INTESTINE 23巻2号 (2019年3月)

特集 腸管感染症

序説 緒方 晴彦
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今回は松本主之先生の発案により「腸管感染症」がテーマとなった.呼吸器感染症とともにきわめて頻度の高い疾患群である消化管の感染症は,主たる症状は下痢・血便・腹痛などでほぼ類似しているが,その感染部位により環境が異なることで病原体も異なり,多彩な病態を呈する.そこで本号では腸管感染症をいかに診断していくか,さらに時代的変遷により新たな治療法も登場しており,これら2 点につき情報提供することを主眼としている.

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腸管感染症は日常診療で高頻度に遭遇する疾患の一つであり,腸管粘膜に炎症を引き起こすことから一般的に感染性腸炎とほぼ同義に扱われる.感染性腸炎は細菌性,ウイルス性が主たる原因であり,季節により発生件数が変動するものもあり本邦においてはインフルエンザのように季節性流行疾患として話題となることも多い.患者数と食中毒発生件数を見ると細菌性ではカンピロバクター感染がもっとも多く,ウイルス性ではノロウイルス感染が多い.夏季には依然として腸管出血性大腸菌による食中毒事件が報道されることも珍しくない.また腸管感染症分野の topics として Clostridioides(Clostridium)difficile 感染症に対する治療薬であるフィダキソマイシンが発売されたことも記憶に新しい.

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腸管感染症の診断は病原体の検出によって行うのが基本であるが,さまざまな理由で内視鏡,超音波,CT などの画像検査が行われることが少なくない.本稿では種々の腸管感染症における画像所見の概略を述べるとともに,病変の成立機序とその発生部位についても解説を試みた.画像所見から感染症の可能性を念頭において正確な診断ができるようになるためには,各疾患についての知識が必要である.

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腸管感染症の原因の診断方法には,便培養検査,便塗抹検査,抗原検査,遺伝子検査,血清抗体検査,血液培養検査などさまざまなものがある.よく用いられる検査は便培養検査と便抗原検査である.便培養検査では,病原菌をある程度推定することが重要である.便抗原検査は,病原体,病原因子,毒素などを抗原とする糞便を用いた迅速診断キットが汎用されている.簡便かつ短時間で判定可能だが,感度や特異度が問題となるものもあり,その限界を知って用いる必要がある.

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腸管感染症の生検組織で認識できる,いくつかの特異的な組織所見について解説した.カンピロバクター腸炎は粘膜の好中球浸潤や出血が目立ち,潰瘍性大腸炎との鑑別が重要で,エルシニア腸炎はリンパ球集簇内に大型の類上皮細胞肉芽腫がみられ,その中心に壊死,好中球浸潤,膿瘍形成を示すことでクローン病と鑑別することができる.非定型抗酸菌症ではマクロファージの集簇が特徴的で,抗酸菌染色で陽性を示す菌がマクロファージの胞体に充満する.腸管スピロヘータ症は,大腸粘膜表層に好塩基性帯状の偽刷子縁として観察される.アメーバ性大腸炎については,PAS 染色陽性で赤血球貪食像を示す栄養型アメーバを潰瘍部の壊死組織の中に証明することで診断できる.このように腸管感染症における生検組織診断は,時に病原体確定に有用な役割を果たすことができる.

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腸管感染症のほとんどは対症療法のみで自然軽快するが,時に診断を迫られることがある.確定診断には病原体の検出が必須であるものの,その同定率は決して高くない.病歴や臨床経過に加え,特徴的な画像所見を拾い上げていくことで,起因病原体を推定し,鑑別疾患を絞り込む努力が必要である.本稿では,腸管感染症と臨床像の類似する急性炎症性腸疾患(虚血,血管炎,薬剤)について概説する.

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急性細菌性腸管感染症のうち,日常診療で遭遇する頻度の高いカンピロバクター腸炎,サルモネラ腸炎,病原性大腸菌腸炎と,エルシニア腸炎について,その臨床的特徴や内視鏡所見について概説した.腸管感染症の確定診断には便培養などの細菌学的検査が必須であるが,内視鏡検査は病変の罹患部位・範囲や内視鏡像から起因菌の推定や他疾患との鑑別が可能なことがあり,その後の治療方針決定にも有用である.

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CDIは,抗生剤投与によって正常腸内細菌叢が撹乱され,C. difficile が大腸に定着し分泌する2 種類の外毒素(toxin A およびtoxin B)によって引き起こされる.CDI は便中C. difficile 毒素検査で診断する.治療にはメトロニダゾールと経口バンコマイシンが用いられる.新規抗菌薬であるフィダキソマイシンは重症例,再発例,難治例における治療選択肢に位置づけられている.CDI は高頻度に再発するため再発例に対する治療が重要である.ベズロトクスマブはC.difficile toxin B に対するモノクローナル抗体である.再発を繰り返す患者や再発リスクの高い患者において有効性が期待されている.CDI が複数回再発した場合の治療選択肢として糞便微生物移植が注目を集めている.

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わが国の結核感染は激減したとはいえ,未だ罹患率は多くの先進国に比べれば高く,今日でも毎年新たに200 人を超える腸結核患者が発生している.腸結核は肺結核に続発するものと,肺病変とは無関係な原発性腸結核に分類されているが,近年は続発性の腸結核が増えている.腸結核はリンパ装置が豊富な回盲部に好発し,多彩な潰瘍性病変や腸管変形を呈するが,画像上もっとも特徴的なのは輪状潰瘍と多発する潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯(萎縮瘢痕帯)を形成することである.診断には生検組織の遺伝子検査(PCR 法)や培養(MGIT 法),IGRA などが有用であるが,確定診断が困難なことが多く,抗結核療法にて症状や所見が改善すれば腸結核と診断されている.なお,近年ではクローン病や関節リウマチに対する抗TNF-α抗体などの生物学的製剤による結核の再活性化も問題となっている.

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腸管ノロウイルス,ロタウイルス感染症はわが国の小児のウイルス性胃腸炎の約7 割を占める.環境に安定して存在し少量のウイルス粒子で感染が成立,アルコール消毒が効きにくいという特徴から,毎年秋から春にかけて流行がみられる.最近では便中抗原迅速検査が保険適応になり,容易に診断がつきやすくなった.ロタウイルス胃腸炎は乳幼児に多く,ほとんどが5 歳までに感染し重症化しやすい.ノロウイルス胃腸炎はロタウイルスより軽症であるが,ウイルスが変異しやすく毎年全年齢層での流行がある.乳児の胃腸炎では母乳は制限せず,早期から経口補水療法を開始し,嘔吐が治まったら早めに人工乳や通常の食事を開始する.2011 年,ロタワクチンが承認され,96%に接種した地域では入院が84%減少し,50%の接種率でも外来数が半減している.

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サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルスに属する二本鎖DNA ウイルスの一つである.通常,幼少期に初感染し,その後生涯にわたり潜伏感染する.しかしながら,造血幹細胞移植や臓器移植後,後天性免疫不全症候群,化学療法,ステロイドや免疫抑制薬による治療中など,免疫抑制状態の患者でしばしばCMV の再活性化が認められる.CMV の再活性化にはTNF-αをはじめとする炎症性サイトカインによる直接的な影響と,基礎疾患や抗癌剤,ステロイド,免疫抑制薬など治療薬剤による宿主の免疫能の低下が関与する.消化管はCMV 感染症の好発部位の一つであるが,その内視鏡像は多彩であり診断に苦慮する場合も少なくなく,今後のさらなる検討が必要である.

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寄生虫(広義の寄生虫)は原虫と蠕虫(狭義の寄生虫)に分類される.原虫は単細胞生物であり,代表的な腸管感染症として赤痢アメーバ症がある.蠕虫は多細胞生物であり,代表的な腸管感染症として,広節裂頭条虫症,日本海裂頭条虫症,糞線虫症,アニサキス症,日本住血吸虫症などがある.これらの寄生虫感染症は,いずれも特徴的な病歴・生活歴を示すため,診療に当たっては問診がきわめて重要な意義をもつ.また寄生虫を特定する特異的診断法と駆虫治療法について熟知しておくことが重要である.

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アメーバ性大腸炎は赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の感染によって発症し,腹痛や粘血便などをきたし,慢性の経過をたどることが多い.近年では男性同性愛者間での性感染症として増加傾向にあり,検診発見例や無症候例も増加している.内視鏡的には盲腸や直腸を好発部位とする紅暈を伴うびらん・潰瘍,汚い白苔の付着が特徴である.治療としてはメトロニダゾールが著効するため,潰瘍性大腸炎などの他疾患との鑑別が重要である.

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内視鏡的に大腸の腺腫性ポリープを切除することにより将来的な大腸癌を予防できるといわれており,内視鏡的大腸ポリープ切除術は世界中で広く行われている.従来はスネアでポリープの根部を絞扼し通電を行ったうえで切除する方法(ホットスネアポリペクトミー;HSP)が慣例的に多く用いられてきた.近年,通電を使用せずにポリープを切除するコールドスネアポリペクトミー(CSP)の簡便性と安全性が評価され,小さなポリープについてはCSP を用いて切除することも多くなってきている.しかしながらCSP は通電せずに切除を行うため,切除断端の焼灼効果が期待できず,従来の方法と比べて完全切除割合が劣ることが懸念された.そこで今回,筆者らは4~9 mm の大腸ポリープを対象として,CSP とHSPの完全切除割合を比較する多施設共同ランダム化比較試験を企画した.

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Endocytoscopy(EC)は約400 倍の超拡大観察により粘膜表層の腺腔,核をin vivo で観察でき,optical biopsy を可能とした次世代の内視鏡である.EC による大腸病変の質的診断,量的診断は良好な成績が報告されている1)~ 3).EC はHE 染色により得られる病理組織像と類似した画像を描出することができるため,EC による早期大腸癌の分化度診断が可能であるか検討した.

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目次

訂正とお詫び

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻2号 (2019年3月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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