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寄り添うという言葉はよく使われる言葉ですが,その本質や実態は曖昧です.
以前,ある講演会で尊敬する臨床心理士から,「相手に寄り添うことは奇跡に近い」という話を聞いてから,私はことさらこの言葉の重み,そして実践するむずかしさを感じ,普段はほとんど使わないようにしてきました.しかし,看護教育の場面でも寄り添いという言葉を毎日のように耳にするようになり,改めてこの言葉が使われるときの志向性について考えてみたいと思うようになりました.この言葉が使われるとき,そこには患者さんの苦しみを理解したい,患者さんの思いを尊重したい,よい関係をつくりたい,よいケアをしたい,という看護師の願いや思いが込められているように感じます.一方で,言葉と実践とが切り離され,なにをすることが「寄り添い」なのか,それは看護師のどのような態度なのか,スキルなのか,その輪郭が曖昧なまま使われているとも感じます.
がん患者・家族にかかわる看護師は,診断期,治療期,再発期,終末期,どの病期においても,がん患者・家族が今なにを大切にし,なにを求め,なにに悩んでいるのかを理解しようと努め,少しでも力になりたいと日々奮闘しています.しかし,自分は患者・家族と関係性を築けているのか,患者・家族の意向を尊重できたのか,自分の行ったケアはあれでよかったのか,そのケアのプロセスを省察する機会をもてず,自分の実践が看護としてかたちづくられないまま,不全感や自信のなさを抱えているのではないでしょうか.
そのため本特集では,あえて「寄り添い」という言葉を使うことにチャレンジし,看護師だからこそできる,寄り添うことの実践について考えてみたいと思います.看護師は看護師であるがゆえに,普段であれば他人には見せないであろう患者の身体に触れることを許されています.そして病いのために生活の変化を余儀なくされる患者の生活の細部を観て整えることを通して,患者・家族の心身の回復を支えています.がん患者・家族の日々の療養や生活を身近に看ている(観ている)看護師だからこそできる「寄り添い」の本質とそのかたちを,エキスパートの皆さんの事例を通した実践から学んでみたいと思います.
読者の方には,エキスパートの寄り添いのエッセンスが一人ひとりの患者に対しどのように繰り広げられるのか,看護師だからこそできる“日常の暮らしの中に織り込まれた寄り添いのかたち”を,共にケアを体験するように読んでいただけると思います.
本企画が,がん看護を担うすべての看護師にとって,自分の看護実践をかたちづくる一助となれば幸いです.
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