胃と腸 29巻3号 (1994年2月)

特集 早期大腸癌1994

序説

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今,なぜ“早期大腸癌1994”か?

 大腸癌はこの数年間,ブームと呼んでもよいほどいろいろな雑誌で特集が組まれ,学会のシンポジウムやパネルでも取り上げられている.これは,①大腸癌,殊に結腸癌の罹患率と死亡率の増加,②斉藤ら,竹下らによる免疫学的便潜血検査の開発,③その結果としての老健法による大腸癌集検の開始,④Shinyaに始まり,岡本(平),光島,工藤らによる大腸内視鏡検査の簡易化と普及,⑤ゴライテリー法による内視鏡前処置法の簡便化と確実化,⑥工藤らによる表面型大腸癌の発見とその意義に関する論議,⑦大腸癌に関する分子生物学の進展,などに基づくものであろう.

 本誌でも1989年「大腸腺腫と癌①,②」,1990年「小さな表面型(Ⅱ型)大腸上皮性腫瘍」,1991年「大腸sm癌の診断」,「大腸sm癌の治療」1992年「大腸のいわゆる結節集簇様病変」,「早期大腸癌の病理診断の諸問題-小病変の診断を中心に」,「表面型大腸腫瘍の臨床診断の諸問題」,「大腸pm癌」,1993年「大腸腫瘍切除後の経過追跡」,「大腸癌存在診断の実態-m癌を除く」,など,「胃と腸」が「腸と胃」になったかと思うほどで目が回りそうである.

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要旨 免疫便潜血検査は糞便中のヒトヘモグロビンとのみが特異的に反応することを応用した検査法であるが,今日まで酵素免疫法(EIA),ラテックス法,免疫発色法,免疫発光法などが開発されてきた.2回検査することによって,Dukes Bの段階の大腸癌であれば,効率よくスクリーニングできることが評価されている.しかし早期大腸癌に限ってみると,いずれの方法でも陽性率は高くなく,その見つけ出しは不可能である.免疫便潜血検査は大腸癌の集団検診の目的に活用されるべきものであり,早期大腸癌の見つけ出しを目的とするものではない.大腸癌検診を行うに当たっては,毎年,検診を実施することが重要であり,前年に看過された早期癌は,翌年になって,より早い段階で発見しなければならない.

主題 Ⅰ.見つけ出し診断法 2.大腸癌の集団検診

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要旨 日本の医療の現状を考慮すれば,大腸癌の集団検診は時期尚早であることを強調した.大腸癌の集団検診を実施すれば,集団における死亡率の低下が期待できるという理由だけでこれを強行し,システムの不備は精神論で補うという方法論は,時代錯誤である.一方では,医師,看護婦をはじめ,メディカルスタッフの数を削減しようとする動きがあり,他方では,更にメディカルスタッフの増員を必要とするシステムを構築しようとする精神構造に疑問を抱かざるをえない.豊かさを追求する思想の延長線上に癌の集団検診を位置づけること自体が,現行の医療制度を危うくしている大きなファクターの1つではないだろうか.

主題 Ⅰ.見つけ出し診断法 3.X線検査

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要旨 大腸X線検査の前処置は今まで食餌制限と緩下剤から成っていたが,腸管内に残渣が多く認められるので,前処置の改善が求められていた.そこで,今回前処置を変えて,食餌制限として低脂肪・低残渣食と緩下剤としてビサコジル15mgと多量の等張性クエン酸マグネシウム溶液(体重1kg当たり25ml)を服用させ,更に腸管の蠕動を亢進させるシサプリドを追加することにより腸管内の残渣は著しく減少した.使用したバリウムの濃度は66%であった.撮影手技として下部大腸,左側結腸,右側結腸に分けて述べた.今までの撮影に横行結腸・下行結腸・上行結腸の前壁方向の撮影も追加し,撮影枚数は14枚となった.

(2)読影の実際 牛尾 恭輔
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要旨 注腸写真の読影は,直腸側から始め,漸次,口側に向かって進めていく.また,大腸では腸管が相互に重なることが多いため,腸管の辺縁を順次追っていく方法として,2本の指を使った“二指読影法”の精神が必要である.次に病変の見逃しをなくすためには,①いわゆる“やぶにらみ”に気をつける,②回盲弁と病変を見誤らないようにする,③腸管を中心部と辺縁部に分けて読影する,④半月ひだや直腸のHouston弁上の変化に気をつける,⑤わずかな粘膜ひだ集中の有無に気を配る,⑥管腔の曲面の異常を読み取る(曲面の診断学),ことが大切である.

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要旨 早期大腸癌と表面型腫瘍を対象にしてX線検査による見つけ出し診断の現況を分析した.隆起型病変の誤診率は内視鏡検査を基準にすると7.4~35%であった.誤診率は全大腸内視鏡検査を基準にすると高率となり,右側結腸に高い傾向があった.早期癌のうちsm癌の誤診率は0~37.5%と幅があり,誤診原因の主なものは見逃し(描出),右側結腸病変,多発病変症例であった.以上から,早期大腸癌の存在診断能を向上させるためには右側結腸の丁寧な検査とX線読影能の向上と前処置の改善が必要で,また全大腸内視鏡検査を頻用することが望ましい.表面型腫瘍のルーチンX線描出率・正診率は徐々に向上している.すなわち,Ⅱaでは5mmを超えると50%以上が,陥凹をみる型でも15~28%が正診され,再読影時の診断率は初回読影時の約2倍であった.更に精密X線検査では80%近い描出率がなされ,今後X線検査による診断能の向上が期待できる.

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要旨 陥凹型を含む表面型早期大腸癌を発見するためには,淡い発赤,褪色の色調変化を的確に捉える内視鏡診断を心がけなければならない.詳細な観察を行い,存在診断を的確に行い,腫瘍の硬さをみる空気変形の観察,色素撤布による無名溝消失所見,病変の拡がり,辺縁所見などを迅速に観察することが必要である.最後に拡大を上げpit pattern診断を行う.pit pattern診断は微小病変を扱うには不可欠な作業である.陥凹型はⅢs,Ⅴ型を確認することであり,隆起型も含めpit patternのamorphous signを見ることが重要である.陥凹型癌は微小でもsm浸潤するものが多く,大腸癌の初期病変として見逃してはならないものである.

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要旨 早期大腸癌の内視鏡的見つけ出し診断法について,主として表面型腫瘍を念頭に置いて検討した.小さな表面型腫瘍は大腸内に均等に(面積に比例して)存在するので,大腸全体を同じ集中力で検査する.盲点をより少なくするためには体位変換とスコープの出し入れ,反転観察などを頻繁に行う.そのほかに前処置を完壁に行い,使用可能なうちで最も解像度の高いスコープを用いることも重要である.

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要旨 大腸内視鏡による早期大腸癌の見つけ出し診断法について述べる.早期癌の診断には,①内視鏡観察法,②病変の発見法,③見逃しの傾向と対策が重要である.①内視鏡観察法:内視鏡による観察の要点は十分に管腔を拡げ,観察は挿入時と抜去時に十分に行い,体位の変換や反転などにより盲点を少なくすることである.②病変の発見法:病変の拾い上げはわずかな発赤,びらん,凹凸,出血,白斑の発見に努め,更に色素撒布法などを併用し病変の確認と質的診断をし,内視鏡的切除により診断と治療を行うことである.③見逃しの傾向と対策:内視鏡による見逃しは経過観察例の数%にみられ,(a)多発例に多い,(b)haustraの強い直腸や右側結腸に多い,(c)扁平・陥凹病変が多い,(d)10mm以下の小病変が多い傾向がみられる.この見逃しは完全になくすることは不可能であり,根本的には時間をかけて観察することにより見逃しは減少する.しかし,効率を考えると短期間の定期的経過観察による見逃し病変の拾い上げがより重要と考える.

主題 Ⅰ.見つけ出し診断法 5.X線・内視鏡による同日併用法

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要旨 筆者らが大腸集検の二次検診に導入したX線・内視鏡同日併用検査法(同日併用法)は厚生省の「大腸がん検診マニュアル」にも精検法の1つとして推奨されている.しかし,本法はメリットと共にデメリットも指摘されている.同日併用法に,内視鏡の挿入法,X線検査は付着性の高い高濃度のバリウムを使用するなど改良を加えた新同日併用法は,X線単独法と比較し,X線の画質が劣るものでなく,また,S状結腸内視鏡検査によるS状結腸の癌の発見率も変わらなかった.

主題 Ⅱ.精密検査

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要旨 X線検査による側面像を指標とした深達度診断は有力な手法であるが,側面像の撮影が早期癌では約半数でしかできない.そこで,正面像から得られる所見,①肉眼形態,②大きさ,③腺腫成分の有無,④病変部の性状(隆起型の表面性状,陥凹型の周辺性状),⑤病変部の伸展性(空気量の変化による形態変化),を指標として組み合わせることにより,より細かい深達度診断が可能であることを筆者の成績をもとに述べた.X線検査を主体として述べたが,深達度診断を行うには,X線検査にこだわる必要はなく,内視鏡検査,生検所見などから多くの情報を集め総合的に判定すべきである.

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要旨 早期大腸癌395病変(m癌341病変,sm癌54病変)を対象とし内視鏡および実体顕微鏡的に深達度診断の検討を行い以下の結果を得た.①sm浸潤率(sm癌/m癌+sm癌)は表面陥凹型>表面隆起型>隆起型>結節集簇型の順で,結節集簇型を除く各形態は大きさを増すにつれ,ほぼその値は上昇しており,深達度診断は形態別,大きさ別に検討する必要があると思われた.②隆起型における凹凸不整の存在は深達度診断に補助的役割を果たし,③表面隆起型(特に11mm以上)における中心陥凹の存在はsm massive浸潤の診断に有用であり,④表面陥凹型における陥凹面の凹凸不整の存在はsm massive浸潤の有力な指標になると考えられた.また,⑤実体顕微鏡的にはⅤI(不整形,不揃いのpit pattern)の存在はsm massive浸潤が疑われ,更にⅤA(pitの数が減少し無構造または無構造に近いpit pattern)が存在していればsm massive浸潤をほぼ確診できるものと考えられた.

主題 Ⅲ.治療 1.内視鏡的治療

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要旨 ポリペクトミーの適応は質的適応として,①腺腫,腺腫内癌(m癌)であることと,②sm癌でリンパ節転移のリスクのないもの,が挙げられる.①に関して,本来は癌化のリスクの高い腺腫と腺腫内癌(m癌)が適応であるが,現段階で内視鏡的に腺腫であるのか腺腫内癌であるのかを鑑別することが困難なので,実際には大部分の腺腫が摘除の対象となる.次いで技術的適応はスネアワイヤーがかかる大きさ(約3cm以下)までのポリープということになる.また,5mm以下の小さなポリープに対してはホットバイオプシーが行われる.腺腫,腺腫内癌では技術的に摘除できれば問題はないが,sm癌でリンパ節転移のリスクが高い隆起陥凹型(Ⅱa+Ⅱc),陥凹型(Ⅱc)はポリペクトミーの適応とはならない.

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要旨 ストリップバイオプシーは表面型大腸腫瘍(Ⅱa,Ⅱb,Ⅱc,Ⅱa+Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa様腫瘍など),結節集簇型腫瘍,隆起+扁平腫瘍,広基性腫瘍,粘膜下腫瘍の切除に優れた方法である.一括切除は長径3cm程度まで可能で,切除端の変性が少なく病理組織診断に有用である.しかし,non-lifting signを呈する病変では粘膜下深層浸潤癌,あるいは高度の線維化を伴うことが多く,切除可能であっても追加腸切除が必要であったり,出血などの合併症が多く内視鏡下切除の適応外の病変である.水平方向へ浸潤傾向のある癌が対象となるので切除後の局所再発に注意が必要である.合併症は少ないとされるが,出血が0.70%,穿孔も皆無ではないので十分注意して施行すべきである.

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要旨 3cm以上の腺腫または早期癌31例に対する内視鏡的切除の成績をもとにわれわれが行っているpiecemeal polypectomyの手技と成績を紹介し,また,その概念や限界,遺残,再発について述べた.piecemeal polypectomyでは企図的に行われたもの(狭義)とそうでないもの(広義)を区別し,分割法(期日数と分割数)を明確にする必要があると考えられた.腫瘍の5mmほど外側を全周性に線状のマーキングを行うことで腫瘍辺縁の切除を確実にし,先端針付き六角スネアを用いた中腹法で切除し完全切除の程度を内視鏡レベルと標本レベルに分けた.更に治療開始から1か月間を初期治療とすることで遺残の定義を明確にした.3cm以上の腫瘍31例の内視鏡的切除の成績では21例(68%)がpiecemeal polypectomyで切除され,そのうちの18例(86%)が狭義であった.21例全例とも1期的に行い18例(86%)が5分割以下で切除でき遺残や再発は1例にも認められなかった.しかし,広基型で45mm以上のもの,結節集簇型で腸管全周の2/3を超えるか2つ以上の皺を越えるものはpiecemeal polypectomyの適応ではないと考えた.

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要旨 自験の早期大腸癌478症例を分析し,早期結腸癌に対する外科的治療の適応と術式を検討した.外科的治療は内視鏡的ポリペクトミーが技術的に困難な(隆起型では25mm,表面型では15mmが境界)症例か,リンパ節転移が疑われる(sm癌の8%)症例に対して行われる.早期大腸癌の36%が最初から外科的治療,ポリペクトミーしたsm癌の56%が追加手術されている.n(+)の15症例はすべてsm癌で,n2(+)が2症例あったことから,直腸に比べて術後障害の少ない結腸においては2群リンパ節までの郭清が標準となる.切除部位の同定にはポリペクトミー瘢痕のマーキングを,切除範囲の決定には多発性病変の存在に留意し,症例によっては全結腸切除術も考慮する.

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要旨 直腸早期癌に対する当教室の治療方針と内視鏡切除を除いた外科的治療について述べた.直腸は大腸の最下端で,ほとんどの症例が経肛門的に到達することができる.したがって,まず癌腫を経肛門的に周囲健常組織を含めて完全切除を行う.標本の病理学的検索によりm癌であれば治療は終了するが,sm癌の場合にはその断端,粘膜下への癌の浸潤程度,脈管侵襲,組織型を検討して追加切除の適応を決定する.追加切除の切除術式としては手術侵襲が軽微で,機能障害が少なく,なおかつR1の根治術が可能な経仙骨的腸管管状切除が有用である.

主題 Ⅳ.外科切除・内視鏡的摘除標本の取り扱いと病理診断

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要旨 的確な病理組織診断および肉眼所見と組織所見との対比を行うためには,外科切除・内視鏡的摘除材料ともに,新鮮材料の良好な伸展,速やかなホルマリン固定,詳細な肉眼観察と正確な肉眼診断およびその記載,組織標本に表現したい箇所の確実な切り出し,未切り出しと切り出し材料の肉眼写真撮影,が必要である.本稿ではそれらの具体的手順について概説した.早期大腸癌の大部分を占める高分化型腺癌には,生物学的態度(悪性)が異なる高異型度癌と低異型度癌とがある.両者の組織学的特徴を示し,癌の異型度診断を行う重要性を強調すると共に,癌と腺腫との鑑別について述べた.

ノート

Adenoma-Carcinoma Sequence 武藤 徹一郎
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 adenoma-carcinoma sequenceの概念は検索対象の変化に伴って時代と共に変遷してきた.その変遷は,①手術標本時代,②ポリペクトミー標本時代,③分子生物学時代,の3期に分けてみるとよく理解できる1)

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はじめに

 大腸では腺腫が癌化した癌に対して,大腸粘膜から直接発生した癌をcarcinoma de novoと呼んでいる.de novoとはラテン語で,初めからという意味で用いられている.大腸は他臓器に比べて腺腫の発生頻度が高く,腺腫の好発部位は大腸癌のそれと同じであり,そして腺腫のあるものは癌化している.更には,家族性大腸腺腫症の大腸には高頻度をもって癌が発生する.そのような事実があることから,大腸の腺腫―癌関係が論じられていて,現在,大腸癌の組織発生はというと“大腸癌のほとんど大部分は腺腫の癌化したものである”(略,腺腫―癌説)が世界で一般的に受容されている3)10)~12)

 この大腸癌組織発生をいったん認めて人体の各臓器・組織における癌組織発生を眺めてみると,その大部分がde novo癌であり,大腸に発生する癌のみが腺腫由来である.ここにおいて,大腸という臓器はヒトという系の中で癌組織発生に関して特異的な存在であるということになる.胃癌の大部分はde novo癌であり16),同じ消化管の中でBauhin弁を越えたとたんに癌組織発生が突然変わるのであろうか! 自然は整合性を好む,いや,われわれは自然に整合性を与えて自然を理解しようと努めているのである.であるからには,大腸癌の大部分はde novo癌でなければならない.このことは大腸癌の組織発生を論ずるに当たって,強く意識しなければならない重要なことである.また,腺腫―癌説を認めて大腸の腺腫―癌関係の臨床病理学的なことを眺めると,実際とは矛盾する多くのこと“失われた鎖の環missing link”とか“大腸癌,夜の破局nocturnal catastrophe of the colorectal cancer”とかが浮上してくることからも,大腸癌の多くはde novo癌でなければならないのである17)~20)

 自然の要請に応えて大腸癌組織発生“大腸癌の大部分はde novo癌である”(略,de novo癌説)とするためには,癌組織診断基準を見直す必要がある.なぜならば,癌組織診断基準は癌組織発生を導くための前提であるからである17)18).現在,一般的になされている癌組織診断基準を前提として癌組織発生を導くならば腺腫―癌説に近いものとなる9)26)27).つまり,現在一般的に用いられている癌組織診断基準,その基準となる異型度をより客観的に良性寄りにしなければならないということである1)5)17)25)

 表題がde novo癌であるにもかかわらず癌組織診断基準とはと奇異に思われるかもしれないが,大腸癌組織発生の問題の根源をたどれば,それはde novo癌であることのパターン認識,そして大腸の癌組織診断基準の問題なのである.それを避けてde novo癌を論ずることはできない.

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 消化器外科の分野では腹腔鏡下胆嚢摘除術が広く行われるようになり,既に手技,安全性なども確立している.そして,そけいヘルニア,虫垂切除術から大腸切除まで腹腔鏡を用いて行われつつある.

 本特集の早期大腸癌も進行程度,発育形式などからあるものは大腸内視鏡的に治療され,あるものは腹腔鏡的に治療され,また,あるものは開腹して切除することが必要となるものまで様々である.

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はじめに

 最近開発された拡大電子スコープは,大腸病変の最も微細な表面構造の観察が可能な手法である.ズーム操作により,瞬時に100倍まで倍率を切り替えられる拡大電子スコープを用いることにより,病変部の表面腺口形態(pit pattern)を生体内において観察することができるようになった.われわれは従来から実体顕微鏡観察を行い,pit patternと組織型が強く相関することを明らかにしてきた.pit patternの分析を背景として,拡大電子スコープは生体内において組織診断が客観的に類推できる新しい内視鏡診断を確立していくものと考えられる.生体内において組織診断が可能になることは,臨床家の究極の目標である.ポリープ,腺腫を対象としていた時代の拡大内視鏡とは異なり,陥凹型癌の鑑別診断が問われる時代になり,今後その重要性は更に高くなっていくことが予想される.

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1.はじめに

 早期大腸癌の“早期”という言葉は,本来chronologica1な要素を含んだ言葉であるが,一般大腸癌においてinitiationの時点を知るすべがないため,深達度(m,sm)で置き換えられて定義されている.

 最近の分子生物学の進歩により癌遺伝子,癌抑制遺伝子が次々と発見されるに及び,疫学というマクロな分析から発した作業仮説が現実のものとなりつつある.

 多段階発癌では時間の経過と共に遺伝子変化が蓄積され,ある段階で発癌すると考えられる.宇都宮ら1)は日本人では5つのgenetic eventで大腸癌が発生すると報告しており,Vogelsteinら2)は発癌のシナリオとして有名なモデルを提唱している.

 大腸癌の組織発生に関しては,adenoma-carcinoma sequence説と,de novo cancer説があり,前者のGrinnell(1958),Morson(1972)と,後者のSpratt,Ackerman(1958)の論争は古くて新しい問題として現在まで続いている.すなわち大腸癌の多段階発生が有力となってもなおde-novo癌のgenetic pathwayが証明されておらず,今後の解明を待たなければならない.

 本稿において,われわれは家族性大腸腺腫症(FAP)を中心に腺腫症の組織発生を研究してきたので,その一部を紹介する.また,1991年に日米共同研究(中村,Vogelstein,宇都宮,馬場)によりAPC遺伝子を同定することができたのでadenoma-carcinoma sequenceにおけるその関与についても述べる.

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大腸上皮性腫瘍の形態学的発生・進展と分子生物学(歴史的背景)

 癌の形態学的発生・進展と分子生物学的異常(がん遺伝子;oncogenesとがん抑制遺伝子;tumor suppressor genes)との相関が,1988年に初めてVogelsteinら1)によって大腸癌で明らかにされた.同様の検討が1990年Miyakiら2)によっても発表され,1991年には第5染色体短腕に存在する大腸腺腫の新しい原因遺伝子apcがNishishoら3)によって単離された.更に,de novo(ab initio)癌はapcとp53のがん抑制遺伝子変異で発生し,がん遺伝子K-ras変異を必要としないらしいことが明らかとなってきた4)

 大腸上皮性腫瘍が発生・進展するにつれて,“がん抑制遺伝子”の対立遺伝子欠失ないしヘテロ接合性消失(LOH;loss of heterozygosity)とp53遺伝子変異がどのように変化するかをまとめたのがTable 1である.Chl7pのLOHが低異型度腺腫で2~6%に,高異型度腺腫で2~24%にみられ,粘膜内癌で33~38%に,進行癌で29~75%にみられている.Ch18qのLOHは低異型度腺腫で既に2~12%,高異型度腺腫で4~47%,粘膜内癌で7%,進行癌では28~73%と高い.Ch22qのLOHも腺腫で既に2~4%みられるが,進行癌では26~42%と高率となっている.進行癌でのLOHの頻度をみると,利谷ら5)のものだけが他の研究者のものに比べて低い.

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はじめに

 1987年に直視型の大腸用超音波内視鏡のprototypeであるXCF-UMl(Olympus社)が開発された.それにより,初めて大腸全範囲にわたって超音波内視鏡検査が可能となった.現在では改良されXCF-UM3に至っている.一般に大腸超音波内視鏡検査は腫瘍性病変の深達度,あるいは傍腸管リンパ節転移の同定に優れていると考えられている.

 今回は当院で施行した大腸超音波内視鏡検査の成績を踏まえ,本検査の限界と臨床的意義,問題点について述べる.

グラフ 早期大腸癌典型例

〔Case 1〕Type Ⅰp 小泉 浩一
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54-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

20 × 14 mm, sm2

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43-year-old, male

moderately differentiated adenocarcinoma

5 × 5 mm, sm1

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62-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

15 × 14 mm, m

〔Case 4〕Type Ⅱa 前納 健二
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59-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

12 × 10 mm, m

〔Case 5〕Type Ⅱa 中嶋 秀磨
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62-year-old, female

well differentiated adenocarcinoma

11 × 15 mm, sm

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57-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

10 × 8 mm, m

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65-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

5 × 4 mm, m

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68-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

12 × 8 mm, sm (sm1)

〔Case 9〕Type Ⅱc 益満 博
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64-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

10 × 6 mm, m

〔Case 10〕Type Ⅱc 鶴田 修
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69-year-old, male

moderately differentiated adenocarcinoma

7 × 6 mm, sm

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64-year-old, male

well differentiated adenocarcinoma

40 × 15 mm, sm

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 胃疾患は相変らず日本ではもっとも多い疾患である.したがって,その診断,特にX線診断・内視鏡診断・臨床病理診断は,胃疾患診断の基礎となる大切なファクターであり,すべての医師が絶対に習熟しておかねばならない.既に1960~1970年代にわが国における胃疾患診断の先駆者たちが,現在にも読みつがれている名著を多数出版しており,非常に有用なものであった.本著は,今日的な視点に立って,X線診断・内視鏡診断・臨床病理診断のその後の変遷と進歩とを述べており,文句なくお勧めできるものである.ここ10~20年のギャップを埋めるものとして高く評価される.

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 1990年わが国において,初めて腹腔鏡下胆嚢摘出術が開始されてから既に3年が経過した.腹腔鏡下外科手術は従来の手術に比べ,侵襲が非常に少なく,術後疼痛も軽く,早期社会復帰が可能であり,患者に歓迎される治療法である.世界中そうであるように,本邦においても腹腔鏡下胆嚢摘出術は爆発的に普及し,現在では数百の施設で施行されている.また同時にこの腹腔鏡下外科手術は,胆嚢摘出術以外にも広くその適応が拡大され,虫垂切除術,鼠径ヘルニア手術,腸管切除術などが実際に行われている.この腹腔鏡下外科手術の普及は,外科学の大きな進歩を成すものと期待している.

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 医学部学生および研修医が現代麻酔科学を学ぶうえで利用する教科書として,この本は優れている.第1版の序において編者の宮崎正夫氏が述べておられるように,近年わが国においても麻酔科学は広大な医学・医療の分野に展開しており,中心となる麻酔学のみならず,集中治療医学,蘇生学,救急医学,疼痛治療学,そしてプライマリケアやターミナルケアにまでその領域は及んでいる.

 本書はこれらの領域をカバーするために,まず生体機能に関する基礎的考察を呼吸・循環・体液の主要機構について行い,次に麻酔と術前・術後の管理の基本的方法,第3になぜ麻酔がかかるのか,そして麻酔にはどんな方法があるかについて述べている.これは医師国家試験の基礎的理解事項として必要なものである.第4編は各科麻酔の特徴について,学生はもちろんのこと,麻酔科入局当初の研修医やローテイトしてくる研修医が,まずいろいろな麻酔を実施する際に必要な手引きとなる部分である.最後の部分には麻酔以外の活躍の場で行う関連業務の要点が述べられている.学生諸君が医学部卒業後いかなる臨床分野に進まれるとしても,この編に述べられている救急・蘇生・中毒治療法および疼痛管理やショックの治療などは,医師の基本的素養として最低限備えておくべきものであり,是非とも理解して身に着けてほしいものである.更に本書のブルー頁は,特に患者管理に必要な生体機能検査項目のまとめとして,手術室,ICU,CCU,そして病棟で利用するデータを整理して示してあるので,医師国家試験,麻酔指導医認定試験および各科専門医試験を受ける際のメモとして活用すれば有用であろう.

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 臨床医学の諸分野の中で,わが国が欧米に比べて大きく劣るものの1つに,臨床薬理学がある.大学でもきっちり教わらないようだ.まして,実際の医療現場での薬の使い方の論理となると,お寒い限りだ.漢方や生薬に対する歴史の長い“無害信仰”が,最新の化学合成薬に対しても通用するとでも錯覚されている.そうでなければ,どれほど薬価差益があろうと,また医薬分業がなかろうと,20種類以上もの多剤併用をする医師が存在できるわけがない.

 卒後教育は,この点でもお粗末だ.研修医時代の薬の使い方も,そのときどきに所属した医療環境のたまたまのやり方に馴染むといった程度のことが多い.だから,具体的な教師がナースだったり,MR(medical representative)だったりもする.全くの“我流”だから,正統でも“独創”でもない.卒後何年かたって“専門医”になっても,状況はさほど変わ

らない.

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 「引用」の範囲を超えて他人の著作物を,自身の著作物へ取り込む場合(“転載”)には相手方(著作権者・出版社)の許諾が要ります.(許諾の条件として著作権使用料を請求される場合もあります)但し,「引用」の条件を満たして利用する場合は自由に利用できます.

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 近年,麻酔学の進歩は著しく,麻酔科医も年々増加してきている.麻酔学の入門書も数多く出版されてきている.1987年に出版された「標準麻酔科学」は,多くの医学徒に親しまれると共に,麻酔専門医を目指す研修医の良きガイドブックとしても活用されてきた.

 このたび初版から6年を経て第2版が出版された.第1編―麻酔科学とその基礎知識,第2編―麻酔と管理とその実施,第3編―各種麻酔法の理論と実際,第4編―各科麻酔の実際,第5編―関連領域という構成になっている.初めて本書を繙く医学生は,麻酔科学とはどういう学問なのか,臨床医学の中での麻酔科学の位置付けなどの理解から始まって,実際の麻酔施行の手順,麻酔科学の関連する分野と,一息に読破してしまいたい気持ちを抱かせるほど,巧みな組み立てであり,編者の苦心を窺い知ることができる.

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 わが国には現在百数十万人の慢性肝炎,30万人弱の肝硬変患者が存在し,毎年それぞれ2万人弱の患者が肝硬変と肝細胞癌により死亡している.主としてウイルス肝炎に起因するものであり,先進諸国の中では目立って多い患者数である.

 幸いに,ウイルスマーカー検査法の進歩に支えられた供血者のチェックや,B型肝炎ウイルスに対する母子間感染防止対策の成果により,新たな患者発生数は近年激減している.また,肝硬変の前駆病変としての慢性肝炎に対してもインターフェロン(IFN)療法が効果を上げている.しかし,既に長い経過をたどった症例ではIFNも効き難い傾向があり,長期的展望は別として,これら症例からの肝硬変への進展は当分の間減少しそうもない.厚生省や医師会が慢性肝炎や,肝硬変,肝細胞癌をわが国における21世紀の国民病と位置づける由縁である.

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 久しぶりに手応えのある,また味のある良書に巡り合えました.読み始めるととても楽しく,私も一気に最後まで読み終えてしまいました.二村教授が夜桜見物に出掛けて木の下で指差している枝が尾状葉胆管枝であり,これがわかるようになったら免許皆伝といったリラックスしたまえがきに始まり,“わかって下さい-総論です”では,7つの質問に答える形で標本整理の意義が述べられています.“特殊な機材がいるんでしょうね?”の問いには“機転を働かせて下さい.あちらこちらからいただいた老巧器材です”として,扉にもなった標本撮影台が手書き図で示されています.“あまりお見せしたくない舞台裏”としながらも,良い写真を撮る熱意があふれています.“スライドのマウントに書き込みを”,“絵のない手術記事は意味がないですよ”などは,実行できそうで実際にはしてないわれわれにとって“明日からはちゃんとやろう”と決意させます.

 次の項目“おぼえてください―基本テクニックです”では,微に入り細に入り標本造影法から標本切開とスケッチ,更に写真撮影,リンパ節整理法,固定法まで述べられており本当に役立ちます.“化粧”とはうまいことを言うなあと感心したり,名札,ガラス棒,テフロン針,注射針を使うと標本が生きてくること,水浸写真が実像をよく表現すること,光の位置の重要なこと,リンパ節整理の具体的な方法など実用的で楽しく勉強できます.悪い出来上がりのスライドが“さらしもの”と称されるようですが,その鑑賞会を開いて全体のレベルアップにつなげているとのことです.

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 免疫工学という言葉には耳慣れない読者の方もおられよう.免疫工学とは“近年めざましく発展しつつある免疫学独自の生命科学技術”と序文では定義している.

 そもそも工学(エンジニアリング:engineering)とは,様々な基礎科学から得られた成果を応用して開発された科学技術の総称である.工学という言葉の中には,人為的な操作による技術革新という意味が強く含まれている.免疫工学とは,免疫系を様々な手法を用いて人為的に操作する,言わば“神をも恐れぬ(?)”所業とも言えるかもしれない.

編集後記 小平 進
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 早期大腸癌はm癌とsm癌を言う.しかし,このm癌の診断基準が病理学者により異なっており,同一の病変が,ある施設ではm癌になり他の施設では腺腫となることがある.したがって画像診断や肉眼所見などにおけるm癌の頻度をみるときには,頭の片隅にこのことを入れておく必要がある.治療成績の評価においてもこのようなm癌を癌としてsm以深の癌と一緒に検討するのは好ましくなく,大腸癌取扱い規約でも病期分類でm癌はstage 0としてstage 1から独立させておくことになった.

 このような現状にあるm癌が含まれる早期大腸癌ではあるが,近年わが国では全大腸癌に占める頻度は急増している.これは便潜血反応を大腸癌スクリーニングに導入することの普及化とX線・内視鏡診断における著しい進歩によるところである.本特集では現時点におけるこの早期大腸癌の診断と治療に関する真髄が集大成されており,特に最近注目されている表面型早期癌の診断への各識者の情熱がひしひしと伝わってくる。本号に掲載されている画像を見ると,ほとんどすべてのタイプの早期癌が見事に描出されており,読者自身の診断意欲をかきたてるであろう.

基本情報

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胃と腸
29巻3号 (1994年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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