INTENSIVIST 12巻2号 (2020年4月発行)

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特集　災害とICU

これからの日本の災害時集中治療を考える成松　英智 , 櫻井　淳 12巻2号 , 2020年4月 , pp.239-240

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■課題は少なくない

集団災害の被災地内（あるいは近傍）に位置する病院のICUは，病院の災害対応の中核となり，可能なかぎりの重症患者医療を行う責務がある。

　集団災害で重症傷病者が多数発生し，被災地の医療機関のICUで既存の重症医療機能が限界を超えると，それらの対応に関連した多くの問題が発生する。最初に，想定外の業務増加と収容限界超過が問題となる。災害の種類にもよるが，それぞれのICUで平時の主な診療対象以外の傷病，日本ではまれな傷病，除染や医療者の保護を要する傷病等への対応が要求される場合がある。特に災害医療対応のノウハウをもたない，主に救急系以外のICUでは，通常行っている診療以外の不慣れな診療（通常扱わない病態に対する治療のほか，緊急対応の増加への対処，地域・病院レベルの災害時非常体制下の診療など）による現場混乱が想定される。重症患者数がICUの収容限界を超過した場合には，院内におけるICUの拡充（ICU内での臨時増床，非ICU病室の臨時ICU化など）や搬送可能患者の地域内・広域搬送を考慮に入れなければならない。ICUの入退室基準の変更も余儀なくされる。また，地域災害による病院施設損壊，インフラストラクチャー障害，流通障害，人員動員障害，通信障害などの要因により病院機能が低下するような場合には，ICUの機能も障害され低下する。さらに近年の自然災害の多発化・大規模化や第32回オリンピック競技大会・東京2020パラリンピック競技大会をはじめとする巨大イベントに伴う群衆事故やテロリズムなどによる多数重症患者の発生も懸念されている。

集中治療医は災害にどう備え，どう対応すべきか氏家　良人 12巻2号 , 2020年4月 , pp.241-243

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“災害は忘れた頃にやって来る”ということわざがあるが，いつの頃からか“災害は忘れる前にやってくる”となってしまった。

Part 1．ICUと災害対応計画

1．災害医療総論—ICUをおびやかす災害とマスギャザリングを理解し，その対応を考える水野　浩利 12巻2号 , 2020年4月 , pp.245-251

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災害は，施設の損壊やライフラインの障害，スタッフの不足，患者の増加などによってICUの診療をおびやかす。災害を制御することは難しいが，対応の準備は可能である。

　我が国で準備されている災害医療体制の4つのコンポーネント，すなわち，病院機能，情報共有，医療支援，医療搬送を理解しておき，これを活用できるようにしておきたい。これらは行政によって体制が構築されているものが多いが，学会レベルにおいても日本透析医会や日本集中治療医学会により取り組みが行われている。第32回オリンピック競技大会，東京2020パラリンピック競技大会の開催を控えた今，マスギャザリングという概念の理解，それが及ぼす影響についてのリスク評価と対応計画の策定は集中治療医が取り組むべき課題となっている。

【コラム】2020オリパラに向けた日本集中治療医学会の活動に参加して—2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体（コンソーシアム）とは？櫻井　淳 12巻2号 , 2020年4月 , pp.252-254

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はじめに

2021年夏に，第32回オリンピック競技大会，東京2020パラリンピック競技大会（以下2020オリパラ）が開催されることとなり，成果は後世に残るレガシー（遺産）となると期待されている。2020オリパラは，国際的な大規模イベントでありマスギャザリングmass gatheringを見据えた医学的なアプローチが必須であると判断し，日本救急医学会を幹事学会として，2016年5月に2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急災害医療体制を検討する学術連合体（通称コンソーシアム^＊1）が設立された^1）。2020年3月現在では計27団体が参加し，2020オリパラに関するさまざまな医療の問題への取り組みを進めている（表1）。

　筆者は2016年の夏に上司の木下浩作教授（日本大学医学部救急医学）から，「日本集中治療医学会員のなかから，オリパラの準備のための組織に参加する，開催地域の医師の推薦を頼まれたけど引き受けていただけませんか？」との依頼を受けた。そして，黒田泰弘教授（香川大学医学部附属病院救命救急センター）とともに日本集中治療医学会派遣委員としてコンソーシアムの活動に参加し，2020オリパラ準備を進めてきた。このコラムでは，この準備活動の経緯を記述することで，ICUでの災害対応の意義，現況や対策方法等を浮き彫りにできればと考えている。

2．病院ICUでの災害対応—ICU拡張計画surge capacityと集中治療トリアージ遠藤　裕 12巻2号 , 2020年4月 , pp.255-265

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大事故災害では多数の傷病者が発生，病院は対応を余儀なくされる。ICUは重症傷病者の救命を担う重要な部門である。多くの重症傷病者に集中治療を提供できるように，病院は，場所（Space），人材（Staff），医療機材（Stuff），構造（Structure）の“4S”に関して，傷病者数に応じた段階的なICU拡張計画surge capacityを計画しておくことが重要である。さらに，医療資源が制限された状況では，救命可能な重症患者を選別する集中治療トリアージが重要である。しかし現在，理想的な集中治療トリアージのプロトコルは存在せず，トリアージ担当医師の臨床経験や資質に委ねられる場合も多く，トリアージチームのサポート，倫理的・法的な根拠が必要となる。

3．災害時のICUとBCP—ICU機能を継続させるために中尾　博之 12巻2号 , 2020年4月 , pp.267-273

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大災害時の院内対応では，重症患者は救急外来で受け入れられ，継続的な治療はICUを中心に行われる。ICUの機能継続は，病院機能の継続能力に大きく影響を与える。したがって，病院機能継続計画は，ICUの機能継続を中心に策定する必要がある。

　しかし，大災害時には多くの重症患者対応は，個別の医療機関だけでは対応できない。地域のICUをネットワーク運用しうるために，地域の業務継続計画（BCP）の策定が求められる。本邦において地域が一体化してICU運用できる体制を構築するうえで，欧米の基準は有用であろう。

4．重症傷病者の搬送—二次医療圏レベルを中心とした一元管理が必要近藤　祐史 12巻2号 , 2020年4月 , pp.275-283

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■はじめに

我が国の災害医療において，最大のキーワードがCommand ＆ Control（指揮・統制），Safety（安全），Communication（情報伝達），Assessment（評価），Triage（トリアージ），Treatment（治療），Transportation（搬送）の頭文字をとって「CSCATTT」と呼ばれることはこれまでに述べられたであろう。災害時に「CSCATTT」に沿って医療を展開した場合，3つ目のTにあたるTransportation（搬送）は，医療を提供するには厳しい状況下において，傷病者を適切な医療機関や，安全の確保できる場所に後方搬送することを意図している。例えば，災害現場で救出された傷病者に安定化処置のみを実施し，根本治療（手術や血管内治療，透析など）は実施可能な施設へ搬送する，といったイメージである。

　多くの集中治療医にとって災害医療は馴染みがなく，どこか別世界のような，ややもすればドラマのなかのような印象をもつかもしれない。しかし，実は決して他人事ではない，というのが本稿で最も訴えたいことである。

　災害発生により受傷した重症傷病者は最終的にはICUに入室し，集中治療を必要とすることになる。だがこれを被災地域内で完結できる保証はない。ICUの機能が維持できていたとしても，広範囲熱傷などで処置に人員を割かなければならない傷病者の場合，人手不足の被災地域内での処置は厳しく，被災地域外に搬出したほうがよい可能性もある。また，その時点では透析が可能であっても，断水していたら近い将来継続できなくなるし，他の目的のために水を残しておいたほうがいいと判断することもある。災害時は1人の傷病者に全力を注ぐわけにはいかず，限られた人的・物的資源で最大多数の最大幸福を追求することが求められる。平素の集中治療医の感覚からすれば，切り替えが難しいかもしれない。「自施設は災害拠点病院ではないから関係ない」と思っていても，新規患者が発生しないわけではない。災害時にも重症の内因性疾患は発生する^1〜4）。また「自施設は専門施設（がんセンターやこども病院など）であり，そもそも救急患者の受け入れをするような施設ではない」と思っていても，決して他人事にはなり得ない。もともとICUに入室している患者の治療が継続できなくなることもある^5）。

　このように，ICUで勤務する以上，災害時における重症患者の搬送は決して他人事ではない。たとえ災害時であっても，入院中の重症患者の治療を中断するわけにはいかない。ICUで集中治療が継続できなかったり，継続できたとしてもそのことが総合的に判断すると最善策でなかったりした場合には，転院搬送を考慮せざるを得ない。すなわち，すべての集中治療医は，災害時に患者の搬送を検討する状況に追い込まれる可能性が高い，ということである。したがって，本稿では，災害が発生する前に今一度，重症患者の搬送に関する知識や考え方を整理したい。

【コラム】空飛ぶICU—航空自衛隊航空隊としての挑戦山口　大介 , 山元　翔太郎 12巻2号 , 2020年4月 , pp.284-287

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体外式膜型人工肺（ECMO）などの高度先進医療における症例数と治療予後の相関関係に関する科学的論拠が構築されつつあるなか，症例の集積化や施設の集約化が議論されるようになった。また，東日本大震災や熊本地震などの大規模災害において，病院避難というかつて想像もし得なかった深刻な事態を迎えるにあたり，災害拠点病院における事業継続計画（BCP）の策定が義務づけられるようになった。いずれの事態においても，重症患者の搬送体制の構築が「必要性」として求められている。他方，適切かつ安全に重症患者を搬送し得るという「許容性」をも満たしていかなければならない。これを満たすのがmobile ICUである。先駆者たる米軍の戦傷医療の歴史と現在の活動の実態を考えるとともに，本邦での防衛省航空自衛隊航空機動衛生隊について披瀝することで，mobile ICUのあるべき姿を考察する。

5-1．ICU看護師の役割①—surge capacity強化のために看護師に求められることは後藤　順一 12巻2号 , 2020年4月 , pp.289-295

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災害は，通常の機能を破壊し，地域の対処能力を超えた苦痛と喪失を引き起こす。災害時には，災害現場でのトリアージと救急部門でのトリアージのあとに，重傷者の行き先がICUとなり，災害時のICU看護師の役割が重要になる。災害時のICUでは，重篤な患者が災害現場から直接，またはICUのない施設からの広域搬送によって移送されることに加え，手術患者の管理も従来どおり行われるため，さらに重要になる。そのため，災害時のICU看護師は状況に応じて，災害時のICU入退室基準を変更し，日常の看護とは異なる対応をする必要がある。多数傷病者に対応するICUの機能には，surge capacityとsurge capabilityがある。これらの能力を拡大するためには，日々の準備や基準を整備する必要がある。

5-2．ICU看護師の役割②—ICU看護師の備災と心構え渕本　雅昭 12巻2号 , 2020年4月 , pp.297-300

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災害時におけるICU看護師の役割は「災害により生命危機状態に陥り，機械や薬剤による補助を受けながら治療を受けている患者の生命を多職種と協働しながら守り，その状況でQOLを意識した援助を行うこと」と言えよう。災害時，多数の重症患者が来院されることが考えられる。また災害の慢性期や状況安定化により手術が可能になれば，手術患者の周術期管理もICUで管理されるため，ICUの役割は重要である。役割を果たすためにも，そこで従事するICU看護師の存在は重要となる。特に，病床を拡張された場合は，ICU以外の看護スタッフの支援が必要になる。ICU看護師はサポートスタッフの指導や教育をしながら看護活動も行う必要がある。またICU看護師自身も被災者であるため，精神的サポートが必要となる。

6．臨床工学技士の役割—まず医療機器とICUライフラインを知ることから森實　雅司 , 三木　隆弘 12巻2号 , 2020年4月 , pp.301-311

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ICUにおける生命維持管理装置の使用は，電気，医療ガス（酸素，圧縮空気，吸引），水道などのライフラインにより支えられている。災害はその種類により求められる対応が異なるが，ライフラインの確保に対する事前計画を策定して備える必要がある。さらに災害時の新設部門の設置や病床の拡大などに際してもライフラインを考慮する必要がある。この事前計画において，日本のICUはどのような基準で設計されており，どこに限界があるのかを知る必要がある。また，策定された事前計画は，それに沿った訓練による習熟が必要となる。臨床工学技士は自施設の医療機器やICUライフラインに対する事前計画の立案に中心的にかかわり，事前計画に習熟した人員を育成するための訓練に積極的に参画するべきである。

7．薬剤師の役割—医薬品の供給と備蓄における現状と課題原　直己 12巻2号 , 2020年4月 , pp.313-317

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日常診療における薬剤師の重要な役割の1つに，医薬品の供給と管理がある。この役割は，災害時医療において平時以上に重要になる。災害時に医薬品の供給をすみやかに行えるように，平時より災害時の薬剤師業務のマニュアル作りや卸業者との連携が求められる。

　災害の種類によって必要となる医薬品は異なる。特に，化学災害等で使用する解毒剤は，日常診療では使用する機会が少ないため，医薬品の供給だけでなく使用方法などの情報提供も求められる。以下，本稿では，日常診療でも使用する医薬品に関する災害対応計画や，「大規模自然災害」と「特殊な災害」それぞれの，発災時の医薬品供給・備蓄体制に関して紹介する。

8．病院事務の役割—事務担当者は災害対策の要である溝辺　倫子 , 舩越　拓 12巻2号 , 2020年4月 , pp.319-325

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大規模災害や多数傷病者事故（MCI）発生時，ICUを有する災害拠点病院やそれに準ずる病院では，多数の傷病者受け入れが要求される。それに応需するには，平時からの災害対策マニュアルの策定や訓練が必要である。差しあたり3日間，自力で診療機能継続するために必要な備蓄を整備する。不足が生じた場合にはすみやかに補充ができるように，医療機関外の関係機関と事前に協議し災害時の協定を締結しておく。MCI発生時において，病院事務担当者は，院内の随所で情報管理を担い，記録し，評価をする役割と，院内で物資の不足が生じた場合にそれぞれの関係機関と連携する役割が期待されている。医療職も事務担当者もともに平時から病院体制に精通し，MCI発生を想定した訓練を繰り返すことが必要である。

Part 2．mass casualty incidentへの備え

1．熱中症対応とICU—多数傷病者事故発生時のICU対応に即して清水　敬樹 12巻2号 , 2020年4月 , pp.327-335

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我が国の熱中症診療では，日本救急医学会熱中症分類2015が用いられ，Ⅰ度，Ⅱ度，Ⅲ度に分類される。主な病態は，脱水からの脳血流量減少に伴う中枢神経症状と，高体温による細胞障害，臓器障害などで説明される。治療は，意識，呼吸，循環を安定化させる支持療法を確実に施行しつつ，さまざまな冷却方法が試みられているが，質の高いエビデンスがある方法は存在しない。

　夏季イベントでの多数熱中症患者の発生は散見されており，対策が必要である。ICUにおける熱中症に伴う多数患者発生事案への対策としては，日本集中治療医学会危機管理委員会の「集中治療室（ICU）のための災害時対応と準備についてのガイダンス」および「災害時の集中治療室日頃の準備から発災後まで—ICUの対応ガイダンス」が参考になり，これらをふまえて対策を講じておく必要がある。

2．重症熱傷患者対応とICU—国際的な連携も念頭におきながら熱傷診療を組み立てる井上　貴昭 , 小倉　崇以 12巻2号 , 2020年4月 , pp.337-343

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■はじめに

日常生活と同様，災害・マスギャザリングにおいても，故意による放火や事故による爆発などで，熱傷による多数傷病者事故mass casualty incident（MCI）が発生するリスクがある。

　熱傷の発症機序は，湯茶や温熱物との接触のほか，火災や感電事故による電撃傷，落雷による雷撃傷，酸・アルカリへの曝露，放射線被ばくなど，多岐にわたる。とりわけ各種災害・マスギャザリングでは，さまざまな受傷機転に伴い熱傷を負うリスクが十分に想定されるため，初期治療のあり方と専門医療機関への搬送基準，またICUにおける管理について，その対策をまとめておく必要がある。

　本稿では，日本熱傷学会から報告された『2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けての救急・災害医療体制の構築に関する研究：重症熱傷診療に関する現状調査と熱傷初期診療に役立つ教育資材の開発』^1）をもとに，熱傷MCIに対する対応・対策とICU・救命救急センターに求められる管理と戦略について述べる。

3-1．感染症・生物災害対応とICU①—多数感染症患者発生時のICUの運用守山　祐樹 , 忽那　賢志 12巻2号 , 2020年4月 , pp.345-350

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本稿では，感染症多数患者に関する概念を概説したのち，考慮すべき病原体を「自然発生的に流行する可能性のある疾患」「海外から持ち込まれる可能性のある疾患」「テロリズムなど，人為的に発生させられる可能性がある疾患」に分けて紹介する。「感染症・生物災害対応に関連する諸項目の行動基準」の項では，患者を特定の感染症と的確に想起するための方法，感染対策，移送の方法などについて触れる。「多数感染症患者発生時のICUの運用」の項では，実際に感染症患者が多数発生する前に，マニュアルを策定し，机上訓練や実動演習を行うことの重要性を強調する。

3-2．感染症・生物災害対応とICU②—感染症・生物災害の診断から治療まで太田　雅之 , 忽那　賢志 12巻2号 , 2020年4月 , pp.351-358

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人の国際的な移動が常態的に起こっている現代では，日常的に遭遇しない感染症が自然発生的，人為的にかかわらず流入，流出し得る。これに大規模イベントなどが重なると，国内でもよくみられる疾患が通常と異なる流行を示す，疾患の流入リスクが高まる，テロリズムのように人為的な事件のターゲットになる，などの事例が想定される。通常目にすることの少ない疾患が発生する可能性もあり，疫学情報の収集と情報発信までを含めて多角的に連携をとって対応する必要がある。本稿では，マスギャザリング，海外渡航に関連して発生し得る疾患について概要を示すとともに，社会的な観点も含めての対応について述べる。

4．放射線災害対応とICU—放射線の知識だけでなく，専門家や多機関との連携が不可欠島田　二郎 12巻2号 , 2020年4月 , pp.359-367

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放射線災害は，放射線に関する基礎的な知識をもち，的確な受け入れ訓練を繰り返し行い，その対策を取っていれば対応可能で，闇雲におそれる必要はない。しかし，複合災害や多数傷病者発生事故となった場合には，一般災害に対応する能力も必須となってくる。災害時には，病院をあげた対応が必要であるが，課題は院外の多機関との連携である。中央部門を統括する集中治療医は救急医とともにそのリーダーになり得るため，積極的にDMATや緊急被ばく医療チームにかかわってほしい。

5．銃創・爆傷患者対応とICU—テロの脅威に備え，銃創・爆傷の臨床を理解する吉村　有矢 12巻2号 , 2020年4月 , pp.369-380

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近年，テロの脅威と銃創・爆傷への対応が問題になっている。銃創では出血性ショックの蘇生と迅速な止血が重要である。さらに，爆傷では多発外傷としての複雑な病態とその特殊性を理解することがICUにおける集中治療に求められる。止血法としてのターニケットの使用法に習熟することも必要である。過去の銃創・爆傷の多数傷病者事故（MCI）では，発災から非常に短時間で患者が病院へ搬送された。その多くが重症であり，緊急手術を要しICUに入室している。ICUの災害対応の迅速性と安全管理を重視した事前計画の策定が課題となる。

【コラム】災害やパンデミックにおける医療の倫理的ジレンマ—医療資源の分配，患者らへの倫理的配慮，医療・行政機関の倫理的責務，研究の実施を軸に考える今長谷　尚史 12巻2号 , 2020年4月 , pp.382-386

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災害やパンデミックでは，医療資源の供給と医療・ケアの需要のバランスが崩れるため，「社会全体の利益，幸福」を目指す功利主義に基づいて医療資源は分配される。しかし，何をもって「社会全体の利益，幸福」と考えるのかにより，いくつかの分配法則がある。海外のガイドラインではそれぞれの法則の一長一短を考慮しながら，ある一定の基準で医療資源を分配するように示されている。これらのガイドラインに従っていたとしても，患者・家族ら，医療・ケアの提供者らに対する倫理的配慮は重要であり，管理者の責務は重いものである。また，災害やパンデミック時の研究は，研究の必要性・意義が高いものではあるが，平時よりもいっそうの倫理的配慮が求められる。

Part 3．ICUと災害・テロ・事件の歴史

【コラム】地下鉄サリン事件とICU—CSCATTT普及前は，多数傷病者発生事故にどのように対応したのか石松　伸一 12巻2号 , 2020年4月 , pp.388-390

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1995年3月20日に東京の地下鉄でサリンが散布される事件，いわゆる地下鉄サリン事件（正式には地下鉄駅構内毒物使用多数殺人事件）が発生して25年が経過した。当時はまだCSCATTT（指揮・統制，安全，情報伝達，評価，トリアージ，治療，搬送）の概念は普及しておらず，統括者の卓越した指揮能力と職員各自の「ベストな行動」によってのみ対応した。ICUでは重症患者受け入れのための空床確保と受け入れを行い活動したが，ICUスタッフ全員の平時からのイメージ作り，訓練，準備が必要であることを実感した。

【コラム】JR福知山線脱線事故とICU—都市型災害に多いクラッシュ症候群への対応秋冨　慎司 12巻2号 , 2020年4月 , pp.392-398

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JR福知山線脱線事故は，典型的な交通事故による都市型災害の1つである。病院のICUの機能を維持するためには，病院前の搬送トリアージによる分散搬送を行う必要がある。また自施設のICUがキャパオーバーした場合には，安定した患者から他病院のICUに搬送することにより，自施設の診療と手術機能を維持しなければならない。また都市型災害の場合には，通常診察することが少ないクラッシュ症候群の集中治療管理を行わなければならないが，その管理は難渋することが多い。

【コラム】東日本大震災とICU—①被災地の大学病院で何が起きたか山内　聡 12巻2号 , 2020年4月 , pp.400-404

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東日本大震災時，宮城県で唯一の大学病院であった東北大学病院では，病院長の指示により，直ちに通常診療を中止し，被災の大きかった沿岸地域の病院からの患者の受け入れに尽力した。救命救急センターの入院患者は，発災10日間で平時の約3倍であった。内因性疾患が約6割を占め，外因性疾患の多くは発災5日以内に集中していた。

　宮城県内の救急車搬送記録の調査では，心血管障害，脳卒中，肺炎，心停止はいずれも震災後増加していたが，発生数の時間経過は疾患により異なっていた。

　今回の震災で注目された津波肺，低体温症，破傷風，一酸化炭素中毒などの県内での発生状況，対応についても記載した。

【コラム】東日本大震災とICU—②福島第一原発事故の体験からICUを考える島田　二郎 12巻2号 , 2020年4月 , pp.406-410

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2011年3月11日の東日本大震災に伴う原子力災害における福島県立医科大学附属病院集中治療部門の初期対応を振り返った。加えて，原子力災害における集中治療部門の現状の問題点を考察した。未曾有の被害のなか，救急・集中治療部門は積極的な介入が必要となったが，ほとんどの医療スタッフは自身および家族の被ばくを気にかけながら責務を果たした。災害はその時々で被害の状況は異なり，重症患者に対応する救急・集中治療部門は柔軟な対応が必要である。しかしながら，今なお，原子力災害への無関心，原子力災害時の重症患者搬送の問題，危険な状況下での医療者の職務遂行の可否など，課題は多い。

【コラム】熊本地震とICU—ICSの3つのC，なかでもCoordinationの重要性を学ぶ永田　高志 12巻2号 , 2020年4月 , pp.412-417

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大災害において，病院ICUが考えるべきことは，①生き残る（入院中の患者と医療スタッフを守る），②多数傷病者に対応する（転院受け入れを含む），③病院避難する，である。

　筆者は，大学に勤務する救急医かつ災害医療・危機管理の研究者である。2016年4月14日，16日に発生した熊本地震において，日本医師会災害医療チームJapan Medical Association Team（JMAT）の先遣隊として現地入りし，筆者自身も被災しながら4日間にわたり益城町，熊本市，そして熊本県災害医療対策本部で活動に従事した。その経験をふまえて，①熊本地震における医療機関全体およびICUの対応を紹介し，②大災害による多数傷病者発生時におけるICU対応計画の課題と対策について述べる。

【コラム】建設中ビルの火災事故による多数気道熱傷患者発生事案とICU—多数傷病者の受け入れだけでなく通常診療の継続も念頭に計画を立てる久野　将宗 , 中山　文彦 12巻2号 , 2020年4月 , pp.418-424

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はじめに

第32回オリンピック競技大会，東京2020パラリンピック競技大会（以下2020オリパラ）に向けて各方面で準備が進められている。一方，世界中の注目を集めるイベントを狙ったテロなどの発生が懸念される。本稿では，当院で経験した大規模火災事故を振り返り，懸念される大規模火災・爆発事案への対応を考察する。

【コラム】川崎市登戸通り魔事件とICU—小児の生理学的特性とトリアージシステム下澤　信彦 , 森川　大樹 , 藤谷　茂樹 12巻2号 , 2020年4月 , pp.426-429

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はじめに

2019年5月28日，聖マリアンナ医科大学病院（当院）救命救急センターは，ある事件に直近の救命センターとして遭遇することになった。川崎市登戸通り魔事件である。本件では19人の刃物による被害者が発生し，そのうち16人が児童であった。当院には，小児を含む5人が搬送された。

　当院の救命救急センターは，通常時は主に成人を対象とし，また患者は内科系が多く，このように一度に多くの小児を含む外傷患者を受け入れた経験はなかった。国内の多くの救急・集中治療施設が，我々のように内科系の成人患者を主な対象としていることから，この経験の共有は，今後の小児の多数傷病者事故mass casualty incident（MCI）対応に生かされる必要がある。

　本稿では，我々が実施した現場から院内までの診療活動と，文献から得た小児の生理学的特性・トリアージシステムの現状について報告する。

連載

え？　知らないの？災害と人工呼吸器矢田　哲康 , 森實　雅司 12巻2号 , 2020年4月 , pp.430-436

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医療機器のなかでも人工呼吸器は救急・集中治療医療の重要な位置を占め，頻繁に使用されるにもかかわらず，駆動源に電源や医療ガス（酸素，圧縮空気）を使用するため，災害発生に伴う停電や医療ガスの供給停止などに弱い。そのため，新たな機能として，酸素の使用量や電力使用量を最小限にする「災害時モード」などの開発も期待されている^1）。新しい機能を期待される一方で，人工呼吸器の設定などの人為的エラーは頻繁に発生し，死亡率に関連する危険性も伴っている^2）。

　災害対策は非常に範囲が広く，特に医療施設において災害時の医療機器管理体制は重要事項である。そこには，多職種の視点を尊重し統合した対策を検討する必要がある^3）。

　本稿では，災害対策と防災の観点から，安全な人工呼吸器の機能や規格などについて再考する。

集中治療に関する最新厳選20論文田邊　翔太 , 吉田　英樹 12巻2号 , 2020年4月 , pp.445-452

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連載　Lefor's Corner

第36回：Vascular Access and Hemodynamic Monitoring. Part XVII. Venous Cutdown Inagawa　Atsuko , Lefor　Alan Kawarai 12巻2号 , 2020年4月 , pp.437-440

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This ongoing series provides the readership of Intensivist with the opportunity to read concise reviews of current topics in Critical Care Medicine, in English. It is hoped that these reviews will stimulate the pursuit of other literature written in English.

連載　国際学会へ行こう！

CHEST Annual Meeting 2019 鍋島　正慶 12巻2号 , 2020年4月 , pp.442-444

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はじめに

2019年10月19日から23日まで米国ニューオーリンズで行われたAmerican College of Chest Physicians（ACCP）主催のCHEST Annual Meeting 2019（図1）のポスター発表に採択されたため，発表を行ってきました。今回は海外の学会に参加すること自体が初めてで，右も左もわからぬ状態でしたが，参加したからこその驚きなど感じたことをお伝えできればと思います。

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目次 12巻2号 , 2020年4月

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倫理規定 12巻2号 , 2020年4月 , pp.454

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次号予告 12巻2号 , 2020年4月 , pp.455

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基本情報

INTENSIVIST
12巻2号
(2020年4月発行)

電子版ISSN：2186-7852 印刷版ISSN：1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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