がん看護 26巻4号 (2021年5月)

特集1 看護師だからこそできる“寄り添い”のかたち ~エキスパートの実践に学ぶ~

特集にあたって 川村 三希子
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 寄り添うという言葉はよく使われる言葉ですが,その本質や実態は曖昧です.

 以前,ある講演会で尊敬する臨床心理士から,「相手に寄り添うことは奇跡に近い」という話を聞いてから,私はことさらこの言葉の重み,そして実践するむずかしさを感じ,普段はほとんど使わないようにしてきました.しかし,看護教育の場面でも寄り添いという言葉を毎日のように耳にするようになり,改めてこの言葉が使われるときの志向性について考えてみたいと思うようになりました.この言葉が使われるとき,そこには患者さんの苦しみを理解したい,患者さんの思いを尊重したい,よい関係をつくりたい,よいケアをしたい,という看護師の願いや思いが込められているように感じます.一方で,言葉と実践とが切り離され,なにをすることが「寄り添い」なのか,それは看護師のどのような態度なのか,スキルなのか,その輪郭が曖昧なまま使われているとも感じます.

 がん患者・家族にかかわる看護師は,診断期,治療期,再発期,終末期,どの病期においても,がん患者・家族が今なにを大切にし,なにを求め,なにに悩んでいるのかを理解しようと努め,少しでも力になりたいと日々奮闘しています.しかし,自分は患者・家族と関係性を築けているのか,患者・家族の意向を尊重できたのか,自分の行ったケアはあれでよかったのか,そのケアのプロセスを省察する機会をもてず,自分の実践が看護としてかたちづくられないまま,不全感や自信のなさを抱えているのではないでしょうか.

 そのため本特集では,あえて「寄り添い」という言葉を使うことにチャレンジし,看護師だからこそできる,寄り添うことの実践について考えてみたいと思います.看護師は看護師であるがゆえに,普段であれば他人には見せないであろう患者の身体に触れることを許されています.そして病いのために生活の変化を余儀なくされる患者の生活の細部を観て整えることを通して,患者・家族の心身の回復を支えています.がん患者・家族の日々の療養や生活を身近に看ている(観ている)看護師だからこそできる「寄り添い」の本質とそのかたちを,エキスパートの皆さんの事例を通した実践から学んでみたいと思います.

 読者の方には,エキスパートの寄り添いのエッセンスが一人ひとりの患者に対しどのように繰り広げられるのか,看護師だからこそできる“日常の暮らしの中に織り込まれた寄り添いのかたち”を,共にケアを体験するように読んでいただけると思います.

 本企画が,がん看護を担うすべての看護師にとって,自分の看護実践をかたちづくる一助となれば幸いです.

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“寄り添い”のエッセンス

・症状マネジメントは患者の“やろう”とする力がキーとなる.患者の力を引き出すためには,患者を主体的にとらえ,患者のやりかたにアプローチする

・患者の力を引き出すためには,看護師が患者のもつ力を信じることが大切である

・患者にかける,通り一遍の言葉ではなく,一人ひとりの患者を思う日々の言葉の積み重ねが,寄り添いを形づくるように思う

 私は,大学院でDr. Larsonらが開発した症状マネジメントモデル(model for symptom management:MSM)1~3)について学んだ.患者は自分の症状体験に基づいて自分の症状を自分なりのやり方でマネジメントしようとしているという,患者を主体的にとらえたモデルである.看護師は,患者のもつ力を引き出し,患者自身が症状をマネジメントできるよう支援する.この学びが,私の患者への寄り添いの形の基本となっている.また,患者の力に働きかける看護師の何気ないケアに,意味を見つけることができている.

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“寄り添い”のエッセンス

・その人の真の思いはどこにあるのか,そこに触れようとする

・患者がなにを大切に生きようとしているのか,に向き合う

・患者が決めるために行うことや考えの整理を手助けする

 進行再発がん患者の多くは,がん薬物療法をレジメン変更しながら続けている.できる治療がないもしくは体調的にできないと宣告されるか,自分からやめるといわないかぎり治療に終わりはない.治療を続ける日々は緊張を強いられ,副作用や通院を伴うため日常生活との両立は容易ではない.いつまで治療を続けるか,いつまで治療を続けられるのか,副作用や苦痛症状と共存しながら体力,経済力,忍耐力がいつまでもつか,絶えず不安がつきまとい,続けられると自信をもって言える人は少ないであろう.多くの人は存命することで得られる生活や人生,楽しみ,喜びを得るために,治療を続けることを望む.一方で,がん治療は「ベルトコンベアに乗せられているようだ」という人もおり,本来は患者自身の価値観に応じて治療の意思決定は行われるべきだが,「治療を休みたい」とか「治療をやめたい」と主張すると,病院や担当医を変わる必要が生じたり,「本当にそれでよいのか」と自己決定を重視され,より患者の迷いは増える.私は現在,がん相談支援センターの相談員と緩和ケアチームの看護師として活動しているが,この「やめたい」を患者から打ち明けられるのは圧倒的にがん相談が多い.それだけおおっぴらには言えないのである.また,本当は「やめたくない」けれども治療を続ける自信がなく,迷っている患者もいる.このような患者に「よく先生と相談して」「命に替えられないのだから,よく考えて」「ご家族とは相談していますか」など,通り一遍の対応をしても,患者の意思決定には役立たないであろう.どうしてそう思うのか,なにに迷っているのか,話を聴いてほしいのか,なにかを確認したいのか,支援を望んでいるのかなど,その人がもっている真の思いに触れなければ援助には結び付かないと思う.いつまで治療を続けるか迷い続ける患者への“寄り添い”のかたちについて,2つの事例を通して紹介したい.

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“寄り添い”のエッセンス

・気がかりへのチューニング

・価値観の承認

・希望を支える伴走船

 緩和ケアは,がんの診断時から行う身体的・精神的苦痛等を和らげるケアであり,がんの診断時から終末期および遺族ケアまで適応できる範囲は広い.しかし「がん治療はこれ以上できないので,緩和ケアに移行する」と告げられた患者は「緩和ケアはなにも治療をしないところ」「緩和ケア=終末期ケア」としてとらえることがある.その結果がん治療中心の生活から,今をよりよく生きることに意識が向けられず,非現実的な治療に執着し,それが唯一の希望になってしまうことがある.

 ここでは,がん終末期にある「がん治療をあきらめたくない」と訴える患者とのかかわりから,患者の真の希望を見出したと思われる事例を示し「寄り添いのかたち」について考えてみたい.

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“寄り添い”のエッセンス

・患者・家族に関心を向け,患者から見えている生活やかれらが大切にしていることに気づくことは重要である

・看護師の気づきは,患者・家族の人生の断片に触れ,かれらの本意を理解し寄り添うことにつながる

患者が認識している時間の流れを理解する

 看護師のちょっとした提案に対して,最初にいつも否定するFさん(70歳,女性,悪性リンパ腫).既往にうつ病があり,抗うつ薬を数年服用していた.会話のはじめはいつも,しかめっ面で「結構です」と断わる.その態度は,ぶれることなく,いずれの看護師に対しても同様に接している.たとえば,いつも,テレビを見ている時間なので,テレビをつけるか確認すると,「それは結構です」と否定.数分後に,ナースコールがあり,「テレビをつけてください」という.「だから,言ったのになぁ」と思う.Fさんは,生活パターンが決まっており,それを崩さないことを大事にしていたため,その生活パターンを尊重することを看護師も心掛けていた.看護師は,患者のことをよく知れば知るほど,なにをしたいかを察知したり予測したりすることができることがある.少し先回りして,患者が過ごしやすいように生活支援することは,患者が自分のことを看護師が理解していると感じて,それが安心につながることもある.しかし,Fさんをじっくり観察していると,ゆっくりとした思考のなかで,自分で納得してからでないと行動に移せないのではないか,だからFさんが否定するときは,考えている時間ではないかと理解するようになった.そのため,Fさんとのコミュニケーションでは,意図的に言動後に待つ時間をもつようにした.Fさんの「結構です」を「ちょっと待ってね」へ変換して理解し,話し終わっても,ゆっくり退室するようにした.すると,Fさんとのコミュニケーションパターンが変わり,ニーズを訴えることをその場でキャッチできるようになった.仕事をしている看護師が認識している時間の流れとその場で生活をしている患者が認識している時間の流れは異なっている.知らず知らずに,患者が看護師の時間に合わせてくれている場合も多い.しかし,Fさんはぶれずに否定することによって自分で考える時間を確保し,きちんと主張していると理解できた.それからは部屋を出るとき,Fさんが私の目をみて「ありがとう」と,にこやかに言ってくれるようになった.そして,Fさん自身から話しかけてくれることが増えた.

 療養している患者に関心を向け,患者が認識している時間の流れに着目してみると,患者の本来の意向に沿ったコミュニケーションに近づけるかもしれない.そして,看護師自身のコミュニケーションパターンを患者に合わせて変えることで,患者にとって安心感を得られるコミュニケーションになるのだろう.

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“寄り添い”のエッセンス

・患者にとって寄り添うことを許される看護師でいること

・患者に変化を強いない配慮をすること

・安易にわかったつもりにならないこと

緩和ケア病棟は急性期集中ケア病棟

 私が現在勤務する外来-病棟一体型の緩和ケア病棟は,開設6年目で,人口約41万人の千葉県柏市にある.二次医療圏である東葛北部地域内に緩和ケア病棟は7施設147床あり,専門的緩和ケアへのアクセスが容易な地域だといえる.また,訪問診療や訪問看護などの医療資源も豊富で,利用者が比較的自由に療養の場を行き来できる体制が整っている.実際,昨年度の当院緩和ケア病棟平均在院日数は18.2日で,退院患者の40%以上は入院1週間未満の病棟滞在である.また,外来診療にも力を入れており,退院の38.4%は症状緩和目的などの短期滞在患者の生存退院で,当院は死亡退院ばかりの緩和ケア病棟ではない.もっと言えば,緊急入院などの予約外入院率も43.6%,ゆったりとした時間が流れる緩和ケア病棟のイメージとはやや違う,急性期集中ケア病棟といった感じではないかと思う.

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“寄り添い”のエッセンス

・看護師は,身体に触れることを許された職業であるからこそ,患者が言葉にできない緊張や不安などを患者の身体から感じ取ることができる

・部分的な身体へのケアであっても,皮膚を介してのつながり,温かさが患者に安心をもたらす

身体へのケアを通して寄り添う

 私たちの日常業務は,患者の身体に触れる機会が多い.しかし,最近では,急性期病院における日常生活援助の機能分化やチーム医療が進み,かつて看護師が患者の身体に触れて行ったケアにおいて,そのあり方が変わってきている.たとえば,清潔ケアや排泄ケアなどを看護補助者が実施するようになったり,患者に直接触れてケアを考えるよりも,少しでも早くチームメンバーに報告・連絡することが優先されたりという変化が起きていると感じる.

 しかし,看護師は,日常生活のなかで患者の身体にさまざまなかたちで触れることを許された職業であるからこそ,患者が言葉にできない痛みや恐怖などを患者の身体から感じ取ることができるのではないだろうか.そして,清潔や排泄などの身体へのケアを通して,看護師が患者の言葉にできない痛みや恐怖を和らげようと行うからこそ,患者は看護師に思いを表出し,看護師を信頼してくれるのだと思う.本稿では,痛みへのケアと清潔ケアの場面を取り上げ,身体へのケアを通した“寄り添い”を考えることとする.

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“寄り添い”のエッセンス

・患者の価値観や人生の物語に触れ,ありのままを受け取る

・患者の苦しみに気づき,苦しみに意識を向ける

・患者の苦しみから逃げず,ともにあり続ける

はじめに

 看護師は,患者が全人的な存在,つまり,身体的,精神的,社会的,スピリチュアルな存在であることをふまえてケアしていくことが重要である.トータルペインの概念を提唱したSaundersは,「(死を意識するとき)多くの患者が自責の念あるいは罪の感情をもち,自分自身の存在に価値がなくなったと感じ,ときに深い苦悶のなかに陥っている.このことが,真にスピリチュアルペインとよぶべきものであり,それを対処するための助けを必要としている」1)と述べ,スピリチュアルケアの必要性について説明している.

 がん終末期患者は,治療プロセスを辿りさまざまな症状の出現や病状の悪化などの体験を通し,より死を間近に意識するようになり,自分のこれまでもっていた自信や価値を失い,自らの存在に対して苦しみを感じるようになる.人生の締めくくりの貴重な時間をともに過ごさせていただく中で,このような苦しみを感じながらも,人生をいききることはどういうことかを学ばせてくださったKさんとのかかわりを振り返り,患者の苦しみに寄り添うということについて考えてみたい.

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“寄り添い”のエッセンス

・患者に寄り添うように,自分の感情を認めてあげる

・患者に寄り添うように,仲間の感情を受け止め,支え合う

・不確実さに耐える

はじめに

 看護師の研修でさまざまな声を聴く――「暴言を吐き続けられて……」「こんな体で生きている意味がないと言われて,少しでも生きる価値を感じてほしいと思ってかかわったけど,気持ちは変わらないまま亡くなった」「急変したとき家族から私のせいで死んだかのように怒鳴られて……」など.驚くのは,そのような思いを抱えてきたことを誰にも話したことがなかった人が多いことだ.

 本稿では,がん患者・家族をケアする看護師が自分自身と仲間同士に寄り添うことについて述べたい.

特集2 5年目までにマスターしたい! がん看護技術

特集にあたって 坪井 香
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 がん医療においては多職種チーム医療の実践が重視され,看護師を育成するうえでは,ケアの責任者として役割遂行する力,医師やほかの医療スタッフと協働する力の育成に主眼を置いた教育プログラムが展開されています.

 新人と呼ばれる1年目看護師には,基本的なケアマニュアルに従って助言を得ながら看護実践できることが到達目標として掲げられ,一人前と呼ばれる5年目看護師には,ケアの受け手に合う個別的な看護の提供と,患者の状態をアセスメントし医学的根拠に基づいて報告・行動できるリーダー看護師としての役割遂行,後輩への技術支援が期待されています.

 病院内における看護の実情を見ると,在院日数の短縮化に伴って業務は繁雑化し,新人が一人前と呼ぶにふさわしい看護師に成長する過程においては,看護技術を学ぶ場・機会をつくることが非常に困難な状況となっています.詳しく言うならば,業務量の過多により教える側の先輩看護師も余裕がなく,後輩看護師へ看護を提供するうえで,なにを観察すべきなのか,それはどうしてか,観察したことがなにを意味するのか,どんな危険が予測されるのか,ゆえにどうしたのか,その結果どうだったのかなど,患者状態のアセスメントおよび自らの技術を言語化し伝える,互いに確認し合い,高め合う機会をもちにくい状況とも言えます.また,働き方改革により教育のための時間拘束ができないこともあります.

 そこで,本特集では,一人前と期待されている5年目看護師に向けて,看護技術の根拠となる最新の知識を提供し,ケアの受け手の特徴をとらえて個別的なケアを提供する際の“コツ”と呼べる看護技術を解説しました.この3つの看護技術はがんと診断された患者さんの「治療を支える」「生活を支える」という視点で必要不可欠なものです.

 日々技術の向上に励む若手看護師のステップアップを支援する機会になることはもちろんのこと,そして彼らを指導する先輩看護師の助けとなることを期待したいと考えています.

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はじめに

 CVポートは,中心静脈カテーテルの一種で,正式には皮下埋め込み型ポート(central venous port)という.CVポートの基本構造は,中心静脈カテーテルと,ポート本体からなる.ポート本体は図1のように針を刺すシリコンセプタムと,薬液をためる内室(チャンバー)があり,セプタムに専用の針(ヒューバー針)を穿刺し薬剤を投与する.主に鎖骨下静脈,内頸静脈の血管からカテーテルを挿入し,ポートを胸部の皮下に埋め込むが,血管により腕や大腿などの部位も選択されることがある.

 CVポートの利点として患者のQOLを損なうことなく,安全かつ簡便に繰り返し薬剤を投与することができるとされ,抗がん薬の投与や,長期にわたる中心静脈栄養などを行う場合に用いられる.とくに繰り返しの抗がん薬治療で末梢静脈血管の確保がむずかしい場合や,長時間レジメン実施時,さらにがんの進行に伴う低栄養状態の場合に,CVポートがあることで中心静脈への薬剤投与を安全,簡便に実施できる.

 しかし,CVポート留置に際しては皮膚の切開など患者の身体への負担や,異物の体内留置に伴う感染リスク,さらにポート本体の破損やカテーテルの断裂などの合併症がある.そのため静脈注射・点滴など診療の補助業務を担う看護師にはCVポートの管理に関する知識・技術を習得することが求められる.ここでは抗がん薬投与時の手順となるポイントを示していく.

血管外漏出後の処置とケア 塩澤 綾
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はじめに

 血管外漏出(extravasation:EV)とは,投与中の薬剤が血管外へ浸潤あるいは漏出し,周囲の軟部組織へ拡散することをいう(図1).これにより,周囲の軟部組織を傷害し,刺入部の疼痛,腫脹などの一連の症状が引き起こされる1).薬剤の種類によっては,少量の漏出でも壊死や潰瘍などの難治性の皮膚障害を起こすことがある.EVは患者に苦痛や不安をもたらし,治療の継続を困難にし,QOLに著しい影響を及ぼす.EVの皮膚障害に対しては確立された治療法が乏しいため,予防がもっとも重要となる.もしEVが生じた場合は,早期発見・早期対処により薬剤の曝露量,曝露時間を最小限にとどめ,症状の重症化を防ぐために迅速な対応が求められる.そのため,看護師は薬物療法を受ける患者の点滴管理に必要な知識・技術を習得する必要がある.ここではがん薬物療法を受ける患者の血管外漏出時の処置手順について解説する.

口腔ケア 大政 智枝
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はじめに

 がん治療において口腔粘膜障害は,発症頻度が高い有害事象の一つである.がん終末期においても,口内炎,口腔乾燥,口臭,口腔カンジダ症,口内出血をはじめとした口腔トラブルは出現頻度が高く,患者のQOL(生活の質:quality of life)低下につながる1).とくにこの時期においては,口腔乾燥,口渇が好発し,しばしば補液が行われることがある.しかし,日本緩和医療学会の「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)」2)においては,口渇緩和を目的とした輸液は有効ではなく,ていねいな口腔ケアで対応することが推奨されている.したがって,看護師は終末期がん患者個々に合わせたケア技術を身につけ,ケアに活かすことは重要なことである.ここでは,終末期がん患者における口腔ケアの実際とその手順を解説する.

連載 My Favorite Medicine!! 私が注目している抗がん薬を紹介します 【14】

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どんな薬?

 葉酸代謝拮抗薬を学習する上で,最初に取り掛かるのは葉酸を理解することです.ほうれん草の葉(folium)から発見されたことから葉酸(folic acid)と名付けられました.葉酸はビタミンの一種で,ビタミンB群に属していますが,ヒトの体内でほとんど合成できないため,食品から摂取する必要があります.最近では葉酸のサプリメントも見かけるようになりました.葉酸は生体内では補酵素としてDNAやRNA合成にかかわっています.そのため,葉酸が欠乏すると細胞増殖の活発な細胞および赤血球の形成に影響を及ぼし,貧血や粘膜障害などを引き起こします.

 筆者が葉酸という言葉でいちばんにイメージしたのは,ほうれん草の缶詰を大量に食べると筋肉が一気に増大し,超人的パワーを発して悪役を退治するアニメの主人公ポパイでした.ポパイは,なぜほうれん草を食べただけで筋肉が増大するのかという疑問が生まれ考えた結果,葉酸は核酸の合成を担っているため,大量の葉酸を摂取することで細胞増殖が促進し,筋肉細胞が増大するのだと納得したのを覚えています.しかし,アニメの背景を調べてみると実は肉食で野菜を食べない米国の子どもたちが野菜を食べるようになるためのプロモーションだったということがわかりました.予想は外れていましたが,この考えるプロセスは葉酸と細胞増殖をイメージするには効果的でした.

 葉酸代謝拮抗薬は,葉酸に類似した物質を使い,葉酸と同じ経路で細胞内に取り込まれることによって,正常に代謝できなくなり,核酸の合成に必要な酵素阻害が起こります.その結果,細胞増殖の停止あるいは細胞死が起こります.葉酸代謝拮抗薬は,分裂・増殖の活発な骨髄細胞や粘膜細胞,がん細胞に効果を示し,DNAが合成されるS期に特異的に効果を示します.

 ペメトレキセドは葉酸代謝拮抗薬で,1990年代に開発されました.同じ葉酸代謝拮抗薬にはメトトレキサートとプララトレキサートがあります.この2剤は葉酸を核酸の合成に必要な活性型葉酸に還元するジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害することで核酸の合成を阻害します.それに対し,ペメトレキセドは少なくとも3つの葉酸代謝酵素経路を阻害するため,強い抗腫瘍効果を示します.

連載 知って安全! エビデンスに基づく抗がん薬の曝露対策と臨床実践 【1】

連載にあたって 平井 和恵
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 2015年に『がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン』が発刊され,早6年が経った.2019年には『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン』として改訂され,この間,がん薬物療法に携わる医療従事者の認識は確実に高まり,各施設で変革が進んだ.

 この問題について,日本でいち早く薬剤師の立場で推進してこられた濱 敏弘先生(公益財団法人がん研究会有明病院)は,一時期を「成長期(過剰反応期)」,近年を「成熟期(小康期)」と表現し,近年の落ち着きは職業曝露に対する正しい理解が進み定着したのであればよいが,タピオカミルクティーのように一時のブームに終わらないことを懸念すると述べられている.まさに同感である.

 今般のコロナ禍により,個人防護具の不足や,スタッフの急な異動などに直面したことで,曝露対策を維持するむずかしさについて,改めて考えさせられた読者も多いことだろう.また,病院収益の悪化を受け,「見えにくい安全」でありコストのかかる曝露対策について,組織に申し入れにくくなったという読者もいらっしゃるだろう.このようなときだからこそ看護師は専門職として「なぜ,それが必要なのか」,エビデンスを通して改めて認識し,自施設での取り組みや日常の実践に反映させていくことが求められるのだと考える.

 そこで今回,『がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン』において看護業務に直結するCQ(クリニカル・クエスチョン)について,エビデンスとして参照された研究や最新の研究の概要,ならびにそのCQに関連した,参考になる臨床実践例を紹介する連載を企画した.本連載を通して,曝露対策が下火になることなく成熟し続けていけること,そして日本看護協会の提唱する「看護職が生涯を通して安心して働き続けられる環境づくり」,すなわちヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)の実現に寄与できることを願っている.

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 連載初回となる本稿では,がん薬物療法における職業性曝露対策に関する基本的な考え方を概説する.

連載 がんも身のうち ~患者と看護教員 一人二役 リアルレクチャー~ 【8】

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プロフィール&メッセージ

 生まれ落ちた星座はcancer.その後小児がん看護に携わり,後進の指導にあたっていた私はがん歴12年のベテラン患者.今は再発乳がんと共存中です.とことんがんに縁があるならば,教科書にはない患者・看護教員として感じたリアルな実体験を,看護者そして患者さんと分かち合っていけたらなと思います.

 今回は,患者ががんについて知ることの意味について,私自身の臨床経験や米国留学の経験を交えながらお話ししたいと思います.

連載 対話に学ぶコミュニケーション ~第二の患者である家族とのかかわりかた~ 【2】

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事例紹介

 妻(55歳)は夫(患者)と2人暮らし(子どもはいない).夫と同じ会社で経理を担当していた.夫とは公私ともによきパートナーであり,共通の趣味は旅行であった.今後は主婦として夫を支えようと退職したばかりであったが,その矢先に夫に非小細胞肺がん(腺がん)が見つかり,4日後にけいれん発作があり脳転移と診断された.2日後に開頭腫瘍摘出術,ガンマナイフが施行された.その後,遺伝子検査などの結果でEGFR(-)PD-L1(+)注1をふまえて,肺がん治療のため免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(キイトルーダ®)が開始された.2クール目が終了すると免疫関連有害事象で全身発疹,下肢浮腫が出現したうえ,肺がんが増大したため,放射線療法(60 Gy/30 Fr)+抗がん薬治療(CBDCA+PEM)に変更した.しかし3日目に遅発性悪心・嘔吐,食欲不振,倦怠感が出現,体重が減少していた.

 がん相談支援センターのパンフレットを見た妻から面談の申し込みがあり,看護師が面談をすることになった.

注1EGFR:上皮成長因子受容体と呼ばれるタンパク質である.遺伝子検査で変異が陽性であれば分子標的治療薬を選択するが,患者は陰性である.

PD-L1:がん細胞の表面にあるタンパク質である.免疫チェックポイント受容体であるPD-1に結合すると免疫細胞が抑制される.PD-L1検査で免疫チェックポイント阻害薬の効果を判定する.

連載 シームレスに実践 ターミナルケア・グリーフケア 【1】

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 2030年代には多死社会の到来を迎えるわが国では,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省,2018年3月14日)が提示され,人々の死,死生観への関心が高まっている.医療においては,病院完結型医療から地域完結型医療への移行が進む中で,「QOD(クオリティ・オブ・デス)を高める医療」が入ると記述(社会保障制度改革国民会議報告書,2013)されており,QODを高める医療も期待される.看護においては,死に逝く人とその家族の看護は,終末期看護,ターミナルケア,緩和ケア,遺族ケアなど多様な言葉で表現されるが,どの用語を使用しても患者の人生の最終段階の時期を対象とすることは同じである.

 本書においては,臨床になじみのある用語としてターミナルケアおよびグリーフケアを用いることとする.ターミナルケアとは,治癒不可能な段階にいたった疾患をもって人生の終末時期にいる人々が,豊かにその人らしく生き抜くことができるように,その人に寄り添い,擁護者となって実践する専門的な看護である.同時に,その人の最期をともに生きる家族に対して死別後の健康生活も見据えて実践される看護援助である.グリーフケアとは,愛する者との死別という喪失後の悲嘆(グリーフ)に対するセルフケアおよび複雑な悲嘆に対して専門家によって行われる援助である.

 本連載では,人生を生き抜く人および家族にシームレスに寄り添う看護はいかにあるべきか,これからのターミナルケア・グリーフケアの考え方,病院や在宅でのターミナルケア・グリーフケアの実践について,包含されている倫理的課題の見える化および看護職者自身のグリーフなどの感情への共助のあり方も含めて解説し,さらに,地域でのグリーフを支える教育活動を紹介し,ターミナルケア・グリーフケア研究の動向と展望について,実践的な観点から概説する.

 この連載を契機として,がん看護のターミナルケア・グリーフケアの看護実践の一助となれば幸いである.

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 人生100年時代といわれる中,多死社会の到来も迫っているわが国では,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が策定1)され,最善の生を生き抜くためのケアを受けることができるよう体制が整えられ始めている.その基盤には,生活者としての人間中心の思想があること,かつ,その人の人生から「死」や「生きる」「看取り」を探究していること,人間どうしの関係性も重視していることが挙げられる.

 本稿では,看護職を含む医療従事者中心ではなく,生活者中心志向および死に向き合う人中心志向で,ターミナルケアおよびグリーフケアのあり方を検討していく.

連載 がん薬物療法看護のWhat’s Trending! Past ☞ Current ☞ Future 【7】

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はじめに

 がん薬物療法薬は1940年代から殺細胞性抗腫瘍薬を主流に開発が進められてきた.重要な効果を示す薬がある一方で,厳しい副作用の出現や治療効果が望めないがん種もあり,がんの研究は広く行われている.2000年以降にはがんの生物学的研究が進み,がんゲノムや発がんに関する因子,発がんのメカニズムなどがわかってきた.それらのデータをもとにがん薬物療法薬が開発されるようになり,現在では殺細胞性抗腫瘍薬だけでなく,各種の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などといった薬剤が数多く誕生している.新規抗腫瘍薬やレジメンの開発は,今まで効果が期待できなかったがん種にも治癒や生存期間の延長が期待でき,治療の選択肢が広がっている.また,がんゲノムの解読によって,患者に最適な治療を選出できる個別化医療が実現できるようになってきた.しかし,難治性や再発のがんに対してはまだまだ十分な治療効果は得られておらず,さらなる治療薬の開発に期待がかかるところである.

 日本では,毎年30種類以上のがん薬物療法薬が新規に承認されており,新薬情報をつかむのも一苦労である.そこで,本稿では2020年に承認されたがん薬物療法薬のいくつかを紹介したい.

リレーエッセイ こちらがん看護スペシャリスト奮闘中! ~新たな敵と対峙してがん医療を前進させる~ 【3】

治療待機患者の不安に向き合う

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自己紹介

 筆者は,香川大学医学部附属病院へ就職後,造血器腫瘍患者への化学療法や造血幹細胞移植看護を中心に日々邁進してきました.20代後半で中間管理職になり管理の道か,実践者としての道かを悩む中で,患者さんに生じている事象を理解し,科学的根拠を明確化したケアを提供したいという思いを募らせ,がん看護専門看護師を取得する決意をしました.大学院での日々は,看護を学問としてとらえなおすきっかけとなり,実践の意味づけや,論理的思考を深めることができ,濃密で有意義な時間となりました.修了から9年たった現在でも,切磋琢磨した同期の仲間の存在が常に刺激となり私の原動力となっています.

 2012年にがん看護専門看護師の認定を受け,現在は緩和ケアセンターに所属しています.そこでAYA世代から超高齢と幅広いがん患者さん・家族の治療選択における意思決定支援やベスト・サポーティブ・ケア(BSC)へ移行する場面でのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)プロセスをともにする看護を実践しています.

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自己紹介

 私は2010年にがん看護専門看護師の認定を受け,外来がん治療部門,病棟主任としての勤務経験を経て,現在は緩和ケアセンターのジェネラルマネージャーとして,運営マネジメント,地域や他部門,他職種等との調整を行っています.

 当院は都道府県がん診療連携拠点病院であるとともに特定機能病院,第一種・第二種感染症指定医療機関等のさまざまな役割を担っています.第一波より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の受け入れを重点的に行っており,Infection Control Team (ICT)や最前線でケアに従事する医療者とともに「COVID-19終末期患者の面会の是非」や「経験したことのない環境でのケア(従来の当たり前だったケアが提供できないこと)に対する葛藤」等に関する多職種カンファレンスに専門看護師として参加してきました.

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患者紹介

40歳台,男性.

診断名:膵臓がん術後,肺転移,脳転移

家族構成:妻,高校生の子どもの3人暮らし

職 業:会社員

性 格:気さくで明るく人懐っこい,会社では同僚や後輩から頼られる存在.

 入院までの経過を図1に示す.

入院後の経過

 入院後から全脳照射が開始となる.照射時の姿勢により腹部の激痛が出現するため,緩和ケアチームにより疼痛をコントロールしながら,39 Gyの照射は完遂した.また,入院時より間欠的な頭痛があり,オピオイドや頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫治療薬(グリセレブ®)を使用して,疼痛は良好にコントロールされた.左半身不全麻痺は,入院後から作業・理学療法が施されたが,全脳照射終了後1ヵ月経過しても明らかな改善がみられず,けいれん発作の出現もあった.脳転移による意識障害はないが,高次脳機能障害として短期記憶障害がときどき出現した.

 照射終了後,がん治療の継続について検討された.抗がん薬の効果は期待できないこと,ベストサポーティブケア(best supportive care:BSC)として自宅療養,または緩和ケア病棟への転院が望ましいことについて,患者と妻へ説明された.患者は説明内容を理解したうえで,“麻痺があるため自宅での生活は困難”と意思表示した.同時に緩和ケア病棟への転院に難色を示し,治療の継続を希望した.妻は患者の意向に沿いたいという希望であった.受け持ち看護師は,患者の思いを尊重したいが,それがむずかしい現状に葛藤を抱え,療養場所の選択に悩んでいた.

 患者は脳転移による左半身不全麻痺のため歩行は困難で,入院時より排泄は車いすでトイレへ行き,清潔・更衣も一部介助が必要,食事はセッティングすればセルフケア可能な状態であった.照射終了から2週間が経過したころ,排尿後の看護師が来るまでの間に自分でズボンをはこうとしてバランスを崩し,床にしりもちをついたことがあった.またこれまでに数回,けいれん発作があり,安全のため排尿はベッド上での全介助となった.そのころから,ベッド周囲の環境が以前に比べて雑然としていたり,毎日シャワーバスを希望していた患者が清拭だけで済ますようになるなど,意欲の低下がみられた.

基本情報

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がん看護
26巻4号 (2021年5月)
電子版ISSN:2432-8723 印刷版ISSN:1342-0569 南江堂

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