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どんな薬?
葉酸代謝拮抗薬を学習する上で,最初に取り掛かるのは葉酸を理解することです.ほうれん草の葉(folium)から発見されたことから葉酸(folic acid)と名付けられました.葉酸はビタミンの一種で,ビタミンB群に属していますが,ヒトの体内でほとんど合成できないため,食品から摂取する必要があります.最近では葉酸のサプリメントも見かけるようになりました.葉酸は生体内では補酵素としてDNAやRNA合成にかかわっています.そのため,葉酸が欠乏すると細胞増殖の活発な細胞および赤血球の形成に影響を及ぼし,貧血や粘膜障害などを引き起こします.
筆者が葉酸という言葉でいちばんにイメージしたのは,ほうれん草の缶詰を大量に食べると筋肉が一気に増大し,超人的パワーを発して悪役を退治するアニメの主人公ポパイでした.ポパイは,なぜほうれん草を食べただけで筋肉が増大するのかという疑問が生まれ考えた結果,葉酸は核酸の合成を担っているため,大量の葉酸を摂取することで細胞増殖が促進し,筋肉細胞が増大するのだと納得したのを覚えています.しかし,アニメの背景を調べてみると実は肉食で野菜を食べない米国の子どもたちが野菜を食べるようになるためのプロモーションだったということがわかりました.予想は外れていましたが,この考えるプロセスは葉酸と細胞増殖をイメージするには効果的でした.
葉酸代謝拮抗薬は,葉酸に類似した物質を使い,葉酸と同じ経路で細胞内に取り込まれることによって,正常に代謝できなくなり,核酸の合成に必要な酵素阻害が起こります.その結果,細胞増殖の停止あるいは細胞死が起こります.葉酸代謝拮抗薬は,分裂・増殖の活発な骨髄細胞や粘膜細胞,がん細胞に効果を示し,DNAが合成されるS期に特異的に効果を示します.
ペメトレキセドは葉酸代謝拮抗薬で,1990年代に開発されました.同じ葉酸代謝拮抗薬にはメトトレキサートとプララトレキサートがあります.この2剤は葉酸を核酸の合成に必要な活性型葉酸に還元するジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害することで核酸の合成を阻害します.それに対し,ペメトレキセドは少なくとも3つの葉酸代謝酵素経路を阻害するため,強い抗腫瘍効果を示します.
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