)では,レンズののっかりのため不明な写真であるがわずかに凹凸不整の粘膜表面が読みとれ,さらに,同じ胃カメラフィルムの反転像(Fig.2)では,明らかに幽門前庭部後壁大彎よりに,表面がわずかに陥凹部をもつ背の低い隆起性病変(Ⅱa+Ⅱc)が読むことができる.写真不良が原因ではあるが,見落とし例である.

 それから4年後,再び胃集検にてチェックされて受けた術前の胃ファイバースコープの像(Fig.3,4)では,4年前の所見と同じように,表面の性状も大きさもほとんど変わらない状態の隆起性病変(Ⅱa+Ⅱc)の所見がみられた.

主題症例 B.胃癌の発育経過(時間的要素を中心として) 2)短期間に著しい変化を示した症例(但しLinitis plastica型胃癌は除く)

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 患 者:王○ス○ 72歳 女

 1970年6月(術前3年5ヵ月),内視鏡検査のため来院.前庭部大彎側に発赤を伴ったわずかな隆起を認めた(Fig.1).

 初診より3カ月後(術前3年2カ月),経過追求のため再び内視鏡検査を施行した.前回の病変は,明らかな発赤を伴った亜有茎性の球状隆起へと発育していた(Fig.2).その後患者はしばらく来院しなかったが,経過追求の葉書に応じて1972年8月(術前1年2カ月,初診より2年2カ月)来院,内視鏡検査を施行した.この時,球状隆起はさらに増大していた(Fig.3).

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 患 者:○山○治 66歳 男

 手術前1年3カ月の胃集検で胃前庭部の異常をチェックされ,胃カメラ検査を受けたが当時の内視鏡診断は,胃角の変化から胃潰瘍瘢痕とされ経過観察の群にいれられた.当時のフィルム(Fig.1)をreviewしてみると,少しボケがあって情報としては不十分であるが,胃角の太まりから瘢痕像と読みとれ,さらに,胃前庭部入口部小彎にも点状の小発赤がみられ,びらんの存在を読みとることができる.

 初回より6カ月後の胃カメラ像(Fig.2,3)では,胃前庭部小彎の発赤が明らかとなり,この所見を潰瘍瘢痕としてまた経過をみることになった.しかし,reviewしてみると,発赤のすぐ前壁より小彎に小隆起が認められる.

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 患 者:金○正○ 42歳 女

 切除胃肉眼所見(Fig.1)は,胃体中部小彎後壁寄りに25×20×7mmのⅠ型早期癌が認められる.

 病理組織学的所見(Fig.2,3)の弱拡大像では,ポリポイドに増殖する癌が隆起の主体を占め,中等度の粘膜下層への浸潤を伴い,その周囲にリンパ組織の増生も認められる.さらに,その強拡大像では,小腺腔形成を伴う低分化腺癌である.

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 患 者:藤○信○郎 75歳 男

 この症例は生検で癌陽性であったため手術をすすめたが,高齢および自覚症状がないため本人が手術を拒否し止むを得ず経過をみていたところ,頑固な腹痛が出現してきたため生検後1年10カ月に手術施行したが,すでに周辺臓器への連続性浸潤が著明で姑息的手術に終った例である.

 病理組織所見:poorly diff. tub. ad. ca.

 内視鏡所見経過:Fig.1のように胃角小彎やや前壁よりに大きなBorrmann 3型癌がみられる.潰瘍底は凹凸不整で汚ない苔の付着が著明である.

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 患 者:阿○三○ 60歳 男性(観察期間2年)

 客観資料の呈示:Fig.1~6参照

 本症例の経過と問題点:術前2年前の時点で内視鏡的にはあとにⅡa+Ⅱc型早期癌が出現する場所が十分撮影されていると考えられるのに異常所見を指摘できない.しかし,この内視鏡写真では後に出現する病変部が斜方向からの撮影になっていること,この時期のX線写真にみられる淡いバリウム斑とその周辺の透亮所見よりみて,すでに術前2年前より平坦なⅡcまたはⅡa+Ⅱcが存在したと解釈するのが妥当であろう.

 いずれにしても,わずかな所見から2年間で大きなⅡa+Ⅱc型胃癌へと進展した症例である.

主題症例 B.胃癌の発育経過胃癌の発育経過(時間的要素を中心として) 1)長期間著しい変化を示さなかった症例

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 患 者:三○フ○エ 71歳 女(観察期間11年1力月)

 1964年5月,心窩部痛,吐血のため某院にて3カ月入院加療を受けている.

 Fig.1.2は1964年7月(術前11年1カ月)の内視鏡写真であるが,胃角後壁のⅡc型早期癌と診断されよう.さらにFig.2の所見は,Ⅱc周辺,殊に胃角ほぼ中央,胃角後壁,さらに前庭部にかけて,Ⅱa集簇型の軽い隆起を伴っていることを示唆している.

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 芦沢 本日のテーマである胃癌の発育経過は,今年(1977年)春の消化器内視鏡学会総会で取り上げられたものです.その際,できるだけ皆さんに納得のいくような症例を集めることが先決であるということで,発表者の方々と数回にわたって,各症例についてそれこそ深夜に及ぶまでのリハーサルを行いました.そして少なくとも病像の解釈については大多数の方の同意の得られたもの,それを集めて学会に提示したわけです.

 そしていろいろディスカッションをしておりますうちに,発展形式などについても皆さんの違った考え方がでてまいりました.それではそういうことは学会でやろうではないかということにしていたわけですが,学会ではそれだけの時間が持てませんでした.

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 本集計は第19回日本消化器内視鏡学会総会パネルディスカッション「胃癌の発育経過」の発表に際し各パネリストから提供され,慎重に論議され,その内視鏡所見についてほぼ合意に達した症例についてまとめたものである.

 Fig.1はこれら多くの症例をもとに形態の変化からみた胃癌の発育経過を模式化したシェーマである.この方面の研究者の従来の報告にみる如く想像されてはいたものの実際の症例として経験されなかったコースも実証されたと考える.太線で表現された経過は比較的多くみられたコースを示している.

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 「胃癌はそれが発生してから一般的に発見される大きさになるまで,どれ位の時間を経過しているのであろうか?」という問題があります.この問題に関して,結果的に逆追跡が可能であった症例については個々に知られていますが,胃癌の大きさと時間の関係はまだあまり一般化されていません.一方,「胃癌は時間の経過とともに大きくなって行く」という,われわれが常日頃経験している事実があります.つまり,癌の大きさ(S)と経過時間(t)とは比例関係にあるということです(S∝t).ここで,このことを前提として,胃癌の大きさと時間の関係の一般化を試みてみます.

 1.胃癌の成長曲線を求める試み

 一般化を試みるにあたって,まず第一に問題となることは,癌の大きさと時間との間にどのような関数を採用すべきかということです.癌の大きさと時間の関係を,癌細胞分裂という細胞水準から出発して考えますと,その関係は指数関数ということになります(2n-1).確かに,癌が大きくなるのは癌細胞分裂に原因するものです.しかしながら,人癌発生が細胞1コからはじまるのか,あるいは数コの細胞からはじまるのかは,未解決の問題です.また,癌が大きくなって行く過程には癌細胞の壊死,そして癌塊のびらん化,潰瘍化による癌の部分的脱落もあります.さらには,われわれは日常,癌の大きさを肉眼水準での面積あるいは体積で表現しています.したがって,癌の大きさと時間の関係を求める場合には,思考の出発点を細胞分裂という細胞水準におく指数関数を考慮する必要もないと思われます.思考の出発点を,肉眼水準での癌の大きさに置くのがより実際的であると思います.こうすれば,「正確とは,いたずらに尺度を細かくすることではなく目的とするものに基準をそろえることである」ということをも満足することになります.

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 胃集団検診は今や全国的に普及し,方法論的には間接X線撮影法,被爆線量,能率面あるいは読影法など多岐にわたる検討がなされ,ほぼ確立された感さえある.そして,発見胃癌中に占める早期癌頻度の増加あるいは外来発見胃癌に比してその予後がすぐれている点など胃癌発見のみならず治療面からも胃集検の有用性は多くの報告者により立証されている.

 しかし,多くの健康で無愁訴な集団を対象として,間接X線フィルムに描出される所見のみを唯一の情報としてスクリーニングを行う胃集検には,従来から見逃し例,見落し例あるいは誤診例などとして報告されているように偽陽性例,偽陰性例の存在することは十分予測されるところであり,X線技師を中心にパラメディカル従事者は最良の撮影像を得るべく努め,読影者はより正確な読影を心がけ,スクリーニング能向上に努力している現状であろう.

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 胃粘膜腸上皮化生は,胃,十二指腸の各種疾患との関連において,とりわけ分化型腺癌発生の背景的因子としての可能性に関し興味がもたれており,また,実験動物胃癌の随伴病変として観察1)2)されるなど,胃癌との相互関係は重要視されている.しかし,両者の関係を論ずるには,胃癌はもちろん,とくに腸上皮化生の実態を十分に把握することが前提条件でなければならない.1883年,Kupfferが化生の存在を最初に報告3)して以来,今日まで腸上皮化生の実態の把握は,なお十分とは思えない.その原因の1つとして,化生の複雑な分布や酵素パターンが考えられるが,このような腸上皮化生について十分に理解するためには,従来のように病理形態学的研究方法だけにたよるのでは,一定の限界があるのは当然といえよう.そのために最近では,腸上皮化生の分布状態やその程度を正確に観察するために,酵素組織化学的研究方法が導入されてきた4)~7).化生の指標酵素の組織化学的呈色反応を利用して,化生の存在を肉眼的に観察する方法である.最近,著者はLeucine aminopeptidase(aminopeptidase(cytosol),EC3.4.11.1.)を指標としたいわゆるLAP染色法8)およびAlkaline phosphatase(EC3.1.3.1.)を指標とするALP染色法との重染色法を考案し報告した9)10).この新しいアプローチによって観察した胃粘膜腸上皮化生(以下化生と略)の特徴と癌病巣との相互関係を検討したので,若干の考察を加えて報告する.

追悼

弔辞 村上 忠重
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 早期胃癌研究会が胃と腸の研究の推進において世界の学界をリードする瞠目に値する業績を誇りえたのは,その大きな原因の一つに中央・地方を問わず研究者層の厚みがあったことを信じて疑いません.

 田中弘道博士は進取の眼識を以て学問の最新知識を積極的に摂取すると共に地域の医療の向上のために挺身され,啓蒙的指導的役割を果たされ研究者層の厚みを増すことに瘁捧されました,レントゲン診断と内視鏡診断の併用による診断技術の向上発展に大きな足跡を印し,熱心に後進を誘掖されました.その辛苦の御業績の一端は「図説 胃陥凹性病変の診断」の著書,及び「消化管内視鏡診断学大系」の第8巻「胃の良性腫瘍・その他の胃疾患」の編著として見事に結実致しております.また川井啓市博士と共著の英文版著書「Differential Diagnosis of Gastric Diseases」はこれを基にスペイン語版も併せ出版されて,日本の卓越した研究水準を海外にも啓蒙紹介する成果となりました.

田中弘道先生を悼む 芦沢 真六
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 11月3日早朝,鳥取の福本四郎先生からの電話は,その日未明田中弘道先生が亡くなられたことを知らせるものであった.

 夏過ぎ再入院されたと聞いた時には,昨年あれ程の大病を克服されたのだから何か一寸したことでも大事をとっての事だろう.きっとまた奈良の学会ではいつも乍らの楽しい語らいが出来るだろう位に考えていた.然しその後再手術の結果や初回の手術時の状況などが人伝てに伝わってくるにつれ,彼がもう逃れられない運命にだんだんと追い込まれているように思え,伝聞が間違いであってくれ,彼の事だからもう一度昨年の時の様に頑張り抜いてくれと遠くからただ祈るのみであった.

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 先生とは本当に,いろいろと一緒に仕事をして来ましたね.消化器疾患の診断学に携わるにあたって,X線も内視鏡もともにある程度やっておかなければならない地方に育ったもの,という共通の基盤からでしょうか.また,たまたま設立された早期胃癌研究会や,「胃と腸」の編集委員会を通して実に交流が多かったと思います.

 その中で一番思い出深いのは,医学書院から出版した「図説 胃疾患の診断」,正確にいえば先生のは「図説 胃陥凹性病変の診断」とそれに続いて出版された2人の合本による「Diffrential Diagnosis of Gastric Diseases」ですが,2人とも初めての出版とあって張り切ったものでした.

お別れのことば 相馬 智
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 弘道さん

 生前親しく呼び馴れた弘道さんと呼ぶことをどうかお許し下さい.

 弘道さん何故こんなに急いで逝くのですか,余りにも早くそして余りにも短かく世を去ってしまうんでしょうか.

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 昭和52年11月3日,われらが田中弘道先生は自らの誕生日を黄泉への旅立ちの日とされ,不帰の人となられました.

 生者必滅,会者定離のことわりとはいえ,50歳とはあまりにも若く,この世の冷酷,無情を唯々悲しみ,茫然自失の思いであります.

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欧文目次

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 私ども筑波大学では第4学年の医学生に昭和52年4月から6力年の医学教育のPhase Ⅳとして臨床入門―症候・診断・治療・予防コースが始まっている.昭和48年の開学前から医学教育を問題指向・問題解決の統一した方向で行なうため,各学問分野個々の積み上げでなくて統合する(integrate)というカリキュラムを貫いて来た.

 いわゆる基礎医学と病態生理をPhaseⅡの細胞生物学とPhaseⅢの人間生物学(個体・集団)というカリキュラムでカバーし,後者では循環,呼吸,消化,神経・感覚など主として機能系に分けた問題(problem)から入り,さらにそのなかで具体的な問題を細胞レベルから器官,系統,個体,人間集団,社会・生態系レベルまでの視点からとり上げてユニットとし,そこに各学問分野が組み合わされて出て来るという構成である.人間個体生物学の最後の問題を発病および生体反応とし,個体全体の問題のintegrationをはかっている.

編集後記 高田 洋
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 最近におけるX線並びに内視鏡診断の進歩は著しく,微細病変の診断能も向上し,さらに生検の普及により微小胃癌の発見症例の報告も次第に数多くなっている.こうした事実は胃癌の診断学の進歩として高く評価されてよい.しかし一方,癌がより早期に診断され切除されるため,癌の発育進展,換言すれば胃癌の一生のうちのある長い期間を同一症例において観察出来る例は特殊な場合を除いては少なくなって来つつあり,今後ますますその傾向は強くなると思われる.したがって現在こそ胃癌の発育進展の問題を,推定の域から脱して正確な資料にうらづけられた実例によって判断し検討するための残された僅かなチャンスと考えられる.

 本号では胃癌の経時的な粘膜変化を幾つかのパターンに分けて症例が提示されたが,しかしこれだけで,異なった個体に発生し種々な進展を示す胃癌の発育経過の全てが解明されたわけではない.さらに間隔を短縮し観察期間を延長すればさらに違ったコースが見られるかも知れない.胃癌の発育経過のうちさらに早期の粘膜像の変化,polypectomyやbiopsyを駆使してのminute cancerの動向,ポリープ・潰瘍・異型上皮巣の癌化の問題,スキルスの発育経過など胃癌の発生並びに発育,さらに癌の生物学的特性や生体例の諸因子など癌の発育に関連した多くの要因の解明も今後に残された問題である.

基本情報

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胃と腸
13巻1号 (1978年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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