看護教育 60巻8号 (2019年8月)

増大号特集 シミュレーション教育 虎の巻

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シミュレーション教育の重要性は、もはや議論をまちません。今後の看護基礎教育においてもっとも重要な柱の1つとなっていくでしょう。

シミュレーション教育を本格的に導入していくことは、非常に大きな意味をもちます。それは看護基礎教育に求められているものはなにか、そこで教員はどのような役割を担っているのか、学生の学びをどう支援するのか、という問いかけでもあります。

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パラダイム転換としてのシミュレーション学習

 「平成28年版高齢社会白書」(内閣府)によると、今から40年後の2060年には、日本の総人口は9000万人を割り込むと推計されている。総人口が減少する一方で、高齢者人口は増加し続け、2035年には高齢化率が33.4%となり、2060年には約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来する。また、総人口の減少は生産年齢人口の減少をもたらし、2015年には総人口の60%を占めていた生産年齢人口が、2060年には50%に落ち込むと推計されている1)。このような人口構造の激変は、国の経済活動に影響を及ぼし、社会保障制度の根幹を揺るがすさまざまな問題を引き起こす。「病院完結型から地域完結型へ」「治す医療から治し支える医療へ」「地域包括ケアシステムの構築」とさまざまなフレーズで制度の転換の必要性が語られ、政策が打ち出されている。

 高齢社会の到来は、看護人材育成にも影響を及ぼす。人口の高齢化や疾病構造の変化は、人々の価値観の多様化や家族形態の変化などと相まって、新たなヘルスケアニーズを産み出している。看護を提供する場も病院から地域へと拡がり、これからの看護者には、人々が暮らすあらゆる場で看護ケアを提供できる幅広い知識と援助技術が求められる。つまり、今後日本の社会が直面する健康課題に対応できる看護人材の育成はどうあるべきかという教育上の課題が問われている。

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 一般社団法人日本看護シミュレーションラーニング学会は、2018年10月26日に一般社団法人の認証を受け、同月29日に発足しました。岡谷が学会長を勤めています。

 学会の名称に「教育」ではなく、「ラーニング」を使用したのは、これからの看護人材の育成には、学習者主体の能動的学習が重要であると考えたからです。学会設立の目的は、看護学教育におけるシミュレーション学習の開発、評価、普及に努め、看護学教育の進歩と質の高い看護を実践できる人材育成に寄与することです。学会の主たる事業は、学術集会の開催、教育研修、研究、教材開発、海外の関連学会との協働事業、広報活動、産学協同事業と多岐にわたります。記念すべき第1回学術集会は、大会長を阿部が務め、2020年3月1日(日)に東京医科大学で開催します。

第2部 効果的な実践に向けて

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 シミュレーション教育は楽しく学べる!と私は思っています。それは学ぶ者も教える者も楽しみながらともに成長できる学習方法だからです。看護教育において、シミュレーション教育がどんどん広まってほしいという思いで、執筆をさせていただきました。

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実習につながるシミュレーション

伊藤 今回紹介するシミュレーション(表1・2)は、4年生の統合実習の学内日に行ったものです。この統合実習では、学生は、2名の患者を受け持ちます。もちろん、最初は1人の患者を受け持ち、少し慣れてから2人目の患者を受け持つことになります。学生の様子にもよりますが、3週間の実習の2週目から2人の患者を受け持つ学生が多いです。今回のシミュレーションは、実習1週目の学内日に行いました。学生たちが、実習2週目に少しでも2人の患者さんを受け持つということをイメージできるよう計画しました。実習室に2人部屋をパーテーションで区切って3か所つくりました。1つの病室ブースには、3〜4名の学生を配置しました。患者さんは、表1に示す2人の患者です。1人は、肺炎の秋山さんです。寝衣や体位が整っていないなどの設定を行い、また呼吸音を設定するためにマネキンタイプのシミュレータを使いました。秋山さんの声は教員が出します。学生がフィジカルイグザミネーションをした場合にも教員が測定値や状態を提示します。もう1人は、糖尿病の藤さんです。教員が模擬患者になりました。

清水 シナリオは、阿部幸恵先生の著書『1年で育つ!新人&先輩ナースのためのシミュレーション・シナリオ集』を改変して使いました。書籍のシナリオは、実際に新人指導などに使われていますし、最初からつくりこむ必要がないので助かります。

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 板橋中央看護専門学校(以下、本学)第2学科で成人看護学を担当しています。第2学科は、准看護師の免許取得者の進学課程で、近年は准看護師の臨床経験がなく入学する学生が7〜8割と多くなっています。准看護師課程で学んだ日常生活の援助技術を、根拠にもとづいて実践する力を育成するために、シミュレータを活用した教育に力を入れています。

 本学には、多職種連携ハイブリッドシミュレータ“SCENARIO”が1台、フィジカルアセスメントモデル“Physiko”が2台、呼吸音聴診シミュレータ“ラングⅡ”2台とその旧型“ラング”2台があります。これらのシミュレータを効果的に使用することで、実際の患者さんの状態をふまえた学習につながっていると思います。

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看護師として働く教育への転換に向けて

 2012(平成24)年神奈川県における看護教育のあり方検討会報告書1)において「看護教育の神奈川モデル」の構築をめざし、モデル的に修業年限を4年とした効果的な教育方法を導入した課程を創出することが提言された。

 この提言を受け、神奈川県立平塚看護専門学校は、時代のニーズに即した看護実践能力の育成をめざし2017年4月に県立平塚看護大学校(以下、本校)と校名を変更し4年制教育をスタートさせた。

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カリキュラム全体でプロジェクト学習に取り組む

 野田看護専門学校(以下、本校)では、専門職業人として、看護の専門的知識と技術を習得し、科学的根拠に基づいた看護を実践できる能力を培うとともに、学生1人ひとりが、やる気をもち続け、生涯にわたり学習する姿勢を身につけられるよう支援することを教育理念にあげている。

 第一看護学科のビジョンは、「人との交流をとおして、看護に対する興味・関心をもち、主体的に学習できる学生を育てたい」であり、2019(令和元)年度のゴールは、「学生が、自己の課題をとらえ、課題に立ち向かっていける支援をする」としている。

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 シミュレーション教育は、看護実践能力を育成するための教育方法として認識され、多くの施設においてすでに導入されている。看護学教育においてはコンピテンシー中心のカリキュラムへの転換がなされており、個々の教員中心ではなく、組織的・体系的な教育課程への転換に向けて、教員同士の連携と組織的な取り組みがさらに重要となる。

 高知県立大学(以下、本学)では、効果的なシミュレーション教育の模索、学習目標に合わせたシナリオの開発と共有、教員のシミュレーション教育力の向上をめざして、専門領域をこえたシミュレーション教育プロジェクトチームを学部プロジェクトとして立ち上げ、2014年4月から活動を開始した。年間2〜3回の公開セミナーを開催し、学外からも参加できるようにすることで、ネットワークづくりの機会となり、それぞれの教員がこのプロジェクトで獲得した能力を発展させた活動を行うことも増えてきた。本稿では、これまでの活動を振り返り、学習会の概要と取り組み、成果となる活動について紹介する。

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 みなさん、こんにちは。京都大学医学部附属病院の内藤知佐子です。

 今回は、私が院内外のシミュレーション研修を実施する際に協力してもらっている仲間たち、内藤組のメンバーに、活動をとおしての学びを語っていただきました。内藤組が結成されたのは、2014年です。京都府看護協会にて開催された、シミュレーション研修がきっかけでした。

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シミュレーション教育センターの開設

 福岡女学院看護大学(以下、本学)は、過密なカリキュラムと膨大な学習内容の精選に向けた課題を解決し、「自主的に学習できる力」をもつ学生育成をめざし、開学10周年事業として、シミュレーション教育センター(以下、センター)を2016年9月に開設し、2017年度より、全領域でシミュレーション教育を導入している。

 センターは、地上3階建ての2階・3階部分で、延床面積が954m2の広さである。4つのシミュレーションルーム(ICU、4床室、分娩室、在宅・多目的)と2つのデブリーフィングルームがあり、シミュレーションルームの映像をデブリーフィングルームにライブ配信できるシステムを有している。この映像システムを活用することで100人をこえる学生を対象とした多人数のシミュレーション演習を可能にしている(図1、図2)。

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看護教育におけるシミュレーション教育の意義

 2005年度に医学部に共用OSCE(客観的臨床能力試験)が正式に導入された。その前後からシミュレーション教育が医療者教育に少しずつ導入されるようになり、10年以上が経過した。

 その間、さまざまな分野において、多くの教員や指導者がシミュレーション教育の基本的な考え方と指導方法を学び、自身の授業や研修に導入してきた。この10数年は、医療者教育にとってシミュレーション教育の導入期であったといえよう。

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VR認知症ワークショップの開催

 2019年5月8日(水)聖路加国際大学にて、看護学科3年生93人を対象に、株式会社シルバーウッドの協力のもと、VR認知症ワークショップが開催されました。このワークショップは、老年看護学Ⅱとして位置づけられており、川上千春先生、河田萌生先生、江藤祥恵先生が担当です(写真1)。

 VRを用いた授業は今年2年目となり、授業開始前に昨年の受講生が「あ、VRだ!」と声をあげていたのがとても印象的でした。

連載 〈教育〉を哲学してみよう・1【新連載】

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 学校に限らず、〈教育〉はありふれた現象だ。親になれば、子どもの日々の変化に目を細め、ときには教育の方針をめぐってけんかをすることもある。職場に後輩が入ってくれば、右も左もわからない新人のための研修を組み立てなければならない。居酒屋を覗けば、互いに教育の持論を披瀝し合い、酒のつまみにする人たちを見つけることもできるだろう。「一億総教育評論家」とも言われる所以である。だが、職業として教育を担う限り、そこにとどまってもいられない。そこで教育の専門職でもある立場として、〈教育〉とは何かをあらためて考えてみようというのが、この連載のねらいである(なお、〈教育〉に括弧がついている場合、私たちが教育と呼んでいる現象一般を意味している。人によって教育という言葉で意味するものはさまざまで曖昧なので、それぞれが指している何ものかをさしあたり〈教育〉としておこう、という程度の意味で理解してもらえれば構わない)。

 それにしても、〈教育〉を哲学するというのはどういうことだろうか。「哲学」と聞いて敬遠したくなった人もいるかもしれない。何やら難しい専門用語を使って、役に立たないことを悶々と考えるイメージをもつかもしれない。けれども、哲学することは教育者にとってとても重要だし、効果的ですらある。どうしてそう言えるのかは、この連載を読みながらじっくり実感してもらうとして、簡単に説明しておこう。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・20

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 喉頭は、のどの奥にある空気の出入り口で、気道に蓋をする喉頭蓋、「のどぼとけ」とよばれる甲状軟骨、その下の輪状軟骨からなります。甲状軟骨の内側には声帯があり、甲状軟骨は舌を支える舌骨にぶら下がっています。物を飲み込むときは甲状軟骨を引き上げて喉頭蓋を押し倒し、食物が気道へ入るのを防いでいます。

 制作手順は、まず気管と輪状軟骨を作ります(a)。続いて、甲状軟骨で囲まれた部位を作ります。甲状軟骨は、粘土をクッキー生地のような薄いシート状にして作ります。同様に舌骨を作り、両方を別の薄い粘土シートでつなげておきます(b)。この「舌骨・甲状軟骨シート」を軽く半分に折るようにして輪状軟骨に付けます。折り曲げた甲状軟骨の上部を強めにつまむと、のどぼとけの形になります。喉頭蓋は半円形の粘土シートを筒状に丸めて作ります(c-1、2)。完成した喉頭を気管に乗せて完成です。

連載 医療通訳inバンクーバー・5

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 医療通訳という立場上、さまざまな医療現場(クリニック、検査病院、専門病院、薬局など)へ日々顔を出すのですが、そこで新しい知識を得たり、気づいたりすることが多々あります。そのなかでよく感じるのは、カナダを含む北米の人は「痛み」に関して敏感だということです。そのため医療者は、少しでも早く患者を「痛み」から解放することに重点を置いています。

 私は今年の3月にアメリカでインルフエンザにかかってしまい、緊急病院へ行ったのですが、後日送られてきたアンケートには、痛みに関する質問がものすごく多くて驚きました。病院で1回に渡されたイブプロフェンの量は1000mgでした(日本の市販薬は150〜200mg程度)。歯科でさえ、不安や緊張している患者には精神安定剤を処方します。そして、治療する際には必ず麻酔を打ちます。

連載 専門看護師とともに考える 実習指導のポイント 昭和大学の臨床教員の立場から・5

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 本連載では、臨床教員である専門看護師が、自分の担当する実習科目について、看護スペシャリストとしての視点をふまえた実習指導の「概要・ポイント」と「実践」の2回で説明する。「概要・ポイント」回では、実習領域の特徴を説明したうえで学生への指導ポイントや臨床との連携について紹介し、「実践」回では、実践例を具体的に説明する。また連載とは別に、昭和大学の臨床教員制度の詳細について毎回異なるテーマのコラムを掲載する。

大﨑千恵子(昭和大学保健医療学部 同学統括看護部)

連載 核心に迫る授業改善 インストラクショナルデザインによる事例検討・5

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 気がつけばもう5回目ですね。じつは前回、紙幅の関係で泣く泣くカットした部分があるので、そこから始めます。ということで、前回の三沢さんの事例を再掲しましょう(表1)。

三沢 「げ。前回ので終わってなかったんですか。なんだか居残りみたいでイヤな予感……」

連載 臨床倫理を映画で学ぼう!・8

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作品紹介

 今回は『ベイマックス』(ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ監督、2014年、米)を紹介します。舞台は架空都市サンフランソウキョウ。東京とサンフランシスコが混ぜ合わさった未来都市です。14歳の少年ヒロ・ハマダは科学の天才ですが、若くして将来を見失い、非合法で危険なロボット・ファイトで小遣い稼ぎに明け暮れていました。一方、彼の兄タダシはサンフランソウキョウ工科大学で、できるだけ多くの人々を助けたいという強い思いからヘルスケア・ロボット「ベイマックス」を開発しました。ベイマックスは人の苦痛に反応し、身体を瞬時にスキャン、診断したうえで適切な治療とケアを施すことができます。

 兄の導きでヒロは大学の研究生やキャラハン教授と出会い、ロボット工学に魅了されます。その後、彼はマイクロチップを用いた「マイクロボット」を発明し、発表したことで大学への入学を認められました。しかし、その発表会場で火災が発生し、タダシは死んでしまいます。兄の死に不審をいだいたヒロは、ベイマックスとタダシの研究室の同僚とともに犯人をさがすことになるのでした。

連載 看護師のように考える コンセプトにもとづく事例集・08

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episode1

山下さんの入院日、あなたが担当になりました。

あなた 先輩、山下さんに会う前に聞きたいことがあります。今まで私が担当した冠動脈バイパス術を受ける患者さんは、手術の前日か前々日に入院していました。でも山下さんの手術は、1週間先の予定です。なぜ、こんなに早く入院するのですか?

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目次

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医師の思考はこうなっていた! 病歴聴取の道案内

 私は編著者の前野哲博先生が研修医の頃、一緒に働いており、患者さんの診察にとても情熱をもった先生だなあと思っていました。まだ「チーム医療」といわれていなかった時代に、医師も看護師も関係なく、多職種で患者さんのことを診て(看て)いたことを思い出します。その頃から前野先生の説明はわかりやすく、診察することや教えることを楽しんでいるようにみえました。本書は、そんな前野先生の病歴聴取の技を医療職向けに伝授してもらえる虎の巻です。

 1、2章では、これからの医療職に求められる症状アセスメントを概念化し、段階的に読み進められるようになっています。患者のもっているぼんやりした情報をいかに効率的に絞り込んでいくか、コミュニケーションや聞き方の方略、ちょっとしたコツが書かれています。「『グラフを描けるように』情報を集める」「『合わないところはないか』考える」といった独自の切り口で病歴聴取を深めていきます。

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
60巻8号 (2019年8月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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