医薬ジャーナル 53巻1号 (2017年1月)

特集 移行期医療~小児期から成人期への円滑な橋渡しを目指して~

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 小児期発症の慢性疾患に罹患している患者の成人医療への移行には,克服すべきさまざまな課題がある。日本小児科学会は,移行期医療に関する基本的な考え方を「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」として,2014年に公表した。移行期医療では,患者の自己決定権を基本にしつつ,身体的変化,人格的成熟に対応した医療が提供されなければならない。その具体化のために何が必要であるかも明らかになってきた。今後も,学会,医療機関,患者,(そして本稿では述べられなかったが)行政の地道な努力と協力が必要である。その行く先は,一生を支える生涯管理に向かっている。

2.先天性心疾患 丹羽公一郎
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 成人先天性心疾患は,後期合併症としての心不全,不整脈,再手術や心理社会的問題,心臓病以外の合併症治療などの成人期の問題点を認め,生涯にわたる経過観察を必要とする。成人先天性心疾患の専門診療施設としては,小児専門の診療体制は不適当で,成人に向く診療施設で成人先天性心疾患を専門とする医師を中心とした多職種との共同診療を必要とする。患者が成人する過程で自立するために,自身の病気の理解と移行診療体制の充実が必要である。先天性心疾患患者の自立を進めるためには,移行診療を円滑に行うとともに,社会保障制度を充実させることが必要である。医療側,患者側,行政側を含め,解決すべき問題は少なくない。

3.小児がん 前田美穂
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 小児がんの移行期医療における特徴は,疾病そのものは治癒している場合がほとんどであるが,治療や疾病そのものに関連して将来的に出現するかもしれない合併症(いわゆる晩期合併症)をスクリーニングなどにより,フォローアップしていくことが主であるということである。また,小児がん治療中や治療後に起こる心理的な問題への解決も大切である。成人期の医療者が小児がんの治療そのものを理解し,どのようにフォローアップをしていくかを認識できるように,小児科医はしっかりと申し送る必要がある。また,小児がん経験者も自立し,自ら成人診療科へのフォローアップを間違いのないよう受けなくてはならない。このためには,小児医療から成人医療への段階的な移行が重要である。

4.小児神経筋疾患 岡明
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 神経筋疾患の患児は家族や社会への依存度も大きく,また医療的ケアも要する場合があり,移行期医療が重要である。本稿では,代表的な4つの疾患・病態を取り上げて,現状と課題について総説した。てんかんは移行に向けた準備が重要であり,デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーは移行期が疾患の進行時期と重なっている点が問題となる。知的障害は,仮に小児科医が継続して外来診療に関わる場合でも,成人診療科のかかりつけ医が必要である。重症心身障害児(者)は,病態は緩徐ながら進行する場合もあることを理解する必要がある。

5.発達障害 平岩幹男
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 発達障害の移行期医療は,残念ながら円滑であるとは言い難い。その理由としては,①移行期である思春期には二次障害を呈することがあり,その解決にしばしば長期間を要するが,どこが思春期をカバーするかは明確ではない,② 二次障害の症状が先行し,背後にしばしば発達障害が存在するが,その場合には発達障害自体への適切な支援につながりにくい,③ 告知や受容の必要な時期についての社会的合意がない,④ 就学,就労支援についての国の施策は変化しているが周知されていない,⑤ 性別違和など周辺の症状への社会的理解が少ない,などによると考えられる。現時点で即効性のある対応策はないが,まずは問題点の認識から始まると考える。

6.染色体異常症 水野誠司
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 本稿では,ダウン症候群,ターナー症候群,マルファン症候群,プラダーウィリー症候群の移行期医療について述べる。いずれも染色体や遺伝子の変化による疾患,いわゆるGenetic disordersの一つであり,多臓器にわたる合併症の治療や予防が一生涯必要である。  近年,このような遺伝性稀少疾患に対して,指定難病などの制度的支援体制が整備されつつあり,生涯の健康管理が推進されているが小児科担当医が総合的にフォローアップする小児期と比べ,成人の診療科は細分化されているために円滑な移行が難しい。移行においては,小児医療と成人医療の両者が平行して診療する時期を経ることが望まれる。  ここでは各疾患の小児期から移行期の医療の要点を述べる。

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 わが国の総出生数は減少傾向にあるが,低出生体重児の出生数は,近年は増加していた。さらに,これらの低出生体重児の生命予後も向上したため,今後成人期に達する低出生体重児の数は増加すると考えられる。しかしながら,低出生体重児はNICU(新生児集中治療室)入院中のみならず,退院後も種々の合併症を認める確率が高い。しかも,一部の合併症は成人後に初めて明らかとなる。従って,低出生体重児,特に合併症の頻度が高い極低出生体重児については,小児科に引き続き成人後は内科系診療科でのフォローアップが必要である。すなわち,極低出生体重児は慢性疾患と言える。ただ,現在の低出生体重児のフォローアップ体制は内科系診療科に円滑に移行する体制となっていないので,早急に体制を構築する必要がある。

8.小児外科疾患 尾花和子 , 八木實
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 周産期・小児医療の進歩に伴い,小児外科疾患についても手術治療を終了し成人期に達するものが多くなってきた。しかし,手術や疾患そのものにより機能障害をきたしたり,続発する合併症によって新たな症状が出る場合もあり,移行期医療の重要性が注目されている。稀少な先天性疾患や,排泄管理や特殊な栄養管理,長期フォローを要するものについては,年齢とともに成人診療科へ転科をすすめるというものではなく,小児外科医が診療を継続するべきものや,他科との連携が望まれるものもある。代表的な疾患を中心に病態の特徴をまとめたガイドブック等を活用し,身体的な診療だけでなく,成人になっていく自立の支援の一環を担っていく必要がある。

小特集 実地診療におけるリアルワールドエビデンスの意義と課題~実際の活かしかた,具体的な注意点:循環器領域を中心に~

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 臨床開発第III相試験では,高いレベルのエビデンスを得るため無作為化比較試験が用いられる。一般人口を対象とする日常診療に,無作為化比較試験で得られた成績をそのまま当てはめることには注意が必要である。日常診療で遭遇する患者は老若男女さまざまであり,その薬剤の適応疾患を持っていても病態は複雑であり,さまざまな合併症を持っているからである。そこで,日常診療の現場で実際に治療される患者を対象にして,その有効性,安全性などを明らかにするために登録研究(Clinical registries)が行われる。実際の日常診療の現場で得られた成績はリアルワールドエビデンス(Real world evidence)と呼ばれ,有用な情報を提供するが,問題点・限界があることを理解して利用することが重要である。

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 Evidence-Based Medicine(EBM)の導入によって ① 医療者側にとってその治療法が「Make Sense」なだけでは不十分であり,② 患者にとって重要なアウトカムの改善が認められなければその治療が実用的と捉えないという考え方(価値観)が定着した。しかし一方で,EBM が重要視されるに従い,RCT(ランダム化比較試験)で扱われるリサーチ・クエスチョンは細分化され,さらに試験の登録基準や除外基準,そしてアウトカムの規定にも「クリーン」な内容が求められるようになり,その結果として大規模臨床試験に登録される患者とリアルワールドの患者層に徐々に乖離が生じていった。その乖離を補完するために活用されているのが,昨今 Real-World Evidence(RWE)と呼称される分野の研究である。多くのRWEで登録されてくるデータは「通常のケア」を受けている患者群から集積されるものであり,RCTに登録される患者と異なり複数の背景疾患や介入を持つことも少なくない。本稿では,RWEの導入が具体的にどのように循環器疾患に影響をもたらしたかということについて取り上げる。

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 心房細動患者の心原性脳塞栓症の予防において,新規の直接作用型経口抗凝固薬の使用率が急速に延びている。第III相臨床試験(治験)で新規の経口抗凝固薬が,従来のワルファリンと比べて同等以上の効果があることが示されたためである。治験は厳格な管理下で行われるが,さまざまな環境下で使用される市販後のリアルワールドでも同様の効果が得られるかは疑問である。現在,リアルワールドでの新規の経口抗凝固薬の効果を検証するため,いくつかの臨床研究が行われているが,その一つとしてリバーロキサバンの効果を検証したXAPASS(Xarelto post-authorization safety & effectiveness study in Japanese patients with atrial fibrillation)研究がある。中間集計ではあるが,リアルワールドでの使用においても,治験と同様あるいはそれ以上の安全性と有効性が示されている。

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 リアルワールドエビデンス(RWE)とは,第III相臨床試験・行政当局の承認を経て医療現場に提供された新薬に関して,実臨床下(リアルワールド)において集積されたエビデンスの総称である。これらRWEは,限定的な第III相臨床試験のデータを補完するという点で非常に有効である反面,さまざまな方法論に基づくRWEを適切に構築・解釈し,正しく利用することは未だ難解である。そこで,本稿においては,“製薬企業の果たすべき使命”という観点から,循環器領域におけるRWEの構築およびその活用法について解説する。

連載 薬剤師が知っておくべき 臓器別画像解析の基礎知識 73

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 好酸球性副鼻腔炎は,中鼻道の多発性鼻茸を特徴とし,組織学的には鼻茸への著明な好酸球浸潤を認める副鼻腔炎である。従来の副鼻腔炎治療において有効であった,マクロライド少量長期投与と鼻内視鏡手術では効果が得られず,鼻茸を再発することの多い難治性の疾患である。  典型的には,冠状断CT(computed tomography)で上顎洞よりも篩骨洞の軟部組織陰影が有意であるが,進行例ではすべての副鼻腔に陰影を認める汎副鼻腔炎となる。

連載 リスクマネジメント~院内での薬剤師の活動~(110)

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 2015年1月に厚生労働省より認知症施策推進総合戦略である新オレンジプランが新たに打ち出され,ここでは社会全体で認知症の人と家族を支えていくことが求められている。認知症の早期診断・早期対応のための体制整備に初めて「歯科医師・薬剤師の認知症対応力向上」が明文化されたことより,薬剤師も地域包括ケアシステムの中で多職種連携スタッフとしての役割を果たさなければならない。認知症領域にチームの一員として参画できる能力と適正を備え,認知症の人とその家族等に対して薬学的視点を踏まえた適切な助言および対応ができる薬剤師の養成が急務と考え,日本薬局学会では2015年に「認知症研修認定薬剤師制度」を創設した。

連載 薬剤師による処方設計(52)

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 超高齢社会を迎えた今日,心不全患者数は増加の一途をたどっている。心不全患者の増悪による再入院の要因として,塩分・水分制限の不徹底や治療薬服用の不徹底が上位にあげられる。これらの課題に対して,患者ごとの要因を考慮して介入する必要がある。薬剤師として,服薬アドヒアランスの不良は再入院にもつながるため,早期の介入が必要である。また,多剤投与は心不全治療に重要な影響を与える。それ故,適切な処方であるかどうかを吟味し,投与量だけでなく,不要と思われる薬剤の中止を提案することも求められる。さらに,院内の疾病管理プログラムの運用には,チームでの情報共有が不可欠である。今後は院内だけでなく,地域の多職種との情報共有化のシステムを構築しなければならない。

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART II .服薬指導と病棟活動(111)

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 地域包括ケアシステムとは,『(団塊の世代が75歳以上となる)2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう構築される包括的な支援・サービス提供体制』のことである。

 つまり,住み慣れた地域で自分らしい生活を人生の最後まで継続できるように,各市町村の地方行政単位で支える,そのためには,保険者である地方行政(市町村や都道府県)が,地域によって異なるであろう高齢者のニーズと医療・介護の実状を正確に把握し,住民や医療・介護施設が連携・協議して,より地域に合ったものに作り上げていくものであろう。本稿では,その大きな動きの中で,医療者の一員としての病院薬剤師が取り組んでいる業務について,触れたい。

連載 ●副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.スペインの単施設での前向きコホート研究において,入院した新生児の17%に薬物有害反応が認められ,有害反応の種類,被疑薬,重症度,因果関係などの特徴が報告されている。 2.ループス腎炎のためシクロホスファミドを投与された患者を対象とした研究において,グルタチオンS -トランスフェラーゼ(GST)の遺伝子多型と治療成績や有害反応との関連が認められたことが報告されている。 3.オルメサルタンを長期間服用していた患者において,体重減少や重度の下痢を伴う吸収不良症候群を呈した2症例が報告されている。 4.スロベニアの単施設での無作為化比較研究において,薬剤師の介入が慢性心不全患者における臨床的に重要な薬物間相互作用を減少させたが,臨床転帰には影響を認めなかったことが報告されている。 5.リスペリドンとエスシタロプラムを併用投与された患者が動悸や胸苦しさを訴え,著明なクレアチンキナーゼ値上昇を認めた症例が報告され,薬物相互作用による有害事象増強の可能性も推測されている。 6.リトナビルなどを服用中のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染患者において,リスペリドンの投与により浮腫を呈した3症例が報告され,薬物相互作用による有害事象増強の可能性も推測されている。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈12〉

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◆ 製剤の特徴  「ビムパット®錠50mg,同100mg(ラコサミド)」は,既存の抗てんかん薬がナトリウムチャネルの急速な不活性化を促進するのに対し,本剤は緩徐な不活性化を選択的に促進することにより,過興奮状態にある神経細胞膜を安定化させる。既存薬では十分な効果を示さない患者に対し,他の抗てんかん薬との併用療法で承認された。日本中国共同第III相臨床試験では,28日当たりの部分発作が4回以上の患者が登録され,維持期間28日当たりでは本薬200mg/日群で-3.3回と,プラセボ群-1.2回に対し有意差が認められている。  主な副作用は浮動性めまい,傾眠,頭痛等であった。重大な副作用として房室ブロック,徐脈,失神が,海外市販後の報告で中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,薬剤性過敏症症候群,無顆粒球症が報告されている。

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 薬学教育6年制は今,新たな転換点を迎えようとしている。2006年の6年制開始以来,10年が経過したことを踏まえ,さらなる教育レベルの向上が望まれているのである。6年制教育の卒業生は,既に5期生までを数えるが,制度運用の過程では多くの課題が浮かび上がり,2013年にはモデル・コアカリキュラムも改訂された。これは即ち,6年制の第1期生が社会に出てわずか1年で,教育課程そのものの抜本的改革が実施されたことを意味する。こういった流れを背景に,2016年8月には日本薬学教育学会が設立され,第1回大会には多くの薬学関係者が集まった。教育そのものを研究対象とする同学会には,薬学教育を一層レベルアップさせる,学問的基盤の構築が期待される。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 第22回日本薬剤疫学会学術総会が2016年11月18~ 20日,京都市内のみやこめっせ(京都市勧業館)で開催された。総会テーマは「医療リアルワールドデータ時代における疫学」,総会長は京都大学大学院医学研究科薬剤疫学教授・川上浩司氏。近年,薬剤疫学を巡る環境は目覚ましく進化し,また医療に関する社会環境も大きく変化している。特にここ数年で,医療現場で得られる各種情報から,比較的リアルタイムに二次利用可能なデータベースが構築され,それに基づいた臨床研究を実施できるようになってきた。こういった現実の医療そのものを反映するデータ,即ち「リアルワールドデータ」の蓄積を背景に,従来のような限定的な既存資料を基盤とした疫学研究では成し得なかった,精度の高い医療・薬剤評価が可能となり,薬剤疫学研究にパラダイムシフトがもたらされている。総会では,これらの医学・医療研究が直面する変革について,会長講演でその現状が報告されたほか,薬剤疫学が製薬企業の日常業務にどのように活かされているかに関するシンポジウムも催され,関係者の間で活発に討議された。

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 DOAC(direct oral anticoagulants)は,非弁膜症性心房細動に対する心原性脳塞栓症の発症予防として広く認知されるようになった。しかし,ワルファリンにおけるビタミンKに相当する中和薬が存在しないことが議論となってきた。イダルシズマブはダビガトラン特異的中和剤であり,ダビガトランのトロンビンへの結合を阻害することにより抗凝固作用を中和する。イダルシズマブは「生命を脅かす出血または止血困難の出血の発現時,もしくは重大な出血が予想される緊急を要する手術または処置の施行時におけるダビガトランの抗凝固作用の中和」を効能・効果として,2016年9月に製造販売承認を得た。ダビガトランは現時点で唯一,中和剤が存在する薬剤となった。出血リスクの高い症例に対しては,ダビガトランが選択肢にあげられるようになると考えられる。

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2017年2月号特集内容予告

基本情報

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医薬ジャーナル
53巻1号 (2017年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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