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患者紹介
40歳台,男性.
診断名:膵臓がん術後,肺転移,脳転移
家族構成:妻,高校生の子どもの3人暮らし
職 業:会社員
性 格:気さくで明るく人懐っこい,会社では同僚や後輩から頼られる存在.
入院までの経過を図1に示す.
入院後の経過
入院後から全脳照射が開始となる.照射時の姿勢により腹部の激痛が出現するため,緩和ケアチームにより疼痛をコントロールしながら,39 Gyの照射は完遂した.また,入院時より間欠的な頭痛があり,オピオイドや頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫治療薬(グリセレブ®)を使用して,疼痛は良好にコントロールされた.左半身不全麻痺は,入院後から作業・理学療法が施されたが,全脳照射終了後1ヵ月経過しても明らかな改善がみられず,けいれん発作の出現もあった.脳転移による意識障害はないが,高次脳機能障害として短期記憶障害がときどき出現した.
照射終了後,がん治療の継続について検討された.抗がん薬の効果は期待できないこと,ベストサポーティブケア(best supportive care:BSC)として自宅療養,または緩和ケア病棟への転院が望ましいことについて,患者と妻へ説明された.患者は説明内容を理解したうえで,“麻痺があるため自宅での生活は困難”と意思表示した.同時に緩和ケア病棟への転院に難色を示し,治療の継続を希望した.妻は患者の意向に沿いたいという希望であった.受け持ち看護師は,患者の思いを尊重したいが,それがむずかしい現状に葛藤を抱え,療養場所の選択に悩んでいた.
患者は脳転移による左半身不全麻痺のため歩行は困難で,入院時より排泄は車いすでトイレへ行き,清潔・更衣も一部介助が必要,食事はセッティングすればセルフケア可能な状態であった.照射終了から2週間が経過したころ,排尿後の看護師が来るまでの間に自分でズボンをはこうとしてバランスを崩し,床にしりもちをついたことがあった.またこれまでに数回,けいれん発作があり,安全のため排尿はベッド上での全介助となった.そのころから,ベッド周囲の環境が以前に比べて雑然としていたり,毎日シャワーバスを希望していた患者が清拭だけで済ますようになるなど,意欲の低下がみられた.
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