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“寄り添い”のエッセンス
・患者・家族に関心を向け,患者から見えている生活やかれらが大切にしていることに気づくことは重要である ・看護師の気づきは,患者・家族の人生の断片に触れ,かれらの本意を理解し寄り添うことにつながる
患者が認識している時間の流れを理解する
看護師のちょっとした提案に対して,最初にいつも否定するFさん(70歳,女性,悪性リンパ腫).既往にうつ病があり,抗うつ薬を数年服用していた.会話のはじめはいつも,しかめっ面で「結構です」と断わる.その態度は,ぶれることなく,いずれの看護師に対しても同様に接している.たとえば,いつも,テレビを見ている時間なので,テレビをつけるか確認すると,「それは結構です」と否定.数分後に,ナースコールがあり,「テレビをつけてください」という.「だから,言ったのになぁ」と思う.Fさんは,生活パターンが決まっており,それを崩さないことを大事にしていたため,その生活パターンを尊重することを看護師も心掛けていた.看護師は,患者のことをよく知れば知るほど,なにをしたいかを察知したり予測したりすることができることがある.少し先回りして,患者が過ごしやすいように生活支援することは,患者が自分のことを看護師が理解していると感じて,それが安心につながることもある.しかし,Fさんをじっくり観察していると,ゆっくりとした思考のなかで,自分で納得してからでないと行動に移せないのではないか,だからFさんが否定するときは,考えている時間ではないかと理解するようになった.そのため,Fさんとのコミュニケーションでは,意図的に言動後に待つ時間をもつようにした.Fさんの「結構です」を「ちょっと待ってね」へ変換して理解し,話し終わっても,ゆっくり退室するようにした.すると,Fさんとのコミュニケーションパターンが変わり,ニーズを訴えることをその場でキャッチできるようになった.仕事をしている看護師が認識している時間の流れとその場で生活をしている患者が認識している時間の流れは異なっている.知らず知らずに,患者が看護師の時間に合わせてくれている場合も多い.しかし,Fさんはぶれずに否定することによって自分で考える時間を確保し,きちんと主張していると理解できた.それからは部屋を出るとき,Fさんが私の目をみて「ありがとう」と,にこやかに言ってくれるようになった.そして,Fさん自身から話しかけてくれることが増えた.
療養している患者に関心を向け,患者が認識している時間の流れに着目してみると,患者の本来の意向に沿ったコミュニケーションに近づけるかもしれない.そして,看護師自身のコミュニケーションパターンを患者に合わせて変えることで,患者にとって安心感を得られるコミュニケーションになるのだろう.
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