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はじめに・筆者の立場
重症患者に栄養を投与すれば死亡率が下がる,という素朴な期待は,近年の大規模無作為化比較試験randomized controlled trial(RCT)では必ずしも支持されていない。経腸栄養enteral nutrition(EN)と静脈栄養parenteral nutrition(PN)を比較しても死亡率や感染率に差がない,急性期に目標エネルギー量を満たしても予後が改善しない,特定の免疫栄養素を加えても一貫した効果が得られない,という報告が蓄積してきた。そのため,重症患者の栄養療法は「ハードアウトカムを改善しない治療」と見なされることがある。
しかし,この見方は栄養療法の役割を狭くとらえすぎている。集中治療の進歩によりICUを生存退室する患者は増えた。その一方,ICU退室後には筋量低下,嚥下障害,食欲不振,ICU-acquired weakness(ICU-AW),集中治療後症候群post-intensive care syndrome(PICS)が残り,日常生活動作activities of daily living(ADL),生活の質quality of life(QOL),社会復帰が損なわれる。栄養療法は,短期生命予後だけでなく,救命後の機能的回復を支える基盤治療として再定義される必要がある。
筆者は,2016年および2017年に公表された日本集中治療医学会『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン』初版,さらに2024年改訂版である日本集中治療医学会『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG 2024)』1)の作成委員長を務めた。その過程で痛感したのは,エビデンスは時代とともに揺れ動くが,臨床現場では「いま目の前の患者がどの病期にあり,何を目標に栄養療法を行うのか」を判断し続けなければならない,ということである。

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