呼吸と循環 63巻12号 (2015年12月)

特集 LAMに対するシロリムス療法の実用化時代を迎えて

日本におけるLAMの疫学,特徴 林田 美江
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はじめに

 リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis, LAM)は,ほぼ女性にのみ発症する希少疾患であり,肺の囊胞性破壊を特徴とするほか,腎臓をはじめとする血管筋脂肪腫,後腹膜腔などのリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma),乳び漏(胸水,腹水)といった肺外病変を伴う全身性疾患である1,2).病理学的には,肺や体軸リンパ系において,平滑筋細胞とメラノサイトの特徴を併せ持つ腫瘍細胞(LAM細胞)の増殖がみられる.LAMには結節性硬化症(tuberous sclerosis complex, TSC)に合併して発症するTSC-LAMと孤発性LAM(sporadic LAM)とがある.TSCはてんかん発作や多臓器の過誤腫性病変を特徴とする遺伝性疾患であり,原因遺伝子として腫瘍抑制遺伝子であるTSC1(第9染色体)とTSC2(第16染色体)が同定されている.TSC患者は先天的にTSC1またはTSC2のいずれかにおいて片方の対立遺伝子の変異を有しており,後天的にもう片方の対立遺伝子にも変異が生じることによって腫瘍病変が出現すると考えられている.細胞の起源は不明であるが,この腫瘍病変の一つとしてLAMを発症すると考えられる.これに対して,孤発性LAMはTSC2の体細胞変異により発症すると考えられている.このような遺伝子変異によって,細胞内シグナル伝達系においてラパマイシン標的蛋白質(mammalian target of rapamycin, mTOR)の恒常的な活性化が起こり,LAMの病態につながることが解明されてきた.

 LAMは通常慢性の経過で進行する.肺においてはLAM細胞の増殖と関連して多発する囊胞が形成され,進行すると呼吸不全を呈する.HRCT画像は特徴的であり,両肺野に散在性に円形の薄壁囊胞(数mm〜3cm大)がみられる3).肺病変の程度や進行速度には個人差がみられ,囊胞性病変が高度かつ呼吸不全への進行を認める症例から,長年にわたり囊胞の増加が乏しく症状も呈さない症例までみられる4).呼吸機能検査では肺拡散能の低下と閉塞性換気障害が多くみられる5,6).また,囊胞性病変の進行度によらず自然気胸の合併がみられ,特に若い年代において気胸が発見契機となることが多い.

 本稿では,これまで国内において行われた疫学調査の結果を含め,LAMの病状と自然経過の特徴につき概説する.

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はじめに

 20世紀後半の世界は,資本主義と社会主義という二大イデオロギーの対立に終始した.前世紀の最後にソ連や東欧諸国の崩壊,中国の路線変更によって,前者が後者を駆逐したかに見える.しかし,実際には,医療や福祉や労働政策において後者が前者に与えた影響は大きかった.

 なかでも昨年5月の国会で承認され,本年1月に施行された難病新法は,難病患者の救済を多面的に行う世界に誇れる政策であろう.57疾患が対象だった稀少難病の医療費助成を300疾患にまで拡大し,難病患者の就労をサポートし,難病に関する調査を進め,新治療法の開発を推進するという内容である.この政策が実を結ぶかどうかは,患者はもとより医療従事者の努力,行政の努力によるところ大である.しかし,いくら医療費の補助があっても,また,就労ができたとしても,新治療が承認され,患者さんが将来に展望を持つことができなければ意味がない.ここで,大きく立ちはだかっているのが,今や医療のなかにまで深く入り込んだ製薬業界における市場原理主義である.言い換えれば,株主への背任を避けるために,儲からない薬は作りたくても作れない,売りたくても売れない,という製薬企業の「業」である.

 厚労省は,難病政策の成果の一つとして,リンパ脈管筋腫症(LAM)に対するシロリムスの薬事承認を挙げ,様々な場面で紹介してくださっている.医師主導治験に携わった当事者として,嬉しい反面,『それは,結果論でしょ! 真実はちょっと違う!』と叫びたくなる衝動に駆られることも多い.シロリムスの薬事承認が上手く行ったのは,たまたま難病新法の成立と企業のM & Aという幸運が重なったためで,儲からない稀少疾患の新薬を上市することは,市場原理の浸透により,ますます困難な状況になっていると思う.『難病新薬の開発は,医師主導治験で決まり!』のような短絡は,営利企業との複雑怪奇な折衝の舞台裏をご存じない方の台詞だろう.

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LAMとmTORシグナル伝達系

 リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)は,平滑筋様細胞の形態を示すLAM細胞が肺,体軸リンパ系(肺門・縦隔,縦隔,上腹部から骨盤部にかけての後腹膜腔)で増殖して病変を形成し,病変内にリンパ管新生を伴う腫瘍性疾患である.LAM細胞は,腫瘍抑制遺伝子として機能するTSC1遺伝子あるいはTSC2遺伝子のどちらか一方の遺伝子変異により形質転換した腫瘍細胞である.しかし,どのような細胞がLAM細胞の前駆細胞normal counterpartであるのかは解明されていない.

 TSC1TSC2遺伝子は,約130kDaのハマルチン(hamartin),約180kDaのツベリン(tuberin)をそれぞれコードし,両者はハマルチン/ツベリン複合体を形成して,ラパマイシン標的蛋白質(mammalian/mechanistic target of rapamycin;mTOR)につながる細胞内シグナル伝達系で機能することが明らかとなった(図1)1〜4).mTORは2,549個のアミノ酸残基よりなる巨大な蛋白質分子であり,セリン・スレオニンキナーゼ(リン酸化酵素)として機能する.mTORは細胞内で単一の蛋白として存在するのではなく,他の蛋白質と複合体を形成して機能する(図1).mTOR complex 1(mTORC1)とmTOR complex 2(mTORC2)の2種類があり,mTORC1は,細胞外からのインスリンやその他の細胞増殖因子,エネルギー状態,アミノ酸やグルコースなどの細胞外栄養素,などの情報が集約され,蛋白質合成を促進し,細胞の大きさや増殖を制御している.その他,脂質や核酸の合成,オートファジー,リソゾームなどの細胞内小器官の生合成やエネルギー代謝など,様々な細胞内プロセスを制御している.一方,mTORC2はPKCαやRhoキナーゼなどを調節してアクチン細胞骨格の形成や,解糖系などの代謝制御,Aktを活性化して細胞生存を制御する.ハマルチン/ツベリン複合体は,Rhebを抑制することにより間接的にmTORC1を抑制的に制御している.そのため,TSC1あるいはTSC2遺伝子変異によりハマルチン/ツベリン複合体が機能を失うと,恒常的にmTORC1が活性化された状態となり,LAM細胞は増殖すると考えられる.mTORC1を活性化する経路は,細胞増殖因子—PI3K—Akt—TSC1/TSC2—Rhebと伝わる経路が中心であるが,TSC1/TSC2複合体には様々な刺激が集まり,mTORC1を複雑に制御している.例えば,Ras-ERK経路やWnt—GSK経路,低栄養(エネルギー)・低酸素条件のようなエネルギー飢餓状態はAMPKを介したシグナルがTSC1/TSC2複合体に集まる.一方,細胞外のアミノ酸(特にロイシンやイソロイシン)はRagA/B・RagC/Dを介してmTORC1のリソゾームへの局在化と活性化を誘導することが知られている.一方,mTORC2はPI3Kにより活性化されることが明らかにされているが,その他の活性化機構は不明である.

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はじめに

 リンパ脈管筋腫症(LAM)は,妊娠可能年齢の女性に好発する慢性,進行性全身性の稀少疾患である.これまで原因不明,有効な治療がない疾患とされてきた1)

 LAMは結節性硬化症(TSC)に合併する遺伝性と,非遺伝性の孤発性LAMに分類されるが,TSC患者の疾患関連遺伝子研究から,16番染色体上のTSC2遺伝子,9番染色体上のTSC1遺伝子が同定され,TSC合併LAMではTSC1,TSC2遺伝子の生殖細胞系列変異の異常が原因と考えられ,孤発性LAMではLAM細胞のTSC2遺伝子体細胞突然変異が原因と考えられている.TSC1とTSC2の変異はmTOR1系(PI3キナーゼ/S6K1)の亢進を来しLAM細胞の増殖,細胞サイズの異常に至ることが明らかにされている1).mTOR阻害剤であるシロリムス,エベロリムスはLAMの治療薬として,種々の臨床試験が実施された2〜4).そのうちわが国で実施されたのが,「リンパ脈管筋腫症に対するシロリムスとプラセボ無作為二重盲検比較多施設国際共同試験(MILES治験)」と「リンパ脈管筋腫症に対するシロリムス投与の安全性に関する多施設共同治験(MLSTS治験)」である3,4)

 本稿では,シロリムス投与の効果について,MILES試験,MLSTS試験の結果を中心に,さらにその他の成績について概説する.なお,MLSTS試験のデータは,現在,未発表で論文を準備中である(2015年10月時点).そこで,医薬品医療機器総合機構(PMDA)で公開されているラパリムス製造販売承認申請書添付資料に掲載され,承認時に使用された1年間の成績を紹介する.

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はじめに

 日本では,2014年7月にリンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)に対する効能・効果でシロリムス(sirolimus:ラパマイシン)が薬事承認され,ノーベルファーマ社が「ラパリムス®錠1mg」を販売している.LAMに対するシロリムスの国際共同試験(MILES試験)およびラパリムス®錠の国内医師主導治験(MLSTS試験)においては,本薬剤が原因と考えられた間質性肺疾患が2.8%に生じた.

 エベロリムス〔everolimus:アフィニトール®,サーティカン®(いずれもノバルティスファーマ社)〕はシロリムスの薬理動態を改善するために開発されたシロリムスの誘導体(ラパログ)である.アフィニトール®錠は抗悪性腫瘍剤として腎細胞癌や乳癌などに適応があるほか,結節性硬化症に伴う腎血管脂肪腫や上衣下巨細胞性星細胞腫が適応疾患となっている.現時点でLAMは適応外であるが,結節性硬化症における検討では薬剤性間質性肺疾患の発症頻度は1.3%と,シロリムスよりも少ない傾向であった.

 本稿では,シロリムスとエベロリムスによる薬剤性肺障害について,最近の報告例に基づいて概説する.

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はじめに

 mTOR阻害剤であるシロリムスは,難病で若年女性の希少肺疾患であるリンパ脈管筋腫症(LAM)の治療薬として,筆者らの所属する施設を中心に医師主導治験(MLSTS)が行われ,2014年7月4日,世界で初めてLAMに対する治療薬として薬事承認された.最も高頻度に発症する有害事象の一つに口内炎がある.LAMに対するシロリムスは,多くの場合かなり長期に渡って投与する必要があるため,口内炎が繰り返し発症することも少なくない.それによりしばしば摂食・嚥下や会話などの機能が低下することがあり,症状が強い場合にはシロリムスの投与量を減量もしくは休薬せざるを得ない場合もある.したがって口内炎を制御することは,治療効果ならびに患者のQOLの向上につながり得る.

 そこで今回,シロリムスによる口内炎に対する予防ならびに治療対策について報告する.

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はじめに

 リンパ脈管筋腫症(LAM)は,主に妊娠可能年齢の女性が罹患する稀な進行性囊胞性肺疾患である.LAMは,結節性硬化症(TSC)に伴って発生するTSC-LAMと,単独で発生する孤発性LAMとに分類され,血管筋脂肪腫(AML)を合併することもある.LAMでは,LAM細胞という平滑筋様細胞が肺で増殖し蛋白分解酵素を産生するため,肺が破壊されて囊胞を形成する.また,LAM細胞は肺内で転移しそれぞれの転移巣で囊胞を形成するため,緩徐に肺機能が低下し呼吸不全に陥る.LAM細胞では,mTOR(mammalian target of rapamycin)という蛋白の働きを抑制するツベリンあるいはハマルチンに異常がみられる.これらの異常によりmTORが無制限に働き,LAM細胞が増殖を続けることでLAMを発症する1)

 シロリムスはマクロライド系抗生物質の一つで,mTOR蛋白の働きを抑制する.本薬剤は,従来,臓器移植や骨髄移植の際にみられる拒絶反応の予防に用いられてきた.平成26年7月,本邦において,シロリムスはLAMを適応疾患として世界で初めて薬事承認を受け,同年12月22日には販売が開始された.本稿では,特にLAMを治療する際に留意すべきシロリムスの副作用について解説する.

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 わが国の医学は世界のトップではないが,医療はどうか? 感染症の領域ではインフルエンザ医療が世界のトップにある一方,結核医療は周回遅れを重ねている.

 われわれは自らのインフルエンザ医療の世界順位を,2009年の新型インフルエンザで知った.ノーベル医学・生理学賞の受賞者が世界最多で,医学では世界一の米国が最多の死亡数(2010年2月中旬までで12,000名)だったのに対し,死亡頻度の最少はわが国だった(同200名)のである.わが国は世界で最多の種類の抗インフルエンザ薬を実用化し,迅速検査キットも汎用されているが,世界での普及は遅々としている.わが国の優れた国民皆保険体制や医療アクセスの利点も大きかったが,世界のインフルエンザ診療は遅れているのである.遅れている世界を見習うのは危険であり,海外のガイドラインなどに盲従すれば国民の利益を損ないかねない.

綜説

健康情報学への招待 中山 健夫
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健康情報学の基盤

 健康情報学“health informatics”とは,人間の健康や疾病,医療に関する情報を幅広く扱う新しい学問である1,2).医学・医療,そしてパブリック・ヘルスは,本来,人間の生・老・病・死を広く対象とするものであることから,京都大学の健康情報学では,「生・老・病・死に向き合う時,人間を支え,力づけられるような情報・コミュニケーションの在り方を問う」実践的な学問領域の形成を目指している3)

 著名な臨床医であるOslerや日野原によると「医学は不確実性の科学(science of uncertainty)であり,確率の技術(art of probability)」である.これは個人レベルの臨床医学・医療だけでなく,人間集団を対象とするパブリック・ヘルスにも当てはまる.一方,情報はデジタル理論の創始者であるShannonによると「(意思決定において)不確実性(uncertainty)を減ずるもの」である.医療や健康に関わる様々な事象では,期待する結果(疾病予防,治療効果,生活の質の向上など)が得られるかどうか,多因子が複雑に絡む.このような不確実性の高い現実の意思決定において求められる合理性と論理,そして倫理は,後述する根拠に基づく医療(evidence-based medicine;EBM)を生んだ4).evidence-basedの視点からはエビデンス≒(定量的な)情報と捉えられる(定性的な情報であるナラティブに関しては後段で述べる).EBM,特にMuir Grayが拡大した根拠に基づく保健医療(evidence-based Healthcare;EBH)の概念は健康情報学の大きな柱の一つと言える.EBHでは行動・意思決定に影響を与える3要因として情報(evidence),資源(resource),価値(value)を挙げられている5).健康情報学は,情報を「つくる・つたえる・つかう」という視点から,「社会における情報の循環」として,そのダイナミズムを把握し,医療者に限らず,患者・家族などの医療の利用者,生活者全般に役立つこと,そして個人から社会レベルの意思決定の支援を想定している(図1)1,2,6).そのため,対象とする従来の公衆衛生や臨床の枠組みにこだわらず,疫学研究によるエビデンスの創出と関連する社会制度や情報倫理,健康・医療情報の評価・集約・伝達・共有,リテラシーやコミュニケーションなどの幅広い課題を扱う.用いる研究手法は疫学を基盤とし,データ統合型研究(システマティックレビュー,決断分析など)から,人間,文献,インターネット情報を対象とした質的研究やデータマイニングなど多岐にわたる7〜9).また対象課題の設定・アプローチに関しては“micro(個人レベル)”,“meso(地域・組織レベル)”,“macro(社会・環境レベル)”の相互関連性を重視する.

高安動脈炎 手塚 大介 , 磯部 光章
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はじめに

 高安動脈炎は大型血管炎に分類される自己免疫疾患であり,日本人の名を冠した数少ない疾患の一つでもある.1908年に当時金沢大学眼科教授であった高安右人が日本眼科学会にて「奇異なる網膜中心血管の変化の一例」として報告したことに由来する.脈拍欠損がみられる症例が多くかつては脈なし病と呼ばれることもあったが,各症例における症候はそれぞれの血管炎の程度・場所に依存するため,現在では高安動脈炎ないし高安病と呼ばれることが多い.現在に至るまで原因抗原・病態機序は明らかになっておらず,疾患特異的な抗体価による診断も実用化されていないため早期診断が課題となっている.

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はじめに

 multi-detector row CT(MDCT)の普及・発展により,心臓CTの検査件数は年々増加しており,循環器領域の日常臨床に必要不可欠なものとなっている.

 冠動脈CTは陰性的中率が高い傾向があり,冠動脈疾患の除外に有用であるが,様々なアーチファクトにより,感度・陽性的中率がやや低い傾向にあった.本稿ではその様々なアーチファクトに対する心臓CTの最近の進歩について述べる.

 また,近年登場してきた,fractional flow reserve computed from CTの技術,structural heart diseaseに対するカテーテル治療における心臓CTの役割についても概説する.

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はじめに

 ヒトの腸管には約500〜1,000種類,100兆個以上の腸内細菌が生息し,食物繊維などヒトの持つ酵素では分解できない物質を代謝していることが報告されている.また,アミノ酸,ビタミン,脂肪酸の一部も腸内細菌叢によって合成される.腸内細菌叢の研究は,従来は菌を培養することでしか菌種の同定ができなかったが,ヒトの腸内細菌叢のほとんどは難培養偏性嫌気性菌であり,その一部しか同定できなかった歴史的背景がある.この問題を克服したのは分子生物学・遺伝子工学の発展によるところが大きく,細菌固有の16SリボソームRNA遺伝子という細菌の分類に使用される遺伝子配列を調べることで,細菌種を同定できる技術が開発された.また,次世代シークエンサーの登場で網羅的に全腸内細菌遺伝子の解析を行うことができるようになったことにより,この10年で飛躍的に腸内細菌の分類研究が発展した.腸内細菌が,腸の疾患である炎症性腸疾患はもちろん,肥満や糖尿病などの代謝性疾患発症に関係することが相次いで報告され,腸内細菌叢が様々な疾患の危険因子となる可能性や治療のターゲットとなる可能性について積極的に研究がなされている.本稿では,腸内細菌叢と動脈硬化の関連性について,今までの報告を紹介しながら,今後の展望を考えてみたい.

Current Opinion

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腹臥位療法に関する最近1年間の話題

 [1]「腹臥位療法がARDSの転帰を改善する」ことは疑問視されてきた

 重症ARDS患者を腹臥位にすると肺酸素化能が劇的に改善1,2)して,人工呼吸管理が低侵襲な換気条件で済むことや,早期であれば人工呼吸管理さえも回避できること3),人工呼吸に伴う肺損傷が防止されること4〜6)が報告されてきた.低酸素血症の改善についてはメタ解析でも確認されている7,8).死亡率が改善することもメタ解析では確認された8,9).しかし,10年以上にわたって行われてきた複数の大規模な無作為対照試験(RCT)による実証は,ことごとく不成功に終わった10〜13).このため,腹臥位療法には「死亡率を改善する根拠がない」として敬遠する集中治療施設も現れるなど,その信頼性は著しく低下するに至った.

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心筋再灌流障害の概要と治療に関する最近の動向

 急性ST上昇型の心筋梗塞に対して経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)でいち早く責任血管の再灌流療法を行うことが梗塞サイズを縮小させる最も有効な治療法である.矛盾するようであるが再灌流療法自体が梗塞サイズを拡大させている.この逆説的な現象を心筋再灌流障害と呼ぶ.心筋梗塞のサイズは,虚血時の心筋障害と再灌流障害に伴う2次的な心筋障害の合計で決まる.

 心筋梗塞サイズを収縮させる努力は,有害な左室リモデリングや心不全の発症を防ぐのに重要である.心筋細胞は再生できないため,心筋細胞を喪失してしまったらもはや治療法は臓器そのものを移植で取り合えるか,細胞移植によって補う(再生医療)しか治療法はない.適切なタイミングで再灌流療法が行われた場合,最終的な梗塞サイズの実に50%が心筋再灌流障害によって生じている.適切なタイミングでPCIを行ったあと,心筋再灌流障害を抑制することができれば,梗塞サイズをさらに50%縮小させることが可能である.心筋再灌流障害の分子機序が解明され,それに基づいた治療法が提案され,動物実験では有効な結果を残し,Proof of Principle studiesでも有望な結果が得られている.しかし,臨床的に心筋再灌流障害を縮小しようという試みはほとんどなされていない.

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要旨 症例は15歳,男性.3歳時に川崎病に罹患し免疫グロブリン大量療法,アスピリン内服,ステロイドパルス療法が施行されたが第11病日より冠動脈が拡張し遠隔期に両側巨大冠動脈瘤を形成した.通学時に胸部症状出現し救急外来受診.血液検査にてトロポニン陽性であり急性冠症候群が疑われ,緊急心臓カテーテル検査にて左冠動脈瘤血栓閉塞による左前下行枝閉塞を認めた.人工心肺使用下心拍動下に緊急冠動脈バイパス術(左内胸動脈-左前下行枝)を施行した.術後胸部症状は消失し術後9日目に自宅退院した.青年初期の川崎病罹患後の冠動脈瘤血栓閉塞ではすべてが冠動脈バイパス術の適応ではないが血行再建法,使用グラフト,術式を検討し安全に手術を施行し得た.術後も注意深い経過観察が必要である.

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 この程,「特発性肺線維症の画像診断」がメディカル・サイエンス・インターナショナル社から発刊された.臨床・画像・病理のそれぞれの視点で現在の国際ガイドラインのポイントと課題を浮き彫りにしている.また,それぞれの章で優先順位の高い鑑別疾患との相違点を丁寧に解説している.

 大事なポイントとして,まず肺線維症の診断における蜂巣肺の意義と問題点を提起している.定義はあるものの最近の本邦からの報告にもあったように,蜂巣肺の判断はびまん性肺疾患を専門とする胸部放射線科医師の間でも一致率は低い事がわかった.本書では,これまでの国際ガイドラインで全く触れられなかった特発性肺線維症の病理所見からの出発点である小葉辺縁からはじまる線維化,比較的狭い範囲での正常・網状影・すりガラス陰影・濃厚陰影などの多彩な所見が見られるいわゆる時間・空間的不均一さをいかに捉えるかが重要であり,次回のガイドライン改訂へ反映させるべきと提言している.これは臨床医および胸部放射線科医に対して蜂巣肺の有無だけにとらわれる事の限界と疾患の発症・進展プロセスの理解がより正確な診断に結びつく事を示唆している.

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欧文目次

次号予告

あとがき 巽 浩一郎
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 リンパ脈管筋腫症(LAM)という難病に立ち向かい,新薬として「シロリムス」を保険収載までもっていった一研究者の医師人生をかけた戦いの物語が,本特集号の中の「難病新薬開発の険しい道—医療を蝕む市場原理主義の対立軸を目指して」である.中田光教授は,稀少性呼吸器疾患であるLAM,肺胞蛋白症の病因解明,新規治療法の開発に多大な尽力をしてこられた.特集の中に記載されているが,一人でこの偉業をなしえたわけでなく,井上義一,瀬山邦明,林田美江というエネルギー溢れる同士がおり,ここまで到達しえた.孤発性LAMは,体細胞遺伝子変異(TSC2遺伝子異常)がその病因となり発症,mTOR阻害薬が血管筋脂肪腫そしてLAMに有効であることが報告されている.しかし,LAMはその病状の進行には個体差が大きく,どの時期にどのような治療を選択していくかはまだ解決されていない.新薬で常に問題になるのは,「益と不利益のバランス」である.2015年秋の時点で,幸いシロリムスでは大きな有害事象は稀のようである.

基本情報

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呼吸と循環
63巻12号 (2015年12月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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