臨床雑誌内科 117巻3号 (2016年3月)

肺高血圧症-初期診断・治療・管理のすべて

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epoprostenol持続静注療法をはじめとする治療法の開発により,肺動脈性肺高血圧症の予後は劇的に改善している.昨今では欧米における臨床試験においても,早期からの併用療法が良好な予後をもたらす治療法として注目が集まっている.本邦の肺高血圧センターにおける疾患の予後は,欧米のそれと比較してさらに良好であるが,その背景には積極的な治療介入が行われていることが本邦におけるレジストリー(Japan PH Registry:JAPHR)の解析から明らかになってきた.多剤併用療法およびepoprostenol持続静注療法を躊躇しない治療戦術をとっていくことが,良好な予後を実現するために大切である.

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するバルーン肺動脈形成術(BPA)は,2001年に米国で初めて報告され,日本で手技が確立した治療法である.単に血管病変を治療するのが目的ではなく肺高血圧症という特異な病態の治療を目的とする手技であること,いまだに合併症を完全に防げるようになったわけではなく,ときに致死的な合併症をきたす危険性があることから,通常のカテーテル治療と比べてインターベンション医(IVR医)の誰でもが試みるべき手技ではない.薬物療法,肺動脈(血栓)内膜摘除術(PEA),BPAといったいずれの治療法も長所・短所があり,一つの治療法に固執せずに適切な選択をすることが必要である.

肺高血圧の病態生理の本質 江本 憲昭
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平均肺動脈圧が25mmHg以上に上昇しているという状態では,すでに広範囲の肺血管が障害されていると考えるべきである.肺動脈性肺高血圧症の成因として,血管の収縮拡張のアンバランスや血管壁構成細胞の異常増殖などが考えられている.肺動脈性肺高血圧症の発症の分子機構はいまだ明らかではなく,今後さらなる研究成果が待たれる.

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肺高血圧症の早期診断とは,「肺動脈圧が肺高血圧症とされる段階に入ったらとにかく確実に診断する」ことである.そのためには,問診により症状を十分に確認して肺高血圧症を鑑別診断として必ずあげ,可能性があったら引き続き診断を進めていくことである.なかには,症状の自覚がなく,スクリーニング検査でみつかることもある.肺高血圧症の診断は心エコーにより行う.肺高血圧と診断されたら,肺高血圧症の原因疾患を鑑別していく.

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肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は予後不良な疾患であるが,早期に診断し適切な治療介入を行うことで生命予後の改善が得られることがわかってきた.そのために重要なのは早期の診断である.心エコー検査はPHのスクリーニングにもっとも適した検査である.また,先天性心疾患や左心不全といったPHの原因となる病態の評価にも用いられる.さらに,心エコー検査はPHの予後予測因子にも有用な情報を提供する.右房・右室拡大や心嚢液貯留に加えて,心エコー検査による右室機能が重要視されてきている.治療効果の判定においても心エコー検査は有用である.本稿ではPHの病態評価に用いられる代表的な心エコー指標について,米国心エコー図学会ガイドラインに基づいて概説する.

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肺高血圧症の診断に右心カテーテル検査は必須である.肺高血圧症は安静時肺動脈平均圧が25mmHg以上と定義されている.肺高血圧症の予後予測因子には血行動態の指標が含まれている.

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心臓MRI検査は,正確かつ再現性が高く右心の形態および機能評価が可能であり,とくに右室の容量・機能評価に関してはゴールドスタンダードとして確立されている.心臓MRI検査による右心機能評価は,肺高血圧症例の重症度を正確に反映し,とくに右室拡張末期容積の増大,心拍出量や駆出率の低下は予後予測因子となる.侵襲性の低い検査法であり,造影剤を使用せずに右心機能評価が可能であるため,経時的に重症度を評価する際や,治療効果判定を行う際に有用である.重症の肺高血圧症例では心室中隔右室接合部付近に遅延造影所見を認めることがあり,予後予測因子であることが報告されている.

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膠原病性肺高血圧症(CTD-PAH)において最重要疾患である全身性硬化症(SSc)は2013年に分類基準が改訂され,早期・軽症例のみならず皮膚硬化よりも血管障害を主とする症例でも診断が可能となっている.SScおよびSScに類した臨床的特徴を有する場合には経胸壁心臓超音波・肺機能検査・血清NT-pro BNPなどによって定期的なスクリーニングを行うことで心臓カテーテル検査が必要な症例を発見することが可能となる.全身性エリテマトーデス(SLE),混合性結合組織病(MCTD)などに伴うPAHは免疫抑制療法に反応すれば予後良好であり,SScとは治療戦略が異なることに留意が必要である.

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成人先天性心疾患(ACHD)患者の予後規定因子として肺動脈性肺高血圧症(PAH)は重要である.シャント性PAH(PAH-ACHD)は臨床的に4つの病態に分類される.Eisenmenger症候群と左右シャントを伴うPAHは一連のスペクトラムであるが,カテーテル検査(Qp/Qs)をもとに定義を明確にしておく.偶然に先天性心疾患を合併したPAHと修復術後に残存したPAHは,基本的にIPAHの病態を考える.PAH治療薬が存在する現在,いずれの病態に対しても積極的介入の可能性があり,予後改善のためにエビデンスの構築が課題である.

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肝疾患に伴う肺高血圧症は,WHO分類第1群-4の各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症に位置づけられ,「門脈(性)肺高血圧症」と表記されてきた.実際には門脈圧亢進自体ではなく,門脈-体静脈シャントの存在が重要と考えられており,肝(門脈)疾患の約5%に合併する.ほかの肺高血圧症と同様に,早期診断でもっとも有用な検査は心エコーであり,確定診断には右心カテーテル検査を要する.内科的治療の基本的戦略もほかの肺動脈性肺高血圧症とほぼ同様であるが,肝移植の適否判断とそれに向けてのPGI2静注(epoprostenol)療法を用いた治療介入を必要とする場合がある点に特異性がある.

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肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)は,肺高血圧症分類では1'群であり,難治性疾患克服研究事業の指定難病の一つとなった.末梢肺静脈や毛細血管の狭窄が原因であり,肺動脈性肺高血圧症とは病態や治療法が異なるため,早期に臨床診断を行い,治療方針を選択することが重要である.PVOD/PCHでは,軽労作で酸素飽和度が著明に低下し,肺拡散能の低下や,HRCT上小葉間隔壁の肥厚・すりガラス様陰影を認める.急速に悪化する症例もあり,きわめて予後不良である.唯一の根治療法は肺移植であり,診断時にその適応を検討する.PVOD/PCHでは,肺高血圧症治療薬により肺水腫が惹起される危険性がある.

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左心疾患に合併する肺高血圧症の治療は,原則左心不全の治療である.肺動脈楔入圧の上昇が肺高血圧症の主因であるが,肺血管抵抗の上昇が目立つ一群が存在する.肺血管拡張薬の安易な使用は避けるべきだが,一部の症例では有効である可能性がある.

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肺疾患に伴う肺高血圧症(PH)は,全経過中に発症しうる合併症で,臨床的に重要な病態である.肺疾患に伴うPHの合併頻度は,肺疾患や肺血行動態の重症度によって異なる.換気障害が経時的に安定し有意なほかの併存疾患がない症例で,呼吸困難や肺拡散能力の悪化が認められた場合,肺疾患に伴うPHの存在を考える必要がある.肺疾患に伴うPHのスクリーニングや早期診断には経胸壁心エコー,確定診断には右心カテーテル検査(RHC)を行う.肺疾患に伴うPHの治療は,肺機能障害とPHの重症度で分類された各群の推奨指針に区分される.肺疾患に伴うPHの長期治療管理では,肺疾患の進行に伴う呼吸不全の悪化を見落としてはならない.

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持続する労作時呼吸困難を訴える患者ではCTEPHを含めた肺高血圧症のスクリーニングを行う.スクリーニング方法として心エコー検査による三尖弁圧較差の測定や右室負荷所見を捉えることが重要である.右心カテーテル検査による肺高血圧症の診断および肺換気・血流スキャン,造影CT,肺動脈造影による肺動脈内の慢性血栓の確認が確定診断に必要である.

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5群の肺高血圧症は,(1)血液疾患,(2)全身性疾患,(3)代謝性疾患,(4)その他,に分類され,個々の症例により肺高血圧の発症メカニズムが多様であり,詳細に評価する必要がある.治療は原疾患に対する治療が優先されるが,1群の肺動脈性肺高血圧症様の病態を認める症例もあり,肺血管拡張薬による肺血行動態の改善や自覚症状改善の報告もある.

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強皮症に伴う肺高血圧症は肺動脈病変(1群),肺静脈病変(1'群),左心疾患(2群),間質性肺疾患(3群)が混合する複雑な心肺病態を呈する.臨床所見の有無にかかわらず多臓器に血管リモデリングが存在することから,治療前に包括的な心肺機能評価が必要である.1群主体では初期併用療法,2群/3群主体では肺血管拡張薬を少量から単剤で開始し,肺うっ血や酸素化の悪化がないことを確認して増量,他系統の薬剤を併用する.心肺病変トータルでの機能改善を目指して,治療開始後も頻繁な病態評価と治療薬調整が不可欠である.

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重症心不全では肺高血圧を高率に合併する.肺高血圧を合併する左心不全の予後は不良であり,また心移植後の予後も悪化する.肺高血圧のコントロールが困難な重症心不全では早期に補助人工心臓を検討する.

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肺疾患関連肺高血圧症に対する肺動脈性肺高血圧症(PAH)特異的治療薬の効果について,慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺炎(IP),CPFE(combined emphysema/fibrosis syndrome)を中心に研究されている.COPDやIPを対象とした試験において,ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬やエンドセリン受容体拮抗薬では有効とする報告もみられるが,RCTで有効性を証明できた薬剤はない.CPFEについては,前向きの報告がまだない.本邦からの他施設・後ろ向きの報告ではPDE5阻害薬の可能性が示唆されているが,前向きに証明する必要がある.可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるriociguatについては,現在特発性肺線維症(IPF)に合併したPHに対するRCTが行われており,その結果が待たれる.

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は器質化した血栓が肺動脈に存在し,肺高血圧症をきたす疾患である.CTEPH患者は進行性の呼吸困難症状と運動耐容能の低下,そしてAa-DO2の開大を伴う低酸素血症を認める.CTEPHにおける低酸素血症となるメカニズムは主に換気血流不均衡(VA/Qミスマッチ)と,それに加えて低心拍出量に伴うPVO2の低下である.CTEPHの低酸素血症の根本的な治療としてはVA/QミスマッチとPVO2の改善を目指すことが必要である.肺血栓内膜摘除術(PEA)により血行動態や運動耐容能が大きく改善し予後が改善するだけでなく酸素化も改善する.カテーテル治療である肺動脈バルーン拡張術(BPA)が登場し,血行動態や運動耐容能,右心機能の改善などの有効性データが出てきているが,BPAの酸素化の改善は詳細な検討はまだされていない.当院での症例の結果からのBPAも同様で,十分に血流を改善させれば酸素化も改善する.酸素化を十分に改善させるには可能な限り広範囲に閉塞,狭窄血管を治療し,できる限りVA/Qミスマッチを減らすことが必要である.予後を超えた目標として酸素化の正常化および在宅酸素療法からの離脱を指標に置くのは現状では放射線被曝の問題などの治療のデメリットを考えたうえで患者個人の治療メリットを考えて行う必要があり,その意義に関しては今後の検討が必要である.

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肺高血圧症に対する肺移植施設紹介の適応は,内科的治療不応,急速な病態進行,肺動脈性高血圧症(PAH)を標的とした点滴静注薬使用,肺静脈閉塞症(PVOD)あるいは肺毛細血管腫症(PCH)の診断または疑いとされている.肺移植待機登録のためには,検査データ収集・適応判断,患者・家族への1回目のインフォームドコンセント(IC),地区肺移植検討委員会での審査・承認,2回目のIC,中央肺移植適応検討委員会での審査・承認を要する.これらの手続きには通常約3ヵ月を要する.肺高血圧症に対する肺移植の標準術式は脳死両肺移植である.本邦の肺高血圧症患者の肺移植後5年生存率は70%弱で,欧米を中心とした国際登録データにおける約50%に比し良好であるが,欧米同様2割弱におよぶ術後早期死亡が最大の課題である.肺高血圧症患者の多くでは,長期間に及ぶ高肺血管抵抗を背景とした左右心のアンバランス(強大な右室と潜在的左心不全)が招来されている.肺移植術後急性期にはこのアンバランスによりしばしば肺循環障害・肺水腫が惹起され,ときに重篤なprimary graft dysfunctionをきたす.術後急性期管理のポイントは,鎮静,β遮断薬による右室の過剰収縮抑制に加え,必要に応じて持続血液透析濾過法(CHDF)やvenoarterial-extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)を適切に使用することである.術中,術後の大量出血もしばしば問題となるため,側副血行路の発達した肺門剥離の際の丁寧な操作とECMO使用時の厳密な凝固時間コントロールが求められる.

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遺伝性の肺動脈性肺高血圧症(PAH)ではbone morphogenetic protein(BMP)シグナル伝達経路に関わる遺伝子,とくにBMPR2の変異が高頻度に認められる.ACVRL1がコードするALK-1は血管内皮細胞に発現が比較的に限局する特別なBMPシグナル受容体であり,BMP9がその特異的なリガンドである.BMP9投与によるマウス・ラットPAHモデルの予防および治療効果が報告され,BMPシグナルの量的変化の重要性を示した.

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これまで,monocrotalineや低酸素誘発性肺高血圧症動物モデルを用いて,肺高血圧症の病態解明の研究および新規治療薬の開発が試みられてきた.これらの肺高血圧症動物モデルが治療薬の開発に貢献してきたことは間違いないが,末期のヒト肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)に特徴的なplexiform lesionを含む複雑性病変を認めない.本稿では,筆者が報告したvascular endothelial growth factor(VEGF)受容体拮抗薬と低酸素を組み合わせたヒトPAHに類似した血行動態と病理組織像を示す世界で初めての動物モデルを中心に解説する.

あなたのプレゼン誰も聞いてませんよ! 秘密の特訓編(第8回)

症例提示(第7回のつづき) 渡部 欣忍

PATHO-Words講座 病理のことばを読み解こう(Vol.20)(最終回)

細胞診で使われることば 福嶋 敬宜

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34歳男。右肩痛、発熱を主訴に、精査加療目的で当科入院となった。入院時、炎症反応高値であったが、白血球増加を認めず、著明な甲状腺機能亢進症を伴っており、発熱の原因として菌血症と甲状腺機能亢進の両方を考え、抗生物質・propranolol・thiamazoleの投与を開始した。その後、血液培養塗抹にてグラム陽性菌球を確認し、Gaシンチグラフィーにて右大腿骨と右第1肋骨に集積を認めたため、化膿性骨髄炎と診断された。抗生物質をceftriaxoneからcefazolinに変更するも2日後から症状が再発し、高熱と右肩の激痛を認めた。最終的にlevofloxacin、rifampicinの併用にて症状の改善が得られ、その後の経過は良好であった。

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57歳男。左側顎下部の疼痛・腫脹、開口障害、胸痛を主訴に当科を受診した。胸部・頭頸部CT所見より、歯性感染症が原因で生じた敗血症性肺塞栓症(SPE)と診断した。歯科治療目的で他院歯科口腔外科に紹介依頼したところ、左下顎根尖性歯周囲炎と診断され、第1、2臼歯の抜歯予定となった。当科では抗菌薬による治療を開始したが、HRCTでSPEによる多発性肺結節影の増加が確認された。抗菌薬をcefozopranの点滴に加え、garenoxacinの内服を追加したところ、受診後11日目にはCRPの低下を認め、左側顎部の疼痛・腫脹・開口障害、胸痛も漸次軽減したためcefozopranの点滴を終了した。受診後16日目のHRCTで多発肺結節は縮小が得られ、受診後23日に歯科口腔外科で抜歯が行われた。garenoxacinは抜歯後1週まで内服し、以後、順調に経過している。

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97歳女。呼吸困難を主訴に当科を受診し、初診時胸部単純X線所見より、右肺自然気胸と診断され、即日入院となった。入院直後より20Frトロッカーカテーテルを右胸腔内に留置し、持続吸引ドレナージを開始した。第3病日には空気漏れが止まり、右肺の再膨張が確認されたが、第4病日に右肺の再虚脱を認めたため、手術加療目的で呼吸器外科に転科した。第11病日に胸腔鏡下手術が施行されたが、右上葉S3のブレブが50mm大と大きかったため開胸術に移行し、右上葉S3部分切除術が施行された。病理組織学的に扁平上皮癌が明らかとなったが、家族の希望により追加切除は行わず、第24病日に退院した。術後1年経過した現在、右上葉に術後陳旧性変化を認めるものの胸水や腹膜播種所見は認めない。

隠れAddison病 山本 智英

基本情報

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臨床雑誌内科
117巻3号 (2016年3月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

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