胃と腸 12巻12号 (1977年12月)

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 腸結核をX線診断することの現代的意義は2つのことがらに集約されると思われる.ひとつは,治癒しかかっている結核病変,ないしは瘢痕のX線診断を起点とする微細診断へのアプローチが可能になったことである.すなわち,活動性の結核病変(潰瘍)が現在ではきわめて少なくなってきたという事実をわれわれがうまく利用しきったことに,X線診断の進歩をみることができる.もうひとつ,現在腸結核は絶えずクローン病との鑑別診断の立場に立って論じられているという点にも,本症のX線診断に多大の意義をみいださなくてはなるまい.腸結核の瘢痕のX線診断から微細診断へのいとぐちについては,筆者が本症のX線診断の仕事に一応の区切りをつけた1955年にすでに述べたつもりである.また,この仕事が胃のびらんの診断からⅡcの診断へと急速な展開をみせたことは周知のことである.一方,大腸の微細診断は,早期胃癌の診断についての研究が一段落しはじめるころに,「fine network pattern」の概念を提唱した西沢・狩谷・吉川らによってはほぼ完成されたとみてよいであろう.

 結核とクローン病の鑑別はX線的には簡電である.というよりも,われわれは簡単にできると考えている.両者の鑑別がむずかしいというのは,ひとつにはX線診断の方向づけを病理の側が確認できないでいることであり,もうひとつは,輸入された概念であるクローン病が日本の実情に即して理解されていないことによるものである.前者のことに関していえば,X線診断を主体とする形態学的アプローチは曖昧なlaboratory criterionよりもはるかに頼りになるものだと思うのだが,病理組織学的なうらづけに欠けるという理由のために,診断上の主導権を握ることができないでいる.そして,これがまた,病理の側の独善的なMerkmal Diagnoseの是非を正せない理由にもなっている.

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 腸結核は肉眼的にかなり特徴的なので潰瘍の活動性,非活動性を問わず診断は通常容易である.近年日本でもCrohn病の増加が注目され,それとの類似で腸結核があらためて注目されてきている.本号は特集号で,病理・X線なども他の執筆者によって書かれる.本稿では個々の症例の診断のいきさつは省き,腸結核と診断した症例の内視鏡所見のみに限って記載する.

腸結核の診断

 腸に結核性として妥当な病変があることと,結核に罹患している(あるいは罹患したことがある)ことを示す何らかの所見があることの2点が腸結核を診断するうえで必要である.最終的には病巣部に結陳菌を証明すること,あるいは特異的といわれる乾酪性肉芽腫の採取が診断の決めてとなる.しかし本症が手術されるのはごく特殊な場合であり,組織に菌や肉芽腫を証明するのは容易でない.そこで臨床的には前記の2点をもって臨床的に腸結核と診断を下し,抗結核療法を開始する.

腸結核の内視鏡診断 酒井 義浩
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 予防医学の発達,集団検診の普及,抗結核療法の進歩により,結核の疫学上での改善は著しく,往時の肺結核症の猛威は姿をひそめた.当時腸結核は結核症の末期像として理解されていたが,肺結核の減少と共に一般には話題にのぼることすらなく長い年月が経過した.しかし消滅寸前といわれた肺結核もWHOの目標とする0.01%の有病率にほど遠い状況であり,腸結核も絶滅してはいなかった.近年腸管二重造影の進歩や大腸fiberscopeの出現により,大腸疾患への関心は高まり,大腸の炎症性変化の鑑別診断上本邦人にとって腸結核は避けて通れない病態として存在するようになった.すなわち華やかに登場したCrohn病との間に腸結核は多くの点で類似した病像を呈したためである.欧米の成書はCrohn病と鑑別すべき病態に腸結核をあげながらも欧米人(移住者を除く)には存在しないことを強調し,鑑別の努力は不要とも思える記載が散見される.残念ながら本邦では結核症は著しく減少したといっても絶滅したわけではなく,結核症への理解は必須であろう.

腸結核の診断

 Paustin&Monto1)は著書の中で臨床上の診断基準をあげているが,従来より指摘されている結核菌の同定と結核結節の証明以外いまだ積極的に診断する方法がないのが現状である.

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 腸結核症は,最近欧米ではきわめて稀とされているが,本邦では少ないといわれながらも,かなりの報告例がみられる.また,近年腸検査法の進歩により,腸の潰瘍性病変,特にわが国においては,欧米に比べて少ないとされていたクローン病,潰瘍性大腸炎に関する関心が高まり,それらに関する論文も増加してきている.ここで,わが国では腸結核とこれらの疾患との鑑別が重要な問題となってくる.従来,岡1),黒丸2),岩崎3)らは腸結核症は肺結核症に続発する管内性転移によるものが大部分で,腸に原発する結核は非常に稀であると述べているが,最近は肺に活動性の結核病巣が認められない腸結核の症例報告が増えてきている5)~9).また,化学療法の大きな進歩により,以前の腸結核とは様相が異なってきている可能性がある10)

 最近,臨床的,X線学的,内視鏡学的に腸結核症と診断,手術しても,病理組織学的には結核と確診がつけられない症例が増加している.このような症例の中には,臨床的にも病理組織学的にもクローン病あるいは潰瘍性大腸炎との鑑別がきわめて困難な症例もある.

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 日本において,腸結核は抗結核剤の出現以来著しく減少したとはいえ,欧米におけるように皆無に近いものではない.当院においてここ10年間に経験した腸結核は30例で,最近関心が高まってきたクローン病の3例,非特異性多発性小腸潰瘍1例,非特異性大腸潰瘍2例,腸型べ一チェット病1例に比べると,はるかに多い疾患である.

 クローン病,潰瘍性大腸炎についてはすでに診断基準案が発表されているが,腸結核についてはまだない.このことは,腸結核はその成因としての結核菌との因果関係は明らかであるのに対し,一方診断基準の明確でないクローン病,潰瘍性大腸炎はむしろ腸結核および上記2疾患のうちいずれかを除外して初めて診断しうるという,あいまいな点があったためと思われる.

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 大腸結核は回盲部を中心とする右側結腸にみられることが多いため,Crohn病との鑑別が問題となり,最近にわかに注目を集めるようになってきた.わが国においては,この部位の腸結核はCrohn病よりむしろ頻度が高いのではないかと推定されるほど,日常遭遇する機会が決して少なくない.しかし,潰瘍性大腸炎と鑑別を要するような大腸結核の症例はほとんどないといってもよい.

 われわれの経験した症例は,潰瘍性大腸炎ときわめてよく類似しており,また過去にそのように治療されていたという点が興味深いので,ここに提示したい.

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 炎症性大腸疾患における腸結核と他疾患の鑑別は,結核菌の証明,または生検による特異的な所見が得られない場合,必ずしも容易ではない.今回,われわれは終末回腸を含み大腸に広範な潰瘍性病変と狭窄を認めたが,skip lesionとして直腸にも潰瘍による狭窄を示し,Crohn病との鑑別が困難であった腸結核の1例を経験したので報告する.

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症例

 患 者:M.K. 47歳 女

 主 訴:悪寒・戦懐を伴う発熱,やせ,疲労感,下痢,精神不安定

 家族歴・既往歴:特記すべきものなし

 現病歴:1970年,心窩部痛を生じ,近医を受診,胃透視,胃内視鏡検査の結果,胃潰瘍の診断を受けた.1年半通院治療し心窩部痛は徐々に消失した.1972年夏より下痢をきたすようになり,やせがひどくなってきたので,A病院にて胃透視,胃内視鏡検査などを受けたが,異常は認められなかった.そのまま放置していたが,1973年1月頃,やせがひどくなり,感冒にもかかりやすくなった.同年7月初旬,左腹部痛がはじまり,B病院にて胃透視,その他の検査を受けたが異常は認められなかった.しかし,左腹部痛に加え,食欲不振,全身倦怠感,下痢などが持続したため,さらにC病院へ検査入院した.一般検査および胃透視,イルリゴスコピーなどを行ない,過敏性大腸症候群と診断された.入院時より38℃前後の悪寒戦慄を伴う発熱があり,容易に解熱しなかった.同院では心理的な要素が強いと考え,1973年9月当科外来へ紹介してきた.甲状腺腫大および貧血もあったため,同年9月19日,当科へ入院となる.

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 抗結核剤が普及し,結核予防が行き届いた現在においても,本邦では大腸結核症に遭遇する機会は稀ではない.一般に大腸結核は抗結核化学療法によく反応し,非観血的に治癒せしめることは容易といわれている12)17).しかしながら,内科的に大腸結核の確定診断を得るためには,内視鏡による生検組織より定型的結核結節(乾酪壊死を有する肉芽腫)を見いだすか,生検組織中より結核菌を証明するかのいずれかしかなく1)7)11)13)15),これは実際にはかなり困難である8)12)16).そこで大腸結核の診断には大腸X線診断が重要なポイントとなってくる4)9)

 大腸結核のX線診断については,古くはBrombart2)の回盲部の変形による診断が有名であるが,欧米のものは変形の診断が主であり1)6),本邦における石川,白壁3),丸山8)9)らの切除標本とX線所見(二重造影像)の対比検討により,はじめて詳細なX線診断が確立されたといえる.われわれはこれらを参考にし,大腸X線所見より活動性の大腸結核と診断した場合には,他検査で確定診断が得られない例でも化学療法を行ない,その臨床所見およびX線所見に改善が見られれば,積極的に大腸結核と診断をつけている.本稿では,治療によって推移する大腸結核のX線所見の経時的変化について検討した.

学会印象記

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 この印象記は福岡から東京へのJAL372便のなかで書いている.秋季大会がおわって,今年の学会はほとんど終了したが,相変らず飛びまわることが多い.

 第19回日本消化器病学会秋季大会(会長 白鳥常男教授),第15回日本消化器内視鏡学会秋季大会(会長 三宅健夫博士),第15回目本胃集団検診学会秋季大会(会長 三浦貴士教授)は合同大会として,10月18日から3日間奈良市において開催された.同時に第8回日本膵臓病研究会の秋季大会(委員長 久保田義弘博士)も併催されたことはいうまでもない.

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欧文目次

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The Management of patients afte small bowel resection: E.Weser(Gastroenterol 71: 146~150, 1976)

 最近小腸切除術は稀でなく,そのような患者を正しく管理するためには,Short bowel syndrome(短小腸症候群)の病態生理を正しく理解する必要がある.

 栄養吸収を左右する諸要因を列挙すると,(1)切除小腸の部位と範囲,(2)残存小腸と関連消化器官(肝や膵)の状態,(3)回盲弁の存在,(4)残存小腸と胃の適応,などである.

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 プラハ(チェコスロバキア)でUrgent Endoscopyに関する国際シンポジウムが開かれたのは1970年(昭和45年)である.その後,本シンポジウムのProceedingが「Urgent Endoscopy of Digestive and Abdominal Diseases」として出版され,竹本教授が雑誌「胃と腸」に紹介されたのは,まだ記憶に新しい.多分この頃から,竹本教授にはこのような「消化管出血と緊急内視鏡検査」を予定されていたのではないかと思われる.

 外国の医学に関する学会やシンポジウムに出席して感じるのは,まず欲しいのは共通の言語である.ここでいう言語とは単に英語とか日本語といった意味のみではない.このような問題は同時通訳という技術である程度はカバーできるが,むしろ重要なことは疾患に関する共通の関心である.少なくとも共通の定義にたっての理解がなければ問題点の討議はできないし,国際会議は各国の学者の集まりに過ぎなくなる.そんなことは当然だと考える人は多いかも知れないが,たとえば日本にいても,赤痢やマラリヤなどに関する優秀な講演を聞き,かつ討論できるback-groundが十分にあるのかを考えてみたいものである.

編集後記 白壁 彦夫
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 肉眼所見を如実に描写する.これが形態診断を行う過程の王道である.

 静止した病理所見から,動的病態を描きだし結論する.ここに病理と臨床との接点がある.

基本情報

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胃と腸
12巻12号 (1977年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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