INTESTINE 23巻4号 (2019年7月)

特集 原因不明消化管出血(OGIB)

序 説 松本 主之
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21 世紀初頭にカプセル内視鏡とバルーン内視鏡が消化管の診療に導入され,小腸疾患の診断と治療に大きな進歩がみられた.そのような状況で注目されたのが,原因不明の消化管出血(obscuregastrointestinal bleeding;OGIB)である.1960 年頃には,類義語として「開腹手術下に消化管を観察しても出血源が明らかでない病態」がalimentarybleeding of obscure origin と表現されていた.その後の消化管内視鏡の開発と普及に伴い,現在では「上部・下部内視鏡検査で出血源を特定することのできない消化管出血」と定義された「OGIB」が一般的に用いられている.

Ⅰ.OGIBの定義 中村 哲也 , 寺野 彰
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日本におけるobscure gastrointestinal bleeding(OGIB)は2010 年に,「上部及び下部消化管内視鏡検査を行っても原因不明の消化管出血」と定義された.それは再発または持続する下血や血便などの可視的出血がみられる顕在性(Overt;① on going,② previous)と,再発または持続する鉄欠乏性貧血(IDA)および/または便潜血検査(FOBT)陽性の潜在性(Occult)に分類される.ただし,大腸内視鏡検査で異常がなく貧血がなければ除外する.OGIB の定義は海外の定義とは微妙に異なるため,混同しないように注意が必要である.

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小腸用カプセル内視鏡(SBCE),バルーン内視鏡(BAE)の開発により,小腸疾患の診断と治療が飛躍的に向上し,さらに消化管開通性を確認するPillcam®patency カプセル(PC)の登場により,小腸疾患に対するSBCE の適応が拡大した.SBCE やダブルバルーン内視鏡による多施設共同研究の結果,本邦におけるOGIB の原因疾患は,潰瘍・びらん(約34 ~ 53%)がもっとも多くみられ,ついで血管性疾患(約23 ~ 34%)が多かった.潰瘍・びらんの内訳で頻度の高かったNSAIDs 起因性小腸潰瘍,クローン病,腸管ベーチェット病と単純性潰瘍,小腸腸結核,またchronic enteropathy associated with SLCOA1 gene(CEAS)について解説し,また各疾患に対するSBCE やBAE の適応などについても述べた.

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原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding;OGIB)の原因として,小腸腫瘍性病変に遭遇することがある.他の疾患と同様に小腸腫瘍においても早期診断は治療成績を向上させ,患者予後改善にも寄与する.小腸腫瘍の臨床症状に特異的なものはないが,良悪性問わず一定数に出血を伴う.このためOGIB という臨床症状に遭遇したとき,小腸腫瘍性病変が存在していることも念頭におく必要がある.balloon assisted enteroscopy(BAE)やsmall bowelcapsule endoscopy(SBCE)が普及した今,モダリティの選択として,まず造影CT 検査を行い血管外血液漏出や壁肥厚像などの異常所見があればBAE を優先し,異常所見がなければSBCE を優先する.これらのモダリティを相互的・補完的に用いることが早期診断につながると考えられる.

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カプセル内視鏡・バルーン内視鏡が普及してきた現在も,OGIB(obscuregastrointestinal bleeding,原因不明消化管出血)の原因となる血管性病変の診断は容易ではない.それは微小病変が多いため,活動性出血がないときの存在診断の困難性と小腸外出血の可能性も否定できないことによる.当施設で2004 年4 月よりOGIB を契機にバルーン内視鏡を施行した435例中91 例20.9%(男性51 例,女性40 例,平均年齢70.5±5 歳)が小腸外を含む血管性病変であった.背景として比較的高齢で心血管系の合併症を有する患者は,全消化管に出血の原因となる血管性病変を有している可能性があり,その診断のためには出血時の緊急内視鏡が有用である.

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以前「暗黒大陸」といわれた小腸領域の診断法・治療法はさまざまな技術革新により進歩した.とくに小腸内視鏡はカプセル内視鏡とバルーン内視鏡の出現により目覚しく発展した領域である.そのおかげで多種多様な小腸疾患が的確に診断され,低侵襲に治療できるようになった.そのなかでもっとも多く遭遇する小腸出血の診断戦略を概説する.

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透析患者において消化管出血は主要な合併症であり,尿毒症による血小板機能異常や,血液透析における間欠的な抗凝固薬の使用が原因と考えられている.透析患者,慢性腎臓病では小腸病変の頻度が高く,小腸出血の再出血のリスク因子となりうる.また,出血が遷延したり,出血症状が強く出ることがあり,微小な病変であっても原因不明の消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding;OGIB)の原因となりうるため注意が必要である.

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肝硬変ではangioectasia や小腸静脈瘤の発生,さらに出血傾向を伴うことから小腸出血が起きやすい状態にある.肝硬変患者では小腸angioectasia が非肝硬変患者と比較して6 倍近く認められると報告されている.同時にangioectasiaの多発傾向も認められ,出血傾向も伴う肝硬変患者ではangioectasiaの治療後も,非肝硬変患者と比較して4 倍もの再出血率が報告されている.門脈圧の亢進と小腸の浮腫に相関が認められ,小腸浮腫で門脈圧が亢進しているかを推定できる可能性がある.門脈圧とangioectasia の間に明らかな相関は認められていない.肝硬変患者では原疾患によりその予後が強く規定されており,小腸出血患者の長期予後の報告はなく,予後は不良と考えられる.

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高齢化社会が進んでいるわが国では,日常臨床においてしばしば大動脈弁狭窄症に遭遇する.Heyde 症候群とは,重症大動脈弁狭窄症患者に消化管出血を合併する病態で,消化管血管異形成と後天性フォンウィルブランド病が関与している.上・下部消化管内視鏡で原因が断定できない場合は,小腸からの出血も疑い,カプセル内視鏡が有効なこともある.大動脈弁置換術や経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI;transcatheter aortic valve implantation)により治癒することが知られており,大動脈弁狭窄症が引き起こす後天性フォンウィルブランド病に消化管出血を合併するHeyde 症候群のことを認識することが肝要である.

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CT は多くの施設で緊急検査に対応可能で,広範囲の情報を網羅的に得られるため,OGIB 診療において第一に行うべき検査と考えられている.造影剤の使用が可能であればダイナミックCT を撮影し,撮影範囲としては胸部を含めて関連疾患の確認をすることが重要である.また,小腸を液体で拡張してCT を撮影するCT エンテログラフィー/エンテロクリーシス(CTE)の登場により小腸病変もCT で詳細に評価可能となり,欧米ではOGIB に関する報告もみられる.CTEは腸管壁や腸管外の情報も同時に得られるため,カプセル内視鏡やバルーン内視鏡との併用により診断能は高まると考えられ,CTE をどのようにOGIB 診断アルゴリズムに組み込むかが今後の課題である.

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小腸疾患の内視鏡診断はバルーン内視鏡(balloon-assisted endoscopy;BAE)や小腸カプセル内視鏡(small bowel capsule endoscopy;SBCE)など検査デバイスの発展により,飛躍的に向上した.それに伴い原因不明の消化管出血であるOGIB(obscure gastrointestinal bleeding)に関する論文も多く報告されるようになり,その全貌が明らかになってきている.かつて外科的手術や血管内放射線治療が必要とされた小腸出血は,内視鏡的に止血が可能になっており,患者への侵襲も少なく済むようになった.本邦では2015 年にOBIG における診断アルゴリズムも提唱され,診断や治療方針の参考にされている.実際の診断時には,検査時期や病変の種類が病変発見成功の鍵を握っているが,現状ではその体制や運用の方法は各施設に委ねられている.今後,OGIB の診療を広めていくためには,検査の運用や体制作りも非常に重要になってくる.本稿では当院におけるOGIB 時のBAE やSBCE の検査体制や運用方法について記載する.

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バルーン内視鏡を用いることで,小腸病変の内視鏡診断と治療が可能になった.小腸出血の原因は,血管性病変,潰瘍などの炎症性病変,腫瘍性病変,メッケル憩室などさまざまである.血管性病変の多くは内視鏡治療が可能だが,潰瘍性病変は内科的治療,腫瘍性病変とメッケル憩室は外科的治療が選択されることが多い.持続出血例に対する内視鏡的止血術では,鉗子口の大きな治療用スコープと円筒型フードが有用である.経口挿入し,血性腸液が認められたらクリップでマーキングしておき,その近くにあるはずの出血源を探す.血性腸液の貯留により出血点を視認できない場合には,gel immersion endoscopy による視野確保が有用である.

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小児のOGIB に対する診断・治療戦略について概説した.第一に腹部超音波は全例に施行する.黒色便では上部消化管内視鏡を行い,出血源が同定されなければそのままカプセル内視鏡を挿入する.暗赤色の血便・下血の場合,前処置を行い経肛門的バルーン小腸内視鏡検査を行う.内視鏡的観察のみでなく,造影も行う.経肛門的バルーン小腸内視鏡で出血源の特定ができない場合は胃粘膜シンチグラム,カプセル内視鏡,経口的バルーン小腸内視鏡,CT またはMRI のいずれかより検査を選択する.治療は原因疾患・病態に応じて決定する.

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小腸における急性動脈性出血は,まれではあるが出血性ショックを伴う重篤例が含まれる.出血の原因はさまざまであるが,止血が優先されるべき状況となることが多い.止血の方法の一つにinterventional radiology(IVR)による経カテーテル的動脈塞栓術がある.デバイスの進化と普及に伴い,より末梢動脈にて塞栓する超選択的塞栓術が可能となった.本稿ではIVR の適応と限界,塞栓術の方法,塞栓後生じうる合併症について記載し,近年の急性消化管出血に対するIVR について解説する.

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小腸血管性病変は原因不明消化管出血の原因として頻度の高い病変の一つである.とくに高齢者や抗血栓薬内服歴,基礎疾患として心血管疾患,肝硬変,慢性腎不全を有する場合には注意が必要である.小腸血管性病変に対する治療法として,内視鏡治療,IVR,外科手術などがあるが,バルーン内視鏡下ポリドカノール局注法(PDI)は,簡便で安全性が高い治療法である.PDI のおもな適応は,angioectasia(矢野・山本分類Type 1)と海綿状血管腫である.また,PDI は補助療法としてType 2 やType 3 の病変にも有用である.

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「原因不明消化管出血(OGIB)」の診療における診断や治療に小腸内視鏡検査は必須かつ有用であることに議論の余地はない.バルーン内視鏡検査の普及とともに小腸診療は飛躍的に進歩してきたが,まだ歴史が浅く,保険診療が実態にそぐわない部分も多々ある.必要に応じて,保険点数の改正や新たな項目の保険収載などで保険診療をより適正化することによって,さらなる技術の普及と小腸診療の発展が望まれる.

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論文の背景 大腸内視鏡検査によって腫瘍性病変を早期発見し治療することは大腸癌の罹患率や死亡率抑制に寄与すると報告されている.しかしその一方で,さまざまな要因(挿入率や個々の観察技術,大腸の解剖学的素因など)によって病変が見逃されているという課題が依然として存在する.事実,1 回の大腸内視鏡検査においておよそ20~40%の病変は見逃されており,また大腸内視鏡検査における腺腫発見率(adenoma detection rate;ADR)が1%上昇すると大腸癌発症率が3%低下し,interval cancer 由来の死亡率が5%低下すると報告されている.本研究は「大腸内視鏡検査における病変見逃し」という背景をもとに新型の広視野角大腸内視鏡(Full-spectrum endoscopy;FUSE,視野角330°)と従来型内視鏡(視野角140~170°)との病変検出能についての比較試験を多施設前向きで検証している.

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論文の背景 大腸憩室出血の確定診断が得られた症例では,保存治療で自然経過を見ると再出血率がきわめて高いため内視鏡治療が推奨されている.これまでの大腸憩室出血の内視鏡治療の研究は,後向きデザインで症例数の少ないものがほとんどであった.日本では,クリップ術やバンド結紮治療を行っている施設が多いが,いずれの治療が有用か,とくに長期再出血リスクに注目した前向き研究はなかった.そのため,憩室出血の確定診断症例において,クリップ術とバンド結紮術の長期アウトカムや安全性を比較しどちらの治療が有用かを明らかにする研究を行った.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻4号 (2019年7月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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