INTESTINE 23巻3号 (2019年5月)

特集 早期大腸癌内視鏡治療後の転移再発と予後

序説 工藤 進英
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今回,「早期大腸癌内視鏡治療後の転移再発と予後」というテーマの特集を企画させていただいた.ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)をはじめとする内視鏡治療技術の進歩によって,早期大腸癌は腫瘍の大きさやSM 浸潤度を問わず,内視鏡的一括切除が可能となってきた.多くの早期大腸癌が内視鏡治療されるようになった一方で,転移再発をきたす症例が存在するのも事実である.転移再発を起こしやすい病変の生物学的悪性度を推測するうえで,その発育進展を考えることが一つの手掛かりとなる.

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「大腸癌治療ガイドライン」では,予測されるリンパ節転移リスクをもとに,早期大腸癌の初回治療方針および内視鏡的切除後のpT1 癌の治療方針が示されている.リンパ節転移リスクのないTis 癌やリスクがきわめて低いと想定されるT1 軽度浸潤癌で内視鏡的一括切除が可能な病変は,内視鏡的切除の適応となる.内視鏡的切除後のpT1 癌では,垂直断端陰性,乳頭腺癌・管状腺癌・髄様癌,pT1a,脈管侵襲陰性,簇出BD1 が内視鏡的切除による根治基準(経過観察)となっている.T1 癌のリンパ節転移リスクの層別化からは,pT1b 癌で他のリンパ節転移リスク因子のないものでは内視鏡的治療で根治が期待される可能性があり,今後,早期大腸癌に対する内視鏡的治療の適応拡大の可能性も示唆される.

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検診率の上昇,内視鏡検査の普及で早期の大腸癌は数多く発見されるようになってきた.また診断能の向上で適切な深達度診断が行われ,ESD などの治療を含め内視鏡治療の選択肢が広がることで,不要な追加外科的切除を減少させることができている.また,内視鏡治療を行う大腸腫瘍の大半は隆起型病変である.そこで,隆起型早期癌に対する内視鏡治療後の転移再発と予後の実態を文献的に検討した.その結果,ガイドラインに沿った治療選択,追加外科的切除,経過観察を行えば,転移再発も少なく,5 年生存率も非常に良好であることが確認された.

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表面型大腸T1 癌の治療,予後に関する当センターの検討では,内視鏡的治療単独群において表面型(陥凹型)が再発のリスク因子(HR 80.47)であった.また表面型は隆起型に比べ初回外科手術が選択される割合が高く,静脈侵襲陽性率(31.3% vs. 20.3%,P<0.001),簇出BD 2/3(25.6% vs. 17.8%,P=0.01)の割合が高かった.対象は,2001 年4 月~2015 年6 月の期間に治療された大腸pT1 癌930 例(平均観察期間52.3 カ月),うち内視鏡的治療単独群が298 例,外科手術群が632 例(初回外科手術327 例,追加腸切除305 例).内視鏡的治療後に再発をきたした表面型T1 癌は3 例すべてが直腸病変,2 例が陥凹型であった.3 例すべての病変で大腸癌治療ガイドラインのリンパ節転移リスク因子を一つ以上有していた.今後,表面型,とくに陥凹型大腸癌の発育進展,再発予後実態のさらなる究明が期待される.

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内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を用いた側方発育型腫瘍(LST)の切除が従来の内視鏡的粘膜切除術(EMR)と比較し,治療後の局所再発の著明な減少に寄与することが報告されている.一方で,ESD 後に転移再発をきたした場合は外科切除をもってしても救済が困難であることも論じられている.現在,深達度のみが非治癒因子であった場合に外科切除検体のリンパ節転移リスクから適応拡大の可能性が検討されているが,まだ十分なエビデンスは得られていない.当院の再発症例の特徴からも浸潤癌で再発した場合はほとんどに遠隔転移を伴っており,予後は不良であった.よって現時点ではESD の結果,側方断端以外が非治癒となった場合,根治を目指した追加外科切除が標準である.将来的に,ESD 後の浸潤癌再発を予測する危険因子が解明され,患者の全身状態を考慮した個別化医療が可能になることに期待したい.

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「大腸癌治療ガイドライン」に沿って治療すると大腸pT1 癌の長期予後は良好であることは知られている.局所切除された大腸pT1 癌において経過観察可能な因子としては,① 乳頭腺癌・管状腺癌,② 浸潤距離<1,000μm,③ 脈管侵襲陰性,④ 浸潤先進部の簇出BD1 のすべてを満たすことであるが,それ以外の条件ではリンパ節転移高リスクとなる.高リスク大腸pT1b 癌では,直腸T1b 癌を局所切除のみで経過観察すると,結腸pT1b 癌と比較し局所再発を多く認めた.つまり,局所切除された高リスク直腸pT1b 癌においては追加外科的切除が標準治療と考える.しかし,手術により肛門機能を損なう可能性のある下部直腸pT1 癌に対して,肛門機能温存可能な新たな追加治療を検討する必要がある.

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浸潤癌であるT1 大腸癌の治療の原則はリンパ節郭清を伴う腸切除である.外科的根治術は,局所切除では摘除しえないリンパ節転移や壁外への非連続性癌進展病巣を切除するものであり,これにより再発の防止に大きく寄与する.しかしながら,遠隔臓器にのみ再発する症例の存在に鑑みると,外科的根治術により再発リスクを皆無にすることは不可能である.また,その適応決定には排便機能障害などの術後後遺症はもとより,耐術能の低い症例では手術関連死亡にも考慮する必要がある.局所切除したT1 大腸癌については,リンパ節転移リスク因子の正確な評価に加え,個々の症例における身体的・社会的背景を十分に考慮したうえで,患者個人の希望も含めて治療方針を決定することが重要である.

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「大腸癌治療ガイドライン」における大腸T1(SM)癌内視鏡摘除後の追加腸切除が現実的にはoversurgery となっているという問題点がある.その理由として,経過をみて再発をきたした際のsalvage 治療による予後の改善効果が不明のためである.われわれは大腸T1 癌に対して内視鏡摘除単独あるいは内視鏡摘除+追加手術を行い,経過観察中に転移・再発した症例の臨床経過と生命予後を明らかにすることを目的として後向きアンケート調査を行った.結果:48 施設から回答をいただき,① 2001 年から2008 年の間の再発は101 例であった.再発形式はリンパ節再発21 例,遠隔転移再発45 例,粘膜下層以深の局所再発35 例であった.② 経過観察例90 例中,原病死は54 例(60%)であり,再発例における50%生存期間は39 カ月とその予後は不良であった.③ リンパ節再発,遠隔転移再発,粘膜下層以深の局所再発,いずれの再発形式においても,予後は不良であった.④ 再発後の平均生存期間は手術施行例で,非施行例に比較して有意に長かった.結論:大腸T1 癌の再発例において,salvage 手術は一定の予後改善効果を認めるものの,全体としては,再発形式にかかわらず予後は不良であるため,内視鏡摘除後大腸T1(SM)癌でリンパ節転移リスクを有する例における経過観察の決定は慎重に行うべきである.

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現行の「大腸癌治療ガイドライン2019 年版」では,内視鏡切除されたpT1大腸癌において,(1)T1b(SM 浸潤度1,000μm 以上),(2)脈管侵襲陽性,(3)低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌,(4)浸潤先進部の簇出(budding)BD2/3 のうち一因子でも認めれば,追加治療としてリンパ節郭清を伴う腸切除が弱く推奨されている.当科の成績と同様の文献報告から,大腸T1 癌において先行する内視鏡切除が追加外科手術後の予後に影響を与えないことが明らかとなった.したがって,大腸T1 癌に対する完全摘除生検としての内視鏡切除の役割はますます重要になる可能性がある.

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転移の可能性のある大腸T1 癌に内視鏡治療を行うことが追加手術後の予後に影響を与えないか危惧される.内視鏡治療の熱焼灼によって遺残腫瘍の増殖能が上がるという報告や,切除後検体からは評価できない非連続性脈管侵襲の報告等,慎重な意見がある一方,長期成績,周術期の合併症,死亡例の比較において先行する内視鏡治療は予後に影響しないと考えられている.しかし,SM 浸潤度以外のリスク因子はすべて腫瘍先進部の組織所見であることから,確実に一括完全摘除することがきわめて重要である.また,精度の高い内視鏡診断を行い,適切な切除標本の取り扱いができるように病理側と密接に連携することが重要である.

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早期大腸癌内視鏡治療後には局所再発,異時性大腸癌の早期発見のために適正なサーベイランスを行うことが必要である.初回,大腸内視鏡において盲腸未到達,腸管洗浄不良,観察不十分などのエピソードがあった場合には短期間で再検することが望ましい.質の高い検査が完了後,以下のサーベイランスを実施する.Tis 癌完全切除後はadvanced adenoma よりもさらに高リスクであり,1 年後の大腸内視鏡によるサーベイランスが望ましい.T1 癌においては大腸内視鏡に加えて画像診断や腫瘍マーカーを追加することが必要である.分割切除後は局所再発のリスクが20%前後と高く,6 カ月前後での大腸内視鏡によるサーベイランスが望ましい.

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症例は76 歳,女性.血便精査にて下部消化管内視鏡検査を施行した.直腸下部主体の約150mm 大の巨大なlaterally spreading tumor (LST)を認め,endoscopic submucosal dissection(ESD)を施行した.病理診断はLST-G(granular),150×100mm,adenocarcinoma( tub1-tub2) with tubularadenoma with moderate-severe atypia,Tis(M),ly(-),v(-),HM0,VM0 の結果であった.術後2 年目のCT 検査にて直腸間膜内に7 mm 大のリンパ節腫大を認めた.リンパ節再発と診断し,腹腔鏡下補助超低位前方切除術を施行した.本症例は病変が巨大であり,切り出しを5 mm 間隔にて施行している.それにより粘膜下層(SM)浸潤部位を切り出せなかった可能性がある.

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症例は70 歳代,男性.検診にてFOBT 陽性を指摘され,大腸内視鏡検査にて直腸Rb に径8 mm のⅡa 病変を指摘.拡大内視鏡診断にて一部に腺腫成分を伴った高分化腺癌,粘膜内からSM 微小浸潤と判断して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.当時の病理組織診断はAdenocarcinoma(tub1) in adnoma,浸潤距離598μm,ly0,v0.断端陰性の完全切除であった.しかし4 年後の定期検査時に同部位に中心隆起を伴うひだ集中所見を認めた.病変は過伸展した正常粘膜の立ち上がりと浅い陥凹,小さな円形様の上皮欠損を認め,拡大内視鏡診断にて遺残再発した癌と判断した.手術治療を行い4 年前の早期癌治療後の遺残再発と判断した.完全切除であってもまれに遺残再発をきたすことが報告されており,本症例もその1 例と考え再発の経緯を考察して報告した.

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60 歳代,女性,S 状結腸のLST-NG 病変.色素拡大内視鏡観察ではSM 深部浸潤所見を認めずESD を施行した.病理結果ではdesmin 染色の結果,SM浸潤度1,000μm であった.D2-40 およびEVG 染色にて検討し,明らかな脈管浸潤を認めなかった.水平・垂直切除断端は陰性であった.大腸外科にもコンサルトしつつ治療方針を相談したが,患者本人は追加外科切除を拒否したため経過観察となった.1 年に1 回の下部消化管内視鏡検査,CT 検査,腫瘍マーカーにて慎重に経過観察を行っていたところ,術後5 年目に腫瘍マーカーの上昇,CT 上S 状結腸付近の腫瘤像,下部消化管内視鏡検査でのESD 瘢痕付近の隆起を認め,局所再発と診断し追加外科切除を行った.追加外科切除では粘膜・粘膜下層には腫瘍成分は認めず,漿膜下層を主体とした腫瘍細胞を認めた.

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症例は80 歳台,男性.健診目的の大腸内視鏡検査で直腸RS に60 mm 大,半周性の結節混在型側方発育型腫瘍(LST-G,nodular mixed type)を指摘され,当院でESD により一括切除した.病理組織では腺腫の一部に認められた癌が粘膜下層に浸潤しており,腫瘍表層から最深部まで6 mm であった.脈管侵襲はみられず,budding grade 1 で深部断端は陰性であり,高齢を理由に追加外科手術は希望されなかった.13 カ月後のPET-CT で,傍直腸リンパ節腫大,肝右葉,両側肺に複数の転移巣を指摘された.リンパ節転移リスク因子が浸潤距離のみの場合は追加手術のメリットが低いと報告されているが,転移の可能性が皆無ではないことを十分に説明する必要がある.

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非特異性多発性小腸潰瘍症は,病理学的に特異的な炎症所見を伴わない比較的浅い潰瘍が小腸に多発するまれな疾患である1),2).近年われわれは,エクソーム解析の結果,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1 遺伝子の変異が本症の原因であることを明らかにし,“chronic enteropathyassociated with SLCO2A1 gene”(CEAS)という新規呼称を提唱した3).同遺伝子は,ばち指,皮膚肥厚と骨膜症を3 主徴とする肥厚性皮膚骨膜症の原因遺伝子としても知られており,一部のCEAS 患者には同様の消化管外徴候を認めることが報告されている4).今回,本症の臨床的特徴を明らかにすることを目的として全国調査を行った.

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大腸内視鏡(colonoscopy;CS)において,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の重症度を評価するスコアはUlcerative Colitis Endoscopic Indexof Severity;UCEIS,Mayo 内視鏡スコアなどが用いられている.一方,大腸カプセル内視鏡(colon capsule endoscopy;CCE)においては,UC の炎症を評価するスコアは存在していなかった.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻3号 (2019年5月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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